セイバー:アルトリア・ペンドラゴン
ランサー:クー・フーリン
アーチャー:ギルガメッシュ
ライダー:イスカンダル
バーサーカー:ヘラクレス
アサシン:佐々木小次郎
キャスター:ジル・ド・レエ
「……場所を変えないか?」
優が言い出した。
「ここで七対七をやったら、冬木どころか西日本が消し飛ぶよ」
ウェイバーも時臣もうなずく。冗談抜きにそれができるサーヴァントの戦いを見たばかりだ。
「ならば……場所を用意しようではないか」
聖杯側の、王気に満ちた巨漢が前に出た。
「ここでは悪しき気が強くてやりにくいな。皆出よう!余は、ライダーのクラスを得たイスカンダルである!」
いきなり真名をぶちまけたどあほうに、どちらの陣営も、マスターもサーヴァントも呆然とした。
「イスカンダル?」
「アレクサンダーのアラビア語読みよ、バカ」
凛が士郎に言った。一年ぶりに桜と手をつなぐことができて高揚している。
山から下りたイスカンダルは、両手を広げて叫んだ。
「見よ、そして震えるがいい……これこそ我が至高の法具、我が王道。『王の軍勢(アントニオン・ヘタイロイ)』!!!」
真夜中のふもと、寺を見上げる山の下。森のはざまの寒風が、突然熱風に変わる。
見る間に景色が塗り替えられる。地平線。荒野。わずかな木々と熱された岩や砂。
「こ、これは……」
「固有結界!!」
遠坂時臣が衝撃に叫ぶ。夢のまた夢、桁外れの大魔術。
「イスカンダル、アレキサンダーに魔術の逸話はなかったはずだが」
「見ろ!」
遠くに位置するライダー・イスカンダルのかたわらに、次々と人が出てくる。
何千、何万。そのような数の人を見ること自体がまれだ。
テレビで、また実際に行って、元旦の明治神宮や成田山など初詣。皇室一般参賀。コミックマーケット。大人気アーティストの大規模野外ライブ。それぐらいのものだ。
圧倒的な人数。その一人一人に、高い霊格を感じる。
「さ、サーヴァント、全部!」
時臣が愕然とする。ほかの魔術師たちも。
「死してのちもわが招集に応じる、忠実なる朋友たちよ!聖杯ごときのためとはいえ勝てば報酬は思いのまま、そして敵は皆相手にとって不足なし!」
「然り!然り!」
万の絶叫が荒野を、熱風より激しく吹き渡る。
「あのサーヴァント、かなりすごいのがいるぞ!」
ウェイバーが叫んだ。
「イスカンダルの部下であれば……世界史の高校教科書に出た、セレウコス朝シリア、プトレマイオス朝エジプト、アンティゴノス朝マケドニア……」
宗介がうめくのに、耳ざとく聞いた男が三人前に出る。
「我だ!」
「俺だ!」
「この雄姿を見よぉおおおっ!」
世界史教科書に太字で出る水準の大国を築いた、大英雄のサーヴァントが胸を張る。マスターの目で見ても高ステイタス、普通に召喚しても優勝を狙えたろう。
「ここは平行世界か……聖杯の追加召喚とはな、ファック!いや、先生もソラウさんもまだ生きているか……ファック、なんだあのサーヴァントたちは、反則にもほどがある!」
文官と思える長髪の青年がウェイバーを見つめてつぶやく。
「ウェイバー君?」
ケイネスが弱った声で、それでも鋭く言った。
長髪の文官は、思わず身をすくませる。
「せ……先生……」
「そうか。平行世界では予定通りイスカンダル大王を召喚して臣下の一人となり、この私を出し抜いて優勝し、英霊と認められた……聖杯が汚れていなかったか……」
「ち、ちがいます!敗退して生き残っただけです、でも、でもその、教師として運がよくて、あと汚れた聖杯を解体した功績で……」
「え……ぼく?」
子どものほうのウェイバーがびっくりした。大人のほうは嫌悪感を込めておのれの若いころを見、そして師の視線に肩をすくませる。
「で、私は……」
大人ウェイバーの反応に、ケイネスは屈辱に震えていた。平行世界の自分は無残に敗退したのだ。
大人となった生徒の視線を追うと、拘束を解かれた衛宮切嗣の姿があった。
「あとで調べましたが……ほんっとうにド外道だったそうで……」
「……どんなことでもする覚悟だった」
切嗣は落ちこんでいる。
「って、あーっ遠坂凛までなんで……マスターか……どうなってるんだ……
大人になった遠坂凛が、聖杯の解体で協力してくれた。彼女とかかわりがあった衛宮切嗣の養子を通じて、世界平和、正義の味方って理想は聞いてる」
大人ウェイバーが、怒りをこめて言いきった。
「それが、その結果もわかって止めようとしたのか?」
孔雀が優に言う。
「まあそういうこと。生前に似たような奴を殺したし」
「こっちも聖杯でえらく苦労したからなあ……」
苦笑しつつうなずき合う。
「わはははははは!小物が大それた望みを抱いて自滅するのは楽しいものだ!」
と、黄金の鎧を着て、いつの間にか一番高い岩の上に立っていた美青年が笑い叫んだ。
「……ナーガの同類がいる」
と、リナ・インバースが辟易としてつぶやく。
「ふん、雑種どもの殺し合いをひとときの娯楽としよう。もし我が認める英雄あれば直々に誅してやってもよい」
と、どこかから豪華な玉座を出した黄金の男は座ってふんぞり返った。
「ふ、ふはははは!」
今度は魚のような目の男が大声で笑い出す。聖杯側の、金髪の少女の足元にひざまずいて。
「ジャンヌ、ジャンヌよわが聖女よ!ご命令を、貴女とともに再び戦えるのは喜びの極み!おお、聖杯はわが祈りに応えたのだ!」
などとやっている。
(バーサーカーが別だったら、即刻首をはねられていたかもしれない……)
とは、知る由もない。
「さて、戦の定石、弱い側から仕留めて……」
ジルの手に不気味な本が出現した。
「水が必要なのか?気まぐれだ」
と、黄金王がぽい、と細長い杖を投げた。
一滴の水もない荒野、そのひときわ大きい岩に杖がぶつかると、岩がぱくりと二つに割れた。
数秒地が震え、そしてすさまじい量の水が噴き出す。モーセや空海らの、岩を叩いて泉を吹き出した杖の原典だ。
みるみるうちに、荒野の涸れ谷が、未遠川ぐらいの川と化す。
「は、ははははは、水さえあれば!」
とジルが叫ぶと、無数の怪物が、マスターたちに襲いかかった。
「マスターたちの護衛を最優先しろ!」
優が叫び、大きなトラックの荷室を開けた。素早く三脚と、M2重機関銃を取り出す。
ランボーは三脚とM60歩兵機関銃を即座に準備し、正確な射撃を始める。
宗介も、衛宮切嗣も久宇舞弥もアイリスフィールさえ、それを見て素早く動いた。
ごくわずかな間に、三脚に乗った重機関銃がずらりと並び、替え銃身も積まれる。宝具化された弾薬がうずたかく積み上げられる。
「マスター、弾を運んでください」
宗介に言われたウェイバーが、『ボン太くん』を着てそのパワーで弾薬を運ぶ。
すさまじい音が響く。何百という重機関銃弾、一発ごとに空気が揺れるほどのエネルギーがほとばしる。銃身が過熱して射撃に支障が出れば、即座に銃身を交換する。アイリスフィールだけは練習はしてきたがまだ不慣れ、それも切嗣が素早く手伝い、硝煙と砂埃に汚れた顔で夫婦が微笑を交わす。
何人かは重機関銃の射撃と平行して、14.5ミリライフルを連射している。
「防衛力に優れた自分がマスターたちを守ります!」
ふたたびウェイバーの令呪が輝き、アームスレイブが巨大な砲や機関砲を構えて陣取る。
霊的存在にも通用する弾に削られつつ突撃したひときわ大きな海魔が、アームスレイブの巨大砲に吹き飛ばされ、その陰から飛んできたライダーの軍勢が放つ矢や投げ槍の嵐をラムダ・ドライバが阻む。
そして突撃する聖杯側の、黄金の美少女、青い槍兵、鉛の巨漢、和服の青年。
イスカンダルは、
「余と、この軍勢が斃れればこの結界も消えて全力で戦えなくなるのう。下がって、ふさわしい敵と楽しめるのを待つか……」
と軍勢を連れて、荒野の遠くに引っ込んでしまった。
「さーて、やあっと全力が出せる!」
リナ・インバースが群がる海魔の前に立ち、呪文を唱え始めた。
『黄昏よりも暗きもの、血の流れよりも赤きもの、ときの流れにうずもれし偉大なる汝の名において、我ここに闇に誓わん。
我らが前に立ちふさがりしすべての愚かなるものに、我と汝が力もて、等しく滅びを与えんことを……』
「すさまじい魔力が!」
時臣がおののく。
「世界の壁を破って、異界から……第二魔法、いやそれ以上……」
ケイネスにとっては衝撃を通り越している。
リナは、魔法の魔力そのものは異界の魔王からもらえるが、そのために自分を制御するのに魔力を使う。二人の幼いマスターは容赦なく体力を奪われる。
「そんなかわいい子を守るんだから、気ぃ張りなさい!」
凛が桜を見て、士郎に叫んだ。そして膨大な魔力を叩き出す。
「ああ!」
士郎は単純にうめき、桜にVサインをしてふんばった。
『竜破斬(ドラグ・スレイブ)!!!!!!!』
リナの呪文が完成し、赤い光が超巨大海魔を一閃した。
そして、すさまじい爆発が起きる。
衝撃波と爆風が吹き荒れ、そして吹き戻しの爆風が荒野を席巻する。きのこ雲が立ち昇る。
(核兵器かよ……)
(よかった、冬木市で使われなくて)
(もしやられていたら、隠蔽工作が核テロとかの話になってた、いや教会の人員も全滅)
(消し去られていたな、冬木というか日本が……)
神秘の秘匿に関係がある人たちは、ただただ青ざめていた。
だが、そこから切りこんでくる剣士たち。
その前に、竜の騎士が真魔剛竜剣を抜き、立ちふさがる。
優と孔雀も加わった。
それだけではない。この荒野に来た直後、優は一度出したAMスーツを脱ぎ、言峰綺礼に手渡していた。
「着古しで汚いが、使えよ。あんたの八極拳もちょっとしたもんだったぜ。みんなでガチガチに強化をかければ、なんとか全Dサーヴァントぐらいにはなるだろ」
「宝具を……ありがたい」
黒いダウン防寒具上下のような、古代技術・オリハルコンを用いた筋肉装甲服を着た綺礼は、軽く大八極の動きをする。すさまじいパワーの振脚が大地を揺るがす。
「慣れたようだな。前に、人間になって強くなったって言ってたが……」
優が照れたように頬をかいた。
「オレも確かに、人間になって強くなった。人間だからこそ、中国武術の神髄、天地と一体になって戦えるんだ。オレの師は、ちょっと行き過ぎたから負けた、なんて言ってたけどな。源のヤツは、後で別の……まあいい、戦えるな?」
と背を押された綺礼は、青いランサーに立ち向かった。
優は見えぬ剣を持つ金髪の美少女に、バランは石の斧剣をふりかぶる鉛の巨人に、孔雀は長い刀を抜いた和服の青年に。
聖杯戦争が始まる。