鯖総入れ替え四次(おっさんホイホイ)   作:ケット

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もうすぐ完結なのに、これが胸突き八丁…


死闘

 バーサーカーが斃れた、アルトリアとク・フリンはむしろそれをチャンスと見た。

 

 優と戦うアルトリア。ヘラクレスを下したバランも加わる。

 絶望的と思えたが、それを彼女は戦機ととらえた。

「気をつけろ、逆に危険だ」

「おうよ」

 バランの忠告に優が応える。

「技に優れている、ならばこそ……」

「くるぞ!」

 優は薄着の全身で、確実に相手の気を察知する。動く瞬間は、テレホンパンチのようにわかっている、だからこそ力では及ばず敏捷がやっと対等な、魔力放出がある強敵と戦い続けられた。

 腰だめに見えぬ剣を構えたまま、体のどこも微動だにさせずにセイバーは後退した。

 魔力放出と風王結界(インビジブル・エア)のみを用いる。剣士とはまったく違う動きだが、だからこそ効果的だった。同時に風王結界を収束させ、優とバランを牽制し、銃弾をそらす。

 振りかぶられた剣、風の鞘が消えて黄金の刀身があらわになり、すさまじい魔力が集中する。

「ここだな」

 切嗣とアイリスフィール、舞弥の重機関銃の弾幕、だがそれを海魔がはばんだ。

「ジャンヌよ、お守りいたします!」

 ジル・ド・レエが駆け寄ってくる。

「かたじけない……勘違いは許せんが、今は戦場!」

 アルトリアに魔力が充満する。

「勝利すべき(エクス)……」

 バランはよけられない。よけたら、後ろにはマスターたち……レーバティンが守るとはいえ、絶対とは言い切れない。

「竜闘気(ドラゴニックオーラ)!」

 強烈に光をまとい、壁になろうとする。

「セイバーから、『ヴァジュラ』と」

 念話を受けた切嗣の言葉を聞いたアイリスフィールが背の長い荷物から、二つの長いものを取り出す。

 三つ入っていた……ひとつは以前も使った軽機関銃。

 もうひとつ、鞘。

 もうひとつ、中間にふくらみのある奇妙な棒。仏像が持つような。

「う……ヴァジュラ、いってえっ!」

 叫びとともに、魔術師としても優れるアイリスフィールが複雑な魔術を行使する。ふくらみのある棒から強烈な稲妻が、宝具の真名を解放しようとためを作るアルトリアを襲った。

「ぐううっ」

 ダメージが通っている。

「そ、それは……あの耐魔力を貫通するとは、魔術だけの武器ではない?」

「宝具級概念礼装……」

 ケイネスと時臣が驚きに目を見張った。

「ああ。ヒトラーのコレクションだ。生前と同じところで見つけた。

 生前の話だが……厳重な封印があって、ネオナチがヒトラーのクローンを作ってそれに聖杯を通じて本人の魂を突っこんで、それで封印を解いた。

 今回召喚されてからも、似たようなネオナチの組織があって、同じ洞窟に転がってたんだ」

 優が説明した。

「いいおじさんの墓参り、って……まさか、ヒトラー!?」

 アイリが呆れた。

「オレたちが会ったヒトラーは、二重人格の政治家の側だった。そっちは本当に善人だったよ。命の恩人なんだ……

 だから、聖杯探しなんてろくなことにならない、ってよくわかってたんだ!バカヤロウ!!」

 優の絶叫に、切嗣が胸を痛める。優でなければ、

(穢れた聖杯を解放して多数の罪のない人を、無意味に死なせていたかもしれない。世界が滅んでいたかも……)

 と、痛感したのだ。

「こっちの生前の聖杯騒ぎはもっとひどかった……姉さんが魔王状態になって、世界人口半分いったんじゃないか?」

 孔雀がぼやく。ケイネスがぞっとした。真実だと……

(そう言えるということは、魔王から世界を救った救世主。道理で、神霊かと思うほどの英霊だったわけだ……)

 このことである。

「だ、だが、聖杯が、祖国を」

 傷つきながら起き上がり、再び剣を構えようとするアルトリアをバランが襲った。

 バランの剛剣を受けたアルトリアは、反則じみたパワーに眉をひそめた。バランは竜の因子と竜殺し、両方を持っていることを直感する。

「おおおおっ!」

 今度は技の限りを尽くし、バランを突き放す。

(宝具の真名解放さえできれば……)

 ここで、マスターがいないことを呪う。マスターの牽制があれば、戦局を動かせるのに。

 だが、今ここにある触媒の主に召喚されていれば、それ以上の呪いに苦しむ羽目になることを彼女は幸い知らない。

「祖国か。今思えば、アルキード王も……娘を切り捨ててでも、国の面子を立てようとしたのだろう。顔で怒って心では泣いていたのかもしれない。娘を侮辱してでも、王の裁きは正しい、王は人を守り魔と戦う、と。

 人間が最悪に愚かで残酷になるのは、国家に妄執と言うべきほどにとらわれ、犠牲を払うときだ!」

「国家を侮辱するな痴れ者が!人は国家がなければ生きられず、国家のためにすべてを捧げねば人ではない!」

 激しい怒りをぶつけあい、バランとアルトリアが切り結ぶ。

 

 

 ク・フリンは、人間のマスターなのに自分に挑んだ男に戸惑っていた。過剰な、狂気じみた鍛錬で作られたと見える技と肉体に、平凡すぎる魂が合わないのだ。

(ま、何か変な魔術を使ったんだな)

 そう割り切る。

 確かに、人間であることは恐ろしい。いびつであることも、人間なら誰しもだ。

 ついでに、実感はないが座の記録はこの男を、なぜかとても憎んでいる。

「いいかげんにくたばれやぁ!」

 槍で肩を貫き、それでも踏みこんで密着してくるのを長い脚で蹴り飛ばす。

 綺礼は、恐怖の命じるままにわずかに動いたことで、槍が急所をそれたことを知っていた。戦闘経験と修練が命じたように踏みこんだことで、蹴りが10センチずれ、それで威力が半減したことを知っていた。

 恐怖を感じる。戦闘経験がある。技がある。

(これが戦闘機械ではない、人間の強さ)

 それで動き続け、八極拳ならではの密着して掌を当てただけからの、モーションのないすさまじい打撃力がランサーの青い身体に当たる。AMスーツで力が増幅され、対霊体兵器の精神波と八極拳の『気』が絡み合って耐久を貫通する。

「ベホマ」

 ヘラクレスを下し、海魔と戦うバランが、背後で何か荷物を抱えるアイリスフィール・フォン・アインツベルンが治癒魔術をかける。綺礼自身も治癒魔術はうまい。

「なんかなあ……人間じゃねーって修練した奴の身体を、普通の人間がのっとった?」

 不満そうに吐き捨てたク・フリンは、巧妙に牽制してすり抜けると、ルーン文字を描いた。

 綺礼の動きが止まる。

「人間ってのはな、確かに時に全力の何倍も力を出すこともあるさ。だが、自分のためじゃそんな力は出やしねえ。誰かのために戦うんでなきゃ、人の皮をかぶったバケモンのほうがずっと安定してっぜ」

 そう言って、容赦なくとどめを刺しにいく……そして瞬時に飛びのいた。

 ふっと実体化したかずいが、ランサーの頭に手を差し伸べようとしていた。

「ちいっ!」

 かずいを無理に殺そうとしたら相打ちのリスクが大きい。飛びのいて精神を破壊する能力から逃れたク・フリンは、そこがまずい場所だと気づく。

 アイリスフィールとレーバティンの十字砲火。

 さらにその弾幕の隙間を縫って優が切りこんできた。

「よっしゃあ、最高の技と戦える!あんたを倒したら次はあのすげーのだ!」

 ク・フリンはあくまで強敵との戦いだけを求めている。

 ……時臣は知らない。ク・フリンか李書文、情報的に困難だが佐々木小次郎を召喚し、最初から正直に生贄にすることを伝えていれば、問題なく戦えたのだ。

「オレは卑怯なこともするぞ?朧やボー、源とは違うんだ」

「上等、戦争じゃ当たり前だろ!」

 

 

 小次郎はマイペースに、ランボーの猛攻を浴びながら生き抜いていた。傷つきながら、魔法の域に達した剣技をふるい続けて。

 ギルガメッシュにもらった『妖刀村正』の原典も、すさまじい力でそれを助けている。

『切れ味』そのものの極致は、銃弾も矢もすべてを切断する。

 ランボーはひたすら間合いを読み、致命傷を免れながら戦い続ける。また背中で友軍を指揮し、切嗣が撃ちやすいところに誘導してやる。

 分隊指揮官としても、ランボーがどれだけ優れているか……レーバティンから見る宗介は感動するほどだった。

 小次郎を突如、アイリスフィールが手にしたヴァジュラの稲妻と、時臣の宝石魔術が襲った。

「あ、ああ……」

 そのアイリスフィールは、苦しみながら回復し続けている。彼女が手にする鞘が、主が同じ空間にいることで本来の効果を発揮している。それでも、ヘラクレスの、そして小次郎の魂を受け入れた器である彼女は、人としての機能を失おうとしている。

 それだけではなく、ヴァジュラはヒトラーにも制御しきれず自爆につながった、人の身には強力すぎる古代兵器でもあるのだ。

「ふ……これが実戦か。よし生前に機会があったとしても、鉄砲で終わったかもしれぬのか……」

 つぶやきながら、小次郎が消えていく。

 

 大量の銃弾と、リナの呪文や孔雀の真言に倒されながら海魔たちは増えていく。倒されれば倒されるほど増えるのだ。

 その肉壁が、本体への攻撃を阻んでいる。

 

「凛、士郎!力を」

 リナの叫びに、

「ええ!」

「ああ!」

 叫びとともにふたりの幼い魔術師が力を振り絞る。

『大地の底に眠りある、凍える魂持ちたる覇王……

覇王氷河烈(ダイナスト・ブレス)!!』

 リナの呪文とともに、強烈な冷気が海魔たちを包む。

(倒せば増えるのだから、凍らせてしまえばいい……)

 と、いうわけだ。




伏字解放
『ヴァジュラ』
サーヴァントの宝具ではなく、アーサー王の鞘と同じく遺跡から発掘された概念礼装。
 アドルフ・ヒトラーが世界征服のため収集していた魔術関係の品の一つで、彼の魂を鍵として封じられたある洞窟に納められていた。探検家もネオナチも、その鍵を解けず手が出せなかった。
 優の生前、ネオナチが封印を解いたが、ヒトラーの二重人格の一方、景気回復を成功させた善人でもあった政治家面の彼が自爆した。
 サーヴァントとして召喚された優が探索し、ネオナチも壊滅させてクローンとは別の方法で封印を解いた。
 潜在的には核兵器級の神の雷を使うことができる、超級宝具。


 先生とトッキーって、解説役としてとっても便利ですねえ。おかげで簡単に殺せない。
「この聖杯は本物=イエスの聖遺物じゃないよ」と言ってやればよかったんですが、ケリィも先生もサーヴァントとはコミュ障ですから。ひどいことにはなりますし。

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