余裕をもって優雅たれ。
遠坂時臣は家訓を守りながら、不安におびえていた。
以前から齟齬はあった。協力者である言峰綺礼が以前に召喚したのは、ハサン・サッバーハではなかったのだ。聖杯戦争でアサシンとして召喚されるのは、歴代の山の翁ハサン・サッバーハの誰かだと決まっているのに。
最弱のアサシン。ステイタスはすべて最低値。
(自分もそのような、はずれを引いてしまうのでは……)
そんな不安があった。
そんなことになれば、貴族としての自分の沽券にかかわる。代々の先祖に顔向けできない。
触媒は最高のものを用意した。
大量の魔力を込めた、最上の宝石も用意した。
根源「」へ。遠坂家の悲願のため、勝利のためにすべてをしてきた。
魔力をこめた宝石を惜しみなく費やして魔法陣を描く。
強力な魔力をこめて、儀式が行われる。
「誓いを此処に。
我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。
汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ!」
まぎれもなく、強力な魔力が集まる。並大抵ではない格の存在が手に取れる。
光が渦巻き、エーテルが人の肉の密度にまで高まり……
そこにいたのは、米軍の古びた戦闘服を着た、長髪の男だった。胸にはいくつも勲章の略綬が輝いている。肩の階級章は奇妙にも破かれている。
「米陸軍第……アーチャー、ジョン・ランボー」
そう言って敬礼する。
遠坂時臣は、もう家訓などどこかに投げ捨てて頭を抱えていた。
驚くほど長身の、やや薄い感じで耳にピアスをつけた白人男性……最弱のアサシンと、それに近い長身ですさまじい筋肉の神父……言峰綺礼がアーチャーを見た。
あらゆる敵との戦いを経験してきた綺礼にはわかる。目の前の男は、
(確かに生前、人間最強であったろう……)
(生前の彼と、全力で戦っても勝てる可能性は低い……)
このことである。
なによりアーチャーの胸には議会名誉勲章……アメリカ軍最高の勲章の略綬が燦然と輝いているのだ。死後にせよ、生前にせよ、膨大なアメリカ軍人の中でもわずかしか受勲できない。どれほどの武功を立てたものか。
それ以外のパープルハートをはじめとする略綬も、すさまじいの一言だ。
(師は、ギルガメッシュなどよりはるかに勝利に資するアーチャーを引いたのだ。使いこなすことができさえすれば……)
綺礼は、勝利を求めていた。かつての自分であれば、戦いの中で『答え』を求めただろう。
自分は何か。なぜ自分はこうなのか。なぜ……どれほど信仰に、修行に、戦いに自らを痛めつけても、妻をめとり失っても得ることができない、自分の底なしの空虚を満たしてくれる『答え』を。
だが、アサシンによって変えられた今の自分は違う。
普通の人間なのだ。死にたくない。勝たなければ死ぬ、だから勝ちたい。勝って生きたい。
うまい酒を飲み、女を楽しみ、高い地位を得て認められる生活をしたい。引き取り父の瑠正に預けた娘に、呪われた資質がある……それでもその苦しみを最低限にし、幸せな女性としての生涯を与えたい。
かつての自分は、そんな自分を見ても信じることができないだろう。
そして、残っている戦士としての自分が告げる。自らの、最弱のアサシン。目の前の異端のアーチャー。よほどのことがなければ勝てる……むしろ、魔術師らしい魔術師にすぎる師、時臣こそが鎖の弱い環である、と。
その綺礼も、時臣も予想していなかった。自分の陣営に、もう一人サーヴァントが加わることは。
これでアサシンが誰だかわかったらすごいです。