鯖総入れ替え四次(おっさんホイホイ)   作:ケット

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キャスター

 ある、普通の家はホラー映画のワンシーンと化していた。違いは濃厚な匂いと熱だ。

 夫婦が惨殺され、男の子が一人縛られて、心が壊れた状態になっていた。

 赤毛の青年がハイテンションに興奮しつつ、手元の古い本を何度も読み、人の血で魔法陣を描いている。

 そして、遠坂時臣などが見れば嘲笑するほどぶざまに呪文を唱える。

 普通なら、素質があるだけの人間が、いくら家伝の由緒ある書を用いたとしても、これほど間違いだらけの儀式をしても99%は何も起きない。0.99%ぐらいとんでもないものを召喚して自滅する可能性があるかもしれない。

 だが、冬木の聖杯は不完全な儀式に応えた。ただし、聖杯の意図も無視したねじれた形で。

 そこには、一人の女がいた。高校生ぐらい。長い髪。胸こそ控えめだが、かなりの美少女だ。

「あ、あんたが悪魔か?なら」

 彼女は、静かに周囲を確認した。そして短い言葉をいくつか連ねる。

「……『眠り(スリーピング)』」

 青年はふらりと崩れ、男の子は縛られたまま眠ってしまう。

 彼女の動きに遅滞はなかった。恐ろしい速さで転がっている包丁を拾う。

 眠気に耐えて崩れかける青年……日本各地で恐ろしい数の人を殺してきた連続殺人犯、雨生龍之介の尻穴に刃が叩きこまれる。正確に体内最大級の動脈を切断し、出血を外に開放する。

 今致命傷を負った青年に劣らぬ、人殺しの経験がある手腕だ。

 半ば眠ったまま、いかなる言葉も口にできず、死を味わうこともできず、龍之介は死んでいった。

「悪人に人権はない」

 彼女はそう言うと、じっと聖杯のささやきに耳を凝らす。

 そして男の子を縛る紐をほどき、包丁をその手に握らせた。

「この世界には警察ってものがあるのよね……こうしとけば、なんとかなるでしょ」

 そう言うと、自分は霊体化して惨劇の場から立ち去る。

 彼女はわかっていた。サーヴァントとして招かれた自分がマスターを殺せば、自分はほどなく消える……よほどの幸運がなければ。

 自分の魔術で魔力を集めることはできる、だが誰か人と契約しなければ、現世にとどまり続けることはできない。

 だがそれでも、悪人を生かしておくことはできなかった。

 生前はそれを貫いてきた……半ば趣味でもあり、路銀調達の手段として。

 

 さまようキャスターの幸運値は高かった。すこぶる高かった。

 犯行現場から出てまもなく、道端で遊……争っている、ふたりの子供を見かけたのだ。

 どちらも小学校に入るかどうかの幼さ。一人は黒髪の、金のかかった服を着た美少女。もう一人は赤毛の少年。

 両方から、強い魔力を感じる。

「ねーそこのおじょうさんにぼうや、この天才美少女魔導士リナ・インバースのマスターになって聖杯戦争に勝って、好きな願いをかなえてみたくない?」

 キャスター……リナ・インバースのとんでもない言葉に、当然少年はぽかんとした。

 黒髪の少女は、びくっとして……怒鳴り始めた。

「あ、あんた、一般人の前でなに神秘を漏洩してるのよ!どうなってもしらな……あ」

 と、自分が何をやらかしたかを自覚して、赤毛の少年を見た。

(しまった、一般人の前では一般の子供のように、……どうすればよかったのかな)

 無論、魔法なんて信じるのは子供よ、と年上ぶってみるか、信じて興奮するふりをするか、黙って逃げるか……

 そんなことを考えるより先に、気づいた。

 目の前の女が人間ではなく、巨大な魔力で編まれた存在であることに。そして、

(何この子、どこかの魔術師の家の子じゃないの?すごい素質あるんだけど!)

 このことも。

「さすがにわかったようね。この美少女には一目瞭然、こちらのおじょうさんはとんでもない素質に加えてこの世界のへんな魔術だけど手ほどきが始まってる、こっちのぼうやもかなりの素質を持ってる。

 さーこのあたしが現世につながるため、この世界のおいしいごはんをたっぷり楽しむため、契約して」

「声が大きいのよあんたは!ってもう人払いの結界かけてるか、そつがないわね……そう、お父様が何か重大なことをしてる、それが聖杯戦争とかいうのは立ち聞きしたわ。お父様の助けになれるのなら……でもシロウはだめよ、こっちは一般人なんだから」

「それがねー、たしかにあんたは天才だけど、それだけでこの強大すぎる天才美少女魔導士を支えるのは無茶よ。ああ、このサーヴァントシステムとかいう下等魔術は解析済み、あーしてこーすれば二人の魔力で維持できるようになるから」

「……おれも魔法が使えるのか?」

「魔法ができたら大変よバカ」

 黒髪の少女が言うのに、

「誰がバカだよ!バカっていうやつがバカだからケンカするなってマ……ごほ、母さんが言ってたぞ!」

 赤毛の少年が言い返す。

「あの、そろそろ消えそうなので契約を……」

 リナはちょっと消えそうになっている。

「わかったわ。ああ……そういうふうに……すごいわね。いい、あんた」

 と、術式をキャスターから受け取った黒髪の少女は、赤毛の少年を振り返る。

「言っとくけど、魔術は死を許容するもの。とんでもなく痛い思いをたくさんすることになるわよ。それでもいいの?」

「ああ!きのうよんだ兄ちゃんのマンガでも、すごく痛い思いをして変身してたんだ!おれだってがんばる!」

 とある並行時空で少年が長じてあんな無残な姿になったのは、大火事と養父のせいだけではない……生来の素質も、幼児期における実の家族の影響もあったのだ。それがなければあそこまでの惨状には普通ならないだろう。

「なら、いいわ……私は遠坂凛」

「おれ、あまみや士郎」

 黒髪の少女と赤毛の少年が手を差し出す。その瞬間、二人の手の甲に赤い令呪が生じた。

「いたっ」

 苦痛に士郎は顔をゆがめるが、ヒーロー願望で泣くのを押し殺した。凛はもう痛みは覚悟しており、笑った。

「よろしくね、あたしはリナ・インバース。キャスター。こう唱えて……

『……告げる!」

「『告げる』」

「『つげる』」

 凛と士郎が復唱する。

「『…………

……我に従え!ならばこの命運、汝が杖に預けよう……!』

「『我に従え!ならばこの命運、汝が杖に預けよう』」

「『われにしたがえ、ならばこのめいうん、なんじが杖にあずけよう!!!』」

 巨大な魔力がふくれあがる。

 凛は改めて、かたわらの少年の素質に驚いた。

「『キャスターの名にかけ誓いを受ける……あなたがたをあたしの主として認めよう、リンとシロウ』」

 リナの言葉とともに、魔力のパスがつながり消えかけた姿が安定する。

「そうとわかったら、さっそくお父様のところに行かなくちゃ!これで絶対お父様は勝てる!あんたもついてきなさい!」

「あ、ああ、わかった!いてて……いた……」

 慣れぬ苦痛にうめく士郎の手を引き、凛は遠坂邸に走ろうとして、一度預けられた禅城家に向かう。

 母に知らせず父のところに直行するようなうっかりはしない。遠坂のうっかりは、もっと肝心なところで出るものだ。




『スレイヤーズ!』リナ・インバース。
士郎の実の家族は、龍之介の交流のない親戚、と本作独自設定。

新作が出るという話がありますが、反映させるつもりはないです。長編本編(~「デモン・スレイヤーズ」)のみ。
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