宗介にとって、勝利の可能性は二つだけだった。
兵站も兵力も乏しい……ウェイバーは魔力も弱く、金もなく仲間もいない。防衛地形もない、マッケンジー家は魔術的にも、近代兵器からも無防備だ。
「敵マスターを狙撃する」
「敵サーヴァントの、残った全員が集まったときに、令呪を必要とする最大宝具で殲滅する」
前者は、冬木市全体に狙撃手の気配があるので断念。
後者のためには、情報収集が必要……多少のリスクは犯しても。
そのためにウェイバーにも宝具『ボン太くん』を着せた。
それで、少なくともライフル程度の狙撃から一撃は持ちこたえられる。魔術にもある程度の耐性があるだろう。
ちょっとした小細工もした。
セイバーなどは、『ボン太くん』の正体に惑っていた。
様々なパワードスーツとも戦っている。おそらく一種のパワードスーツだろう、と見当はつく。
問題は、その動きが機械的だ、ということだ。
マスターか。サーヴァントか。無人か。
サーヴァントが乗ったままAI操縦していれば、無人と思ってバカにした相手の隙をつくことができる。
また、生前の経験から別のシナリオも想定できてしまう。
(某米軍などが、人払いの結界を押しのける兵器を投入し、聖杯戦争自体に介入……)
このことだ。
彼の生前の経験では、ちょっとでも神秘的にすごいものが出たら、わらわらと各国の特殊部隊が集まるのがいつものことだった。
宗介はそれも読んでいる。
特に大きいバックがある敵の、情報関係に負担をかけることができる。組織内に軋轢をもたらしたり、虎の尾を踏むこともありうる。
……実際問題、アーチャーからの警告を受けた教会側は、本当に世界中の軍や秘密組織、その他諸々がどこも動いていないか確認させられ、てんてこ舞いする羽目になった。
「どうするのだ?」
あまりそれらを気にしないバランが、優に呼び掛けた。
「……考えてても仕方ないか、それはマスターの仕事だ。疲れてるだろうしアンフェアだが、来いよ」
「なめてもらっては困る」
と、すさまじい速度で突進したバランの一撃。
優のナイフがしっかりと受け止める。剛力を食い止める圧倒的なパワー……
スコープ越しに見ている衛宮切嗣も、近くにいるライダーのマスターも瞠目した。
「ふも、ふもふも、ふもおっふ(あ、あれは?筋力が1ランクアップしたぞ)」
「ふもももふも、ふもふも、ふもふも、ふも、ふもっふ(自分が知らない技術による、機械的に筋力を増強する機能があると思われます。防弾能力も前提にすべきでしょう。強敵です)」
ダウンジャケットに見える服が、ふくれあがっている。
宝具化されたAM(アーマード・マッスル)スーツ。アーカムが古代技術で作ったスプリガン用高級兵器。
オリハルコンを利用した人工筋肉が内蔵され、強力な力を生身の腕を動かすのと同様に使うことができる。またライフル弾すら防ぐ強力な防弾着でもある。ついでに掌に対霊兵器も仕込まれている。
それが今は宝具化されている。
「ほう……人間の力ではないな。その短刀もオリハルコンか、この真魔剛竜剣と同じく」
バランが微笑む。
聞いていたケイネスが、オリハルコンの名に驚愕した。
「……だが、これを着てたらあんたには勝てねえな」
と、優はあえてAMスーツを消し、薄着になった。ナイフすら消す。呼吸を整える。
「賢明だな。より恐ろしくなった」
と、バランの額の紋章がひときわ強く輝く。
「いざ!」
バランはすさまじい剣を打ちこむ。優はふわりと、幻のように消えてバランの斜め後ろすぐそばに出現し、ふくらはぎを踏みにかかる。出現位置自体が、バランの両手両足を事実上封じている。
「う」
宗介が痛そうにまゆをひそめる。子供とプロスポーツ選手の体力差があっても、一発で無力化されかねない。
そこを強烈な、おそろしくコンパクトで無駄のない肘打ちが優を襲う……骨を折らせて首を獲る。
だが、優はふわりとそれも受け流し、バランの体重を崩しつつ関節技に入ろうとしている。そこをバランはトベルーラで浮いて、高速で電柱に優を叩きつけようとした。
優が柔らかく離れ、バランの大剣を無効とする密着状態を保ち、ふわりふわりと触れ続ける。
バランも、無駄なく対処している。しっかりと足腰を落とし、余計な反応をしない。特に重心を崩す牽制には引っかからず、極意に至った剣の基本を守っている。
それが、八卦掌系の非常にたちの悪い技の効果を最低限にしている。
地味だがかなりダメージを受けている。柔らかく深い『気』……浸透勁は、圧縮された暗黒闘気同様、竜の騎士にも届く。
しばらく、一見地味だが超々高等技術の応酬である戦いは続いた。優はあちこちから出血し、片腕が折れているが、バランのダメージも実は劣らない。
静かに二人が離れる。
「大したもんだ」
バランは無言でうなずき、屋根を見上げた。
「そこで隠れている少年に、そちらの兵士。降りてくる気はないか」
一方の答えは、一連射。そして完全に気配が消える。
(今の銃声はM60歩兵機関銃?ということは以前の米軍、技術的にはこちらが……いや、予断で判断するな。現代より技術水準の高い世界の英霊がいる。とんでもない兵器に乗った2050年の東南アジアゲリラかもしれない。本当は光線銃があるのにわざと旧式武器を使っているかもしれない)
切嗣はそう考えて、より警戒水準を引き上げた。というより、この聖杯戦争には危険というか絶望的な敵しかいない。
以前の自分なら、迷わず全部投げ出して撤退するところだ。だがそれが、傭兵として唯一まともな行動をとることが、絶対にできないのだ。
静かに、信じられないようなコンテナの隙間から一人の『ボン太くん』が出てくる。
「名乗りはよい。来い!」
バランの目に射すくめられながら、『ボン太くん』は突進した。
そして、すでに出ていた二体の『ボン太くん』の一方が脇から散弾銃を構え、撃つ。もう一方は別の物陰に隠れて、尻を道に突き出した。
(一見無様だが、最大装甲をこちらに向けている。こちらはAI操作か)
優はそう見た。
バランは散弾を大きくよけ、着地した瞬間に剣を振るう。別のところから放たれた矢を切り落とした。
その時。尻を向けたほうの『ボン太くん』の、尻から散弾銃の銃口が突き出て一発弾(スラッグ)がバランを襲う。
「む」
と強力なスラッグを切り払ったバラン、その瞬間突撃していた『ボン太くん』は止まり、ドラグノフ狙撃銃を構えて発砲した。
バランは切り払う動きのまま身を低くしており、弾は外れる。反撃しようとしたとき、尻から銃口を突き出した『ボン太くん』が爆発的に炎上する。
その隙に、襲いかかっていた『ボン太くん』はもう一体の『ボン太くん』とともに、海に飛びこんだ。
海中だけが、銃弾から安全……潜水仕様。
最初に出てきた二体の『ボン太くん』は、空の自動操縦とマスターのウェイバー。そして宗介は別の『ボン太くん』で隠れ、さらに事前に霊体化して仕掛け弓矢も準備し、その射線にバランを追いこんだ。
バランは静かにうなずいていた。
「あれが、あれだけだとは思わねーよな?」
優の言葉に、
「無論。生き残り戦い続けることに優れた、よい戦士だ」
バランが静かに言った。
「さて、もう解散にしようか。ここで高いところで高笑いする奴がいるかもしれないが」
優はそう言う。生前の敵が懐かしく思い出される。
離れたところで、「ナーガと一緒にするなーっ!」とキャスターが絶叫し、大呪文すら唱え始めていた。
時臣は幸いにも知らない。召喚しようとしたのが、それをやらかしかねない者だとは。
そしてギルガメッシュと、セイルーン王家第一王女が会わなかったことは、世界のために幸運だったろう。
「ああ」
答えたバランは霊体化した。感知した、冬木市を消し飛ばしかねない大呪文を防ぐつもりもある。
その間に優は、やや遠隔の治癒魔術で、傷は癒えている。
優はアイリスフィールのところに帰り……突き飛ばした。
数発の弾が行きすぎ、即座にセイバーの手に出現したライフルが、見当違いと見えるデリッククレーンを撃つ。
そしてアイリスフィールさえ、背中から機関銃……G3の機関銃バージョン、H&K-HK21を取り出し、優が左手のレーザーで照らすところを撃っている。すぐに二人の姿が白い霧に隠れる、優の煙幕弾。
ほんの二秒乱射、また霧を揺るがして、HK21についたアンダーバレル・グレネードランチャーが放たれ、夜空を照らす。照明弾、牽制。
発砲炎が上がった瞬間に別のところで爆発が起き、すぐにまた遠くのコンテナに着弾し爆発。遠隔操作の仕掛け迫撃砲が狙撃手をあぶりだす。
その隙に優は、小さなボールを投げてから別の方向に移動した。
ボールは撃ち抜かれるが、優たちは消える。逃走路には、切られた木の弓が転がっている。機械を使わない原始的な、それだけに見つけにくい罠があった。それを宗介が戦いの前に解除していた……優はそれも見ており、利用した。
アイリスフィールは用意されていた、防弾仕様のベンツに乗りこみ、撃たれながら全速に加速した。
RPG-7の弾頭が一瞬突き出されるが、着弾が牽制して発砲を許さない。
その間に、ケイネスを引きずるランサーも、切嗣も、久宇舞弥も、アイリスフィールも、言峰綺礼も必死で逃げていた。
名誉勲章生前受勲の特殊部隊員と、スプリガンが撃ち合う地獄絵図から……
Q「ギルさまがハサンAを粉砕する茶番がないのになんで倉庫街の戦いが?」
A「聞くな、ひたすら闇から闇で一発の発砲もないスナイパー戦、読みたい?というかそれを面白く書ける技量があったら冒険小説を出版社に持ち込んでます」
というか時臣は、呼び出したアサシンが真ハサンだったら茶番できなかったんですが、その時はどうしてたんでしょうね…