此処は所変わって学園長室、其処には道中でネギが新任の先生でありタカミチと入れ替わりに彼が担任になる事に抗議する明日菜の姿があった。
しかし彼女の抗議は暖簾に腕押しとばかりにいなされ、学園長にはのらりくらりとやり過ごされた為、渋々引き下がるしかなかった。
納得のいかない彼女だったが、ネギの猫を被った笑顔と『やっぱり、僕なんかじゃダメですよね……』と言う目薬を使った嘘泣きによるコンボに明日菜は陥落、ネギの背負っている負債とその苦労について知っている学園長は知り合いが出張ばかりのタカミチしか居ない教員用の社員寮に彼一人で住まわせるのは少々可愛そうだと感じたのか、打ち解けている彼女達に相部屋を頼んでしまった。
コレは猫を被っている彼は父親とは完全に真逆の性格をしている為、学園長やタカミチと言った事情を知っている人間ほど同情心を付け込まれる罠だ。
ネギはそれを意図してやっている為、内心や裏の顔を知らない者は多い、今回の件に関してもこんな風に思っている。
『あはははっ、なんて素直で良い人ばっかりなんでしょう!! これで食費も宿泊費も実質タダ!! いやぁ日本人様々ですねぇ!!』
……などと、思っている、自分の年齢や境遇を武器にするくらいなんとも思わないのである。
『厳しい修行になるじゃろう、もしもダメだったら故郷に帰らねばならん』と言う檄を受けたネギは、内心では微塵も思ってもいない癖に『ハイ!! 頑張ります!!』と元気良く返事をするのだった。
ネギの授業は多少のぎこちなさはあるものの意外にも分かりやすく要点のまとまった内容で、概ね好評であった。
猫を被っている以上彼は対外的な評価を高める事に労力を惜しまず、今回の授業も事前にタカミチと打ち合わせに打ち合わせを重ねて非常に分かりやすい授業へと仕上げている。
その甲斐もあってか、好意的にクラスに受け入れられたのだが、その気の緩みからかネギは少々ポカをやらかしてしまう。
それは放課後となり、中等部周辺の地形を覚えようと見回りをしている時だった。
(あれ? あの子は確か……出席番号27番の宮崎のどかさん?)
持ち前の頭脳で既にクラス全員の顔と名前を把握していたネギは階段を降りていた彼女が足を滑らせて転落する場面に出くわした。
即座に父親から託された巧妙に表面が木製に見える様に細工された純金製の杖を手にし、怪しげな呪文を唱える事で彼女の落下速度を和らげると同時にその下に滑り込んでその身体を受け止める。
(ふふっ、キョトンとしていますね。 こう言った男性に耐性の無さそうな娘的にはこの状況は恋愛ドラマチックで刺激的、さぁ後は僕の口説きセンスが炸裂するだけでイチコロです!!)
……無論下心アリである、このネギは女の子を口説き落とす事にも抜け目なく自分の欲求に非常に素直なのだ。
尚、故郷のウェールズでは手当たり次第に女性を口説き倒し、且つ何人ものガールフレンドを作っていた為ドロドロの刃傷沙汰となった事もあるのだが、実に懲りていない。
しかし、彼にとって不幸だったのは偶々ネギを歓迎パーティーに呼ぶ為に彼を探しに来ていた明日菜に今のシーンを見られてしまった事だった。
しまった、と彼が思った瞬間には明日菜に抱えられて人気の少ない所へと攫われてしまい、若干興奮気味の明日菜から詰め寄られてしまう。
「あああ、あんた超能力者だったの!?」
「い、いや、ちが––––」
「誤魔化したってダメよ!! この目で見たんだからね!!」
ガクガクと肩を掴まれて揺さぶられるネギだったが、なんとか明日菜の手から抜け出し、彼女を手で制しながらこほんと一度咳払いを挟んでから自分の正体を明かす事にした、その理由は彼女の性格的に変に誤魔化すと後が面倒になりそうだというネギの勘だ。
「ふぅ、良いですか明日菜さん、僕は超能力者では無く雀士です」
「…………は? 雀士? えっ、魔法使いとか超能力者じゃなくて?」
「ハッ、中学生にもなってそんな存在信じてるんですか? あ、それとも性交経験のない三十代男性の事を揶揄してるんですか?」
「………アンタ猫も被ってたのね」
雀士である事を告げたネギは取り繕っても仕方ないと言う風に被っていた猫を脱ぎ捨てる、弱みを握られた場合短絡的な彼女がそれを盾に無理難題を押し付けて来るかも知れないのでそんな気を起こさせない様にする為だ。
「ところで明日菜さん」
「なによ?」
「コレで僕が雀士だって事黙っててくれませんか?」
そう言ってネギは財布から諭吉を取り出して明日菜へと差し出す、勿論ワイロではあるのだがこの男がタダでこんな真似はしない。
「へっ? なんで一万円?」
「一枚じゃダメですか? なら十枚でどうですか?」
ごそごそと袖口から更に諭吉を取り出すネギ、借金苦の真っ只中なのに何故こんなにもお金をもっているのやら?
「あ、あのね? 別に私はこんなしょうもない正体を誰にも言うつもりは……」
「なら百枚ですか? 明日菜さんも中々悪人ですね」
営業スマイル全開のネギはスーツの内ポケットから万札の束を取り出して明日菜の手へ渡す……だが、その際に明日菜はふとあることに気がついた。
「……ねぇ、ネギ」
「はい、なんですか? ああ、もっと欲しいと言う訳で––––」
「紙幣番号が全部一緒なんだけど」
「…………チッ」
「舌打ち!? てことはこれって偽札……」
「やだなぁ、偶々ですよ、偶々」
そう、気前良く金を渡していたがそれは単純にネギが自分の手で偽造した紙幣であった為だ、彼は口封じの為には自分の生徒を犯罪者へと仕立て上げる事も厭わない。
ネギの腹黒さ、というよりぶっちぎったヤバさを感じた明日菜は乾いた笑いを浮かべる事になったのだが、ボソッとネギが囁く様に言った脅しに明日菜は完全に屈してしまった。
「ところで、話は変わりますが僕の故郷には友達が居まして」
「う、うん?」
「昔は僕の居場所をちょっとアングラーな人達にチクっては小遣いを稼ぐクズ野郎でしてね?」
生徒に笑顔で偽札を手渡すアンタが言うな、と明日菜は内心でツッコミを入れたくなるも、彼女はまだ話の先が見えていないのでグッと我慢する。
「少し、『おはなし』したら分かってくれたんですよ、だから明日菜さんともおはなしする事で和解したいなと思いまして」
柔和な笑みを浮かべるネギの手には妙に使い込まれた赤茶色の汚れが付いたペンチが握られている、生爪剥ぐ気かと直感的に察した明日菜は誰にもネギの正体を話さないと誓うのだった。
故郷の友達……一体何ベール・何モールなんだろうか……。