如月千早はドッキリがお好き?   作:ゲソP

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前置きとして。

・アニマス(アニメのアイドルマスター)準拠に見えるかもしれないですが、そういうわけではないです。一応前情報なくても読める、はず。

・(重要)アニマスの千早関連のネタバレがあるため、ご注意ください。


第1話 音無小鳥 編
1.1 始まり


 湧き上がる観客たち。

 様々な色の光に染められた、煌くステージ。

 

 そこに一人の少女が立っている。肩まで伸びた、蒼に近い黒髪。切れ長の瞳は伏せられ、彼女の整った顔立ちをより際立たせている。蒼いドレスに包まれた、スレンダーで均整の取れた肢体は一見華奢に見えるが、袖から伸びるその腕にはしなやかな筋肉が見て取れた。

 観客たちの熱量に応えるように、少女は指で長い髪をさらりと後ろに流すと、スタンドマイクにゆっくりと手をかけた。

 

 そんな少女の挙動一つ一つに、観客たちは魅せられる。しかし熱狂する彼らの内、ごく一部の古参のファンたちはある違和感に気づいた。これまでの少女の在り方と異なる様を、感じとったからだ。

 

 観客たちを優しい眼差しで見つめると、少女はふわりと笑った。歓声がわっ、と沸いた。

 

 彼女はアイドルだ。彼女の歌が素晴らしいことを彼らは知っていた。彼らの知っているこれまでの彼女は静かに、時に激しく、物憂げに歌っていた。その不安定さが彼女の魅力であった。

 

「歌う前に」

 

 それがどうだろう。

 

「みんなに感謝を」

 

 彼女は、こんなにも自然に笑うことができただろうか。

 これまでとは違う美しさを持った少女に、会場に集うファンたちは改めて魅了された。

 新規だろうが古参だろうが関係なく、彼らはアイドル『如月千早』の新しい誕生を確かに感じていたのだ。

 

「聞いてください。約束——」

 

 歌を心から楽しむ彼女の新しい在り方に、彼らは改めて魅了されたのだった。

 

 

 

 

「ドッキリ……ですか?」

 

「ああ。やってみないか?」

 

 街灯の光が、暗闇の中で尾を引いて流れていく。プロデューサーの車で事務所に戻るときのことだった。

 

 その日、765プロダクション所属アイドル・如月千早はとにかく気分がよかった。

 目標の一つだった有名音楽番組での収録を、確かな手ごたえを持って終えることができたのだ。

 心地よい疲労とやり切ったぞという充実感を持って、疲れた体を後部座席に沈めていた千早に、プロデューサーは気軽な口調で切り出した。

 

「今度の生っすか!?スペシャルの特別企画で、いつもとは違う企画をいくつかやるんだけど、案のひとつにドッキリ企画があってさ。俺としては、ぜひ千早に仕掛け人をやってみてほしいんだ」

 

『生っすか!?』とは、765プロ所属のアイドルたちによる生放送のバラエティ番組である。

 千早は戸惑いを隠せなかった。

 ……生放送の大型バラエティ企画、果たして自分に務まるのだろうか。

 如月千早は堅い印象のアイドルである。これまでバラエティには消極的であったし、ドッキリの仕掛人なんてそれこそ似合わない役だ。千早はそう自覚していた。

 

「イメージがないからこそ、インパクトになる。この間、アイドルを楽しみたいって言ってくれただろ? だからこそ、こういうバラエティにチャレンジしてもらいたいんだ」

 

「……私にできるでしょうか?」

 

 以前の千早なら、あり得ないと考えただろう。千早は自嘲気味に笑みを浮かべた。

 

 歌に縋るように生きていたかつての千早は、歌と関わりのない仕事には頑なに拒絶を示してきた。ひたすらに歌の練習に打ち込み、765プロの仲間たちとも距離を置いていた。

 事故で亡くした弟・優のためだけに歌ってきたことが、如月千早の強さであり、弱さだった。

 

 崩壊のきっかけは、週刊誌に掲載された一つの記事だった。

 

『血塗られたアイドル、如月千早は弟を見殺し!』

 

『荒んだ家庭環境が生み出した孤独の歌姫は、何を思って歌い続けるのか?』

 

 アイドルにとって、何より感受性の強い10代の少女にとって、あまりに残酷なスキャンダルだ。

 無責任な悪意は千早から歌と居場所を奪った。精神的なショックから、歌おうとすると喉に妙な力みが入り、声を出せなくなってしまっていた。

 歌うことのできない自分に価値などない。

そう言ってアイドル引退宣言をすると、千早は家に閉じこもった。

 そんな千早を救ったのは765プロの仲間たちだった。

 決して諦めずに励まして、千早に勇気を与えた。仲間たちの強い想いと、前を向くための『約束』に、千早は答えることができたのだ。

 そんな経緯があったからこそ、千早はプロデューサーの意外なオファーに戸惑っているのだ。

 

「わたしには、歌しかありませんでした。目を背けてきたんです。だからこそ、今度はちゃんとアイドルとして、歌以外の仕事に向き合いたいと思いました。……でも、まだ少し自信がないんです」

 

「……そっか」

 

 やはりいきなりの大役は難しいかという思いはあったのだろう。プロデューサーはその一言でドッキリ企画の話題を終わらせ、直近の予定に話題を切り替えた。

 バックミラーに映る、少し寂し気なプロデューサーを見て千早はしばし逡巡し、そして切り出した。

 

 

「でも、プロデューサーが……」

 

「ん?」

 

「私たちをずっと見てきてくれたプロデューサーが、できると判断してくれるなら」

 

 これまで言葉で表したことのなかったプロデューサーへの感謝が、千早の気持ちを後押しした。

 

「プロデューサー。私は、できますか?」

 

「……できるよ。如月千早は頑張り屋で、何事にも真剣に取り組める最高のアイドルなんだ。俺が保証するよ」

 

「……ありがとうございます」

 

 柔らかな笑顔を手に入れた歌姫は、歌と居場所を取り戻した。そして無限の可能性を手に入れたのだ。

 

 

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