『あず散歩』という番組がある。
765プロ所属アイドル三浦あずさが各地を訪れ、思うままにぶらぶらするという紀行番組である。最大の特徴としては、この番組で紹介されるお店は基本アポなしで、あずさが気分で決めるというものである。
初めはお店にしっかりアポを取っていたのだが、極度の方向音痴である彼女が毎回セッティングしていたお店にたどり着くことができず、ついついはしゃいでアポをとっていない店に突撃するものだから、自然とそういう番組スタイルになっていたという経緯がある。
普通ならばちゃんとしてくれと怒られても仕方がないであろうが、彼女が気まぐれで訪れるお店はその多くが隠れ家的名店であるため、結果的に紀行番組としてかなり価値のある番組が出来上がった。今ではすっかり紀行番組といえば『あず散歩』であると言われる程に大人気番組である。
その番組をフィーチャーして作られたのが今回の企画、『ちー散歩』である。千早が散歩するからちー散歩。それ以上でもそれ以下でもない。ないったらない。
さて、本日千早がロケを行うのは都内某所の繁華街だ。駅前には大きな人だかりができている。人々が色めき立つその中心で、その少女は独りごちた。
「ねえみんな。美希ね、正直しんどいの。あふぅ」
可愛いーという歓声に気だるげに手を振ると、少女は現状の不満をぐちぐちと漏らしていく。
「美希的にはー、仕事なんてほったらかして帰っておにぎり食べてー、寝てー、おにぎり食べてー、寝て、仕事ほっぽり出してー、かわゆい真美に仕事を」
「譲らないの!!」
美希の抗議に、少女はしたり顔をした。
少女改め、双海真美は物まねの天才である。双子の妹である亜美も同様だ。765プロのアイドルたちは個性豊かな面々が揃っているのだが、双海姉妹はその特徴を捉えることに実に長けていた。それこそ、姿が見えなければ判別も難しいほどにだ。
要は、紀行番組の冒頭でよくある、芸能人が合流する際のちょっとした絡みが行われていただけである。
「ちょっと真美、美希の声で変なこというのやめるの!」
「真美じゃないの、美希ダヨー」
「美希じゃないの!」
「真美ダヨー」
「知ってるの! もうっ、何で真美がいるの?」
「美希、あんまり真美に迷惑かけちゃダメよ。こんにちわ、如月千早です」
「んふっ、千早さんはあんま似てないの」
「千早おねーちゃん難しいんだよねー」
本日のゲスト、双海真美と星井美希。
ちー散歩という嘘企画の最初で最後のゲストである。
「あれ、そういえば千早さんはまだ来てないの?」
ソワソワと千早を探す美希。彼女はそれはもう、この嘘企画を楽しみにしていた。
(千早さんとデートできるなんて夢みたいなの!)
美希の頭の中の律子は「遊びじゃないんだからね!」とぷりぷりしているが、たとえ本物の律子が来たってこのキラキラは止められないだろう。
尊敬する千早と買い物して、美味しいものを食べて一日を一緒に過ごすことができるのだ。仕事であることは百も承知であるが、これまで千早とプライベートで遊ぶ機会はなかったので少々浮かれてしまうのも無理はなかった。
「まだみたいだねー。そうだ、ミキミキも千早お姉ちゃんの物まねやってみてYO!」
「ええーーっ、そんなのできないの!」
「はぁーっ。ミキミキはダメダメだね! そんなんじゃ立派な芸人にはなれないっしょ!」
「芸人じゃなくてアイドルなの!」
真美は内心焦っていた。
(え、千早お姉ちゃん遅くない!?)
芸人ばりの漫才で何とか場をつないでいるものの、千早が来ないことは真美にとっても想定外であった。美希に下手な勘繰りをされないように、あえてタイミングをずらして合流する手はずになっていたのだが、いくらなんでも遅すぎる。
(現場入りして挨拶もしたし、打ち合わせも超ガッツリやったよね?)
実は真美と千早は、美希よりも早く現場入りしていた。心配性なプロデューサーの計らいで、事前に打ち合わせをしていたのだ。
他の仕事の都合でプロデューサーは現場にはいないが、プロデューサーと番組制作側の意思疎通は密に取られている様子だった。それ故に、真美はこの現場の心配は全くしていなかったのだが……。
(何かトラブルでもあったのかなぁ?)
美希と顔を見合わせる。異変を感じていたのは美希も同じだったようである。収録を一旦停止して、千早に何か起きたのかをスタッフに聞くべきと判断した二人は、意を決したように撮影スタッフたちに向かって歩き出そうとする。
その時だった。
「美希ちゃん、真美ちゃん。お待たせ~」
「「えっ」」
二人の声が重なった。
声のする方へ振り返ると、そこにはとびきりの美人がいた。
走って駆け寄る彼女の青みがかった長い黒髪が揺れる。
淡い紫のセーターに、青いフレアスカート。清楚で大人なコーディネートにその豊かな肢体を包んだその女性は、真美と美希の前に息を切らしなぎらも何とか辿り着くと、柔らかな笑顔を二人に向けた。
「遅くなって、ごめんなさいね。道に迷っちゃって~」
「えっ、いや、ううん。あの、いいんだけど……」
「そう~? よかったわ。真美ちゃん、美希ちゃん。今日はよろしくね。うふふっ」
「いやいやいや……え?」
三浦あずさ。今回のドッキリ企画のオマージュ元である『あず散歩』の案内人。世の男性が結婚したい女性芸能人ランキング第一位をここ数年独り占めしている超人気アイドルがそこにいた――
「あの、何やってるの? 千早お姉ちゃん」
――ように思えるほどの完成度の物まね。
「何って、真美ちゃん。これから三人でお出かけでしょう?」
まず、声が似ている。
どれほど努力したのだろう。普段の千早とは似ても似つかない。声も出で立ちもしぐさも、何もかもが三浦あずさその人に限りになく似ている。
バラエティに関しては百戦錬磨な真美も、これには流石に動揺が隠せない。美希に至ってはポカンと口を開けたまま固まっている。
「今日は三人でデートだって聞いたから、精一杯オシャレしてきたの。どう? 似合うかしら~?」
スカートをつまんでふわりと一回転する千早。優雅で上品。世の男性の視線を釘付けにしてしまうような淑やかな微笑みは、今の真美たちには異物にしか感じられなかったのだ。
「う、うん。楽しみにしてたよ。でも、その……」
真美は思わず視線をそらした。そうしなければ、否応なく視線はある一点に向かってしまうのである。これまで散々からかってきた思春期の男子の気持ちが痛いほど理解できた瞬間である。
……吸い寄せられるのだ。何よりも不自然な、その圧倒的な胸囲に。
目の前の人物は確かに如月千早であるはずなのに、激しく主張する胸元の膨らみが、その認知を阻害するのだ。
周囲の撮影スタッフに、真美は視線をこっそり送る。カンペに書いてある『止められませんでした』の一言を見て、真美は全てを察した。
何故こんなにも千早の入りが遅れたのか、その全てを。
察したが故に、聞かずにはいられなかった真美を誰が責められるというのだろう。
「何であずさお姉ちゃんのかっこしてんの……?」
……ここにプロデューサーの最大の誤算があった。
如月千早は頑張り屋で、何事にも真剣に取り組める最高のアイドルである。
そして何より、彼女は仕事に対して一切の妥協を許さない完璧主義者である。
「うふふっ、似合ってるかしら~?」
何故か間違った方向に頑張り過ぎちゃった如月千早の、盛大なドッキリ劇の幕が切って落とされたのである。
*
美希がアイドルとしてまだまだ駆け出しだった時の事だ。
「千早さんはちょっとぐらい練習休んでもバチは当たらないと思うな」
その言葉は美希なりの気遣いだった。
たまたま仕事が早く終わったので、趣味のバードウォッチング(ミキ的には、河原でカモを眺めてだらだらすることを言う)をしようと近所の河川敷に寄った時だ。そこで歌の練習をしている千早に会ったのだ。
千早は美希の声に振り向くと、少し迷惑そうに顔をしかめた。
「たしかにバチは当たらないけれど……練習を休んだ分だけ、歌手になる日が遠のくと考えたら、やっぱり休んでいる時間なんてないと思うわ」
アイドルではなく、歌手。当時の千早は自身の夢を語るとき、必ずそんな言い回しをした。それが美希には気になっていたが、深くつっこむことはしなかった。ただ、千早のストイックさが不思議でならなかった。
「でも、美希的には、やりたいことっていーっぱいあるから。勿論、アイドルになってキラキラすることが今の美希には一番大事だよ? でもずーっと練習だけだと疲れちゃうし。美希はそういう時はお買い物したり、美味しいおにぎり食べたり、友達と出かけたりしたりするの。こうやって、川を泳いでるカモ先生を千早さんと一緒に眺めたりね。そういう時間も必要だなって思うの。千早さんも、そういう時ってあるでしょ?」
「私も、適度な休息は必要だと思う。けど、早く歌手になりたいから。今は練習を優先したいの」
手に持ったミネラルウォーターをひと口飲むと、千早はまた歌をうたい出した。さらなる高みを目指す千早の姿が、美希には眩しく見えた。それと同時に、千早の強さに形容しがたい不安を覚えた。それが何故なのかは当時の美希にはわからなかったが、ただ千早が疲れた時は美希が助けてあげたいと、そう思った。
「千早さん」
歌が一曲終わると、美希は真っすぐに千早を見つめた。
「……どうしたの?」
「もし千早さんが疲れた時は、美希いくらでも千早さんに付き合うからね。一緒にね、カモ先生を眺めるの」
「……ええ。ありがとう。美希」
この時、美希の気遣いは千早に届くことはなかった。
歌手になりたいという思い。透明なガラスのように純粋で、とても厚く張られたように見えたその思いはしかし、のちに起こる弟殺しのスキャンダルによって粉々に砕け散ることになる。
そんなたくさんの苦難を乗り越えて、誰もが認める国民的アイドルに、歌手になったその先の、千早が思い焦がれた景色。
それは今の美希の眼前に広がる異様な光景ではなかったはずだ。
それ故に、美希には『ちー散歩』の収録に臨む現在の千早の心境がまるで理解できなかった。
「千早お姉ちゃん、このアイスめっちゃおいしーよ!」
「本当。甘いものって普段はあまり食べないのだけど、このチョコはとっても美味しいわ。甘いだけじゃなくて、カカオの上品な苦みもしっかりとあって。……ほのかにナッツの香りもするのね。ふふっ、癖になりそう」
「千早お姉ちゃん、物まねだけじゃなくて、グルメレポも百点満点だYO!!」
「ありがとう。真美、こっち向いて。アイスがほっぺについてるわ」
「ふわっ……、んふふ」
意外なことに、撮影は順調だった。
あずさの格好と口調をまねて飛び出してきた千早だったが、周囲の固まった空気を「冗談よ」の一言と、イタズラな微笑みで一蹴すると、何事もなかったかのように番組の進行に徹した。今はこの近辺で有名な、個人経営のアイスクリーム屋で何とか気を取り直した(うまく見て見ぬふりをしたともいう)真美と一緒に、絶品アイスに舌鼓を打っている。
……現実を受け止めきれずに、うまく番組に入り込めていない美希を置き去りにしたまま。
ピスタチオフレーバーのアイスを持ったまま口をつけず、美希の視線は訝し気に千早をとらえていた。
千早のあずさスタイルは正直言うと、とても似合っていた。普段の千早は青を基調としたパンツスタイルが多く、スカートをあまりはかない。一方、あずさの好むコンサバ系のファッションは千早のクールな美貌をより女性らしく際立たせた。普段とのギャップもあり、自身の素材の良さを完璧に活かした、すれ違う誰もが振り返る圧倒的な美少女がそこにいた。
身長もヒールが高めのパンプスで水増ししており、物まねのクオリティも高かったものだから、一瞬本当にあずさが来たのかと誰もが勘違いしたほどだ。
そして何より、千早の胸元でたゆんと揺れる、見慣れぬ二つの山。これが未だに美希には整理をつけることができずにいた。
なにがどうしてそうなった。
美希の思考は止まることなく、出口の見えない輪の中をひたすらに回り続ける。
(千早さんのおっぱいでかくなりすぎなの……)
千早はスレンダーな体型の持ち主だ。言い換えれば、胸のサイズが控えめであるということである。かつて慰安旅行で765プロのみんなと海に行った際に、スタイル抜群なアイドルたちの水着姿の影に隠れて悔し気に「くっ……」と俯いた千早の憂いを美希は知っている。
それ故に理解できない。普段の千早とはあまりに結びつかない胸のサイズ。美希は何とか千早の胸元にある圧倒的質量を伴うそれが何なのか探ろうとしていた。
ケース1、少し見ない間に驚天動地のジョグレス進化を遂げた。
(……正直それはあり得ないって思うな)
数日の間に千早の胸のサイズがあずさサイズになるなど、もはや病気だ。なんとも失礼な思考であるが、明らかに不自然なのは間違いないので正論と言えた。
ケース2、千早さんのおっぱいをミツバチが集中砲、(いくらなんでも失礼極まりないの)
即座にこれも棄却。
ケース3、パッド。
(これなの。正直それ以外に浮かばないの)
問題は何故、そこまでやってしまったのか。
ちょっとした物まねを千早が言うように冗談でやる程度ならまだいい。あずさの格好を真似してイメージチェンジするのもいい。美希的には千早のファッションへの執着のなさが気になっていたぐらいであり、むしろ千早のコーディネートを自分がプロデュースしたいと思っていたくらいである。そういったオシャレに対する意識改革は歓迎こそすれ、拒む理由など欠片もなかった。
ただ今の服装がオシャレによるものではなく、あずさの物まねのためのものだとしたら話は変わってくる。そして何より胸にパッドを特盛で仕込む徹底ぶり。
いくら何でも、体を張りすぎである。
普段の千早のキャラクターとはあまりに噛み合わない変化なのだ。
……結論として。
「訳がわからないの」
どれだけ考えても理解には結びつかないということが、美希には理解できた。
「……美希、どうかした?」
「えっ」
思考の渦に飲み込まれていた美希に対して、千早は心配そうに眉を下げ、美希の顔を覗き込んだ。
その様子は紛れもなく、普段美希が敬愛してやまない如月千早なのに。少し視線を下げればこれでもかと主張してくる不自然な塊がその従来の認知を許してくれない。
「えーと、あのね。美希、美味しさのあまり、しごこーちょくしちゃってたの!」
「ミキミキ、死後硬直って、それ死んじゃってるって!? ミキミキ湯けむり殺人事件起きちゃってるから!」
明らかに精彩を欠く美希の様子に、千早はしばし逡巡する。そして、美希の持つアイスに突然かじりついた。
「あっ、千早さん!?」
「うん、こっちも美味しい。ピスタチオって初めて食べたけど、とっても濃厚ね。アーモンドとはまた違った風味。新しいわ」
バラエティ経験が自身より少ないはずの千早に、フォローさせてしまった。その事実が受け入れられない現状に揺れる美希の心に突き刺さる。
こんな無様をさらしていては、誰も自分を使ってなどくれない。今すべきことは何なのか本当はわかっている。仕事を全うし、今回の紀行番組を成功させなければならない。
それでも、美希の視線は千早の胸を追ってしまう。
「むむむむ……千早お姉ちゃん、真美のも食べて!」
「ふふ……さっきはお行儀が悪かったから、普通にスプーンで頂くわ」
「ええー、いいのになー……」
心なし、否。本気で残念そうな真美。
美希が精彩を欠く一方で、真美は得体のしれない胸のときめきを感じていた。
始めはとてつもなく動揺したが、何とか番組の進行はできた。しかし、あずさお姉ちゃんという圧倒的お姉ちゃん力を兼ね備えた千早お姉ちゃんの爆誕は、確実に真美の気分をおかしくさせていったのである。
不自然な胸囲は母性を感じさせるどころか、逆に千早のいっぱいいっぱいの努力が感じられて何だか可愛らしく感じられる。お姉ちゃんポイント的にはマイナスであるが、守ってあげたい残念なお姉ちゃん感が爆上がりで庇護欲ポイントがストップ高で収支は取れている。つまり真美は混乱しているのである。
(……千早お姉ちゃんにあーんしてもらいたい)
番組そっちのけでこんなことを考えてしまう程度には、混乱しているのである。
「千早お姉ちゃん。そしたら真美、千早お姉ちゃんのアイスが欲しいなぁ~」
「じゃあ美希のアイスあげるの。千早さんのアイスは美希がもらうの」
「え~真美的にはぁ、千早お姉ちゃんのアイスが食べたいってカンジなの~」
「まっ、またマネしたの!」
千早を慕う者同士の視線が交錯する。
(真美、さっきから千早さんにベタベタ甘えて! これ以上千早さんに変なことさせないで!)
(はっ! ミキミキも千早お姉ちゃんの妹ポジを狙っている……!? わがままボデーに飽き足らず、真美の千早お姉ちゃんまで付け狙うなんて、全力阻止待ったなし!!)
「じゃあミキミキのアイスいただきー」
「ああっ」
豪快にすくわれた美希のアイスが、大きく開いた真美の口に閉じ込められる。
「ちょっ、取りすぎなの! 美希のアイス半分になっちゃったの!」
「んっふっふー! 真美のお腹はブラックホールだかんねー!」
「じゃあ美希もひと口もらうの!」
しかし、美希のスプーンは空を切る。真美がアイスを持つ手を上にあげて美希の魔の手を巧みにかわしたのだ。
「ず、ずるいの!」
「えー? 真美、ミキミキにアイスあげるなんて一言も言ってないっしょ」
真美のアイスへ再び手を伸ばす美希。軽やかなステップでそれをかわす真美。感情がエスカレートすると、動きも激しくなる。そうなると持っている芸能人は、アクシデントをよく引き起こす。
「あっ……」
真美の脳裏に天海春香の、のほほんとした笑顔が浮かんだ。
世界がスローに流れる。足がもつれる真美。倒れるまではいかないものの、その手にあったアイスは天井へ打ち上げられて……。
べちゃり。
溶けかかったアイスが、叩きつけられる音がした。
それがパステルカラーのひし形タイルで形成された、店内の床ならどれだけよかっただろう。
それが店内を彩るアイスの数々をガラス越しで輝かせるショーウィンドウであったならどれだけよかっただろう。
あるいは美希の服に、あるいは真美の頭に直撃するような事態の方がこの場においては好ましいと思えるくらいだ。
「……」
店内の誰もが青ざめた顔でその一点に視線を合わせる。宙を舞ったアイスの着地した、千早の胸元に。
「千早さん、美希、その……」
「あの、あのあの、千早お姉ちゃん、これはその、一言二言じゃ語り切れないほどの悲しい事故というかその……うう」
なんとか言葉を絞り出そうとするも、美希の口は震えてしまい、言葉は形にならない。
真美に至っては、もはや泣きそうである。
千早の言葉を待つその数秒程度の間が二人には永遠のように感じられた。死刑台の淵に立ったかのような絶望を顔に浮かべて断罪を待つ、そんな様子のアイドル二人に対して千早は……。
「あらあら~。二人とも仲良くしなきゃ、めっ」
その言葉に、そして胸元を強調するように組まれた腕に、曲げられた腰によってはっきりと生まれた体の蠱惑的なラインに。
その意図のいまいち読み取れない無駄なセクシーポーズに、美希と真美は盛大にむせこんだ。