…私は、いつも悩んでばかりだ。
大好きで頼りになったお父さんは数年前交通事故に遭って死んじゃった。優しかったお母さんは、私を置いてどこか行っちゃった。私は一人になった。いつも何をするにも両親に頼っていた私は何をどうすればいいのかわからず頭を抱えた。
少ししてお父さんの親戚が私の援助をしてくれて、私もバイトをしてお金を稼ぐことから始めた。けど、家に入れてもらえることはなかったし、援助っていっても本当にギリギリ生きられるかどうかの金額だ。
毎日失敗ばかりだった。毎日先輩に、バイト先の店長に怒られながら頭を下げてばかり。親戚の援助で借りた宿でいつも泣いていた。泣いて泣いて、朝になったら気を引き締めてまた学校とバイトだ。
毎日しんどいことばかりだった。周りは親に捨てられた可哀想なやつだとかで意味のない同情の視線を向けられるばかり。正直、誰とも関わりたくなかった。
寒い冬になった。私はこの時期が一番嫌いだ。寒いし、暖房も節約で使えないし、何よりお父さんが死んだのは冬の時期だからだ。だから、孤独感を一番感じるときだった。
私はその度に自分に問いかけている。私は何をしたらいい。大学に一般入試でギリギリ合格したけど、結局何がしたいんだろうって。
けど、結局出てきた答えは何もしたくない、だった。
これからもずっと私は孤独のままなんだろう。いつか自分の国を出て旅をしたい、なんて小さい頃思っていたけど、今はそんなのどうでもよくなった。
寂しい、寂しい。何もしたくなくて、けど何かしなきゃって…もう考えるのも嫌になってきた。
とにかく生きなきゃ。そうじゃなきゃ死んだお父さんに顔向けできないから。そう、前向きに無理やりでもならなきゃって、必死に生きていたのに…なんで、なんで……私、今死にかけているんだろう…
「はっ…はっ…」
体が動かない。動かしたくても痛みが邪魔をする。
「う…あぁ…」
意識が遠のいていく。全身に力が入らず、眼をゆっくり動かすのがせいぜいだ。
「―――で、――を――とする」
側で誰かが何か話している。会話はほとんど聞こえないが、今自分は殺されるんだということだけはわかる。
(………私死んじゃうのかあ)
お腹に置いてある手から生温かい液体が流れているのを感じる。この量ではとてもじゃないが、生きていられる可能性は低いだろう。それだけ湧き水のように流れ出ているのだ。
雪が降っているのが家の窓から薄っすらと見える。そういえば今は冬だった。大嫌いな、季節。父親が死んだ季節。あの時も父親は雪がゆっくりと降っているときに生き絶えていったのを今でも覚えている。
(…死んじゃったら会えるかな)
そろそろ呼吸も困難になってきた。そばにいる人は槍を向ける。このままでも死ぬが、せめてとどめはさしていこうとしているようだ。
それならそれでいいかと思う。だいぶ痺れてきたが、それでもまだ痛みがじんわりと続いているのだ。いっそのこと楽にしてほしいというものだ。
(いよいよかぁ。…何もない、人生だったな。好きな人は見つからなかったし、大学は結局つまらなかったし。何にもやる気が出なくて、それでもどうにか生きようって必死だったけど、もうそれもどうでもよくなっちゃったし…)
天井を見上げる。父親は最期こうして死に行く時どんな想いだったのだろうかと今更ながら考え始めた。
(お、父さん…も、死んじゃう時はこんなだったのかな。…あっちでお父さんに会えたらなんて言われるかなあ)
最期に覚悟だけして眼を閉じる。
(怒られるかなあ。こんなに早く死にやがってって。お父さんなら言いそうだなぁ…俺よりも長生きして欲しかったって)
首を横に動かす。すると、微かに金属の音が鳴った。それは本当に擦れて消えてしまいそうなほど微弱な音。
(…そういえば、お父さんから貰った耳飾り…)
父親は旅行が大好きな人だった。母親と結婚する前はいろんな国に行ってその国限定の品をいくつも買っていたそうだ。今耳につけている金色のピアスもどこかの国から貰ってきた物だと父は言っていた。小さい頃これをもらった時は大喜びした。ピアスの穴を開けるのは怖かったが、それでもどうしてもつけてくて勇気を出して開けた。それ以来ずっと付け続けている。
なんで今そんなこと思い出したんだろうと思ったのと同時に、その時のことが鮮明に思い出してくる。
(…そうだ。これは、お父さんが私に御守りだって渡してもらったものだ)
このピアスは父親がいついかなる時も、元気で健やかに生きていられるようにと願ってあげたのだと言っていた。
(…生きなきゃ)
思い出した途端。生きなければと思った。ずっと優しい父親は娘に生きて欲しいと願っていた。だから、生きなければ、生きて生きていつか父親に自慢できるくらい生きなければ。そうでなければこうして今まで生きてきた意味が無くなる。そんなの嫌だった。口を食いしばって必死に流れ出るものを手で抑え込もうとする。
「―! ――か…」
それを見た槍を持った人は動きを止める。なぜかはわからない。だが、今はどうでもいい。とにかく必死に生にしがみ付かなければ。
(私は生きなきゃ、生きて大成して、結婚もして、いなくなったお母さんも見つけて、お父さんを安心させないと死に切れない…!)
僅かに体が動き出す。本来なら動くことなどできないほど血が流れているのにも関わらず動き出す。
(生きなきゃ…! 生きなきゃ…! 生きていたい…!)
ほとんど動かない口で微かにその願いを言う。
「生きて…いた、い…」
―――それが、お前の望みか
「…え?」
その時、急に暖かくなった。この季節暖かくなることなどなかったはずの家に、血がほとんど失い冷たくなっていく体なのに、太陽に照らされているかのように暖かくなり始めた。目をゆっくりと開く。
「――――サーヴァント、アーチャー。オ前ノ望ミヲ聴キ、参上シタ」
そこにいたのは、形容するのが難しい、悍ましい怪物。それはまるで、
「…な、に…」
化け物のような黒い鎧を身につけた、悪魔のようだった――
それでは、ここまでです。