Fate/GrandOrder 鋼鉄の心臓 作:SS装甲軍司令部
何で続いたし(困惑)
邪ンヌ復刻&新宿霊衣ktkr
さあ、贅沢言わないから次は黒王の霊衣とスキル強化と宝具強化はよ(貪欲)
本作における設定はほぼほぼフィクションです
実在の人理保証機関カルデアとは全く関係ございませんのでご了承ください
もっきゅもっきゅもっきゅもっきゅもっきゅ
大皿に積まれたサンドイッチや色とりどりのサラダが一定のペースで目の前の少女の胃袋に消えていく。自分も大皿に手を伸ばしてやや小ぶりなツナサンドを手に取り一口、うまい。自分が作る時にはツナ缶とマヨネーズだけでテキトーに作り出す手軽な料理だが、これは自分の知ってるツナサンドじゃない。何処かのダンボール好きな蛇風に言うのなら「美味い、美味すぎる!」と言うべきところだろう。流石は家事能力ぶっパ系主人公の末路、いい仕事をする。衛宮士郎(成れの果ての姿)の手料理をセイバー(反転済み)と食べるのは、ある意味型月ファンの願望の一つをかなえているのではないだろうか?
いや、問題はそこではない。問題は目の前でもっきゅしている黒い騎士王様だ。ぶっちゃけ、彼女は本当にセイバーオルタなのだろうか?
もっきゅもっきゅもっきゅ
ううむ、次はトマトサンドだ。ほぉ、これはこれは…トマトと一緒にモッツァレラチーズが挟まれている、カプレーゼと言う奴か。流石はエミヤ、一つ一つが小さく食べやすいからいろんな味が楽しめる。一緒に出て来た紅茶も美味い。良し、次は…
いかん、また考えが逸れた。それもこれもサンドイッチがうますぎるのが悪い。むむ、これはコンビーフか?
「おい、マスター」
「ひゃいっ?!」
気が付けば黒い騎士王はサンドイッチを口に運ぶのをやめ、紅茶のカップを両手で持ち上げつつこちらを見ている。黒いバイザーを撮らないため視線が何処を向いているのか今一判断しにくいが、今は自分を見ていることぐらいわかる。
「先ほどから何をチラチラ見ている。話したいことがあればはっきり言え」
紅茶を一口。仰々しい甲冑姿――ただし、流石に手甲は外している――の筈なのに、その仕草からは気品が感じ取れた。ともかく、適当な話題を振らないと聖剣とか飛んできそうだった。
「あー、っと。なんでカルデアでも鎧つけっぱなしなの?」
「カルデアの召喚システムの問題だ。手甲や剣は何とかなるが、それ以外の武装は霊基が上がらないと自由に出来ん。食事の時までバイザーを付けるなど、不便極まる」
不愉快そうに吐き捨て、再びサンドイッチをかじる。二人の間に流れる沈黙、立花には”前置きはいいから早く本題を話せ”とオルタが無言の圧力をかけているようにしか思えなかった。
ううん、やっぱり言ってみるしかないか。後は野となれ山となれ、
「美味しい?」
「食事か?ああ、大変に美味だ。奴がブリテンにいたならば、騎士共の士気も上がっただろうな。それがどうかしたか?」
「あんまりおいしそうに食べるものだから、つい、ね」
ほんの少し口角を上げながらツナサンドを齧るオルタは、嘘を言っているようには見えない。愛想笑いの裏で、ある意味この世界を俯瞰でとらえることが出来る彼女の頭には疑念が沸き上がっていた。
セイバーオルタは騎士王アルトリア・ペンドラゴンの別側面。理想の王政を良しとしたセイバーの方針が聖杯の泥によって反転し、圧制を良しとした暴君としてのセイバー。いわゆる闇落ちセイバーで食事の嗜好も変化して、手の込んだ料理を雑味が多いと吐き捨て、ジャンクフードをもきゅもきゅ食べ漁る。うーん、確かにサンドイッチは手の込んだ料理というよりジャンクフードよりだけど、少なくともこれはランランルーな教祖様のジャンクフードとは似ても似つかない。ってか、高級レストランで出てきても十分通用するレベル。あれ?ジャンクフード好きってホロウだけの設定だっけ?カニファンは…あれはほとんどセイバーさんだから除外、かな?タイころとかヘブンズフィールはどうだったっけ?…ううう、こんがらがってきた。
「ほら、追加だ」
「ご苦労、弓兵」
サンドイッチが大皿から姿を消したちょうど良いタイミングでエミヤが追加のサンドイッチを持ってきた。今度は軽く焼いてあるらしく芳ばしい匂いが鼻腔をくすぐる。今すぐ手を伸ばしたい欲求を必死にこらえ、厨房へと踵を返したアーチャーの袖をつかんだ。
「何かね?マスター」
「ちょっと、いい?」
軽く目配せをし、二人で食堂横の廊下へ出る。
「どうしたんだ?アレルギーの自己申告か?」
「そうじゃなくて。あのアルトリア、どう思う?」
「どう、とは?」
「アーチャーはさ、あの状態のセイバーにあったことある?」
英霊の座に時間という概念は存在せず、聖杯戦争で撃破されたサーヴァントはその戦争で得た経験や知識の一部を座の本体へと還元する。また、英霊の座は複数の世界線からも切り離されたどこかに存在する関係上、様々なifが流れ込む場所でもある。であるならば、SNの3ルート分やホロウ、もしかしたらタイころ時空の情報を持っていたとしても可笑しくはない。ゲームや書籍として書かれたという事は、この世界において並行世界と言う注釈はあるにしても実際に発生した事象であり何らかの手掛かりは有るはず。このメッタメタかつ穴だらけの推理が間違ってても私が残念な娘扱いになるだけだから大丈夫………なはず。
「彼女の別側面か…いや、恐らく知ってはいるのだろうがそれだけだ。どうにもおぼろげで確信は出来ない」
「あー…」
「だが、何故か妙な違和感がある。致命的、と言うほどではないが…そうだな、奥歯に挟まった肉の繊維みたいな居心地の悪さと言ったところか」
そう言って彼は顎をさする。
「そっか。ありがと、アーチャー。サンドイッチ美味しかった」
「それは何より。しかし、どうして急にそんな事を?」
「うーん、秘密ってことで。強いて言うなら女の勘?」
やれやれと首を振ったアーチャー、その仕草が妙に似合ってしまうので吹き出しそうになった。そういえばまだ使った食器を片付けていない事に思い至る。アーチャーにこんなことで呼び出してすまないとわびた後、食堂へ戻ろうと振り向き、ふと食堂の風景が変わっていることに気づいた。
「あれ?セイバーは?」
自分の向かいに座っていたはずの黒い騎士王は忽然とその姿を消していた。自分の座っていた席の隣に座り、コンソメスープに舌鼓を打っていた女性スタッフ――たしか、シルビアと言ったはずだ――に尋ねると意外な答えが返ってくる。
「セイバーなら資料室へ行ったわよ?」
「資料室?なんでまた」
「さあ?現代に自分がどんな形で伝わってるのか気になったんじゃない?」
はて、セイバーってそういう事気にするタイプだったっけ?
「んん、やっぱ覚えのある味だな」
ランサーの口から噴き出された紫煙はゆっくりと天井へ上って行こうとするが、テーブル上の分煙機によって強制的に吸い込まれ散り散りになっていく。
「アルスターサイクルの時代にマルボロなんてあるわけないよなぁ」
そう言って不思議そうに同僚の煙草の箱を弄ぶのは金髪で丸顔の男、ムニエルと名乗ったコフィン担当の職員。箱を隣の同僚の前に戻し、逆の手に持っていた棒状の吸引機――電子タバコから水蒸気を吸い込む。
「どっかの時代に召喚された時に、マスターからもらったんじゃないのか?サーヴァントは確か今までの聖杯戦争の記憶を少しは引き継ぐんだろう?」
半分ほどまで吸った煙草の灰を灰皿へ叩き落しつつ、もう一人のカルデア職員――ダストンが4人目の男の方を見る。
「さて、それはどうだろう?少なくとも私は他の聖杯戦争に呼ばれた記憶はないが」
喫煙室で紫煙を燻らせる4人目の男、フリッツは肩を竦め2本目の紙煙草に手を伸ばす。
「まさか、召喚された4人のうち半分が喫煙者だったとは思わなかったけど。俺達にとっちゃ都合がいいかもなぁ」
「なんでだ?」
片方の眉を上げたクーフーリンの問いに答えたのはダストンの方だった。
「もともとカルデアには喫煙者はそんなに多くなかった。それが前回のテロで軒並み壊滅しちまってな、残っているのは俺とムニエルだけだ」
「酸素の心配はないとは言え、片身は狭いのは事実なのさ。まあ、俺はともかく、ダストンはこれからもドクターから禁煙は進められるだろうけど」
「俺は辞めないぞ、せっかく煙草仲間がまた出来たんだから。喫煙室でくだをまくのもいい息抜きになる」
「そんなもんかねぇ」
納得がいったような、言っていないような顔で頷く槍兵。といっても、特に反論をしない所を見るにこうやって男4人で益体もない話をするのはまんざらでもなさそうだった。2本目の煙草に火をつけたフリッツが軽く紫煙を吹き出しつつ、ダストンへ問いを投げかける。
「そういえばダストン、此処の電力ってどうなってるんだ?」
「カルデアの電力か?居住区画よりも下のプラントで発電している」
「外部からの補給も無しで1年持つのか?それ」
「そういえば、まだ説明していなかったか。俺たちはプロメテウスの火と言ってるが、原理としてはカルデアスと似通ったところがある」
「プロメテウスといやぁ、ギリシャ神話の神だったか。それがカルデアスとどんな関係があるってんだ?」
「そのとおりだ、ランサー。そして、プロメテウスは人類に火を渡したが人類はそれを戦争に使った、それが転じて現代では別のものと結び付けられることがあるが、それは解るか?」
「現代では別のってんなら、新しく出来た技術か…おいフリッツ、解るか?」
少し考えたところで、自分が現代技術の知識をまともに持っていない事を理解したランサーは、少なくとも自分よりは現代に近いであろうアヴェンジャーへと話を振った。
「過去には無かったもの、か。となると、火力は勿論、水力、風力も無し、太陽光は戦争にはまだまだ微妙ってなると。後は…ああ、なるほどそれでカルデアス。
「おい、勝手に納得するんじゃねぇよ」
「クー・フーリン。君が死んだ後、人類はざっと千数百年かけて星の光を手に入れた。世間一般に言う原子力だ。質量をエネルギーに変換する技術とも言えるだろう。まあ、今一般に普及しているのは核分裂炉で実際に星で起こっている現象とは真逆の反応だが、プロメテウスの火は違う。そうだろう?ダストン」
おみごと、とカルデアの技師は両手を見せた。
「フリッツ、君は本当に英霊なのか?俺にはいっぱしのカルデアの技官に見えるんだが。まあいい、お前さんの言う様にプロメテウスの火は核融合炉だ。といっても只の核融合炉なんてもんじゃない」
「その本質は、カルデアスと同じ擬似天体だな」
「どういうことだ?」
「太陽だよ。カルデアの電力を賄っているのは、天然の超巨大核融合炉、太陽のコピーだ。恐らくは、カルデアスと同じ要領で太陽を擬似天体として空間に固定し、その周囲に擬似天体からの熱量を受け止め電力に変換する機材が配置されているんだろう。さながら、極小のダイソン球と言ったところか」
「なんじゃそりゃ」
唖然とするランサーとは対照的に、フリッツの顔にはこれ以上ないほどの笑みが浮かんでいた。ダストンにはそれが自分と同じ科学を信奉する者と同じ未知の技術に対する興奮だろうと受け取ったが、ムニエルは別の受け取り方をしていた。彼は、復讐者のサーヴァントが浮かべる笑みの中に少しばかりの嘲笑が混ざっている事を運よく察知できていた。そして、その嘲笑が自分達を含めた人類すべてに向けられている事も。
「それなら電力は問題なさそうだが、酸素と水と食料はどうするんだ?食堂じゃアーチャーが何やら振舞っているそうだが足りるのか?」
「酸素や水は問題ない、錬金術の応用で何とでもなるらしい。食料は他の時代にレイシフトして調達する、そうだよな?ムニエル」
「あ、ああ。安定して観測できる時代なら、現地にマスターを派遣して転移式を用いればそれなりの大規模輸送は可能だ。最も、過去に行くほど転移式での輸送は不安定になるから、大昔の動物の肉が食べたいとかなっても無理だけど」
「神代の化け物喰いたいとか言い出す奴なんて誰も居ねぇよ」
ランサーのツッコミにそりゃそうだと全員が笑う。
「そうだ、コフィンといやぁこれからは如何すんだ?俺のマスターと楯の嬢ちゃん、フリッツのとこの坊主が行くことは確定としてだ」
「ああ、それねぇ」
ムニエルは痛い所を突かれたという風に頭を掻いた。
「うーん、やっぱりこの編成になるかぁ」
「まあ、そうなるよねぇ」
カルデアの管制室、彼方此方にまだテロの爪痕が残る部屋の指揮卓で、優男と絶世の美女?が首をひねる。現在、カルデアがレイシフトに使用できるコフィンは5基存在する。2つは立花と藤丸が使うはずだったコフィンで後の3つは予備のコフィンだった。
「ああ、こんな事ならもっと予備のコフィンを用意しときゃよかった」
「レイシフト適性をもつ人間が限られてるのに、こんなの量産してどうするのさ。というか、これでも余分に集めすぎた方だと思うぜ?それが役に立ってるんだから、所長や君の慎重さも必要十分ではあったという事だ」
ダヴィンチのフォローにもロマンの心は晴れなかった。
爆破テロによりマスター候補45人全員が危篤となりコフィンによる冬眠処置が施されたが、爆破の際に登場していたコフィンはその全てが使用不能になっていたため、それぞれ1基ずつ用意しておいた予備に全員が移し替えられたのだった。生き残った二人のマスターのコフィンは予備機と同じ格納庫に保管されていたため無事であり、マシュの乗っていたコフィンは破壊されたが、デミ・サーヴァントとして覚醒したことで予備のコフィンで冬眠処置を施す必要がなく、結果的に5基のコフィンがカルデアの手元に残った。
「ケドなぁ、カルデアからサーヴァントの分霊を令呪に通じたパスを経由して飛ばして、戦闘体勢に入るまでにはタイムラグがある。僕としては万一の事を考えて出来るだけ多くのサーヴァントと一緒に居てもらいたいんだけど」
この方法はマスターの魔力回路の状況にもよるが、最大で5騎から6騎程度のサーヴァントを一時的に使役できる技術だった。しかし、長くサーヴァントを展開するとマスターに大きな負担がかかるため戦闘の直前に呼び出し、戦闘後は速やかに撤収する手はずとなっていた。
「それはもっともな意見だね。しかし、考えても見たまえ。確かにコフィンを使って送り込んだサーヴァントはマスターの近衛として十分に機能するだろう。けれど、その場合現地でサーヴァントが霊核を砕かれるなりなんなりして死んだ場合、そのサーヴァントはカルデアから完全に消えることになる。パスを使って一時召還した分霊が退去するのとはレベルが違う。フリッツはよくわからないが、他の3人は皆超一流のサーヴァントだ。これほどのサーヴァントをもう一度召喚できるとは限らないぞ?」
「ううん……こういう時は」
先ほどまで腕を組んで唸っていたロマンはカっと目を見開くと、ものすごい勢いで指揮卓のキーボードをタイプし始める。
「何をしてるんだい?」
「マギ☆マリに相談するんだよ!さあ、答えておくれ僕のネットアイドル!」
「……………ダメだこりゃ」
カツカツと清潔なカルデアの廊下を進む。ニコチンを思う存分摂取したせいかフリッツの機嫌はすこぶるよかった。もっとも、それ以外にも彼の機嫌をよくする原因は有ったが。
なるほど、まさかこの世界の人類は恒星すら手中に収めていたか。
思い出すのはこのカルデアを支え、今自分を現界させている魔力の根源。プロメテウスの火。
ああ、面白いな。本当この世界は面白い。英霊になったとたん大昔の格好をさせられたことは甚だ遺憾だが、それも時間の問題だ。何時か、再び私の趣味を楽しめるだろう。感謝しよう、マスターに、カルデアに、そして何より…
ふざけるなっ!
微かに耳に届いた怒声に足と思考を中断する。周囲を見渡すとすぐ近くに資料室と書かれたドアが目に入った。先ほどの怒声はその扉から聞こえてきたような気がする。そういえば、この世界の歴史はどうなっているのだろうか?マスターたちが自分の名前を知らないという事は、少なくとも自分の存在しない歴史になっているに違いない。
何方にせよ、次の作戦が始まるまでは待機なのだから、それまで歴史書に目を通すのも良い選択のように思えた。
数歩歩いて資料室のドアを開閉するボタンに手を触れようとした時、軽く空気の抜ける音と共に鉄製のドアがスライドする。開け放たれたドアの向こう、資料室側に居たのは黒い甲冑の騎士王だった。
「君も読書か?」
こちらの問いには答えず、無言のままするりと資料室から廊下へとすり抜ける。その背中には、幾分かの憤りとそれ以上のやるせなさがにじみ出ているように見えて、思わず声をかけてしまう。
「どうしたんだ?パンドラの箱でも開けたような顔を」
して、とは続けられなかった。気づけば、自分の喉元に真っ黒な聖剣が付きつけられている。バイザーで目元は見えないが、身体からにじみ出る魔力の性質は、怒り狂う邪竜のそれだった。
「黙れ。それ以上言葉を紡ぐのなら、その首が繋がると思うな」
「…解った。私は何も見ていないし、聞いていない」
「………なら良い」
ピタリと首に当てられていた剣が掻き消え、セイバーオルタは踵を返して歩き去っていく。
こういうのを、好奇心は猫をも殺すって言うのだろうか。そんな事を考えながら資料室に入ると、電源が入ったままのコンソールがあった。如何やら大半の資料は電子化されており、ここで資料を閲覧するらしい。
恐らくは、先ほどセイバーが見て居た試料だろうとあたりを付け、のぞき込んでみる。
「アーサー王伝説、か」
英語で書かれた電子書籍の挿絵には、カムランの丘で相撃ちとなった反逆の騎士モードレッドとアーサー王が描かれていた。
真っ暗な闇が目の前に広がっている。こちら側から差し込む光はその全てが吸収され、外の景色を見ているはずなのに真っ黒い絵をのぞき込んでいるように錯覚してしまう。硝子の表面で微かに反射した光が真っ暗な絵の中に自分自身の姿をボンヤリと浮かび上がらせた。カルデアのガラスは良いものを使っているのか、暗闇に映る自分は微かで表情すら読み取れない。
――おまえが深淵を覗くならば、深淵もまた等しくおまえを見返すのだ
確か、ニーチェの言葉だったか。以前の戦いの最中、資料室を使って歴史への理解を深めていく中でそんな一文を目にしたことがある。だとすると、この影は自分を見返す深淵と言う事になるのだろうか?
「いや、違うか」
ポツリ、とし無意識のうちに言葉が零れる。これが深淵であるはずがない、これはやはり自分自身だ。それも魔術王に無様に敗北したうえで、この世界の藤丸立香の身体を、未来を簒奪したある種の化け物に近い。やってること自体は魔術王と何ら変わらないことに今更ながら気づき、自虐的な笑みが浮かぶ。
自分が入る前の藤丸立香の意識はいったい何処へ行ったのだろうか?消滅したのだろうか?それとも、丑御前のように心の中に幽閉されているのだろうか?何方にせよ、今の自分の意識が消え去る様な兆候はない。
身体の持ち主への罪悪感は勿論ある。全てが終わった後で身体を返還することが出来るとしたら、幾分か気は軽くなるだろう。もっとも、今すぐに返したいかと問われれば答えに窮するのが本音だ。
自分勝手が極まっていることも理解している。彼方此方が抜け落ちた記憶が、どれほどこれからの戦いの役に立つか見当もつかない。むしろ、下手な情報を持っているおかげで事態を悪化させることになるかもしれない。マスターが二人いることで英霊やカルデアに悪影響が生じないとも限らない。そもそも、もう一度あの時間神殿まで自分が生き残れるかどうかすらも未定だ。
それでも…
「先輩!」
深淵の中に落ちかけた意識は、鈴の音が転がる様な声に光の方へとはじき出された。見れば、藤色の少女がパタパタと駆け寄ってくるのが見える。
「マシュ、どうしたんだい?」
「ドクターがお呼びです。最初の特異点へレイシフトする準備が整った、と」
「そうか、ありがとう」
管制室へ続く廊下を並んで歩きだす。右側には暗い空間を切り取った背の高い窓が並んでいる。自分が暗い窓を見ていることに気づいたのか、隣を歩くマシュから声を掛けられた。
「外、真っ暗ですね」
「うん。ダヴィンチちゃんはカルデアスの磁場がカルデアを守っているから、内外の光が遮断されるって言ってたっけ」
「前までは白一色だったので、なんだか別の場所にいるみたいです」
そういえば、カルデアは標高6000mの雪山にあるのだったか。初めて来たときに一瞬見た時には、確かに猛烈な吹雪で一面真っ白だったとおぼろげな記憶が頭をよぎる。
「…先輩。私、頑張ります。まだまだ未熟なサーヴァントですが、絶対にマスターと先輩をお守りして見せます」
チラリと隣を見ると、硬く手を握り、何かを決意した様なアメジストの瞳と目が合った。頼もしく思う一方、そうじゃないと言う感情も頭を擡げる。戦わないでほしいなんて口が裂けても言えない、ただ、戦う事以外にも、もっと色々な、それこそ一人の少女として当たり前の経験をしてほしかった。
気が付けば、胸の前で硬く握りこんだ彼女の手に自分の手を重ねていた。
「先輩?」
「マシュ、気持ちは嬉しいけど無茶だけはしちゃだめだ。君も生き残った人類の一人だってこと、生き残るべき大切な人間だって言う事を絶対に忘れないで。それと」
それでも…
「先輩は後輩を守るものだ。まあ、頼りないってことに関しては否定できないけど」
「そ、そんな頼りないだなんて!」
それでも、未来を、この少女を守るためなら、どんなことだってして見せる。
「この話はもう終わり!さて、急ごうか。ドクターが首を長くして待ってるだろうし」
「あ、ちょっと!先輩!待ってください!」
この
さあ、次は邪龍100年戦争だ
まずは道路をベルギーとオランダにしてフランスへ装甲師団を
え?違う?
なお、作者はこれからしばらくデスマーチな模様 orz