深いため息を彼はついた。
「今なんといいました?」
軽蔑に近い眼差しをライルは自らのサーヴァントに向ける。それに対しアサシンは悪びれる様子もなく先ほどと同じ言葉を口にした。
「ランサーと戦わせろ」
「……アサシン、私の目的と貴方の希望は対極的だ。それに、戦わせろなどという要求では貴方は満たされない。貴方の目的はランサー。いや、アーサー王の首でしょう?」
憤怒。抑える気もない怒りの表情をアサシンは見せる。
「あいつがアーサー王であるはずがない。あれは、贋作者だ。我が王の聖槍をあのような者が振るっているのが気に食わん!マスターの目的があの娘の保護ならば君自身が管理していればいいだろう」
アサシンの語気は強く。マナに対しての言い分に関しては彼がいう事は最もだとライルも自覚してはいた。
「迷っているのだろうマスター?君は師との約束。いや、目的というべきだろうか。それを果たす為に動いている。彼の目的は、妻である女を蘇らせる事。ならば彼を殺した長女は真っ先に排除すべきだ。にも、関わらず君はそれをしない。今回の聖杯戦争も勝ちに行くような動きをみせない。なぜか?君は、本来の目的を果たす気がない。君は氷継マナを守る。更に言えばあの姉妹を生き残らせる様に動いている。君は迷っているんだ。目的をはき違えている自分に。そして、何故自分がはき違えているかもわからない事に対して」
「―――」
沈黙だった。ただ、ひたすらにライルは沈黙を貫いた。自身の中身がごっそりと覗かれた様な恐怖。立ち止まっている理由が自分に判らない。それを見抜かれたライルは押し黙る事しか出来なかった。
長く続いた沈黙をライルは自らの言葉で掻き消す。
「では、アサシン。この様な事を聞くのは大変おかしいですが……私は、どうしたらいいのでしょう?」
間抜けだとライルは自分でも自覚した。それでも、ライルは聞かずにはいられない。自らの心の内を覗いた彼ならば何か答えをくれるかもしれない。そんな願望を抱いてしまったのだ。
「違うなマスター。君はどうしたい?何がしたいのだ?それが分からなければ俺としても言いようがない」
「―――そうですね。では、私はやりたいと思った事をします。何故その考えに至ったかはわかりませんがね……アサシン。約束してください。あの子達に手を出さないと」
「あぁ約束しよう。俺の目的は偽りのランサーの首のみ」
「十分です。ですが、その前に私の我儘に付き合ってもらいますよ」
ライルは教会を後にする。自分の目的を果たす為に。自分自身を見つける為に。
彼らは一瞬で跳躍した。闇夜に紛れるように家屋の屋根を跳ねる。
「で、まずは何処に行く気だ?」
「―――カーネルの安否が、気になっていたんですよ。サラさんには言いませんでしたが、
バーサーカーの事です。既に消滅しているのではないかと」
唐突に何を言い出すのかとアサシンは眉を顰め、ライルの発言の真意を直ぐに問いただす。
「それは、一体どういう意味だ?」
「では、説明しましょう。サーヴァントの召喚を知らせる霊基盤が異常を示したのはバーサーカーが召喚された直後でした。バーサーカーの反応が数分後に消えたんです。これは、一体何を示しているのでしょう?故障?いや、それはありえません。ならば、召喚して直ぐに殺人鬼に殺されたのでは?私はそう考えました」
ライルの言葉にアサシンは沈黙した。それは、おかしいと沈黙したのだ。
「なにかおかしな点でも?」
自身のサーヴァントが沈黙した事でライルは疑問に思い彼の考えを問いただす。
「ならば氷継マナには既に英霊の魂が二つくべられている事になる。それにしては、些か普通すぎる。四体程くべられれば体に何らかの異常をきたすと言ったのは貴様であろうマスター。既にその半分を器に詰めているのにあの娘に変化は見られない」
「……そうですね。それを確かめる為にもカーネルの生死の確認は必要でしょう」
暫く駆け抜けた後、彼らは再び地表へと着地し地面を足で踏みしめた。
彼らの前には、最近になって建設されたこの市で一番高価な宿泊ホテル。
「まぁ潜伏場所は知っているので。では、行きますか。貴方は霊体化していてください」
アサシンは、ライルに言われた通り瞬時に姿を消す。それを確認した後、ライルはホテルへと歩を進めた。従業員達には暗示をかける事で楽々と内部に潜入。エレベーターでカーネルが貸切っている最上階のフロアへと簡単に辿り着いてしまった。
「ふむ。拍子抜けというわけではないですが。本当に死んでいるとなるとそれはそれで退屈ですね。アサシンもういいですよ」
「サーヴァントの気配は感じられないな。当然だが」
霊体化を解いたアサシンもライル同様に拍子抜けをした表情で現界する。
最上階の廊下。突き当りの部屋に濃い魔力の残滓を、そして他の部屋からは腐敗した肉の匂いを感知したライルは迷いなく歩を進める。
扉を開けると、首と腕を切断された死体が一体転がっており、床には魔法陣が一つ描かれていた。
「……恐らくですが、この無残な姿に成り果てたのがカーネルでしょう」
死体を眺めながら腕を組み思案するライル。
一方で、アサシンは腰から二本の剣を引き抜く。
「おやおや、気が早いですよ」
窘めるようにライルがアサシンへ説いた。
「ふん。たかが死者の残骸だろう?」
「だからこそですよ。貴方が出張る必要もない」
二人が居る部屋の異臭が唸るように増していた。その正体は部屋の入り口で蠢いている。
腐敗した肉体は歪に歪み異臭と敵意を二人に放つ。それは、カーネルの残した魔術の残骸の様な物だ。人間だったもの、犬、猫だったモノ。様々な生き物が原形を失い地を這いずりながら、ライルとアサシンに狂気を送っていたのだ。発動条件は不明だが大方、侵入者が現れた時に発動する仕掛けだったのだろうとライルは予想を立てた。
「さて、と。汚物はどかしてしまいましょう」
そう言ってライルが取り出したのは三本の柄だった。それに刀身はない。だが、ライルがそこに魔力を通した瞬間にそれは具現した。魔力で編まれた刀身は美しくしなやかだった。
『黒鍵』と呼ばれるそれは、自身の魔力を編み込むことで完成する剣の形をした投擲武装である。それをライルは一切の投げる素振りを見せずに呟いた。
「あまり人気ないんですけどね。これ」
一瞬だった。ライルは亡者たちの隙間を縫う様に駆け抜ける。彷徨う亡者達は、糸を失った操り人形の如くその意味を消失していたのだ。確かに先ほどまで九体の亡者がそこにはいた。だが、一瞬でそれらは崩れ落ちてしまったのだ。そのライルの身のこなしに思わず英雄と謳われるアサシンでさえ息を飲んだのである。
「いや。確かに無駄のない完璧な動きといえるだろう。だが、機械的過ぎる。何の感情も抱かずにその剣を振るったというのか」
思わずアサシンは言葉を漏らしてしまった。だが、それは称賛ではない。寧ろ、恐怖に近い感情だった。そして、関心したのである。
腕を組んだまま思考するアサシンを、ライルは眺めていた。そして、同じ様に思考に墜ちていたのだ。
暗殺者の英霊といえど彼は騎士だとライルは思った。そして、暗殺者である筈なのに英霊である筈なのに、彼は感情的過ぎると。英霊という一種の神格化されたモノである筈なのにアサシンの思考はただの人間のそれに近い。悲しい時に泣き。怒れるときには憤怒する。英霊という枠組みの中の居るのにも関わらず、直情的すぎる。
自分よりもずっと『人間らしい』と。ライルはそう思えたのである。
―――羨ましい、と。
一方で、アサシンも似たような思考に行き着いていた。人間でありながら感情を殺し続けている自身のマスターに対してある意味の憧れを抱いていたのである。生前の自身の行動を顧みながらアサシンは思考する。
もしも―――もしも、と。
彼の様な忠実な機械として王に仕える事が出来ていたならばと。
ライルとアサシンは対照的で対極的だ。
だからこそ、互いを嫌悪し合う。
しかし、だからこそ。
だからこそ互いを見つめる事ができたのである。
それが、ただ一点のみだとしても。
だが、彼らが互いを理解し合う事はない。
何故ならば、自分自身が間違っていたなどと認めたくないからだ。
所詮は、課程。自分自身を照らし合せこそするが、認める事は決してあり得ないのだ。
「さて、アサシン。私はもう一か所行くべき場所があります。しかし、そこに貴方がついてくる必要はありません」
「俺としてもそのつもりだ。好きにさせてもらう」
「―――元来、サーヴァントとマスターは主従の関係であるべきと思っていましたが、どうやら私は貴方の事が好きではないのでしょう」
「何をいきなりいうか?俺もお前を好意的になど思っていないさ」
口調では互いを貶し合う。だが、二人の顔は憎悪をむき出しにする事もなく、敵意をむき出しにするわけでもなく。落ち着いた表情だった。
「ええ。それで結構です。後は、もう好きにしてください。それでは……何といえばいいのでしょう。機会があればまた会いましょう」
「あぁ、その機会があればまた会おう」
二人は自らの戦いへ赴く。それは、心のしこりなのかもしれない。自らの欲を満たすだけの贅肉なのかもしれない。
だが、それは不必要でありながら必要なのだ。
一方はそれを求め続けた。
一方はそれに忠実すぎた。
しかし、それはどちらも間違いでは無い。
彼らは、人間だ。自らの意思をもった個体だ。
だとすれば、自らの欲に溺れて何が悪いというのか。人の欠点をあげるとするならば、必ず後から来る後悔を抑えられない事だろう。
しかし、後悔をしない為には、進まなければならない。そして得なければならない。立てなければならない。
自身が悔いない為に。納得のいく結末を。
******
肌をつくような冷気をものともせず、氷継サラは言う。白い息を吐きだすがそれは、寒さを感じているわけではない。彼女にとってそれは自身を振るい立たせる為に結果として出てしまったある意味の恐怖なのかもしれなかった。
「さて、殺人鬼さん。とりあえずは三対一になりそうだけど、問題ないかしら?」
橋の中央に殺人鬼。そして、ランサーとアーチャーはライダーと対峙している。橋の両端をマナと日立。反対側にはサラとセイバーという構図だった。
「三対一?あぁ、数の問題は関係ねぇよ。なぁ、ライダー?さっさと始めよう」
「デュフ。では、マスター手筈通りに」
殺人鬼が躍動する。標的は日立とマナだった。
しかし、眼前には二体の英霊がいる。人を超えた規格外の個体の脇を抜けようと試みる。
そんな、無理がまかり通る訳がない。
常人ならばそんな無茶をする筈もない。それでも、殺人鬼はそれをする。恐怖など彼にはない。一体何に恐怖をするというのか?傷を負い痛みを感じる事か?致命の一撃をもらい死に絶える事か?だとしたら、それは彼にとって無意味だ。そんな事に恐怖など感じないのだから。死ぬ覚悟などを抱いているわけがない。彼はそもそもこの二体の英霊を前にして初めから突破できる事しか考えていないのだから。
「いかせはしない」
突貫する殺人鬼へとランサーは槍を突き出す。それは、彼を進撃を止める行為であり、彼の命を奪う為の行為。前傾姿勢をとり一直線にランサーへと突き進む殺人鬼の眼前へ黄金の聖槍が迫る。この時、ランサーは確信していた。この槍が殺人鬼へと突き刺さる事を。
だが、現実はその答えを導く事をしなかった。その真っ直ぐに伸びた神速ともいえる槍を殺人鬼は体を反らし避けきったのである。真横に飛び跳ねる形となった殺人鬼は足を止める事はない。その勢いのままランサーの脇をすり抜けて見せたのだ。
「―――しまった」
ランサーは状況をすぐさま理解した。だが、その理解が遅すぎたのだ。ほんの僅か数秒その判断が遅れたのである。
殺人鬼の狙いはランサーに槍を振らせることにあった。そうすれば、確実に抜ける自信があったのだ。直線的な動きで正面から正直に彼へと向かったのはその為だ。仮にランサーが槍を薙ぎ払う様に振るえばそれは阻止できたのかもしれない。だが、それでは、意味がない。確実に殺せないからだ。必殺の一撃をもってして殺さなければならなかった。
そして、ランサーは殺すつもりで槍を放った。
殺人鬼の読み勝ちだった。如何にサーヴァントの一撃だろうと、致命の一撃だろうと、放たれる場所さえわかればどうとでもなるのである。それが可能なほど、彼には実力と自信があったのだ。そして、それを実現させたに過ぎない。
殺人鬼は、笑った。当然の事をしたまでだ、と。
「―――っ!」
ランサーはすぐさま反転して追撃を試みるが、ライダーがそれを許さなかった。
「いかせませんぞ!いかせませんぞ!」
殺人鬼とランサーの間に躍り出ると、その槍をサーベルで弾き返す。
その光景を横目で確認したアーチャーは無言で弓を引き絞る。標的は勿論、殺人鬼。
だが、その矢が放たれることはなかった。
アーチャーは肩口から溢れる出血に目もくれずライダーに鋭い眼光を送る。
「小賢しいなライダー」
「んふふ。プライドが高いのが仇になりましたな弓兵のサーヴァント。その程度の出血と傷なら矢を射抜くのも容易かっただろう」
ライダーは、ケラケラと笑いながらアーチャーを傷つけたラッパ銃を手の中で躍らせる。
「さぁ、拙者たちの狙いはほぼぅふお」
ライダーの顔面が歪んだ。突如としてその顔面を地面で強打しながら転がり回る。
ライダーが先ほどまでいた場所には、漆黒の鎧を着込んだセイバーが佇んでいた。
「ったく。ランサー、アーチャーその気があるなら手を貸しな!」
「利害が一致している今だけは手を貸そう」
「―――ライダー、悪いが全力でそこを退いてもらうぞ」
セイバーは剣を。
アーチャーは弓を。
ランサーは槍を。
各々は武器を携え発した。ライダーを倒すと。
三対一。それに加え、聖杯戦争において優秀と謳われる三騎士のクラスを前にして騎乗兵の名を関する英霊は笑っていた。
「あぁ。多対一はこちらも望むところ。英霊が何人いようが関係ねぇ。全員地獄に落としてやる!」
吠えた。ライダーは吠える。たが、それは決して弱者の遠吠えなどではない。
それこそ戦士が戦いを前にして、自らを奮い立たせるそれだ。だが、決してライダーは臆しているわけではなかった。確固としての自信があるのだ。
「大方、こちらの思惑通り!ふははははは!野郎ども!戦の準備だ!錨を上げろ!帆を靡かせろ!相手は、歴史に名を残す豪傑猛者の英霊どもだ!相手取って不足もなければ、ぬかりもねぇ!さぁ!略奪の限りを尽くせ!」
ライダーは立ち上がり、その手に持つピストルの銃口を天に掲げて発砲した。その姿たるや、かつてイギリスを恐怖に叩き落とした大海賊。エドワード・ティーチの雄姿だった。
「
ライダーの声と銃声が鳴り響く。
瞬間、グツグツと風景が蠢いたのだ。彼を中心として、風景を塗りつぶす様に、荒れ狂う波が周囲を巻き込んでいく。
「―――ちっ。まさか固有結界か!」
反射的にセイバーは飛び退くも既に遅かった。
風景の捻じれはセイバーを、そしてランサーとアーチャーを飲み込むと次は蓋を閉じるように収束していく。文字通り三騎士の英霊はライダーの宝具に飲み込まれたのである。
「セイバー!」
サラの声は虚空に消える。その名を関する彼女は居ないのだ。
「三対一だがどうする?俺は構わねぇぜ?」
足を止め殺人鬼は不敵に笑う。
「……関係ないわ!貴方は私一人で十分よ!」
サラは右手を翳す。距離にして二十メートルだろうか。対内の魔力をかき回し暴発させる。
「―――っ」
その瞬間。それよりも速く。圧倒的速く。
それは、駈け出した。
身に何一つ持たず。それは駆けだしたのである。
「―――なんだ?お前?」
彼の疑問は最もであった。そもそも、彼を頭の片隅にすら置いていなかったのだから。
―――駆ける。
日立一護は、殺人鬼へと駈け出していた。
「―――邪魔」
だが、無力。殺人鬼からすれば日立一護という人間は余りにも無力。道端に転がる石。
何が出来る訳でもなく。
日立は側頭部に手痛い蹴りを食らい橋から落下していったのである。
「―――なんだ、アイツ」
まるで虫でも払いのけたような感覚だった。
だが、それは殺人鬼にとって圧倒的違和感を感じたのだ。
確かに、日立は虫同然だった。だが、何かしこりが残る。呆気なさすぎる。わざわざ、自ら命を投げ出す理由が分からない。
そもそも、なぜ彼から『氷継マナ』と同じ匂いを感じたのだろうか。
殺人鬼の興味と思考は日立一護よって浸食されていく。
その隙をサラは突いたのだ。完全なる奇襲と言っても過言ではないだろう。日立が落下して殺人鬼が思考に耽けった時間は僅か一秒にも満たない。だが、サラはその一秒の時間の中で彼の背後を取り右手に停滞させた魔力の炎を突き刺したのである。
「―――嘘」
次にサラが口にしたのは勝利の音でも何でもない。ただ、驚きと恐怖の喘ぎ声だった。
依然として、殺人鬼はサラに背を向けていた。
だが、突き出した筈の右手が。サラの纏っていた炎は完全に消失していたのだ。
「―――あぁ。みんなそうやって驚くんだよなぁ。何度見ても飽きねぇよ。魔術師どものその顔はよぉ」
振り向いて殺人鬼はサラの下腹部を蹴り倒す。
痛みで悶絶し膝をつくサラに彼は笑って告げる。
「弱いね」
それは、とても綺麗で濁りのない透き通った言葉だった。
******
「日立君!?」
マナの思考は追いつかなかった。
隣にいた筈の日立は突如として殺人鬼へと駈け出したからだ。
その少し前。ライダーが、ランサー達を固有結界の中に閉じ込めた事にも驚きはしたマナだったが、ランサーよりそういった宝具の存在は知らされていた。何より令呪で彼と繋がったパスが途切れていない事に安堵していた。
だが、日立の行動は本当に想定外過ぎたのだ。
何を思って彼がその様な行動に出たかなどマナには皆目見当もつかない。だが、事実として彼は呆気なく返り討ちにされ、橋から落下した事だけだ。
「ね、姉さん」
そして、その後が今だ。
自身の姉が、殺人鬼を前にして膝をついていた。まるで、完成された一つの作業の様に。
一連の流れは、一切の狂いもなく完璧すぎた。
台本でも用意されていたのであろうか。だとしたら、最悪な脚本家だとマナは顔を引きつらせる。
何故ならば、この脚本のままでは姉はおろか自らも舞台から退場しなければならなかったから。
「―――でも、でもでもでも。どうしたらいいのかわからないよ。私は、私じゃ何もできないもの……教えて誰か―――教えてよ」
彼女の嘆きは風に流され冬の夜に霞んでいった。