ネギま! another scenario   作:たつな

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保健室での一時

「ふう、ちょっとやりすぎたか」

 

 

雄は頭をポリポリとかきながら、倒れ込んだ相手の心配をする。力は幾分か抜いたものの、捉えたのは頭部であり、当たり所が悪ければ後遺症が残る可能性があった。

 

 

「とりあえずコイツを近衛のところへと連れてくか。場合によっちゃ、関西呪術協会のことを聞き出せるかもしれないし」

 

 

何だかんだ言いつつも、今回の修学旅行で障害となるであろう関西呪術協会の人間を捕まえることが出来たのだ。この戦闘が決して無駄なものになった訳ではない。

 

完全に気絶していることを確認すると、相手の顔を拝もうと羽織を取る。刹那の服を強引に破くような人間だから、案外相応な顔立ちをしているのではないか。若干の期待をしながら、顔を覗き込んだ。

 

 

「お?」

 

 

意外にもその顔は整っていた。見たところ年齢は刹那たちと同じ十代か、少し年上くらいだろう。気絶している顔立ちだけでは到底、あんなふざけた行為をするような人間には見えない。

 

人は見かけによらない、どんなに感じが良い人間であっても、敵ともなれば豹変する。見た目だけでの判断は、いずれ自身を裏切った時に大きなダメージとなるかもしれない。

 

 

「あの、雄さん」

 

「あぁ、そうだった。怪我は無いか刹那」

 

「は、はい。何とか」

 

 

すっかりと刹那の存在を忘れかけていた雄は、改めて刹那の方へと歩み寄る。見た感じ怪我らしい怪我はなく、上半身が裸に近い状況以外は目立った部分は見られなかった。幸い駆けつけてすぐにジャケットを羽織わせたため、目立った露出も見られない。

 

そうは言ってもこの状態で寮へと帰ることは出来ないし、一度保健室にでもよって、刹那の状態と着替えを済ませてから戻ろう。それにダメージが残っている中で力を振り絞って強引に立ち上がったのだ、緊張が取れればまた元の状態に戻る。

 

 

「あっ……」

 

 

案の定、ストンと力が抜けて足がすくんでしまった。立ち上がろうとする刹那を見て、雄は苦笑いを浮かべながら無理をするなと伝える。

 

 

「まだダメージが残っているみたいだし無理すんな。あいつを運んだ後に、刹那も保健室に……ってげっ!」

 

 

運ぶからと言いかけた途端、後方から魔力の気配を感じて振り向いた。するとそこには敵の体が水に入水するように、ズブズブと地面へと潜り込んでいる。

 

身体の周りには魔方陣が描かれていることから、また別の第三者が術式を組んで逃がそうとしているらしい。このままでは逃がしてしまうと悟り、慌てて地を蹴る雄だが、寸前のところで間に合わずに、身体は奥底へと沈んでしまった。

 

 

「くそっ! 逃がしたか」

 

 

流石にどこに逃げられたかまでは追うことは出来ない。ただ周辺に自分たち以外の気の点在は見受けられなかった事を考えると、相当離れた距離から回収された事となる。

 

 

(敵は一人ではなく複数人。ある程度の実力者が揃うと考えると、結構厳しいか)

 

 

つまりその段階で敵は一人ではなく、複数居ることになる。今回の作戦を牛耳る親玉を含めて何人いるのか検討も付かなかった。

 

痛い目にあわせたし、恐らくこちらに居るうちは先方側も手出しは出来ないと考え、一旦気持ちを切り替える。

 

 

「逃げられましたね。出来れば捕まえておきたかったんですが……」

 

「あぁ。元々やられたら、こちらの隙を付いて回収するつもりだったんだろう。まんまと一杯食わされたよ」

 

 

切り替えるとはいえ、相手方に一杯食わされてしまったことについては、悔しそうに表情を歪めた。

 

 

「とにかく無事で良かった。今運ぶから待ってろ」

 

「わっ!? つ、雄さん。一人で立てますから!」

 

 

刹那の前にしゃがみ込み、膝間接裏と肩に手を回すと、お姫様抱っこの要領で持ち上げる。見た目以上に華奢で軽い身体は難なく持ち上がるも、刹那は突然のお姫様抱っこに顔を赤くして恥ずかしがった。

 

そんなことまでしなくても立てると強がるが、今の状態では誰かの支えがあったとしても立つことすら困難な状況。ちゃんと立って歩けるようになるまで待っていたら、何時間掛かるか分からない。

 

立てるまでの間、野ざらしになることを考えれば放ってはおけなかった。

 

 

「立てるまで回復するのにどれだけ掛かるんだよ。ここに野ざらしには出来ないし、這って校舎に戻るわけにはいかないだろ」

 

「そ、それはそうですが何もここまで!」

 

 

お姫様抱っこが相当に恥ずかしいようで、必死に理由を並べるも言葉が浮かんでこない。普段冷静沈着な刹那とは思えないほど、ころころと切り替わる表情に、雄は思わず吹き出した。

 

 

「ふっ、ははは! 面白いな刹那は。大丈夫、人目につかないように保健室へと運び込むから安心してくれ」

 

「うっ……」

 

 

自身の足に力が入らず、歩いて帰ることも出来ない。誰かに頼らざるを得ない状況ではあるのだが、あまり人を頼ることが無いせいか、誰かに助けて貰うことに慣れておらず、口をもごもごとさせながら俯いてしまう。

 

幸運なことに、先ほど周囲に散りばめられた人払いの呪符の効果は残っており、周囲にはほぼ人が居ない。ここから保健室までの道のりを考えると、さっさと運んでしまった方がいい。

 

 

「さ、行くぞ。ちょっと飛ばすから舌噛まないようにな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「失礼します……って誰もいないか」

 

 

足早に保健室に到着するも誰もおらず、つんと鼻を刺すアルコール消毒の香りが広がっていた。保険医はどこに行ったのか。時間的には部活動が行われている時間のため、部活動の方で誰かが怪我をして部屋を開けているのかもしれない。

 

待つわけにもいかず、一番近くにあるベッドに刹那を寝かすと、すぐ隣にある背もたれの無い椅子に座った。

 

 

「少し休めば元に戻るだろうから、二、三時間ここで安静にな」

 

「あ、はい」

 

「それと、これ。大切な刀だろ?」

 

 

広場にて拾った刹那の夕凪を手渡す。襲われた時に手放してしまったであろう刀は、刹那を探している際に回収していた。どこから取り出したのかと一瞬疑問に思うも、差し出された自身の愛刀を反射するように受け取る。

 

 

「ありがとうございます。本当に何から何まですみません……」

 

 

刀を受け取ると如実に落ち込みながら俯いてしまう。昨日から何度雄に迷惑を掛けているのだろうと、自分のあまりのふがいなさにやるせない気持ちでいた。

 

結局、自分は何もしていない。昨日は冷静さ失って敵ではない雄を攻撃し、今日は平和ボケからくる油断が、相手に背後を取られる要因となり、あっけなく無力化され、最終的には雄に助けられる始末。

 

先日の件に関しては、すぐに事実を話さなかった雄にも非はあるが、今日の件に関しては雄は関係ない。こんな実力でこれからも木乃香の護衛が務まるのかと、先の未来に大きな不安を抱えていた。

 

 

「どした? 随分と暗い表情しているけど」

 

 

刹那の表情の変化には雄も気付いていて、流石に気になったのか率直に疑問をぶつける。雄の問いかけにピクリと身体を震わせると、ぽつぽつ聞こえるかどうかも分からないような弱々しい声で話し始めた。

 

 

「……私は結局何もしていない。いえ、出来なかった。今日だって関西呪術協会の手先を追い払ったのは雄さん」

 

 

悔しさからか下唇を噛み、沈痛な表情を浮かべる。

 

 

「何一つ守れない……私は未熟者です。このままじゃこの先……ぇう!?」

 

 

ぐしゃぐしゃと右手で刹那の頭を撫でまわす。頭を撫でる雄の顔は穏やかそのものであり、何辛気臭いこと言ってやがる、そう問いかけるようだった。

 

 

「前に言ったけど、まだこれからだろ。失敗なんて誰にでもついてまわるものだしな。それに無理に背伸びしたところでいい方向になんて進む訳がない」

 

「……」

 

「どうしてもやらなければならない時は来る。だがそれ以外は一歩ずつでも良いんじゃないか」

 

 

どうしてもやらなければならない時とは、命を掛けてでも守るときだろうか。意味合いが曖昧する過ぎるせいで、意味が分かるのは雄だけしかいない。もしくは意味は自分で考えろと、暗に刹那に伝えているのかもしれない。

 

刹那より長く生きてきたことに加えて、魔法世界に関わりを持っていることで、様々な窮地や生死との隣り合わせを味わっている。いずれ刹那にも、本気で命をかけて守らなければならないケースが来る。だからこそ、今はそこまで深く考えすぎるなという雄なりのエールでもあった。

 

 

「木乃香が心配なのはよく分かるし、それを守るのが刹那の仕事なのも知っている。ただ完璧にこなせる人間なんて居ないんだ、もう少し周りを頼ってもいいと思うぜ?」

 

 

俺みたいに頼りにならない副担任もいるけどな、と笑いながら付け足す。

 

十五歳。

 

本来なら青春を謳歌する年齢であって、生死と隣り合わせの仕事をする年齢ではない。自分だけではどうにも出来ないとなるのなら、誰かを頼ればいい。挫折を何度も味わうことで、見えてくるものもある。

 

今回の失敗を糧に、また次ぎ同じ事にならないように精進すればいいだけのこと。

 

 

「どちらにしても、この後が大切だ。同じ事を繰り返さないように、頑張っていこうぜ」

 

 

 

雄は刹那に諭すように伝える。彼女に真意が伝わったかどうかは分からないが、雄が過ぎ去る際の刹那の姿はどこか晴れやかだったそうだ。

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