ネギま! another scenario   作:たつな

19 / 44
【修学旅行編】-上巻-
修学旅行開始!


早朝。

 

まだ太陽の陽も昇りかけの時間帯に、けたたましく鳴る携帯の目覚ましで目を覚ます。手探りで携帯の位置を探し、未だに鳴りやまないアラームを止めようとする。

 

いつもよりもはるかに早い時間帯の起床に、眠気が取れずに薄っすらと目を開いた。瞼は重く、身体に掛かる布団の重みは、更なる安眠へと誘おうとしてくるも、二度寝をしてしまったら集合時間に遅刻してしまう。布団の強烈なまでの誘惑を振り切り、何とか身体を起こした。

 

 

「うー……」

 

 

うなり声をあげながら、身体を起こすまでは良かったものの、再度襲ってくる眠気に寝床に戻りそうになる。時刻は朝の五時。普段起きるのが六時半といつもよりも起きる時間が早い。朝は得意ではないが故に、半ば強引に立ち上がって洗面台へと向かう。

 

歯ブラシに歯磨き粉をつけ、シャコシャコと歯を磨く。まだ眠気が取れないせいか、瞼を閉じたまま惰性で歯を磨いていた。歯を磨き始めて数分、ある程度磨き終えたところで、口の中の歯磨き粉を吐き出して口を濯ぐ。乾燥した口をスッキリさせると、洗面台の排水溝に栓をし、蛇口から流れてくる水を貯めていく。

 

寝返りを何度も打ったせいで髪の毛はぼさぼさで、某超人の如く盛大に逆立っていた。未だ取れない眠気を覚ますべく、一定量の水を貯めこむと洗面台の水桶の中に勢いよく顔を突っ込んだ。

 

温度の低い冷水が顔全体に浸透し、眠りかけていた脳が一気に覚醒状態へ切り替わる。数十秒ほど顔を突っ込み、ある程度スッキリとしたタイミングを見計らって顔を上げた。

 

 

「ぶはっ! 冷たッ!!」

 

 

お陰様で眠気は綺麗に取れた。冷水を温水へと変え、今度はボサボサになった髪の毛を湿らせていく。一般の男性に比べると毛量が多く、髪も長い故に全体を効率よく湿らせるのに数分費やす。ある程度濡れたところで、蛇口を捻り水を止めると、近くに用意してある新しいタオルを手に取り顔と髪に残る水分を拭った。髪が長く、水分を残すと乾かすのに時間が掛かってしまうことから、より入念に髪を拭いていく。

 

鏡を見ながら拭いていき、ある程度水分が取れたところで、使ったタオルを洗濯籠の中へ入れた。

 

 

タオルを籠へしまうと、ドライヤーのスイッチを入れていつも通りの髪型へとセットしていく。一通りセットを終えると新調したばかりのワイシャツを手に取り、手早くネクタイを締めてジャケットとパンツスーツを着た。

 

先日買ったばかりの私服類は全てキャリーバッグの中へとしまい、修学旅行に必要な準備物や教員専用のしおりは全て手持ちのビジネスバッグの中。準備万端の状態で後は部屋を出るだけ、朝はネギと共に集合駅である大宮駅まで向かうことになっている。

 

 

 

 

 

既に準備は終えている状態であり、これ以上何かすることもないため、持っていく予定の荷物とビジネスバッグを片手に部屋を出た。ネギと待ち合わせているのは部屋ではなく、寮の入り口になる。決して寒い季節ではないし、外で多少待っていても問題はなさそうだ。

 

入り口につくと近くのベンチに腰かけて教員用のしおりを取り出し、今日のスケジュールを確認する。宿泊時の見回りの時間帯や、全体公道での訪問場所、各班のメンバー構成等、事細かに記したものになり、これ一つで修学旅行の一連の流れを把握することが出来る。

 

赴任したての雄は昨日渡されたばかりで、修学旅行の全容を把握しきれていない。はっきりと分かっているのはネギがいつ、関西呪術協会の総本山に親書を持っていくのかくらいだ。

 

 

 

ざっとしおりを確認すると午後に京都到着後、清水寺を往訪予定。二時間ほど散策後、今日は旅館に戻り一日目は終了する。修学旅行初日ということもあって、比較的楽なスケジュールになっており、やること自体もそこまで多くなかったことからホッと一息をついた。問題になってくるのは二日目以降であり、判別行動を取るタイミングから管理やらなんやらが手間になってくる。

 

それまでにある程度の準備が出来る期間があると考えると気は楽になる。

 

 

「年頃の女の子たちだから、夜はちょいと騒がしいかもなぁ」

 

 

予想できる未来を想像し、思わず苦笑いをこぼす。

 

三年A組にとって問題なのは昼間ではなく、夜。昼なら多少騒ごうとも何とでもなるが、夜は迷惑になってしまう。お祭り好きのクラスからしてみれば騒がしいのは必須、そんな中雄は旅館を見回りしなければならない。当然見回りする教員は雄一人だけではなく、付き添いの教員が何人かいる。

 

中には生徒たちから恐怖の目で見られている教師がいるのも事実、あまり騒がさせすぎると責任問題の部分で何かを言われるかもしれない。ネギのサポートとして律する部分は律しなければならない。

 

 

(ま、何とかなるか)

 

 

変に身構えてもいい結果にはならない。気楽に考えてやっていこうと気持ちを切り替える雄に、リュックサックを背負ったネギが姿を現した。

 

 

「あ、風見先生! お待たせしました!」

 

「いや、そんな待ってないですよ。にしても随分嬉しそうですね」

 

「だって、日本の文化を学べる滅多にない機会じゃないですか! 朝も楽しみすぎて目覚ましが鳴る前から起きてまして!」

 

 

嬉々として笑うネギの姿に、十歳の少年を垣間見る。教員として気を張り詰めなければならないといった気疲れではなく、純粋に修学旅行を楽しもうとする無邪気な笑み、想像以上に楽しみにしていることが受け取れた。

 

 

「あっ、すみません、自分のことばかり。実は風見先生にこのかさんから渡して欲しいと言われているものがありまして」

 

「渡してほしいもの?」

 

 

ネギは手に持っている巾着袋のうちの一つを雄へと手渡す。可愛らしい熊の絵が刺繍され、如何にも女性らしいピンク色の巾着袋を受け取ると、確かな重量感があった。何だろうと首をかしげていると、続けてネギが補足を入れる。

 

 

「多分お兄ちゃんのことだから朝食食べていないんじゃないかって、このかさんが」

 

 

そこまでの言葉で何が入っているのか推測出来た。おもむろに巾着袋を開くと、中には小さなおにぎりケースがあり、中には握りたてのおにぎりが三食分入っている。そしておにぎりケースの蓋の部分には小さなメモ書きが記されていて、そこには。

 

 

『朝ごはんはちゃんと食べなあかんえ!』

 

 

そう一言記載されていた。

 

自分の行動を読んだとでも言うのか、確かに今日は朝食を取らずに出てきてはいるが、普段は外で買った菓子パンやらなんやらを何かしら口に含んで学園へと向かっている。朝食を取らなかったことだって偶々なのに、雄が朝ごはんを食べていないことを見越して、わざわざ自分の分を作ってくれた事実が何よりもうれしく、温かく感じた。

 

 

「……ありがとう。幸せ者だな俺は」

 

「え? 風見先生?」

 

「あぁ、いや。何でもないです。さ、ネギ先生、そろそろ行きましょう。あんまりグズグズしていると、集合時間に間に合わなくなるんで!」

 

「あ、はい! そうですね!」

 

 

最高の朝を迎えた雄は、笑顔のままネギと共に最寄り駅へと駆けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーおー、皆早いな」

 

「わー! 皆さんもう来てらっしゃったんですねー!」

 

 

まだ教員の集合時間であるにも関わらず、既に生徒の半数近くは集合場所に集まっていた。ネギや雄もいつもよりも早く出ているのに、駅に集まっているということは始発で来ている生徒も何人かいるようだ。

 

 

(ん、視線?)

 

 

ふとどこからか向けられる視線、以前体感したそれと全く同じ視線は自身の背後から感じることが出来た。雄以外の生徒や教師、ネギは気付いていない。こんな朝早くからきて遠くから監視とは、ご苦労なこと。視線の正体を確かめるべく、皆から離れて一人背後の物陰へと歩いていく。

 

そして物陰の後ろとみると、そこにはやはり例の人物が居た。

 

 

「こんな朝っぱらからご苦労なこった、刹那」

 

「あ、おはようございます。雄さんも早いですね」

 

「早いも何も、教師陣は生徒よりも早い集合だからな。それよりも早く来ているとは思いもよらなかったけど」

 

 

竹刀袋を提げて物陰に立つ刹那の姿がそこにはあった。

 

物陰から監視しているところをみるとあまり人に自分の姿を見られたくないらしい。単純に木乃香だけを見ているわけではなく、クラスに近付く脅威がないかどうかを確認していたようで、彼女の雰囲気を見る限りは特に何もなさそうだった。

 

 

「修学旅行中に、何があるか分からないですから。それにいつ奴らが行動を起こすとも限らないですし」

 

「そりゃ確かに。まぁでもここに来るまでに嫌な気配は感じなかったよ。新幹線に乗るまでは大丈夫そうだし、少し一息入れてきたらどうだ?」

 

「いえ、私だけ休んでいるわけには……これくらいなら特に負担になることもないですよ」

 

 

念には念をということで早めに来たらしい。あまり気を張りすぎてもと伝える雄だが、大丈夫だと刹那は言い張る。確かにそこまで負担になることはやっていないため、必要以上に何かを言う必要もないと一歩引きさがった。

 

 

「そうか? なら良いんだが、あんまり初日から飛ばしすぎるとどこかでガス欠になるから、休めるときはしっかりと休んでおけよ」

 

「はい。そこはもちろん分かっています」

 

「後は早く木乃香とも話せるようになれよ」

 

「はい! ……はい?」

 

 

木乃香の名前を耳にしたとたん、刹那の声がいつもよりも半オクターブほど高くなった。今まで冷静に話していた姿はどこへやら、口ごもりながら後ろへと後退りしていく。

 

 

「い、今は木乃香お嬢様は関係ありません!」

 

「そうか? 多分もう少しで来ると思うぞ。機会見つけて話してみれば良いんじゃないか」

 

「わ、私は影で見守れればそれで!」

 

 

何だこの娘持ち帰りしたい、と顔を赤らめて激しくまくし立てる刹那に対して思った雄の感想だ。

 

否定するところは変わらなくとも、以前に比べると雰囲気は丸くなっているし、変に張っている壁が完全に崩れるのも時間の問題かと推測する。

 

あまり長く話していると時間だけを使いそうなため、一旦話を区切り、最低限の伝言だけを伝えた。

 

「ははっ、知ってるよ。とりあえず道中は俺も気を張るようにするから。また新幹線に乗った後でちょいと打ち合わせしよう」

 

「え? あ、はい。分かりました」

 

 

踵を返すと、再び教師たちが集まっている場所に、雄も戻る。

 

こうして短くも長い、修学旅行が幕を開けた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。