ネギま! another scenario   作:たつな

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旧友

 

 

 

「ふぅ……最近の生徒たちはアグレッシブだな。まさかあそこまで押し寄せてくるとは」

 

 

クラスに入った後、順調に自己紹介まで進んだはいいものの、そこから先が長かった。出身はどこか、趣味は何か、彼女はいるのか、といった如何にも年頃の女の子たちが好きそうな質問の嵐を掻い潜り、朝のホームルームを無事に終えた。

 

無事に終えたというよりかは、ホームルームが終わりの時間にもかかわらず騒がしいクラスに他のクラスの担任が入ってきたことで、事なきを得たといった方が正しい。

 

押し寄せる生徒たちの大群を相手にすること十数分後、改めて解放された俺、風見雄は一人学園長室へと向かっていた。

 

ネギ君には一限目は学園長に呼ばれていることを伝えると、快く承諾してくれた。赴任早々大変ですねと気遣いの言葉までもらう始末、本当に十歳としては根本の礼節が良く出来ている。

 

年上……とはいえ、教師歴としては俺の方が浅いというのに、傲り高ぶる事無く、敬うその姿を同い年だった頃の自分に言い聞かせてやりたい。

 

まぁ無理な話なので、それは諦めることにする。タイムスリップなんか出来るわけもないし、仮に出来るのなら人生を一からやり直したい。

 

 

「しかしまぁ、まさか自分がここで先生とは……人生どこで何が起こるか分からないもんだね」

 

 

まだ赴任して初日だが、自分が教員に、それも女子校の教員になるとは夢にも思っていなかった。ここ最近の驚きの中で、今回の決定が間違いなく一番だ。

 

担任の補佐役として雇われた身であるため、緊張もあったがいざ生徒たちを目の当たりにすると、その緊張は幾分ほぐれた。ましてや十歳のネギ君が担任を請け負っているのだから、年上の自分が揺らいではいけない。

 

そう思うとより、やってやろうという気持ちがわいてきた。

 

 

「っと、学園長室はここだったな」

 

 

他のことに意識が向いていて、学園長室を通り過ぎたところで、慌てて扉の前に戻る。表札を再度確認し、部屋が間違いないことを確認すると、軽く扉をノックする。

 

中からやや年輩の男性の声が聞こえた後に、改めて学園長室への扉を開いた。

 

 

「失礼します」

 

「おぉ、来てくれたか雄くん。すまんのぉ、忙しいところ呼び出して。新しいクラスはどうじゃった?」

 

「中々刺激的でしたね。自分が年下に慣れていないっていうのもそうですけど、あんな大勢の女性の前で話す事なんて早々無いですから」

 

「ほっほっほっ、そうかそうか」

 

 

どこか満足そうに髭をしゃくる妙齢の男性。

 

会えば間違いなく頭部へ視線が行くだろう。もはや頭部の形状は通常の人間とは思えないほど変形している。幼稚園くらいの子供が間近で見たら、泣いて逃げ出すくらいには特徴的なため、遠目から見ても人物判定はすぐに出来る。

 

この人物こそが何を隠そう麻帆良学園の長、近衛近右衛門。全てを統括する、最も頂点に立つ人物だ。

 

 

「君なら上手くやってくれると信じておるよ。大変だとは思うが、ネギくんのサポートもよろしく頼む」

 

「分かりました、微力ながら協力させて貰えればと思います」

 

 

 

 

 

 

 

「……ふむ。やはりその口調は違和感があるのぉ」

 

「は?」

 

「ここには今ワシと君しかおらん。かしこまる必要は無いのではないか?」

 

「……そうだな」

 

 

そして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……全く。急に明日から教師をやってくれなんていう奴がどこにいる。突拍子の無さは学生時代から変わらんな、近衛」

 

 

俺の学生時代の同級生でもある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「仕方ないじゃろう。赴任予定だった教師が急病で来れなくなるだなんて、想定出来まい。それにお主も暇していたじゃろ? ワシからの仕事がないときは日雇いの警備の仕事で食いつないでいたそうじゃが」

 

「だからって教師経験の無い俺に声を掛けることか? いいのか、俺教師なんてやったこと無いぞ?」

 

「お主が教員免許を持っておるのは知っておるぞ。何、十歳の少年が教師をやっているくらいじゃ、生徒たちも細かい事は気にせんと思うが」

 

 

あーいえば、こーいう。何を言っても同じ展開の繰り返しで結局は変に言いくるめられるような気がしてならない。

 

昔からこの男はそうだ。年を取って大分丸くはなったものの、人を言いくるめるのが上手い。正直あまり敵には回したくないタイプの一人だったりする。

 

実は一時期麻帆良とは別の場所で講師を務めていた事もあり、指導経験はゼロではない。

 

それこそ近衛と学生として校舎に通っていた時は、中学、高校、大学とエスカレーターで卒業していて、何かの役に立てば良いとふざけ半分で教員免許もちゃっかりととっている。つまり俺が教壇に立って勉強を教えることに何ら問題は無い。

 

 

「にしてもお主本当に変わっとらんのう。今年でいくつになるんじゃ?」

 

「さぁ? もうすっかり忘れたよ。長寿番付があるなら、とっくに記録を更新しているだろうな」

 

 

これは事実。正直自分で今何歳か分からない。

 

誕生日だったら何回祝って貰えた事だろうか、祝ってもらったこと自体が数えるくらいしかないから虚しい。

 

 

「しかし久しぶりだな。こうしてちゃんと話す機会っていつぶりだ?」

 

「ふむ……卒業以来まともに話をした記憶がないの。数十年振りではないか?」

 

 

近衛とは数十年前に共にここ、麻帆良学園にて生活を共にした仲であり、かつて自身の背中を預けたこともあるパートナーでもあった。年齢から前線は退いているが、今でもその力は学園最強と言っても過言とはないほど、やつの力は強大なものがある。

 

元々魔法生徒の中でも一際目立つ人間だったし、年を経ればこうなることはある程度想定できた。まさか顔のつくりまで大幅に変わるとは思わなかったが。

 

 

「だろうね。まぁ実際の所、声を掛けてもらって助かってるよ。久しぶりにここにも顔を出したいとは思っててさ」

 

「構わん構わん。偶々縁があっただけのこと。おっと、忘れんうちに渡しておくぞ。三年A組のクラス名簿じゃ」

 

「はいはい。っと、どれどれ?」

 

 

差し出されるクラス名簿を受け取り、中身を確認する。講師をしていた事はあれど、女子中学生を教えた経験は皆無のため、実は中々楽しみだったりする。

 

メインは歴史を教えることになるが、授業の被りが無ければクラスに帯同することになる。担当外の授業でも補佐役として動くから、なるべく早めに生徒の顔と名前を覚えなければならない。

 

そこにこのクラス名簿は欠かせない。

 

右上の生徒から左側にざっと流し見をしていく。クラス全員で三十一名、一人一人の名前を覚えるとなると中々時間が掛かりそうだ。

 

流し見をしていく上でふと、一ヶ所で視線が止まる。

 

 

「近衛木乃香……近衛? ってまさか」

 

 

近衛と同じ名字、同性と言われればそれまでだが、珍しい名字が何人もいる訳ではない。

 

「木乃香はワシの孫じゃよ。気になるのか? お主がよければ紹介するぞ」

 

 

予想通りの答えが返ってきた。

 

さり気なく紹介してくるあたり、将来の婿候補とでも考えているのだろうか。

 

 

「やっぱりか。紹介って、俺とこの子じゃ年が離れすぎだし、流石に無理があるんじゃないか? それに一教師と生徒がそんな関係になったらマズいだろう」

 

「んーそうかの? 木乃香も気にしないとは思うが。まぁお主がそう言うなら好きにすれば良い。それと君の部屋じゃが女子寮の空き部屋を使ってほしい」

 

「はい?」

 

 

さらりとトンデモない発言をしてくれる。

 

一体どこの女子寮に男性部屋がある女子寮があるのか。

 

 

「おいおい、本当に大丈夫かよ? 俺男だぞ?」

 

「君なら変な事もせんじゃろ。今日の配布物で寮のルールと、入浴時間の変更も伝えてある」

 

「……嫌な所で用意周到だな、おい」

 

 

怒るを通り越して、呆れてくる。完全な確信犯にまんまと釣られている自分が、どこか情けない。言われてみれば、タダで住まわせてくれるとまでは言っていたから、別に部屋が選べる訳じゃないのも事実。

 

近衛の言葉を鵜呑みにし、既に昨日まで住んでいたアパートは引き払ってしまっている。必要最低限の荷物だけ纏めて、出て来ている以上、もう後には退けない。

 

俺に残された選択肢は二つ。このまま学生寮の一室に住居を構えるか、野宿で生計を立てるか。誰がどう考えても選択肢が一つしかないのは一目瞭然だ。

 

 

「分かった分かった、分かりましたよ」

 

 

両手をあげて、白旗を上げたことを証明する。これ以上駄々をこねたところで意味がないし、変に交渉したところで活路が見いだせる訳でもない、ここは諦めて素直に退くのが得策に決まっていた。

 

 

「で、話は以上か?」

 

「うむ。すまんの授業中に呼び出したりして。空いた時間は学園の見回りにでも使って欲しい」

 

「要はサボリって事ね、了解。何かあったらまた連絡する。じゃ、俺はこれで」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ひらひらと手を振りながら学園長室を出る。

 

学園長室の扉閉めると、壁に背を預けてほんの少しだけ考え込む。さっきクラス名簿に載っていた近衛の実の孫、木乃香。

 

あの顔、確か昔どこかで見たような気がする。特に長く関わっていた訳じゃないが、どこかでほんの一瞬関わった記憶が頭の片隅に残っていた。

 

 

「……」

 

 

ダメだ、思い出せない。

 

すぐに思い出せるかと思ったら、中々思い出せない。長く生きてしまっているせいか、他の記憶が混じり合ってしまい、この場ですぐに具体的なシーンを思い出すのは無理だった。 

 

 

「まぁ、いいか。どっかで会った気がするんだけどな……」

 

 

改めて学園長室を後にする。

 

そして一限の授業が終わるまでの間、校舎内をぶらつきながら適当に時間を潰すのであった。

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