ネギま! another scenario   作:たつな

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脅威は側に

「カエル百八匹回収終わったアルよー」

 

 

やれやれと額を拭うしぐさを見せながら、カエルがパンパンに詰め込まれた袋を持ち上げる古菲。袋の中では詰め込まれたカエルたちがゲコゲコと元気に暴れまわっている。それほどの数のカエルが車両内に充満していたと考えると、どんな地獄絵図だろうか。

 

何とかカエル騒動は解決したものの、生徒の何人かと引率教師のしずなが気絶するという事態に、ネギは車両内で深く考え込んでいた。今は各班の人員がいるかどうかの確認をあやかが行っていて、他の生徒は待機といった形になっている。

 

 

(あ、兄貴間違いないぜ! これは関西呪術協会の仕業だ!)

 

(う、うん。でもどうしてカエルなんだろう)

 

 

ネギと相棒のオコジョ妖精のカモは二人で現状の把握に努めていた。何の前触れもなく出現したカエルだが、自然に湧き出たものではないのは明白。潜伏している術者の誰かが今回の騒動を起こしたと考えられる。その術者は関西呪術協会の手先の可能性もあり得る。ただわざわざカエルを召喚した意味が分からずに、ネギは頭を悩ましていた。

 

 

(うーん……ただの嫌がらせか、それとも騒動の隙に何かを狙っていたか)

 

 

念話で会話をする二人だが、何気なくカモの発した発言にハッとした表情を浮かべながら、背広の内ポケットを必死に探していく。何かを狙う可能性があるとすると、修学旅行前に近右衛門から預かった親書もあり得るのではないかと推測した。

 

関西呪術協会の一派からすれば、関東呪術協会からの親書を詠春に渡されれば自由に行動が出来なくなる。つまりこの親書を手渡されることだけは、何が何でも防がなければならない。逆にネギたちはこの修学旅行を円滑に行う上でも、必ず渡さなければならない。それが修学旅行を行う上での絶対条件だからだ。

 

上の左右のポケットを探すもどこにも見当たらずに焦燥感を覚えるネギ。

 

 

「な、ない! 学園長から預かった親書が!」

 

「何!?」

 

 

上のポケットで見つからず、入れた覚えのない下についているポケットを探すと何かが手にあたる。それを掴んで引き出すと見覚えのある手紙が出てきた。親書があったことにほっと安堵の表情を浮かべ、カモは驚かせるなよとネギに言う。

 

しかしたった一瞬の油断が時には命取りになる。

 

 

「えっ……」

 

 

不意に握っていたはずの親書が消えた。

 

親書を見つけたことで周囲のことに気が回らなかったネギは、僅かな隙をつかれて、親書そのものを盗まれてしまう。

 

 

「あーっ、鳥!?」

 

 

まさか人間以外の動物が、正々堂々と物を盗んで行くなんて考えられなかっただろう。どこからか燕の様な鳥が飛んできて奪っていった。ネギたちから逃げるように、鳥は先の車両へと逃げていく。

 

このまま見失えば、親書を届けることが出来なくなる。そればかりは何としてでも防がなければならない。

 

 

(しまった……大切な親書を奪われた!!)

 

「兄貴!! 追うぜ」

 

「う、うん!」

 

 

慌てて逃げ去る鳥を追いかけていくネギとカモ。二人が走っていく様子を不審に思った明日菜が、座席越しに声を掛けるも、制止を振り切って車両を後にした。

 

丁度ネギたちが居なくなったタイミングで、点呼を追えたあやかが明日菜の元へと訪れる。

 

 

「アスナさん、このかさん。桜咲さんがいませんわ」

 

「え……せっちゃんが?」

 

 

刹那が居ないことに首を傾げる木乃香だが、背後から雄が声を掛ける。

 

 

「いや、桜咲ならさっきお手洗いにって外に出たぞ」

 

「あ、あらそうでしたの? それでは問題なく全員いらっしゃいますね」

 

 

雄の言うことに納得したあやかは名簿に丸を付け、自分の席へと戻っていった。あやかが立ち去ったのを見て、雄は二人に疑問を問いかけていく。

 

 

「そう言えば二人はネギ先生はどこに行ったか知ってるか? さっきから姿が見えないんだが」

 

「え? ネギならさっき血相変えてあっちに……」

 

「そうか、ありがとう。助かるわ」

 

「あっ、雄さんストップ! 今は行かない方が」

 

 

前方車両に向かおうとした雄を、明日菜が止めた。

 

 

「え? 何でだ?」

 

「え、えーっと、それは……」

 

 

止められた事に疑問を持つ雄に、どう伝えれば良いのか分からずに口ごもる。ネギが慌てていると言うことは、今回のカエルの件も、魔法によるものではないかと明日菜は推測した。今行ってしまうと何も知らない雄が、魔法の存在を認識してしまうかもしれない。

 

無関係者に魔法の存在がバレてしまえば、当事者はオコジョにされて、強制送還を食らうことになる。それだけは何としても阻止しなければと咄嗟に雄を止めたはいいが、どう言い訳をすればいいのか分からずに黙り込んでしまう。

 

まさか魔法に巻き込まれるかもしれないのでなどと言うわけにも行かず、かといって変に向かわせたところで何かがあっては遅い。どうすればと考える明日菜を余所に、駆けだそうとする雄を今度は木乃香が止めた。

 

 

「お兄ちゃん、待ってーな。しずなセンセも気絶しとるし、流石に引率のセンセが誰もここにおらんのは不味いんやない?」

 

 

木乃香の咄嗟のフォローに明日菜も内心ガッツポーズを浮かべたことだろう。

 

元々いた教師は雄、ネギ、しずなの三人。ネギは前方車両に、しずなはカエルの件があって気絶してしまっているため、今動けるのは雄しかいない。もし雄が行ってしまえば、引率の教師が誰もいなくなってしまう状況になる。

 

木乃香の言い分に、少し考え込む雄だったが、やがて納得したように頷いた。

 

 

「それもそうか。分かった、ネギ先生には電話で連絡を取ることにするよ」

 

 

引き留められたことが分かると、肩の荷が下りたかのように、安堵の表情を浮かべる明日菜。全く騒がせてくれちゃってといわんばかりの雰囲気だが、そんな明日菜を見つめる雄の視線が。

 

 

(引き留めれて一安心って顔だな。ま、前には刹那もいるし大丈夫だろう)

 

 

と、明日菜の真意は全て筒抜けの状態だったが、あえて言わずに平静を装った。

 

 

「ところで雄先生。このカエルどうすれば良いアルか?」

 

 

自身も一旦座席に戻ろうとしたところで、古菲に声を掛けられて立ち止まる。車両内のカエルの捕獲を捕獲したまでは良いが、どこに渡せば良いのか分からず、古菲は困惑した表情を浮かべながら確認してきた。

 

京都まで彼女に持たせるわけにも行かないし、かといってどこかに預ける訳にも行かない。術式が組まれた低級式神で、害らしい害はほぼ無いに等しいが、どうにかして処分が必要だろう。

 

幸いカエルたちには袋を破く力は無いようだし、一旦巡回する車掌にでも預けて、ネギに取りに行って貰うのが無難か。

 

 

「……あぁ、貰うよ。これは俺から車掌にでも渡しとく。ここに置いておいても嫌な気分になるだけだからな」

 

「ん、わかたアル」

 

 

古菲から口を閉じたまま袋を受け取ると、外に出ないように縛った。

 

 

「一旦車掌に預けてくる。渡してくるまでの間の管理は雪広に任せるから、ちょっとだけ待っててくれ」

 

 

一言だけ伝えると後部側へと向かい、誰も追ってきていないことを確認すると、片手を袋の下で支えるように付く。

 

……本来式神であるカエルを車掌に渡したところで、何も出来やしない。それに先方側が召喚した式神ゆえに、放っておけば必ずこちらを追尾してくることだ。だが、人が見ている前で行動を起こすわけにもいかず、適当な言い訳を述べて、明日菜たちから離れた。

 

連結部分には幸いなことに誰もいない、後方には同じく修学旅行に来ている他のクラスがいるだけで、トイレ以外の目的で立ち寄る生徒が来る可能性は皆無に等しい。そもそもこの連結部分はトイレがなく、その可能性も消える。

 

 

「……」

 

 

目を閉じたまま、支える手に力を籠める。ほどなくして袋の下部がほのかに発光を始めた。

 

それと同時に今まで鳴き続けていたカエルたちの鳴き声が徐々に小さくなっていく。一匹、また一匹と確実に鳴く数は瞬く間に減っていき、百匹以上居たカエルの鳴き声はピタリと止んだ。

 

袋の中で暴れ回っていた姿はどこへやら、今では鳴き声はもちろんのこと、暴れ回ることもなかった。

 

 

「これで大丈夫か。さて、後はこれをネギ君に……」

 

「風見先生!」

 

「っと、どうしました?」

 

 

戻ろうとするのと同時にネギが駆け込んでくる。

 

相当に急いでいたらしく、まるで出発前の電車に駆け込んでくる様子を思わせた。一瞬自の感情が出そうになるも抑え込み、いつもと変わらない様子でネギと接する。

 

 

「あの、カエルが入った袋を風見先生に渡したって聞いたんですが……」

 

「それでしたらこちらに」

 

 

用意していた袋をネギへと渡す。口は開かないように閉ざしてあるため、下を抱えたまま渡した。

 

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 

貰うまでは良かったものの、雄から手渡された途端に袋の中身に違和感を感じたネギは、疑い深く袋を上下に揺らす。

 

 

「あれ、何かやけに静かじゃ無いですか? それに心なしか軽い気が……」

 

 

先ほどまでは袋を持っていたのが古菲であり、ネギが持っていたわけじゃないことから、元の重さがどれくらいなのかを確認する事は出来ないが、カエルが入っているにしては軽く、車内に響きわたるほどの声で鳴いていた声が聞こえない。

 

鳴き声が聞こえないのは聞こえないのは、既に雄が中にいるカエルたちに細工を施したからだった。式神形態を解除するための術式を気を介して袋の中に送り込み、通常の紙の状態へと戻す事が出来る。

 

一定の外傷が加えられれば、自動的に紙の状態へ戻るものの、袋に入ったカエルを紙に戻すためには、力一杯袋をぺしゃんこにしなければならない。袋には潰した形跡はなく、回収した時と何ら変わらない状態にも関わらず、鳴き声が無くなるのはおかしい。

 

不思議そうに袋を眺めるネギだが、あくまで雄は知らない振りを貫き通す。こちらから魔法関係者であることを伝える必要はない、あくまでネギが気付くまでは黙りを決め込むつもりだった。

 

とはいえ、少しくらいはアドバイスを伝えた方が良さそうだ。修学旅行だと浮ついているのは分かるが、現に先方が行動を起こしてきている以上、身構えた方がいざという時にも対処しやすい。

 

考え込むネギの隣に立ち方を叩くと、去り際にネギだけに聞こえるように小さく囁いた。

 

 

「……多少なりとも周囲に動きがある。動ける人間は限られてくるわけだから、用心して損は無いと思いますよ、ネギ先生」

 

「へ?」

 

 

意味深なアドバイスに、ネギが反応する前に雄は立ち去ってしまう。

 

様々な疑念と思惑が渦巻く修学旅行。

 

果たして無事に終えることが出来るのだろうか。

 

一人残されたネギは、ただただ不安に駆られるだけだった。

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