ネギま! another scenario   作:たつな

26 / 44
おサルの進行

「ひゃぁぁああああああ!!?」

 

 

脱衣所から聞こえる悲鳴に露天風呂にいる全員が振り向く。

 

 

「おいおい、今度は一体何の冗談だ」

 

「こ、この声は……」

 

「このかお嬢様!?」

 

 

悲鳴の主は木乃香、脱衣所で何かが起こったのかもしれない。だが脱衣所ってことは木乃香が素っ裸になっている可能性もあった。

 

世間体は気にしたいが、今はそれを気にしている場合ではない。一刻の事態を争う。だから今回だけは勘弁して欲しい。

 

 

「まさか奴らこのかお嬢様に手を出す気か……!?」

 

「え? お嬢様?」

 

 

刹那の物言いにネギくんは疑問を持ったようで首を傾げた。木乃香が屋敷で育ったお嬢様だという事実を知らない。最もこの話はクラスの中でも俺や刹那くらいしか知らないオフレコであり、知らないのは無理もなかった。

 

さて、あまり悠長なことを言っている時間は無い。何事もなければ俺が殴られるだけで済む、何かあったら笑い事じゃ済まない。

 

急ごう。

 

 

「刹那」

 

「はい! お嬢様っ!」

 

 

地を蹴り、一目散に脱衣所方面へと向かう。入り口は違えど、出口は同じ混浴のようだ。この時ばかりは混浴でよかったと思う。

 

先についた刹那が確認もせずに、勢いよく扉を開く。この際確認なんかしている暇が勿体ない。悪いと思いつつも俺が、そしてネギくんも脱衣所へと足を踏み入れた。

 

 

「おい! 大丈夫……か?」

 

 

視界に広がる光景や如何に、誰がこんな展開を予測できただろうか。目の前に広がるのはほぼ全裸に近い明日菜と木乃香だった。下着は辛うじて残っているのだが、もはや全裸に果てしなく近い状況になる。

 

そもそも露天風呂へ続く脱衣所なのだから、別に全裸になることは問題ない。

 

あくまで冷静かつ客観的に分析をすると問題なのはそこではなく、自分たちで意図的に服を脱いだのではなく、周囲に群がる猿たちが、二人の衣類を引き剥がそうしているのだ。

 

その様子を見たネギくんは盛大にずっこけ、刹那は体勢を崩される。身につけている下着も猿に引っ張られ、もはや全裸寸前。必死に抵抗するも物量に身を任せて襲ってくる猿の力に徐々に抵抗力を失っていった。

 

そもそもこの猿、動物園で見るようなものではなく、非常にファンシーな感じの可愛らしいものなる。当然、こんな猿は現実にいない。誰かによって生み出された、式神そのものだった。

 

 

「いやぁあーん!」

 

「ちょっ、ネギ! 雄先生!? な、なんかおサルがー!」

 

 

抵抗している間にも二人はポンポンと剥がれていく。下着を脱がされていく様子をワナワナと体を震わせる刹那。脱がされた下着を何とか取り返そうと、木乃香は足で下着を摘もうとするも空振り、猿に物の見事にかわされてしまった。

 

床に這いつくばっているために、大事な部分は隠れていてるが、それでも素っ裸である事実は変わらない。

 

 

「あっ、せっちゃん。お兄ちゃんにネギくん!? あーん、見んといてー」

 

 

脱衣所に刹那や俺、ネギくんが来たことに気付き、木乃香は口に手を当てて恥ずかしさを露わにした。ただ本人の口調や雰囲気もあってか、あまり緊迫感を感じない。

 

 

「こ、この小猿ども……このかお嬢様に何をするかーっ!!」

 

 

こめかみに青筋を浮かべながら、夕凪を引き抜く。完全な真剣、触れればいとも容易く物を両断する鋭い刃がキラリと光った。

 

ここにいる全員が本物の刀を見ることなど早々無いし、刹那のことを知らない人間がいきなり刀を抜けば驚くのも無理はない。近くで見ていた明日菜は刀が本物であることにぎょっと目を見開く。

 

 

「え、ちょ、桜咲さん! その刀ホンモノ!?」

 

 

もちろん本物だ。式神退治にわざわざ紛い物を使う理由もない。木乃香に襲いかかる猿の式神の群に飛び込もうと、ぐっと体勢を屈めた。

 

 

「ダメですよ! おさるさん斬ったら可哀想ですよー!」

 

「なっ!? ね、ネギ先生! こいつらは所詮式神! 斬ったところで紙に戻るだけで……わっわっ」

 

 

攻撃をしようとする刹那を止めようと、ネギくんが飛びかかる。刹那は猿が式神だと分かり刀を抜いているが、ネギくんは気付いていない。

 

恐らく式神だと分かっていないだけではなく、日本の温泉といえば猿が人間と一緒に入浴しているといった独自の先入観が邪魔をしていて、本物か式神かを見分ける区別が出来ていないように見えた。

 

突然、予想もしないところから飛びつかれた刹那は、バランスを崩しそうになるも、何とか体勢を立て直そうと踏ん張る。

 

 

「ウキッ!」

 

 

不安定なバランスの元、木乃香と明日菜の近くにいた猿の一匹が二人へと近づき、解け掛けていた刹那のバスタオルの端を思いきり引っ張った。着物の帯を引っ張るように勢いよく引かれて、バランスが崩れかけていたところへの追い打ち、さすがに両足で立っていることは出来ずに、くるくると回ったかと思うと床へと倒れこんだ。

 

ただ倒れこんだまでは良かったのだが、刹那はネギくんの顔付近に尻もちをつくように倒れこむ。つまり刹那の下腹部の前の辺りは盛大にみられていることに。案の定、現状を悟ったネギくんと明日菜の二人が声を上げ、自身の今の体勢に気付いた刹那も顔を紅潮させた。

 

 

「な、ななな!? わ、私は味方と言ったでしょう、邪魔をしないでください!」

 

「べ、別にそんなつもりは……」

 

 

この緊急事態に二人はコントでもやっているのか。随分な身体を張ったコントに、呆れつつも時間は決して待ってくれ無い。二人がバタバタとしている間に、式神たちが木乃香の身体を抱え上げ、脱衣所の外へと運び出そうとしている。小さな身体のどこにそんな力があるのだろうか、思いのほか機敏な動きに俺は思わず声を上げた。

 

 

「おい、刹那!」

 

「あっ、お嬢様!」

 

 

近くに落とした夕凪を拾い上げ、床を強く蹴るとあっという間に式神の背後に追いつく。

 

 

「神鳴流奥義……百烈桜華斬!!」

 

 

弾丸の如き速度のまま、式神の元へと飛び込むと刀を横に一閃。振り払ったかと思うと、一瞬の静寂の後、刹那の周囲を斬撃の渦現象のようなものが起こった。

 

見るも無残に斬撃によって切り刻まれた式神の紙媒体が、まるで桜吹雪が散るかの如く周囲を舞う。見事、一閃で周囲の脅威を消し去った。地面に直接落ちないように木乃香の身体を優しく支え、湯船へと着水する。

 

 

「あ……?」

 

 

何が起きたのか分からずに混乱する木乃香だが、彼女の視線は確実に刹那の顔を捉えていた。どのような状況であれ、近くに刹那がいる。望んでも叶わなかった状態が目の前にある。

 

式神たちが消え去ると同時に、点在していた気配も消え去る。わざわざ誘拐が成功するかどうかを見に来るだなんて、物好きな術者もいたもんだ。近くにターゲットがいたにも関わらず、隠れていたのは自身が前線に立って戦うほどの近接スキルがないからだろうか。

 

式神が居なくなったと同時に、気配を消して逃げ去った。

 

 

「このかー!」

 

「このかさん大丈夫ですかー?」

 

 

事態をイマイチ把握できずにいる二人も、バタバタと後を追うように浴場を駆けてくる。

 

 

「逃がしたか」

 

「ええ、でも今は無理に追わない方がいいでしょうね」

 

 

何があるか分かりませんからと返してくる刹那。変に後を追ったとしても何も得られなければ意味がない。それに誰かが後を追うということは、その分旅館に滞在する戦力を分散させるようなもの。相手の戦力がどれほどあるかも分からないのに、迂闊な判断で行動するのはあまりにも危険すぎる。

 

しっかりと判断、分析した上での冷静なコメントにこの短期間でも成長しているなと思うと、思わず笑みが漏れそうになった。

 

 

「せ、せっちゃん。なんかよーわからんけど助けてくれたん? あ、ありがとう……」

 

「あ……いや」

 

「あっ、せっちゃん」

 

 

木乃香から声を掛けられて顔を赤くする刹那だが、数秒固まった後、木乃香を湯船に優しく落とすと夕凪を持ったまま走り去ってしまった。なるほど、刹那が木乃香を目の前にした時の行動は今回は初めて見たが、想像以上に対面するのが気まずいらしい。

 

刹那にとって木乃香が大切な存在であることは間違いないが、それでも急に木乃香の前から姿を消したこと。今更どの面を提げて木乃香と接すればいいのか分からずに、一歩踏み出せないみたいだ。……前言ったとは思うが、こればかりは当人間の問題であり、第三者が介入して何とかなるような問題ではない。

 

仮に俺が介入したところで、事態が大きく好転するとも思えなかった。変に走り去った刹那を追いかけても、自分の知らないところで何かやっているのではないかと、木乃香の不信感をあおることにもなりかねない。

 

ふぅ、一体どうしたもんか。

 

 

「あ……」

 

「ちょっ何よ今のはー」

 

 

刹那の後姿を見ながら明日菜がぼそりと呟く。状況や理由を呑み込めていないからか、刹那のした行動に不満の色が見受けられた。

 

 

「木乃香、これ」

 

 

湯船に全裸で浸かる木乃香に、なるべく身体に視線を向けないように配慮をしながら、バスタオルを渡す。どう言い表せばいいのか、何とも言えない状況をいざ目の当たりにすると、声を掛ける行為が激しく気まずく思えた。小さく頷きながら手渡されたバスタオルを纏うも、やはり木乃香の表情には寂寥感がにじみ出ていて、元気はなかった。

 

 

「こ、このかさん! あの刹那さんって人は何なんですか!? このかさんのことお嬢様って言ってましたけど。そ、それに……」

 

「ん?」

 

 

ネギくんがチラリと俺の方を見る。それに釣られるように明日菜の顔もこちらへと向く。どうやら俺の立ち位置がよく分からずに、混乱しているように見えた。木乃香とも共に居る機会が多ければ、刹那とも一緒にいる。一体どのような関係なのかと、気になっているのだろう。木乃香がいる手前、話せることは限られてくるが多少なりとも話せる部分は話しておいた方がよさそうだ。

 

 

「俺のことか。ま、今回色々あったし、ちょっと話さないといけない部分があるとは思ってたんで。とりあえず場所を移動しませんか? ここで話すのも、他の生徒が来たら聞かれてしまいますし」

 

 

内容的に風呂場で話すようなものではない。

 

それにタオルを纏っているといっても、裸同然の女性が二人いる。一旦着替えて、ゆっくり掻い摘んで話した方が良い。

 

 

「それでいいか? 木乃香」

 

 

念のために本人に了承を取る。深く考え込むかと思っていたが、意外にも素直に首を縦に振った。

 

 

「うん……ごめんな、お兄ちゃんにも気ぃ使わせて」

 

「気にするな。それくらい慣れてるよ」

 

「……ありがとう」

 

 

 

 

 

 

そして場所はロビーへと移る。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。