ネギま! another scenario   作:たつな

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事は動く

 

 

 

「ん、何だ?」

 

 

刹那たちと分かれて一人自室に戻った後、シフト制の見回り業務をしていた雄だが、旅館に貼っていた式神返しの結界を通過する気配を感じた。最初はネギが外部の見回りの際に通過したためかと想像をしたものの、あれから結構な時間が経っている。戻ってくるには早すぎるし、出ていくにしても遅すぎる。

 

分担でネギは外を、明日菜と刹那は中を見張る予定で、そもそも外に出ていく人間はネギしかいない。他の生徒や教員が出ていったとも考えられるが、つい先ほど先任の教師から雄は引き継いだばかりで、他の教師たちは仮眠を取るために自分たちの教員室に籠っているはず。

 

態々貴重な時間に外に出るほど、暇を持て余す教師もいない。

 

 

生徒に関しても今日は外に出た生徒はいないと聞いている。自クラスに関しては大半がお酒を飲んで酔いつぶれてしまっていて、出歩くことはほぼ皆無。となると考えられるものとしては、他の第三者が自動扉を通過した可能性だ。

 

 

「……」

 

 

一瞬どうしようか考える雄だが、万が一のこともある。事態が悪化してからでは元も子もないため、様子を見るために持ち場を離れて歩を進めた。一旦は刹那にも報告すべく、第五班の部屋へと向かう。女性の部屋に向かうのはいささか抵抗があるが仕方ない。

 

嫌な予感がする。思えば思うほどに歩く足は速まっていった。そして五班の部屋の近くの曲がり角に近付いた時、目の前に映る影に足を止めた。絨毯状の床に浮かぶ影など、ほんの僅かに黒が浮かぶだけで目視で判断するのは困難を極める。だが僅かな変化でありにもかかわらず、雄は色の変化を見逃さなかったのである。

 

影がはっきりと色濃く出てくる瞬間に雄は物陰に身を潜め、顔だけをのぞかせたまま様子を伺う。

 

 

(あれは確か清水寺の時にも見た影だよな……)

 

 

清水寺ではほんの一瞬視界に映っただけのため、同じものだと確信は持てなかった。が、同じものである可能性は高い。敵の姿が見えない、かつ正体が分からない以上、何かを仕掛けるわけにも行かず、いつの間にか数秒ほど点在していた影は何事もなかったように消失していた。

 

まさか今の影が式神返しの結界を通過する気配だったのか。消失してしまった以上は確認することも出来ず、五班の部屋へと向かうべく、曲がり角を曲がると部屋の前には自室に入ろうとする刹那の後姿が見えた。バタバタと忙しなく扉を開けようとする仕草は、窮地に追い込まれているような雰囲気を連想させる。

 

 

「刹那? 見回り終わったのか?」

 

 

たまらず雄は刹那に向かって声を掛ける。すると声に反応した刹那は、いつもより焦りの表情を浮かべたまま雄の方へと振り向く。

 

 

「あ、雄さん! ひょっとして雄さんも?」

 

「……ってことは刹那もか」

 

 

同じように何らかの気配を感じた、と考えるのが妥当か。とにかく今は時間が惜しい、木乃香の無事を確認しなければ、何事もなかったの一言では済ませられない。

 

 

「刹那、木乃香は?」

 

「今から確認するところです。私も結界を通過した気配を感じて駆け付けたばかりで……」

 

「そうか。俺はどうすれば良い? 一旦部屋に入った方が良いか?」

 

「寝ている方もいらっしゃるでしょうし、中まで入るのは雄さん的にもまずいでしょうから、ちょっと入り口付近でお待ちいただければと」

 

「分かった」

 

 

刹那の一言に大きく頷くと、雄は五班の部屋へと入る。

 

入ったところで待ち、先に刹那が部屋の奥へと進んでいった。部屋の奥では遊んでいるのか、ガヤガヤと騒がしい様子が伝わってきた。気にはなるが許可も無しに部屋の奥まで入ることは出来ないし、雄の方から行動を起こすことも出来ない。待たされてから数分ほど玄関先で時間をつぶしていると、再び刹那が戻ってくる。

 

 

「起きているのは神楽坂さんと、綾瀬さんだけのようです。綾瀬さんには見回りの体で一旦許可を取ったので、どうぞ入ってきてください」

 

 

どうやら刹那が入室の許可を取ってくれたらしい。彼女の言葉に誘導されるがまま、部屋の中へと入る。

 

 

「あ、雄さん」

 

「よ、明日菜。それと……綾瀬?」

 

「う、うぅ。こんばんはですぅ……」

 

 

部屋で起きているのは明日菜と夕映の二人のみ。明日菜は先ほどと何ら変わらない表情で居たが、綾瀬はやや苦悶の表情を浮かべながら、忙しなくうろうろと部屋を徘徊する。少し徘徊したかと思うと、今度は急に立ち止まりぴょんぴょん飛び始めた。

 

一連の動作を見ていた雄は、夕映が何かを我慢していることを察する。そしてその我慢しているもの、事象が何なのかも。ただ本人にとってはセンシティブな情報であり、おいそれと言葉に出して言えるものではなく、何事も無かったかのように視線を刹那と明日菜の方へと向けた。

 

と、そこで部屋に木乃香が居ないことに気付く。一番居て欲しい人物が部屋におらず、雄はキョロキョロと辺りを見回した。

 

 

「雄さん、このかなら今お手洗いに。ちょっと長引いちゃってるけど」

 

「え?」

 

 

明日菜の発言に同意を求めるように刹那の方を向くが、反応は変わらず頷くだけ。言われてみればトイレの電気は付いていて、中には人のいる様子が伺える。なるほど、中に人がいれば夕映は用を足せない。

 

初めの内は何の気無しに我慢していたが、入っている時間が思いの外長く、徐々に我慢の限界が近付いていると言ったところだろう。それもそろそろ笑い事では無いレベルらしく、夕映の顔には冷や汗が浮かび、表情はより一層険しいものとなる。

 

 

「……」

 

 

生理現象など当事者にしか分からない。しかし物事には限度がある。今部屋に入ってきたばかりで現状が掴みきれておらず、初めから部屋にいた明日菜に改めて状況を聞いていく。

 

 

「木乃香っていつくらいから?」

 

「え? えーっと確か十分くらい前からかな。一回ノックはしたんだけど、入っているって返事が来たから間違いなく居ると思うんだけど……」

 

「……そうか」

 

 

最後の方は明日菜もどこか自信なさげに伝えてくる。流石に友人とはいえ、トイレの中まで介入することは出来ない。声はドアの外からでも聞くことが出来るが、姿は扉を開けない限りは見れない。

 

扉の上部に小窓があるものの、特殊なガラス素材によって中の様子は確認できない。だからこそ確実に居ると言い切ることが出来なかった。

 

そうこうしている間にも確実に夕映の限界は近付いて来る。

 

 

「う、うぅ……こ、このかさぁん」

 

 

トイレの扉に倒れ込むように身体を預け、中にいるであろう木乃香に声を掛ける。すると中にいる木乃香から返事が返ってきた。

 

 

「入っとりますえー」

 

「ほら、返ってくるでしょ? だから大丈夫だと思うんだけど」

 

「……」

 

 

声は返ってきたが違和感が拭えない。

 

トイレに十分くらいこもることは有り得ないわけではないため、時間に関しては気にする要素ではないが、何回も呼び掛けて居るにも関わらず、返ってくる言葉が同じなのはいささか不自然に思える。

 

しかも相手は木乃香だ。少なくとも相手を気遣う言葉を掛けることくらいは、容易に想像できる。だが今は彼女の優しさが感じられない、我慢をしている夕映を一言で返すのみ。

 

 

「こ、このかさん……わ、わたしにも限度と言うものがっ……!!」

 

「お嬢様! 大丈夫ですか!」

 

「入っとりますえー」

 

「っ!?」

 

 

刹那も流石に心配に思えてきたか、ドンドンと二度トイレの扉をノックすると。先ほどと変わらない返事が、中からは返ってきた。一件何の変哲もない返事に思えるが、木乃香の返事に対して違和感を覚えていた。

 

おかしい。

 

まるでリピートされた曲を何度も聞かされているみたいだ。気遣う部分が微塵も感じられず、感情が捨てられた機械音声のような一言。繰り返し呟かれる無感情の声に、表情を変えて雄は立ち上がった。

 

 

「わっ! 雄さん?」

 

 

不意に立ち上がった雄に驚きの声を上げる明日菜は、急にどうしたのかと見つめる。

 

 

「刹那、トイレの扉を開けろ」

 

「え? し、しかしまだ中にはお嬢様が」

 

 

トイレで用を足しているかもしれないというのに、いきなり何を言い出すのかと瞬間的に判断する刹那だが、雄の浮かべるいつもと違った雰囲気の顔立ちに、言葉を止めた。

 

彼の顔にふざけているような節は見受けられない。それどころか切迫したかのような、危機迫った仕事人のような表情を浮かべていた。

 

 

「いいから早く! 取り返しが付かなくなる!!」

 

 

普段、語気を強めることなどまずない雄が、強い口調で刹那に指示する。雄の声にトイレの方振り向くと同時に我慢が限界を向かえている夕映が、涙目で何度も何度もドンドンとトイレの扉を叩いた。

 

 

「入っとりますえー」

 

「っ! これは……」

 

「う、うん。おかしいわね」

 

 

変わらない言葉の羅列に、刹那と明日菜の両名も流石に可笑しいと気付き、扉の前へと立つ。幸い鍵は掛けられていないようで、ドアノブを回せばすぐにでもトイレに入れる状態だった。

 

 

「このかさぁんっ!!」

 

「お嬢様、失礼します!」

 

 

失礼なのを承知で、トイレの扉を開ける。四人の目に映るのは木乃香の姿ではなく、便器に貼られた呪符だった。

扉が強引に開けられた今でも繰り返し、同じトーンで同じ言葉を繰り返し続けている。

 

 

「こ、このか!? お、お札が喋ってる!?」

 

「くっ、しまった!」

 

 

木乃香居ない。勝手に部屋の外へ出て行く姿は明日菜も刹那も見ていないことから、誰かに連れ去られたと考えるのが妥当か。

 

一番起きて欲しくない事態が起きてしまったことに、頭を悩ます一同だが、悩んでいる暇など無い。今は一刻も早く木乃香を見つけ、助け出さなければならない。

 

 

「いいから、わたしにおし○○させて下さい~っ!!!」

 

 

夕映の悲痛な叫びにトイレから呪符を引き剥がし、場所を譲る一同。旅館内に姿を潜めている可能性は低く、既に外へと連れ出されていることだろう。雄と刹那は顔を合わせると、意志疎通で追いかけようと伝えあう。

 

互いの意図を把握した二人は、一目散に部屋の外へと駆け出そうとした。

 

まさか人目を盗んで強攻策に出てくるとは、想定もしなかった。不測の事態、慣れない経験にどうすればいいのか分からずわたわたと慌て回る明日菜だが、ふと足を止める。

 

 

「あ、二人とも待って! 何か急にネギの声がっ!」

 

「ネギ先生の声?」

 

 

明日菜の呼びかけに立ち止まる二人。

 

ネギは一人、旅館外に出て見回りを続けている。もしかしたら旅館の外で、木乃香を誘拐した犯人と出会っているかもしれない、出会っていなかったとしても今回の件に関しては一旦共有を入れた方がよさそうだ。

 

 

「多分念話だろう。ネギ先生と仮契約を結んでいるなら、それを使って連絡が取りあえる」

 

「で、でも私どうやって返したら……あぁ、もう! 携帯の方が早いじゃないのよ!」

 

 

どうネギに返せばいいのか分からず、カバンの中にしまった携帯電話を探す。探し出したところで、携帯電話を開き電話を掛けながら、三人揃って部屋の外へと出た。

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