ネギま! another scenario   作:たつな

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異変

「フフ……よーここまで追ってこれましたな」

 

 

長く続く階段の半ばまで追いつめる一同。着ていた熊の着ぐるみを脱ぎ捨て、着ぐるみには気を失った木乃香が寄り掛けられていた。

 

着ている服に見覚えがあるのか、ネギは目を見開いて驚く。

 

 

「そやけどそれもここまでですえ。三枚目のお札ちゃんいきますえ」

 

「させるかっ!」

 

 

呪符の発動を食い止めようと一人先に駆け出そうとする刹那だが、それよりも早く術式が作動する。

 

 

「三枚符術京都大文字焼き!」

 

 

読んで字の如く、大の字に展開された炎が刹那の行く手を阻む。階段一体に広がる炎から発せられる熱が、近付く刹那を襲った。

 

 

「うあっ!?」

 

「桜咲さん!」

 

 

広がる炎から刹那を守ろうと、明日菜は力任せに後ろへと引き寄せる。引き寄せると同時に、刹那が居た辺り一帯を業火が埋め尽くした。

 

後一歩遅ければ大火傷をしていたかもしれない。間一髪のところで助けることに成功し、熱線が当たらないギリギリの場所まで退避する。この高さの業火を飛び越え留のは難しい、もしこの一帯を突き抜けるのであればまずは目の前に燃え広がる炎を消し去らなければならない。

 

 

「ホホホ、並の術者では越えれまへんえ。ほな、さいなら」

 

 

勝ち誇ったかのように笑みを浮かべるが、場にはまだ二人切り札が残っている。杖を構えて素早く詠唱を唱えると、ネギは広がる炎めがけて魔法を発動させた。

 

 

「風花……風塵乱舞!!」

 

 

並の術者では越えられない炎かもしれない。だが、ネギは魔法学校を主席で卒業したエリート、近距離戦は苦手でも、遠方からの魔法攻撃は彼の十八番。

 

この程度の炎を消し去ることなど、そう難しくはなかった。一帯に広がる炎はみるみる内に消え去り、やがて何事も無かったかのように鎮火した。

 

 

「逃がしませんよ!! このかさんは僕の生徒で、大切な友達です!」

 

 

そう宣言すると左手に握った仮契約カードを高く掲げて、契約の執行を行う。明日菜の周囲にはネギの魔力が纏い、いつでも戦える状態になる。

 

自身の前に守るように立つ、ネギと明日菜の姿を見て、刹那は何とも言えない気持ちになる。いつもは自分が居たであろうポジションに、今はネギと明日菜がいる。守ってもらうことなんて、ほぼ無かっただけにどう反応すればいいのか分からずに惚けてしまった。

 

そんな刹那の心中を察してか、今まで無言を貫いていた雄が、刹那の横に立つ。

 

 

「なっ、頼もしいだろ? 木乃香を思う気持ちが強いのは、何も刹那だけじゃないぜ」

 

 

一言呟くと、場にしゃがみ込む刹那を立たせた。

 

 

「桜咲さん、行くよっ!」

 

「え……あっ、はい!」

 

「もー、さっきの火下手したら火傷しちゃうじゃない。冗談じゃ済まないわよ! さっさとこのかを返しなさい! このバカ猿女ー!」

 

 

階段を蹴り、刹那と明日菜は二手に分かれて相手に走っていく。そして二人の後を追うように、ネギと雄が続いた。

 

どうやらネギとカモの反応を見るに、仮契約を交わしたパートナーには、専用の武器が与えられるらしい。それを先を走る明日菜に告げ、ネギの呪文が唱えられたかと思うと『ハマノツルギ』と呼ばれる専用武器(アーティファクト)が、明日菜の手元に現れた。

 

形状を成していく魔力の固まりに、期待を込める明日菜。しかし光り輝いた瞬間、明日菜の手に握られていたのは。

 

 

「は、ハリセン?」

 

 

何の変哲もないハリセンだった。

 

ハリセンにしては装飾が凝らされているが、誰がどう見たところでハリセン以外の何物でもなく、剣要素を微塵も含んでいない。階段を上り掛けていた雄が拍子抜かされて、思わず足を踏み外しそうになる。

 

無理もない、誰がどう見ればハマノツルギに見えるのか。そう思ったのは雄だけでは無く、塚を握っている明日菜も同じ気持ちだった。どういうことかと顔だけを振り向かせて、ネギに抗議する。

 

 

「ちょっと、ネギ! ただのハリセンじゃん!」

 

「あ、あれー?」

 

 

召還したネギもただ首を傾げるしかない。とはいえ、この際武器に対して贅沢を言っている余裕はない。事態は一刻を争う状況であり、武器が悪いから変えてくれなどと悪態を付いている状況ではなかった。

 

 

「もう、仕方ないわね!」

 

 

相手に近付くと、魔力で強化された脚力を生かして高々と飛び上がり、ハリセンを振り下ろす。

 

確かな手応えと共に眼前に現れたのは、先ほど風呂場にて現れた小猿を大きくしたかのような式神と、熊の式神の二体だった。片方はしっかりと刹那の斬撃を止めているが、猿の式神に関しては白羽取りしようと試むも、間合いが足りずに頭部に一撃を食らってしまった。

 

ダメージらしいダメージが無いのは、突如現れた式神が何とも間抜けな顔をしていたせいで、当たる直前に力を緩めてしまったから。また今まで着ぐるみとして着ていたはずのものが、勝手に動き始めたことに驚きを隠せなかったからだ。

 

見た目は間抜けでも、呪符使いの前衛を担う善鬼と護鬼。油断はままならない。それに当の術者本人も、強力な式神であることは分かっているようで、再度勝ち気な表情を浮かべながら場を立ち去ろうとする。

 

 

「ウチの猿鬼と熊鬼は中々強力ですえ。一生そいつらの相手でもしていなはれ」

 

「……待てよ。まさか他に二人居ることを忘れてないだろうな?」

 

 

立ち去ろうとする背後に既に回り込んだ雄は、両手を広げながら先へ行かせまいと立ちふさがる。が、そんな雄にも焦りの表情を浮かべることは無かった。

 

 

「ふん! アンタの相手はウチではありまへんえ」

 

「何……「雄さん、後ろ!」ちいっ!!」

 

 

刹那の声かけに瞬時の反応を見せ、場から飛び退くと同時に雄の居た地面がえぐり取られる。

 

地面に片手を付き、勢いを利用して側転しつつ近くの地面へと立つも、ほのかに頬を伝う生暖かい感触に、視線下げた。しっかりと避けたつもりだったのだが、ほんのわずかに相手の攻撃が掠ったのか、左頬の切り傷から、じわりと血液が溢れ出ている。

 

実力から見て上級クラスの式神だろうか、以前戦った上級式神に比べて実力が高い。式神の中でも本当の上級に位置する式神なのだろう、この場で二体相手にしなければならないとは、面倒なことこの上ない。

 

忌々しげに舌打ちをすると、前から近付いてくる足音に気付き顔を上げた。

 

 

「お前は確か……」

 

「久しぶりやなぁ風見はん。麻帆良学園ではどうもおおきに」

 

 

声を含めた立ち居振る舞いに見覚えがあった。あの時は羽織のせいでよく見えなかった顔が、夜だというのによく見える。かつて刹那を不意打ちで誘拐し、手を出そうとした関西呪術協会の手先。

 

 

「お礼をされるようなことはした覚えがないんだがな。むしろよくもまぁ、おめおめと面を出せれたもんだ」

 

 

相手の正体が分かるや否や、平静を装っていた表情が険しいものへと変化する。未然に防げたとはいえ、自分の大切な生徒を手に掛けられそうになったのだから、麻帆良学園での一件を快くは思ってはいない。まして間隔的にも短期間で顔を合わせているせいで、相手の印象を雄も覚えてしまっている。

 

もう少し間隔が空いていれば、多少なりとも雄の相手に対する負の感情は薄れていたかもしれない。が、これも運命だろう。すぐにでも殴り倒したい気分に苛まれるが、自身の気持ちを抑え込みながら話を続けていく。

 

 

「んで、この前やられた人間が今回は何の用だ? まさかリベンジなんて言う訳じゃねーだろーな」

 

 

戦線に出てきている時点で、前回の復讐のためであることは分かっているが、あえて皮肉を込めながら伝えていった。わざわざ顔を出すくらいだ、相手方にも勝算があるからこそ出てくるのだろう。鬱陶しそうに頭をかきながら尋ねる。

 

 

「ははっ、アンタも頭が悪いなぁ。こっちから出向いてんねんから分かるやろ?」

 

「……」

 

 

煽りに煽りで返されて、雄のこめかみがピクリと反応した。軽口を叩かれたことに、多少の苛立ちを覚えている。我を見失うレベルで沸点が振り切れているわけではないが、頭が悪いと罵られれば気分が悪くなって当たり前。

 

それに加えて、この緊迫した状況に余裕があるわけでもない。こうして話している間にも明日菜は熊鬼と、刹那は新たに現れた神鳴流の剣士と戦っていて、既に残っている人材はネギのみと少ない状態だ。

 

もし追加で増援が現れる可能性も考えると、悠長なことは言っていられない。しかしそれは相手にも同じことが言えた。

 

 

千景(ちあき)、遊んどる場合ちゃうで。増援を呼ばれたら面倒やし、さっさとこいつらなんとかしーや!」

 

 

千景と呼ばれた男性に向かって、デカザルの着ぐるみを着ていた女性が声を荒げて伝える。ある程度、麻帆良学園側の戦力を見越して、作戦を決行しているのだから、戦力的には足りると踏んでいるのは関西呪術協会の方だ。

 

しかし、時間を掛ければ掛けるほど、相手に情報を伝える上に、総本山に援軍を求められたら今後の作戦完遂に支障を来す。また必要以上の戦闘は、現有戦力を削ることにもなりかねない。例え木乃香を無事に誘拐出来たとしても、後に残る戦力が無ければまた奪還されてしまう。

 

理想は最後まで気付かれずに、木乃香をさらうことだったがそれはもはや叶わぬ夢。ならばこちらの損害を極力減らし、相手を撒くことが最優先事項になる。

 

 

「分かっとるわ千草(ちぐさ)ねーちゃん。時間を掛けるつもりなんて毛頭無いわ」

 

 

結局のところ時間は掛けたくない。千景と呼ばれた男性が、姉である千草に言うようにさっさと片付けなければならない。つまり彼の言い方は、雄に勝算があることを明示するようなものだった。

 

一連のやり取りを静観していた雄だったが、千景が返事をした瞬間に、一歩足を踏み出す。

 

 

「時間を掛けるつもりはない、ね。随分と舐められたもんだ」

 

「勘違いすんなや、風見はん。別にアンタのことを弱者と言うとるわけちゃう。正直アンタと正攻法で立ち向かいたくはない。せやけど、どんな人間にも弱点はある。弱点のない人間なんてあり得へんのや」

 

「……何が言いたい?」

 

 

意味深な千景の発言に歩を止めた。

 

場にそぐわない発言に、もしかしたら別の意味が込められているのではないか。本当に雄に勝つための勝算があるのかもしれない。一旦様子見のために、千景との距離を取る。

 

罠でも仕掛けてあるのに、このまま進んだらそれこそ相手の思う面。

 

 

「ワイが何かしたところでアンタには見破られてまう。それはウチのねーちゃんでもそうや」

 

 

なおも千景は言葉の羅列を続けて行く。

 

もし仮に千景が何かを考えたところで、すぐに雄にはバレてしまう。それは彼なりの雄に対する評価であり、正攻法では敵わないという紛れもない事実だった。

 

雄を倒すためには不意打ちを狙っていかなければ厳しい。だが不意打ちを仕掛けようにも、彼に近付くのは容易なことではなく、少しでも敵意を見せれば気付かれてしまう。

 

彼を奇襲するのに有効な手段があるとすれば一つ。

 

 

「でもな、それがアンタの近くにおる、大切な人やったらどうや……?」

 

「?」

 

 

雄の周囲を取り巻く人間を利用したとすればどうだろうか。

 

少なくとも第三者が奇襲するよりかは、確実に成功率は跳ね上がる。ただ、雄の周囲を取り巻く人間といえば木乃香や刹那が挙げられるものの、二人が理由無く雄を攻撃する可能性は万に一つもない。

 

千景はニヤリと表情を歪めると、その場で術式を唱え始める。嫌な予感がする、不測の事態備えて身構える雄だが、数秒もしないうちに雄の身体を異変が襲った。

 

 

「ぐっ……てめっ、俺の身体に何を……!?」

 

「アンタ、ホンマに甘いなぁ。せやから足下を救われるんやで?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

身体に力が入らず、膝から地面に倒れ込んだ。

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