ネギま! another scenario   作:たつな

34 / 44
【修学旅行編】-中巻-
二日目へ


「それでは麻帆良中の皆さん、いただきます」

 

「「いただきまーす!」」

 

 

二日目朝、無事に初日を終えた麻帆良学園一行は、大広間に集まり朝食を取っていた。ネギの一声で各々、目の前に並べられた朝食へと手を掛け始める。昨日の思い出を語り合うなど、修学旅行に良く見られる至って普通の光景ではあるのだが、三年A組だけは少し違っていた。

 

というのも、昨日はほとんどの生徒が清水寺の音羽の滝にて酔い潰れてしまったが故に、途中からごっそりと記憶が抜け落ちている。潰れたままホテルに運ばれ、夜はそのまま寝てしまったことを考えると、初日の大半を潰してしまった。故に盛り上がる要素がなく、学年一騒がしいはずのクラスが異様なまでに静かなのだ。

 

現にまだお酒が残っているのか、味噌汁を片手にクラス委員長のあやかは眠そうな表情を浮かべている。

 

 

「うー……昨日の清水寺からの記憶がありませんわ」

 

 

寝起きは悪くないというのに、いつも以上に目がシバシバとした。当然、自分たちが水と思っていたものがお酒とは思うはずもなく、慣れない土地に来たことで疲れてしまっただけだろうの一言で済ませてしまう。

 

特に深く気にすることなく、並べられている精進料理の数々に手を着けていく。

 

 

「せっかくの修学旅行の初日だったのに、くやしー!!」

 

 

同じくあやかの席の近くに座り、朝食を取っている裕奈は、勝負に負けたかのように悔しそうな表情を浮かべながら味噌汁を啜る。

 

お祭り好き、騒ぐことが好きな彼女にとって、醍醐味ともいえる修学旅行初日を潰してしまうことは何よりも由々しき事態だった。それは裕奈だけではなくクラスの大半がそう思っていることだろう。

 

三年A組の生徒のほとんどがぽかんとしながら食事を進めていく。朝食だと気付かず、夕食だと思っている生徒も居るくらいだ。

 

 

「とりあえず、寝坊してる生徒は居ないみたいだな」

 

 

食事を取る生徒の数を、離れて数えていく雄は、全員無事に大広間に居たことで、ふぅと息を吐いた。酒の回り方によっては二日酔いで起きれない生徒が居るのではないかと危惧していたものの、心配は杞憂に終わった。

 

ただ、朝のテンションの低さは雄も感じているところで、いつもだったらもっと騒いでいただろう。多少の物足りなさを感じつつも、雄もネギの隣に腰掛けて朝食を取り始めた。

 

すると、お盆を持った木乃香が二人の前を通る。

 

 

「二人とも眠そうやねー」

 

「おっす木乃香」

 

「おはようございます、このかさん」

 

「昨日はありがとなー。何やよー分からんけどせっちゃんやアスナと一緒にウチを助けてくれて」

 

 

木乃香のいう昨日は、天ヶ崎千草たちによる誘拐阻止のことを意味する。木乃香自身、連れ去られたことをあまり覚えておらず、そもそも自分を連れ去ったのが誰かも分かっていない。

 

唯一覚えていたのは、刹那を筆頭に雄やネギが助けに来てくれたことだけであり、身に覚えがないと思いつつも、二人に感謝の言葉を述べた。

 

 

「ははっ、んな大したことはやってないよ」

 

 

木乃香に事情を悟られる訳には行かず、淡々とした口調で雄は返答する。何故さらわれたのか木乃香が気にしていないため、必要以上に情報や状況を伝える必要もない。雄の反応ににこりと笑うと、ふと視線が先の方へと向いた。

 

 

「あっ、せっちゃん」

 

 

ネギと雄の先、席の端の方に存在を消すかのように刹那は佇んでいる。木乃香の声掛けにピクリと身体が反応したかと思うと、自分のトレイを持って無言で場を立ち去ろうとした。近くにいた夕映が刹那の姿をちらりと見やる。

 

一緒に食べようと近寄る木乃香から逃げるように、そそくさと離れる姿に、たまらず木乃香が声をあげた。

 

 

「あんっ、何で!? 恥ずかしがらんと一緒に食べよー!」

 

 

刹那の後をパタパタとついて行くものの、追跡を振り切るかのように逃げる足を早めていく。

 

 

「せっちゃん、何で逃げるんー?」

 

「刹那さーん!」

 

 

刹那の後を木乃香だけではなく、ネギまで追い始める。流石に恥ずかしくなってきたのか、刹那も言葉を返した。

 

 

「わ、私は別に! そういうわけでは……!」

 

 

バタバタと追いかけっこをする刹那、木乃香、ネギの三名。端から見れば何をしているのかと笑いの対象になるだけだが、三年A組の生徒からすれば、刹那と接点を持っている生徒がいたことに驚きだった。

 

元々寡黙で凛とした雰囲気の彼女は、クラスと溶け込むような事はせず、一人孤高の存在として生活を送っていた。休み時間は誰かと会話を楽しんだり、交流を含めることは無く、光り輝く存在とは正反対の陰のような立ち位置。

 

いわばエヴァと似たような立ち位置に居た。そんな彼女が照れ隠ししながら逃げ回っている。普段の学園生活では決して見せない表情であり、如実な変化だった。

 

 

「なになに? 桜咲さんのあんな表情初めて見たー」

 

「私が知らないところで何かが!?」

 

「くぅー! 今日こそ寝ないよー!」

 

 

各々、刹那の見たことのない表情に驚き、新鮮に思えた。朝食を取り終えた一同は、改めて二日目の行動へと移る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ、ネギ先生は五班と回るんだな」

 

「はい、万が一の事を考えるとアスナさんや刹那さんも居ますし、宮崎さんからも誘われたので」

 

「ん……宮崎?」

 

 

朝食後、今後の軽い打ち合わせをするべく、ネギと雄はロビーに来ていた。今日は奈良の班別行動日であり、各教員は好きなところを巡回、もしくは班に付き添って一日を過ごすスケジュールになっている。

 

ネギは朝食後、あらゆる班に声を掛けられ、盛大な争奪戦の後に五班と奈良を回ることに。明日菜や刹那が居ることも大きいが、のどかの勇気を絞った一言が無ければ別の班と回っていたことだろう。

 

ネギの話を聞き、のどかの想いを汲み取りつつ当時の争奪戦の様子を想像した。

 

 

「そうか、なるほどね。しかしまぁ頑張ったな宮崎も」

 

「あの、頑張ったとは?」

 

「兄貴もスミに置けねぇってやつですよ! ですよね、雄のダンナ!」

 

「あぁ、まぁそんなところだ。となると俺は別の班に付き添った方が良いか……」

 

 

昨日の一件からオコジョ妖精のカモとも打ち解け、たわいの無い会話を交わす。意味が分からずに首を傾げるネギ。まだまだ彼に女心を理解するだけの経験はないようだ。

 

さて、現実に話を戻すと、木乃香の護衛のために動ける人間は雄、ネギ、刹那、明日菜の四人。内二人は五班の班員で、引率としてネギが付くことが分かっている。手札は何枚あっても困らないが、流石に同じ班に引率教員が二人も付くのは見栄えがよろしくない。

 

基本的には一班に付いて一人であり、二人が纏まってしまえば、他の班から反感を食らう可能性もある。幸い昨日の戦いで、先方の戦力をダウンさせている事もあり、二日連続で襲ってくる可能性は低い。

 

それなら分散しても良いのではないかと、雄は考えていた。

 

 

「昨日相当コテンパンにしたし、今日は姉さんや刹那の姉さんも居るから、大丈夫だとは思うんだけどよ。兄貴はどう思うよ?」

 

「んー、僕も大丈夫かなとは思うんだ。白昼堂々襲ってくるとは考えられないし」

 

 

とはいえ、頭の片隅に懸念点があるようでうーんと考え込む。襲ってくる可能性が無いとは言い切れない以上、対策は万全にしておいた方が良いのではないかと。

 

昨日は無事に木乃香を取り返せたと言っても、一度は気付かぬ内にさらわれてしまっている。ネギが気にするのも無理はなかった。かといって下手に気を張り巡らして、いざという時に集中力が切れるのも避けたい。どうすれば良いかと悩むネギに、何かを思い付いた雄が助言を送る。

 

 

「そうだ、ネギ先生。これなんかどうだろう?」

 

「え? あ、これって……」

 

 

ネギが手渡されたのは、一枚の人型をした紙。そこには漢字で『風見雄』と記載されており、ネギが紙を受け取ったことを確認すると、顔の前に手をかざし、日本の指を立てながら呪文を唱えた。

 

 

「オン」

 

「わっ!?」

 

 

受け取った紙から煙が出たかと思うと、音を立てて小さな人形へと変化する。昨日の熊や猿のようなものではなく、今回はちゃんと人型をしていて、見た目は雄を小さくしたかのような顔立ちをしていた。

 

 

「俺の分身だ。戦闘力は高くないけど、この式神に何かあって消滅すると、俺と記憶が共有されるようになっている」

 

「へぇぇー! 風見先生も日本の魔法を使えるんですね」

 

「補助程度にだけどね。呪符使いみたいにメインでは使わないよ」

 

 

フワフワと浮かぶ雄の分身に、ネギは感心しながら分身体をつつく。何の対策もせずにネギたちに木乃香を任せる訳ではなく、自身の分身体を置くことで遠方からでも動向を伺えるようにしておく。もし分身体が消滅すると、その瞬間に分身体が見た映像や記憶全てが雄に共有される。

 

通常の式神は消失したらそれまでであり、記憶を共有する事は出来ない。だが、雄の作った式神は特殊な術式を組み込むことで、消失した瞬間に記憶が共有することが出来るようになっていた。

 

一般的には記憶の共有をすることが出来ない故に、敵に悟られる事も無い。まさに付き添いとしてはうってつけの方法だった。

 

 

「でもダンナ、それだと周りから見えねーか?」

 

 

ふと疑問に思ったカモが質問をしてくる。いくら小さくなったとは言ってもこの大きさでは周囲から丸見えである。が、カモからの質問を待っていましたと言わんばかりに、得意げに笑みを浮かべた。

 

 

「大丈夫。簡易のステルスを掛けてあるから、一定以上の術者でもない限り見えやしない。あんま強くないけど、一応戦闘要員としても使えるし割と利便性はあるから付き添わせて損はしないはずだ」

 

 

昨日の戦い方を見れば雄が後衛ではなく、完全な前衛タイプであることが分かる、それも強烈なまでの。

 

戦い自体はネギも見ていないが、窮地をあっさりと脱する辺り、頭の回転もそうだが相応の実力を兼ね備えている事が分かった。根拠のない自信であれば突っぱねているものの、雄が言うのだから説得力がある。

 

 

「確かに。兄貴にとっても味方は何人いても損はしねーだろうし、戦えるのなら心強いな」

 

「風見先生、ありがとうございます!「ネギー! もう行くわよー!」あっ、待たせているんでした。じゃあ僕はこれで……」

 

「ん。あまり気負わないように楽しんで。刹那には俺から伝えとくから」

 

「はい!」

 

 

ぺこりとお辞儀をすると元気よく駆けていく。ネギの後ろ姿に若さを感じつつ、雄は背を向けた。五班は分身体に任せるとして、自分はどうしようかと。

 

特に指示を受けていないため、割と自由に行動することは出来るが、時間内に各班の向かう先に顔を出すのは厳しい。最悪一人で観光するのも手かと顎に手を当てて考え込むが、不意に背後から声を掛けられた。

 

 

「風見先生、まだいらっしゃったんですね」

 

「色々とやることがあってな。大河内たちもこれから出るところか?」

 

 

声の特徴から人物を特定すると、振り向きざまに名前を呼ぶ。声の主はアキラで、丁度ホテルを出発するみたいだった。

 

 

「はい。やっと準備が出来たんで。風見先生は出掛けられないんですか?」

 

「んや、行くよ。流石に一日ホテルにはいれないし。ただどこの班に付き添うか決めかねてて……」

 

「そうなんですね」

 

 

アキラに抱えている悩みを伝える。元々は木乃香の護衛のために五班に付く予定だったが、同じ班に教員が二人付くのはいただけない。故に五班をネギに任せ、雄は単独で別行動となった。

 

当然本音を伝えるわけにも行かず、事実は伝えないままぼっちであることだけを話す。すると彼女からは意外な一言が返ってきた。

 

 

「それなら先生、私たちと回りませんか?」

 

「え、良いのか?」

 

「えぇ、先生なら皆歓迎だと思うし。あ、でも別に用事があるのなら、構わないんですけど」

 

 

もしかしたら一人になりたい理由があるのかもしれないと、顔の前で手を振り、雄に決めて欲しいと伝える。アキラの提案は悪くないし、むしろどうしようかと悩むくらいなら付き添った方が早い。

 

加えて話したことのある生徒が居るのは心強いし、折角誘ってくれたのだから断る理由も無い。どこか不安げに見つめるアキラに対し、少し微笑みを浮かべながら答えを返した。

 

 

「あぁ、大河内たちが良いなら喜んで」

 

「本当ですか? なら一旦皆に伝えてきますね」

 

「了解。俺も必要なものだけ揃えてくるから、入り口で合流しよう」

 

 

 

 

 

 

こうして、ひょんな事から四班と回ることが決まった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。