ネギま! another scenario   作:たつな

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【修学旅行編】-下巻-
大阪へ向かう雄


「しかし急に別行動してくれって言われても、どこの班に付添えば良いんだか」

 

 

ネギたちを送り出してからというもの、雄はロビーでただ一人どの班に付き添うかを考えていた。各班の行き先リストはしおりで貰っており、それをパラパラとめくりながら惰性で眺める。

 

五班には自身の分身をつけては居るのと、色々と仕込みは施してある。とはいえ動かなければならなくなる可能性がゼロとは限らない。

 

ある程度自由に行動が出来そうな班、つまりは少しでも関係値が高い班に付き添う方が良いのは目に見えていた。

 

 

「あれ、風見先生。こんなところで何やってるんですか?」

 

「大河内か。いや何、ちょっとどの班に付き添うかを考えていたんだ。てかもう殆どの班が出たと思ったのに、お前らはまだ残ってたのか」

 

 

振り返る先に居たのは私服姿に着替えたアキラだった。青のジーンズに、黒基調のポロシャツとシンプルな組み合わせだが、高身長かつ抜群のプロポーションを誇る彼女はものの見事に着こなしている。

 

あまり女性特有のファッションは好まないのか、とはいえ身長が高くなればなるほど選べる着こなしも限られてくる。もしかしたら彼女も着れない服があることに悩んでいるのかもしれない。

 

 

「実はまき絵がお財布を部屋に忘れちゃったみたいで。ついさっき出たんですけど、すぐに戻って来たんです」

 

 

部屋に財布を忘れるというありがちな理由に、どこか恥ずかしそうにアキラは話す。まき絵らしい理由に、雄は思わず苦笑いを浮かべた。

 

 

「ははっ、何やってんだか。んで、無事に回収は終わったのか?」

 

「はい。皆もそろそろ戻ってくると思うんですけど「もー! 何やってるのまき絵ー!」あっ、ちょうど戻って来ましたね」

 

 

途中まで話し掛けたところで、何やら遠くの通路から賑やかな声が聞こえてきた。

 

 

「だってー! 間違って化粧ケースを入れちゃったんだもん!」

 

「普段化粧なんかせーへんのになんでこんな時だけ間違えるん! もう、抜けとるなぁまき絵は……あ、風見センセーやん!」

 

「あ、ホントだ! 先生まだホテルに残ってたんだね!」

 

 

雄の存在に気づき、パタパタと近寄ってくる一行。

 

それぞれが動きやすい私服姿であり、普段制服を見慣れている雄のとってはどこか新鮮に見えた。

 

 

「おーお前らか。今日はどこへ行くんだ?」

 

「今日はUSJに。日本の文化遺産を見るのも良いんですけど、思いっきりはしゃぐのもいいんじゃないかなと思って」

 

「如何にも若者らしくていいんじゃないか、USJ。何も日本の昔の文化を学ぶだけが修学旅行じゃないからな」

 

 

雄のどこに行くのかという質問に対して答えるアキラ。

 

修学旅行の醍醐味といえば自由行動。

 

修学旅行の定義としてよく、伝統ある日本文化を継承している文化遺産に触れながら、学習を深めるなんて言われるが、人生でたった一回しか味わうことが出来ない、中学の修学旅行。

 

生徒にとっては勉強することが目的ではなく、一つの思い出として残すことの方が大切だ。彼女たちの選択は決して間違ってない。

 

 

「さっすが! 先生分かってるね〜!」

 

 

求めていた回答が得られ、裕奈は嬉嬉として反応する。そんな裕奈に対し、そりゃ学生なんだからと雄も付け加えた。

 

 

「そいえばセンセは何しとるん?」

 

「あぁ、さっきも大河内には話したんだがどこの班に引率で入るか悩んでいるんだ。適当にブラブラしてようかと思ったんだけど、修学旅行に来てまで何もすること無いっていうのはちょっとな」

 

「そらそうや。でもセンセはてっきりこのか達と行動するんやとばかり思ってたんやけど」

 

「うん、それは私も思った」

 

「えー! もしかして先生このかに振られちゃったの!?」

 

 

木乃香に振られたと口にするまき絵に対して、雄はどうすればそんな結論が出るんだと苦笑いを浮かべながら、事情を説明した。

 

 

「おいおい、なんで俺が振られたって話になるんだよ佐々木。違う違う、単純に引率できるのはひと班につき、教員一人。五班にはネギ先生が付き添ってるから、俺は別の班に付き添わないと行けないんだわ」

 

 

ルールは破るためにあるもの。

 

どこぞの悪人はこぞって口にする言葉だが、決められたものは守らなければならない。仮な話雄の分身を残して、彼自身は五班に付き添うことも可能だったが、今後のリスクヘッジをすると、そう簡単にいくものではない。

 

木乃香を拐うために、学園の生徒たちへ被害が及ぶ可能性を想定すると、雄自身が五班に付き添うのは得策ではなかった。いつどこで何が起こるかわからない以上、今は慎重に事を運ぶ必要がある。

 

 

「へーそうなんだ! じゃあ先生も私たちと一緒にUSJに行こうよ!」

 

「お、良いのか?」

 

「全然大丈夫、むしろ大歓迎! ね、アキラ?」

 

「え? な、なんでそこに私に話を振るのゆーな!」

 

「だってー!」

 

 

裕奈はニヤニヤと笑いながら雄の顔をみつめ、アキラはほのかに顔を赤らめた。

 

一連のやり取りを若いなと思いながら眺めていると、今まで黙り混んでいた小麦色の長身の生徒に声を掛けられる。

 

 

「風見先生、ちょっといいか?」

 

「あぁ、龍宮。どうした?」

 

「念のために話しておいた方が良いと思って。少しだけ席を外してもいいかい?」

 

「……おう、分かった。悪い、少しだけ龍宮に伝えることがあるから、お前たちは先に外に出ていてくれ」

 

 

 

 

 

 

テンションが高くなった一同は雄の発言に対して特に気にするそぶりもせず、早く来てねと先に旅館の外へと出ていく。

 

姿が消えたところで雄は一つ大きく息を吐くと、近くにある柱に背をもたれた。一度目を閉じると、やや鋭い目付きで小麦色の長身の生徒、龍宮真名(たつみやまな)に声を掛ける。

 

 

「学園長から聞いてる。何でも確実に任務を遂行する仕事人がいるって」

 

「ほう、さすがは情報が早い。でも安心してくれ、今は別に敵ではない」

 

「今は……ってことはある条件を満たせば敵になる可能性もあるってことか」

 

「ふっ、そういうことになる。が、どちらにしてもこの旅行期間中は絶対にないと断言しておこう。私も数少ない学校行事は楽しみたいからね」

 

「そいつは助かる。何せ俺も面倒事は好きじゃなくてね。危険因子が増えることだけは防ぎたかったんだわ。先の噂があったから、もしかしてとは思ったんだが……どうやら大丈夫そうだな」

 

 

 

今後無事に任務を遂行するために、少しでも危険因子は減らしておきたい。ましてや自分のクラス内で敵が増えるなんて事は最も避けなければならない。

 

事前にクラス内に関西呪術協会の敵が居ないかどうかの洗い出しを行ってはいるが、クラスの数人は黒か白か不確定の状態だった。その中でも唯一ケースバイケースで立ち位置が変わる恐れがあったのはこの真名であり、雄の中では一つの懸念点として抱えていた。

 

金銭の授受で敵にも味方にもなる。何とも対応がし辛いこと限りない。最悪のケースも想定していたが、真名の口から今回の修学旅行では敵になる可能性はないと、はっきり言い切っている。自分の言葉に責任を持てない人間ではないし、本人のプライドもあるはずだ。

 

 

「ったく、ヒヤヒヤさせるなよ。急に個別の話があるだなんて、何か裏があると思うだろ」

 

「ははっ、すまない。ただ変に身構えているのであれば、先に伝えておこうと思っただけだよ」

 

 

それでも、と前置きを入れながら真名は話を続ける。

 

 

「私一人が動いたところで、風見先生ならすぐに対応できるだろう? まともに戦って絶対に勝てない相手に無謀な戦いを挑むほど、私は馬鹿じゃない」

 

 

真名の口から出てくる言葉に、恥ずかしそうに頭をかく。一体どこからどんな話が彼女に伝わっているのだろう。自分の過去を知っている人間など、今の麻帆良学園にはほぼ居ないため、彼女に彼のことを伝えられる人間は限定される。

 

 

(近衛かタカミチか……ったく、何をどう伝えたんだよ)

 

 

咄嗟に関わりのある二人の人間が脳裏をよぎるが、誰が言ったかを明らかにしたところで何かが変わるわけでもなく、すぐに考えるのを辞めた。

 

 

「買い被り過ぎじゃねーか? 誰からどんな噂を聞いたんだよ」

 

「それは秘密にしておこう。本人のプライバシーもあるしね」

 

「そうかい」

 

 

少し話しすぎたなと雄はもたれかかっていた柱から離れ、服に付いたホコリを払った。

 

これ以上話していたら流石に怪しまれることを加味してか、話が一段落したタイミングで口を閉じる。

 

 

「とりあえず行こうぜ。皆待ってるし、積もる話はまた今度ということで」

 

 

また今度。

 

その話が交わされるのは少なからず近い未来のことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でも大阪か……何年ぶりだ?」

 

 

古都京都。

 

中学生の修学旅行の選択肢としては定番中の定番のスポットになるだろう。初日から二日目に掛けては基本的に全体行動で、奈良や京都市内の神社仏閣の散策がメインになり、三日目は自由行動になのが流れになる。

 

中学生の修学旅行は二泊三日であることが多い中で、麻帆良学園は四泊五日。一般的な私立校と比べても期間が長いと思うのは気のせいでは無いはずだ。

 

そんな修学旅行は早くも三日目に突入する。

 

旅館を出た雄と二班一行は大阪へ向かうべく電車に乗っていた。道中、思っていたことがボソリと口に出る。

 

 

「もう、先生ったら何もの思いにふけてるの!」

 

「ん? あー、悪い悪い。久しぶりの大阪だからちょっと色々考えてたんだよ。旅行にでも行かない限り、大阪の方までは出てこないしな」

 

「へー。出張とかで来るとかはないの?」

 

「俺は基本出張が無いんだわ。そもそも出張も頻繁にあるわけじゃないしな」

 

 

久しぶりの大阪だと呟く雄に、何をしているのかと裕奈は尋ねる。久しぶりの大阪だから懐かしくなってしまったと言う雄。正しくは今のところないってだけであり、今後出張が発生する可能性はある。ただ拠点を関東に置いている限り、中々大阪方面まで足を運ぶことはない。

 

 

(実際大阪に来たのなんて遥か前だし、あの時は何のために来てたんだっけか)

 

 

随分前のことになるようで、雄自身も何のために大阪へ赴いたのか覚えていなかった。

 

 

(ま、いいか。特に気にすることでもないし、本当に気にするべきことはまだ別にある)

 

 

大阪に来たとはいえ、気にしなければならないのはネギたちの動向だ。

 

ネギに渡した自立型の分身からの視覚情報を通じて、雄の方にも情報はリークされる。ただリアルタイムでというわけにはいかない上に、リークまでにはタイムラグが発生するという部分と、断片的なものでしかないため、正確な情報を掴むことは難しい。

 

分身体が何らかの攻撃を受けて消失した際には完全な情報が伝わってくるものの、状況としてはかなり悪い状況になっている可能性が高い。出来ればそうなる前に対処したいところだが、果たしてどうなることだろうか。

 

脅威が襲うのはネギ一行だけではない、大阪へと向かう雄たちの背後にも脅威は迫っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「風見雄、君の力見せてもらおうか……」


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