「あ、あっちにゲーセンあるから京都の思い出作りの一環としてプリクラ撮ろうよ! ほら、ネギ先生とも一緒に撮れるチャンスじゃん!」
「へぅ……わ、私は」
雄たちが大阪に向かっている最中、五班は旅館を出発した後、近くにあるゲームセンターへと足を運ぼうとしていた。
と、本来は明日菜とネギの二人で本山へと向かい、二人が戻ってくるまでの間、木乃香を刹那が守るといった予定を立てていたものの、旅館を出発する際に班員の早乙女ハルナに見つかってしまい、やむなく一緒に出かけることとなった。
タイミングを見計らって、ネギと明日菜の二人は抜ける計画を立てているようだが急な離脱は変に怪しまれてしまうため、ある程度は共に行動するようだ。
「それにしてもホント皆さん元気ですよねー」
バタバタと駆けていくハルナとのどかの姿を見つめるネギの口から、ポツリと本音が漏れる。
夜遅くまで起きてどんちゃん騒ぎをしていた生徒も多く、寝不足になっていてもおかしく無いはずなのに、ハイテンションを保っているあたり若さなのだろう。
彼女たちの行動に疲れなど微塵も感じられなかった。
「うちのクラスは特別元気過ぎよ。他のクラスを探しても中々居ないわ」
明日菜は全員が全員そうでは無いとやや呆れながら言う。
「そんなことより……本当に魔法って凄いのね。こんな大きな分身体がいるのに誰も気付かないなんて」
明日菜が改めて関心を示すのは、先ほどから着いてきている雄の分身について。大きさ的には手乗り人形ほどのサイズであり、元々の雄の大きさと比べればかなりのミニマムサイズにはなるが、傍から見たらかなり目立つ存在である。
だが、分身体に気付く人間はおらず。分身体が見えているのはネギと刹那、そして明日菜の三人だけだった。一定のレイヤーをクリアした人間にしか見ることは出来ないため、一般人の第三者がその姿形を捉えることはない。
「どちらかといえばこれは呪術の類ですね。もちろんネギ先生のように魔力を込めることで発動することも出来るタイプの式神なので、術者の属性によってどちらとも捉えられます」
「へー、そうなんだ。色々あるのねー」
魔法って難しいわねと明日菜は改めて考え込む。ついこの間まで一般人だった明日菜からすれば、目の前で起きる魔法や気に関する事象はどれもこれも斬新に見えるに違いない。
「今回、雄さんの分身は完全自立型ですし、何かあった際には等身大に戻って戦うことも出来ますから、かなり心強い味方でもあります。ただ、本来はそうならないことを祈りたい限りですが……」
何も起こらずに全てを解決したいというのが本音なのは誰しもが思うことであり、好んで戦いたい人間はいない。本来であれば雄の分身体などないことが好ましいが、同行させなければならないほど、現状は緊迫しつつあった。
下手なごたごたに巻き込まれる前に念書を渡すことが平穏無事な修学旅行を終えるための一番の近道になるのは間違いない。
「しかし兄貴、ゲーセンならかえって都合がいいや! 何かゲームでもやって隙を見つけて抜け出そうぜ」
「う、うん。そうだね」
その為には一度生徒たちの目を欺き、ゲームセンターから抜け出さなければならない。
幸いなことにゲームセンターであれば物陰も多い上に、常時鳴り響くゲームやアトラクションの効果音が周囲に鳴り響いているため、上手くやれば簡単に抜け出すことが出来る。
決して大勢で抜け出すわけではないので、そこまで大変な工程ではないはず。
「あれー皆さん何やってるんですかー?」
「あーネギくんごめんねー! 実は関西限定のレアカードゲット出来るかもしれなくてさー」
とあるゲーム台に座りながら夢中になっている一同にネギは声を掛ける。彼女たちがやっているのは新幹線内でやっていたカードゲームのゲーセン版のようだ。運が良ければ限定のレアカードが手に入るかもしれないと嬉々としてモニターに向かう姿を見て、ネギの心の中にも若干の興味が湧いていた。
このカードゲームのコンセプトは魔法。
魔法使いであるネギからするとどこもなく親近感が湧く内容でもある。当然ながら自身が魔法使いであることを口外するのはもっての外だが、ちょっとやってみるのも面白いかもしれない。
「魔法使いですか……やってみようかなぁ」
「お、ネギくんノリいいねー!」
「ネギ先生、これスタートセットです。お貸ししますよ」
夕映から手渡されたデッキを元にネギもゲームの世界へとのめり込んでいく。つかの間の時間つぶし、一種の気分転換と考えれば悪くなかった。
意外にも筋がいいのか、出てくる敵を次つぎとなぎ倒していく。完全初見の初心者であるにもかかわらず感覚で動けるあたりは、彼の魔法使いである才能がそうさせているいるのかもしれない。
モニターに映し出される強敵を次々と撃破し、ものの見事にステージをクリアしてしまった。
「おお! すごいネギくん!」
「ネギくん本当に初めてなの? 流石〜!」
ある程度ゲームをやり込んでいる木乃香やハルナから見てもその腕前は確かなようで、思わず感心の声が上がる。
ゲームに夢中になっているとネギの隣の空いている席に一人の少年が座る。背格好から見てネギと同じくらいの年齢だろうか、表情を見せないままカードを取り出すと一言ネギへと言葉を掛けた。
「盛り上がってるとこ悪いな。入ってもええか?」
「え? あ、うん……」
突然話し掛けられたことで返事が中途半端なものになってしまう。対人での対戦を申し込まれたということで、周囲は大いに盛り上がる。
「ネギくん大丈夫!? 勝負だよ!」
「ネギくん頑張れー!」
自分の名前を入力して対戦が始まる。
はじめのうちは互角の勝負となった。
が、いくら才能があるとは言えどもまだゲームを始めたばかりのネギと対戦相手の少年では大きな差がある。
時間経過とともに徐々に押され始め、最終的には持ちキャラを撃破されてしまった。
ネギの見ている画面には『負け』の文字が映し出され、コンティニューするかどうかの選択が表示される。
「あー負けちゃった」
「いやいや初めてなのに良くやったよ!」
敗戦に残念がるネギだが、彼の様子を健闘したと褒め称えるハルナ。ゲームをやり込んでいる彼女から見ても、ネギの戦いぶりは十分すぎるものだったに違いない。
そして再戦しようかどうかと悩むより早く、隣に座っていた少年が立ち上がった。
「やるなぁアンタ。でもまぁ……魔法使いとしてはまだまだやけどな」
「え? あ、うん……どうも」
突然の一言に対して違和感を覚えるも、そのまま言葉をネギは続けてしまう。幸いなことに少年の声の大きさはネギ以外に聞こえるほどの声量ではなかったため、周囲の人間にバレることはなかった。
少年の口から発せられた、ネギが魔法使いであることを断定した一言。それは少年自身が紛れもなくネギが魔法使いであると知っていることになる。
しかしネギはその一言に気付かなかった。
「ほなな、ネギ・スプリングフィールドくん」
被っているニット帽の向きを変えると、少し得意げな表情を浮かべながらネギの名前を呼ぶ。
名前を呼ばれたことに対して、どうして自分の名前を知っているのかとネギはギョッとしながら質問を返した。
「え!? ど、どうして僕の名前を!」
「何言うとんの。対戦する時に自分で名前入れたやろ?」
「あ。そ、そっか!」
指差す画面には確かにネギのフルネームが記載されている。どうやら自分で名前を入れたことを忘れていたようだ。
「ほな、また何処かで会おうや」
そう言うと少年はそそくさと場を後にしてしまう。走り去る後ろ姿を見ながらボソリと木乃香は口を開いた。
「なんや、エラい不思議な子やったなー」
傍から見れば別になんの変哲もないよくある光景だが、どことなく普通ではない雰囲気であることに木乃香はうっすらと勘付いたらしい。
だが次の瞬間には対戦した少年のことは忘れ、一同はゲームへとのめり込んでいく。念書を渡しに行くためにはバレないように抜け出さなければならない。下手なタイミングで抜け出してバレることを考えれば、ゲームに目が行っている今が絶好のタイミングと言えるだろう。
ネギと明日菜は話を刹那に任せ、頃合いを見計らって店の裏口から抜け出すことに成功した。
しかしまだ二人は気付いていなかった。
念書を渡すという簡単な任務が、長く遠い道なりになろうなどとは。