ネギま! another scenario   作:たつな

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またな

 

 

 

「げっ、もうこんな時間だ。そろそろ戻らねーと」

 

 

遊びに夢中になるあまり、すっかりと時間感覚を失った男性は、腕時計を確認して頭を抱える。もう少しゆとりを持って行動する予定が、時間一杯遊び倒してしまった故に、ギリギリとなってしまった。

 

本来、彼に与えられたメインの仕事は木乃香と遊ぶことではなく、彼女を守ること。

 

とどのつまり護衛任務だ。今日行われているのは西日本の術師たちを集めて行われる緊急集会であり、全ての人間が常識的な思考持ち合わせている訳ではない。中には気性が荒いもの、性癖が狂っているもの様々であり、仮に近衛家に恨みを持っている人間が場に居合わせたとしたら、狙われるのは最も力を持たないもの。

 

そう、子供である木乃香が狙われることになる。人質を取られてしまえば、いくら実力がある人間とはいえ無事に取り返すことは極めて難しい。

 

木乃香の父親、詠春は関西の呪術者たちを束ねる長として君臨する。

 

だがその傍ら、父親として自分の娘を何が何でも守らなければならなかった。ただしどうしても守れないタイミングがある。集会中、詠春は席を外すことが出来ない。

 

つまり木乃香のことを見る人間が誰もいなくなる。

 

かといって魔法の存在を知らない木乃香を集会に同席させるわけにも行かなかった。それに同席させるということは守りやすいが、反面狙いやすくもなる。

 

考えられる選択肢は少ない中で彼はこの男性に護衛を依頼する選択を取った。

 

 

かつて共に仕事をしたことがあり、実力が確かなものであることは良く知っている。第三者から聞いた不確定要素の高い噂話ではなく、自分の目で見たことのある確かな実力者だからこそ、信頼を置けた。

 

幸いなことに特に何も起こることなく……むしろ彼としては護衛としての仕事を何一つしてないからこそ、何か裏があるんじゃないかと思い始めていたところだった。

 

 

(娘を守ってほしいって言われたけど、結局俺遊んでただけだよな。おいおい、これで報酬貰っていいのか?)

 

 

木乃香に背を向けながら本当にこれで良いのかと焦り始める。

 

護衛任務と聞いて来たまでは良かったが、結果はただ遊んだだけ。時間的には集会が行われている間だけと聞いたため、長時間にならないことは分かっていた。こうもあっさりと仕事が終わってしまうと、来た意味が果たしてあったのかと疑問に思えた。

 

呼んだのは万が一のためなのは分かるが、ここまで来るまでの手間の方が掛かったと思うと、何とも言えない気持ちになる。意地汚いことを言えば、楽して儲かった、とでも言うところか。

 

 

 

「おにーちゃんもう行ってしまうん?」

 

「ん?」

 

 

 

後ろを振り向くと鞠を持ったまま、不安そうに見上げる木乃香の姿が。

 

ここで嘘をついても仕方ないし、実際受けた仕事内容は集会中の彼女の護衛。つまり仕事が終わったら彼女と別れなければならない。既に終了時間を過ぎている、あの細かい詠春のことだ、集会も時間通りに終わらせていることだろう。

 

集会が終わる時間になったら屋敷まで連れて来るように言われていたのに、完全に過ぎている。そろそろ

心配をした詠春が姿を現すはずだ。

 

 

「あぁ。集会中に君と遊んでくれってお父さんに頼まれただけだから、集会が終わったら今度は違うところに行かなきゃいけないんだ」

 

「うぅ、そんなんいやや! ウチはもっと遊びたい!」

 

 

眉をしかめて嫌だと駄々を捏ねる木乃香。

 

年齢的にも本来なら友達と遊んでいる年頃、本音は彼女だって色んな人と遊びたい。僅かな時間とはいえ、自分と遊んでくれる人間を見つけたのに、また別れなければならない。その事実は幼い木乃香にとって受け入れがたいものだった。

 

近付いて服の裾を掴み、必死に引き留めようとする。別れを悲しむ木乃香の姿に呆気にとられる。とはいえ、いつまでも自分もここにいるわけにはいかない。フッとほほ笑むと足を曲げてしゃがみこみ、木乃香の身長に自身の身長を合わせると、平均よりも大きいであろう大きな手を頭の上に優しく乗せた。

 

 

「……ふわぁ?」

 

「俺も、だよ。仕事で友達にも会えないし、いつも一人のことが多くてね。今日は俺も久しぶりに遊べて楽しかった」

 

「……」

 

「でも俺には他にもやらないといけない仕事があるから、さ。何、会えなくなるって言っても、ずっと会えなくなる訳じゃない。人間生きていれば、必ずどこかで会える」

 

「ほんまに? 嘘やない?」

 

「もちろん。俺だって君のお父さんに会うのも久しぶりだったけど、ちゃんと会えてる。諦めなければ必ずどこかで、な」

 

 

瞳に溜まった雫をごしごしと拭い去る。二度と会えなくなるわけではない事が分かり、多少なりとも安心したのだろう。

 

 

「また会うた時は、ウチと遊んでくれる?」

 

「当然。次会う時にはもっと可愛く、綺麗になった姿を見せてくれよ」

 

「う、うん!」

 

「よっしゃ、君は笑っている方が「おーい木乃香ー!」お?」

 

「お父様!」

 

 

何かを言いかけた途端、二人の後方から男性の声聞こえてくる。声の主は木乃香の父親、詠春のものだった。いつまで経っても戻ってこないことが心配で駆けつけて来たようで、小走りでこちらに向かってくる。詠春の姿を確認した男性もまた、彼に向かって歩き始めた。

 

 

「あ、あの! おにーちゃん名前は?」

 

 

歩き出したところで再度、木乃香から声が掛かる。内容は名前を教えてほしいとのことだった。数時間ほど行動を共にしていたのに、彼は一切名前を伝えておらず、最後の最後に木乃香が聞いてくる。また会うのならせめて名前くらいは聞いておきたい、別れる前の彼女の最後の願いだった。

 

 

「俺か? 俺の名前は(つよし)だ。しっかり覚えておいてくれよ」

 

 

ニコリとほほ笑み、自分を指さしながら名前を伝える。

 

 

「つよし、おにーちゃん?」

 

「お! つよしおにーちゃんか。この年でお兄ちゃんって呼んでくれるのは嬉しいねー」

 

「つよしおにーちゃんありがとう! またなぁ!」

 

「こちらこそ! またな!」

 

 

後ろ向きに手を振る雄に対して、同じように手を振り返す。

 

木乃香と別れた後、ポケットに手を突っ込んだまま、詠春の元へと歩き出す雄だがどこか表情が硬い。何故表情が硬いのか、実は先ほど帰ると言った時の木乃香の反応が気になっていた。

 

幼い少年少女程、仲良くなった相手と別れる時に感情が出てしまい、嫌だとゴネることが多い。だが、多くは比較的長い期間、共に遊んだ人物や面倒を見てくれた人物に出てしまう感情であって、たかだか数時間遊んだだけ得体の知れない人間に感情が出るケースはそうある訳ではない。

 

考えられるケースとしては人との交流がほぼ無いままに育ったか、自宅で日常的に虐待を受けているか。後者はあの詠春に限っては考えられないと踏んだ雄は、前者の可能性が高いと判断した。いくら離れた山里の中で育ち、親が術師たちの長を務めている立場があるといっても、この年で友達がほとんど居ないのは流石に気の毒ではないか。

 

 

「おう詠春。これで良かったのか?」

 

「ええ、ありがとうございます。特段問題は起きなかったようですね」

 

「あぁ。さっき枝に引っ掛かった鞠を取ろうとして、少し着物は汚れているけど怪我はしてない。一緒に居る間は周囲も警戒したけど、特に妙な気は感じなかった」

 

「そうですか。すいませんわざわざこちらまでご足労頂いて。謝礼はいつもの場所で大丈夫ですか?」

 

「ん、頼む」

 

 

去り際に淡々と話を進める二人、あまり時間を掛けると木乃香が不審がると思ったのだろう。

 

立場的には詠春よりも雄の方が上なのか、やや丁寧口調で雄へと語りかけている。

 

 

「しっかし大丈夫か、木乃香ちゃんだっけ? あまり誰かと遊んだこと無くて寂しそうだし、もう少し同い年くらいの誰かと遊ばせた方が良いと思うんだが」

 

「私も少しばかり過保護すぎるとは思ってまして。立場もあるとはいえ、木乃香に寂しい思いをさせていることは自覚してました」

 

「立場的には難しい立場なのは分かるけどな。そういえば神鳴流の師範とか弟子とか来るって言ってたけど、誰か木乃香ちゃんと年が近い子とか居ないのか?」

 

「どうでしょう。探してはいるんですが、どうしても年齢的には高くなってしまいますね」

 

「あーそりゃそうだ。逆に木乃香ちゃんと同い年くらいで、剣握って振り回してるやつがいたら怖いわ」

 

 

すぐに解決できる問題では無さそうだが、詠春なりに考えているところがあった。もし詠春が何も考えておらず、現状を野放しにしておこうと考えているのであれば、一発ぶん殴ってやろうとでも思っていた雄だが、その心配は杞憂に終わった。

 

近衛家の事情、そこは雄も十分に汲んでいる。幼い木乃香が寂しがっている姿を見て、少し気の毒に思ってしまった。

 

が、詠春の選択は決して間違ってはいない。その理由を雄が話していく。

 

 

「それに、あの子の内に秘めた魔力量。下手に外に出したら、狙われてもおかしくはない……ってところか」

 

「正直なところ、そこが大きいです。本人からしたら身に覚えがない理由で狙われる訳ですし、そんな目にあわせたくない」

 

 

木乃香と遊んでいる時から気付いてはいた。彼女の内に秘められた以上なまでの量の魔力。現状、本人も自身の力、魔力については何一つ理解していないが、外部の第三者がつけ狙う理由を一つあげるならそこだ。眠っている魔力を活用すれば多くの人間を助けることが出来る、しかし裏を返せば悪用して、多くの人間を不幸のどん底に陥れることが出来る。

 

彼女の持つ魔力の強大さは、詠春の表情を見れば一目瞭然。眼鏡の奥の詠春の表情が曇った。我が子を思う気持ちの強さ故か、冷静な口調の中にも感情が込められてる。が、いくら考えたところですぐに解決出来る手立てはない。

 

何より父親である詠春が一番分かっていることだ。子供を持たない自分がぐだぐだと言ったところで意味はない。それ以上、雄が木乃香に関する内容を話すことはなかった。

 

 

「とりあえず、また依頼したいことがあったらいつでも連絡してくれ。ここ最近は家に籠りっぱなしだから、時間はいつでも作れる」

 

「ふふっ、そう言っていただけると助かります」

 

「ま、まずは木乃香ちゃんのところに行ってやりな。今日一日は寂しがるかもしれないし」

 

「えぇ、本当に何から何までありがとうございます。では、また」

 

 

詠春に別れを告げると、近衛家の門をくぐり抜けて帰路へと就く。

 

これが二人の、木乃香と雄の初めての出会いだった。

 

ほんの一瞬の出会いであったがこの時交わした些細な約束が、十年後に思わぬ形で叶えられるなど、今の二人は知る由もなかった。

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