ネギま! another scenario   作:たつな

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雨降って地固まる

 

 

「そこに誰か居るのかい?」

 

「ん?」

 

 

ガサガサと草木をかき分けて姿を現したのは、見た目三十代から四十代くらいの男性だった。わざわざ林の奥を覗きにくる物好きが居るとも考えられないし、玄関で俺たちの一部始終を見ていた人間は居ない。

 

桜咲の一撃の時に発した気を感じ取り、場所を特定したか。だとしたら完全に魔法関係者ということになる。逆に魔法関係者じゃなかったら割と本気で詰む。

 

先ほどの戦闘でここ一帯の木々は、見るも無惨に根こそぎぶった切られている。桜咲の一撃による風圧の刃は周囲の木々をも巻き込み、竜巻が通り過ぎたかのような状況を作り上げてくれた。

 

冷静になって考えて見れば、この林は学園の私有地であり、私用目的での伐採は禁じられているハズ。それをここまで盛大にやらかして、赴任早々始末書にならないかとヒヤヒヤしてくる。

 

 

「……あれ?」

 

 

今来たばかりの男性、その姿に多少の既視感があった。

 

人の顔を覚えるのは苦手だが、一度覚えた顔は早々忘れたりはしない。今から十数年ほど昔に、似たような顔立ちをした男性に会っている。

 

十数年経てば顔つきも変わってくるが、大元の根幹の顔つきは早々変わることはない。なら少し逆算して考えてみよう、今あるこの顔が若くなったと考えて……。

 

 

「はは、にしても盛大にやったね」

 

 

見るも無残な現状を見てもあっけらかんと笑う男性。見慣れているのか、常識はずれなのかは分からないが、彼の落ち着きようからして、魔法関係者であることが分かる。一般人であれば何が起きたかも分からず慌てふためくだけだ。

 

 

それにこの人、相当強い。

 

 

眼鏡に奥に潜む優しそうな感情とは別に、隠された膨大なる力。もし戦えと言われたら正面から正攻法で戦いたくはない。

 

 

「盛大どころの騒ぎじゃないような気がするけど。あなたは?」

 

「ん? あぁ、これは失礼。僕は高畑・T・タカミチ。麻帆良学園の教師さ」

 

「あぁ、麻帆良学園の……ん、高畑?」

 

 

高畑・T・タカミチ。

 

間違いなくどこかで聞き覚えのある名前だった。今から十数年程前、聞いたのは日本ではなくて海外の……。

 

 

「あー! 思い出した! アンタ、ガトウと一緒に居たタカミチか!」

 

 

頭にずっと引っ掛かっていたモヤが取れ、ようやく目の前の男性の正体が分かる。

 

一時期日本におらず、海外でちょっとした仕事をしていたことがあった。公共事業とでも言うべきか、世界各国を飛び回って活動をしており、その際に所属していた国連団体で会っている。

 

昔あった時は初々しさ残る青年だというのに、十数年ぶりに会った時には立派な渋い大人の男性に成長していた。身長もガタイの良さも当時とは雲泥の差、何より体を纏う戦士独特の雰囲気が心身共に成長していることを物語っていた。

 

 

「えぇ、お久しぶりです。雄さん」

 

 

ニコリと笑いながら俺の元へと歩み寄る立ち居振る舞いの全てが、紳士を物語るかのように様になっていた。今目の前にいる男性がまだまだ赤の抜けない青年だったと思うと、時代の流れをより感じてしまう。もうそれだけ年を取ってしまったのかと。

 

 

「初めて会った時は垢が抜けていない青年って感じだったのに、いつの間にか大人の風格漂う教師とは……ほんと世の中分からないもんだ」

 

「僕も全く予想してませんでしたよ。ところで、一体何があったんです?」

 

「あぁ、そうだった。話せば長くなるんだが」

 

 

俺はタカミチに事の顛末をなるべく分かりやすく、簡潔に伝えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっはっ! 自分は敵ではないことをアピールしようとしたら逆に敵に間違われたんですね!」

 

「笑い事じゃねーって。一瞬本気で死ぬかと……」

 

「ふふっ、あ、いやいや、すみません。僕の元生徒が迷惑かけました」

 

 

桜咲との一連のやり取りを説明した後に待っていたのは、タカミチの爆笑だった。ムッとする俺に平謝りで返す姿を見ていると、変に何かを言い返す気力も無くなる。

 

 

(いや、いくら桜咲が勘違いをしたからと言っても、それを止めるのが教師の役目だよな)

 

 

……事の発端を正せば、あの場でからかい半分で挑発せずに、しっかりと事情を話しておけば今回のようなことにはならなかったとのこと。

 

桜咲の実力を見ようとしたのは良いが、自分が死にかけるという何とも間抜けな顛末に正直目も当てられない。今回は偶々事なきを得たが、もしあれで一撃を受けていたら、桜咲を悪者にするところだった。実力を持っていることが分かり、実力を見てみたいと舞い上がってしまった部分があるのは自分の未熟さ。

 

本来なら頭に血が昇ってしまった桜咲を止めることが俺の役割だったはず。

 

きっとタカミチなら難なく納得させることが出来ただろう。ただ俺にはそれが出来なかった、やろうとしなかった。教師として一番大切な部分をケジメることが出来なかったことは、戒めなければならない。

 

ここはもう独りよがりの戦場ではない。相手を倒してそれで終わりの世界でもなければ、自分だけの力で何とでも出来る世界でもない。

 

あくまで生徒たちが集う学び舎だ。そこで俺がすべきこと、為さなければならないことは相手の力量を計るようなちっぽけな行動ではない。

 

 

「あぁ、いや、今回は完全に俺が悪い。桜咲が勘違いをしたタイミングで、俺が諭すべきだった。危うく自分の教え子を殺人犯にするところだった」

 

 

「あっ、雄さん」

 

 

タカミチに伝えると、自身の刀を回収し、やや気まずそうに視線を逸らす桜咲の方へと歩み寄る。俺と彼女の身長差は三十センチほど、彼女の足元に影が映ったのか、視線を上に向けた。どこか不安そうな上目遣い、戦っている時とは異なる彼女の顔。

 

戦っている時は誰よりも勇ましく、強く逞しい顔。しかしその裏側は誰よりも繊細で傷付きやすい、ガラスのハートを持っているようにも見えた。

 

こちらの世界に身を投じるということは少なからず、自身の女性としての時間を潰すことにもなる。表面上はこれが仕事だと取り繕っているのかもしれない、自分自身の本当の気持ちを押し殺してまで。

 

俺が木乃香に学園を案内してもらっている間、片時も離れず後ろを付けていた。それだけで、彼女の行為が誰のためのものかなんてすぐに分かる。

 

近衛木乃香と桜咲刹那。

 

二人には切っても切れない刎頚の交わりがあると。

 

 

「すまない。俺があの時ちゃんと話すべきだった。こんなことで許して貰えるとは思えないが、謝らせて欲しい」

 

 

桜咲の前で頭を下げる。すると彼女もワタワタとしながら、反応を返してくれた。

 

 

「い、いえ! 私の方こそ勝手に勘違いをして……あまつさえ刃まで向けるだなんて」

 

「気にしないで、むしろあれは怪しまれても仕方なかった。わざわざ挑発するようなことを言った俺に非があるよ」

 

「は、はぁ……」

 

 

先ほどの態度とは正反対の態度に、桜咲は桜咲で混乱しているように見えた。第一印象は最悪なものとなってしまったが、嫌でも一年間はクラスの副担任として、麻帆良学園に赴任することになる。

 

どんなに嫌だと言われても、生徒は教師を選べない。逆に教師も生徒を選ぶことは出来ない。最初はぎこちない対応でも、少しずつ時間を掛けて互いの関係値を良くしていければと思う。

 

それに彼女はもっともっと強くなる。剣術をある程度極めているとはいっても、これから十五歳を迎えることなる。身体的にも、精神的にも最も成長する年頃であり、充実する時だ。

 

この一年で学ぶこと、経験すること。それは全て彼女の力となり、人生においての礎となるはず。俺はその手助けをしてやらないといけない。

 

 

もちろん前提として仕事人としてではなく、あくまで中学生の桜咲刹那として過ごして欲しい。本音はむしろそっちかもしれない。

 

 

「これから一年、桜咲のクラスの副担任になる。今後ともよろしくな?」

 

「は、はい! わひゃっ!?」

 

 

突然の接触に驚き、ポカンと口を開けたまま立ち尽くす桜咲。その様子を後ろで笑いながら見ているであろうタカミチを余所に、くしゃくしゃと、桜咲の髪の毛を撫でる。

 

 

「あ、あの風見先生……」

 

「ん? あぁ、悪い。嫌だったか? つい昔の癖でな」

 

 

女性だけではなく、自分より年が若い男女の頭を無意識に撫でてしまうことがある。

 

悪い癖だと思っていても、これが中々治らない。手の動きにあわせて縦横斜めの縦横無尽に動く、桜咲の頭。されるがままといった表現が正しいだろうか。

 

ポカンとしつつ、されるがままの状態だったが、流石に人前でいつまでも頭を撫でられるのは恥ずかしいと悟ったみたいだ。

 

桜咲の言葉に合わせるように手を退ける。

 

 

「ふぅ……あっ! いっけね、忘れてた!」

 

 

手を退けると同時に自分の部屋の鍵を貰っていないことに気付く。今日の朝、近衛に会いに行った時には仮住居が女子寮の空き部屋になることを知らされただけで、部屋の鍵や部屋番を聞いていなかった。

 

木乃香を送り届けた後に聞きに行こうと思っていたら、災難に巻き込まれてしまい、今の今まで完全に忘れていた。今から聞きに行くのも遅くなるし、預けている荷物も取りに行かなければならない。

 

どうしようか、やや焦り気味の俺に今度は後ろから声が掛けられた。

 

 

「そうだ雄さん。学園長からこれを渡すようにと頼まれていたんですが」

 

「お? この……学園長から? って、これって部屋の鍵か! いや、助かるよタカミチ。一瞬でどうしようかと」

 

リアルな話一瞬本気で野宿をしようかとも考えたが、どうやら無事に部屋で就寝できるみたいだ。

 

 

「ははっ、お役に立てて良かったです。雄さんも初日でしょうし、そろそろ部屋で休まれては? 後始末は僕がやっときますので」

 

「あー、本当か? 色々と面倒かけてすまない」

 

「いえいえ、これくらい気にしないでください」

 

 

何から何までタカミチに面倒を見てもらっている現状に、もはや頭が上がらない。さっきからただひたすら頭を下げてばかりだ。これではどっちが年上なのか、プライドもへったくれもあったもんじゃない。

 

 

「じゃあ桜咲も。先に行くな」

 

「あっ、はい。お疲れ様でした」

 

 

タカミチと桜咲を場に残し、俺は一人寮へと戻っていった。

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