異界転生譚 ゴースト・アンド・リリィ   作:長串望

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前回のあらすじ
話の展開の都合上、旅程を物理的に吹っ飛ばすことが決定したのだった。


第十三章 飛竜空路
第一話 鉄砲百合と戦争鱈鍋


 南部一の港湾都市であるハヴェノの冬は、温暖で過ごしやすい。

 と思っていたのは最初の頃だけだった。

 

 そりゃ、辺境や北部ほど、べらぼうに寒い訳じゃないし、この辺りは雪も降らない。

 

 でもなにしろ、日が短くなってどんどん寒くなってくると、すぐ目の前の海って言うのは恐ろしく巨大な冷たさの塊となってくる。

 ちょっとの水たまりならすぐにぬるくなるかもしれないけれど、海はどこまでも続く広さがある。だから短い日差しじゃ温まらなくて、その冷たさが町にまで伝わってくる。

 

 それに風が強い。

 

 臥龍山脈を見上げるヴォーストもからっ風が冷たく吹き降ろしたものだけれど、ハヴェノでは冷たい風が海からやってくる。

 郊外にあるブランクハーラ邸まで風が吹きつけてくるほどだ。

 

 ちょっと買い物にとウルウと二人で市に足を運ぶと、人が多いから暖かいし、人が壁になって風も遮られるから随分ましになる。

 でもともすればびゅうと強い風が吹きつけてきて、軽いあたしはちょっと踏ん張らなければならない。

 

 曇りがちな北部より日差しはきっと暖かいはずなのに、音を立てて吹きすさぶ風にはさしもの辺境育ちも縮こまって、しっかり外套の前を閉じなけりゃあこらえきれないものがあった。

 ちょっと動き回ればほかほかと温まるリリオはともかく、あたしなんかは懐炉(マノヴァルミギロ)を懐に抱えていないと耐えられそうもない。南部で使うことになるとは思ってもいなかったけれど、《自在蔵(ポスタープロ)》に入れておいてよかった。

 

 体の小さいあたしが寒がるのだから、体の薄いウルウも熱をため込めなくてさぞかし苦労するだろうと思っていたのだけれど、いつものしれっとした顔で、背を丸めることもなく平然と歩いている。

 

「あんた寒くないの?」

「大人だからね」

 

 あたしはすぐにピンときたわ。

 これはいつもの不思議道具に違いないってね。

 

 ちょっとこれ持って、と買い物袋を手渡すと素直に受け取るので、そのままぐいりと手を握りしめる。

 ぎょっとしたようにウルウは一歩後ずさるけれど、あたしが手を握ったままだから逃げられない。

 ここ最近で編み出したウルウ対策だ。

 ウルウは離れていれば大抵の動作に対応してぬるりぬるりと気持ちの悪い動きでよけようとするけれど、一度捕まえてしまうとそこから抜け出せない。

 

 あたしなんかは多少つかみかかられても抜け出す技を身に着けているけれど、ウルウはそのあたりの知識が全然ない。反射的に体は動くけれど、その反射を抑え込むようにしてしまえばこちらのものだ。

 

 そのまま腕を抱きしめて身体を密着させてみると、やはり、暖かい。かなり暖かい。ぽっかぽかだ。それもウルウの体を覆うように、不思議な暖かさが包み込んでいる。

 

「あんたなによこれ。あたしの懐炉(マノヴァルミギロ)よりあったかいじゃない」

「あげないよ。これは一個しかないんだから」

「やっぱなんか使ってるんじゃない!」

「大人だからね」

「ずっこい!」

 

 もう買い物は済んだけれど、さすがにべったりくっついて歩くのは難しい。

 荷物もあるし、身長差もあるし、あとウルウが恥ずかしがる。

 しかしあたしもこのぬくぬくとした暖かさは捨てがたい。

 

 ウルウは面倒くさそうにため息をついて、懐から銀灰色の容器を取り出した。あたしの使っている懐炉(マノヴァルミジロ)みたいな感じで、少し小さいけれど、とても美しい彫金がなされていて、くすんだところの一つもない。

 ウルウはそれを握った手であたしの手をつかんだ。

 そうすると、その不思議な道具の効果があたしにも流れ込んできたのだろうか。

 指先にはちっとも熱さなんか感じないのに、しかし全身を包み込むように、不思議な温かさがまとわりついてくるのだった。

 

「フムン……この手の装備品は一緒に装備することもできるみたいだね」

「どういうこと?」

「三人目は難しそうってこと」

 

 あたしは早速リリオを仲間はずれにすることに決めた。

 あの子はほっといてもあったかくなるんだから。

 

 手をつないだままブランクハーラ亭に戻ってくると、庭先でリリオが飛んでいた。

 正確に言うと飛ばされていた。

 ごろんごろんと盛大に地面を転がっているけれど、あれは吹き飛ばされた衝撃を殺しながら距離をとっているようだった。

 もちろんそんな小細工は修行相手である奥様には通用せず、楽しげな足踏みと同時に地面から土の槍が隆起して、転がるリリオを追い立てていく。

 

「あら、おかえりなさい。どうだった?」

戦争鱈(ミリタガード)が安かったので買ってきました」

「あら、いいわね。鱈鍋かしらね。お母ちゃんが腕を振るってくれるわ」

「あとお酒」

「ますますいいわね。じゃあどっちかリリオと交代ね」

 

 土の槍でリリオを翻弄しながら、にっこり微笑む奥様。

 あたしが即座に踵を返すとウルウにがっしりと肩をつかまれた。

 

「あたしおばあちゃんの手伝いするわ」

「待て。待って。今日は私が手伝うよ」

「あたしの方が料理うまいわ」

「帰り道暖めてあげたでしょ」

「私は二人がかりでもいいわよー」

「よし、(パペロ)(トンディロ)(シュトノ)で決めましょ」

「よしきた」

「行くわよ、(ウヌ)(ドゥ)、」

「待って待って」

「何よ」

「一、二の三で行くの? 一、二の三のあと行くの?」

「どんだけ必死なのよ。(ウヌ)(ドゥ)(トリ)さあ(エーク)で行くわよ」

「まだかしらー」

さあ(エーク)ね。よし」

「今度こそ行くわよ。(ウヌ)(ドゥ)(トリ)さあ(エーク)!」

「あっ、くそっ」

 

 ウルウって目は良いけど、いつも最初に(シュトノ)の手を出すのよね。

 しかも振りが大きいからこっちからは良く見える。

 たまに負けてあげてるから気づいてないみたいだけど。

 

 ぼろ雑巾のようになって土塊にうずもれているリリオを回収して家に入る頃には、外から賑やかな破壊音が響き始めたけれど、なにしろ奥様が上手に調整するから、家には小石ひとつ届きはしない。

 リリオは長らくぶりに格上相手に毎日もまれて、めきめき腕を上げている。あたしもなんとかそれに食いついていっているとは思う。それでも奥様は周囲への被害を気にできるだけの余裕が崩れたりしない。

 

 意外なことに、一番大変そうなのは、あれだけ出鱈目で滅茶苦茶だと思っていたウルウだ。

 あたしがどれだけ短刀を投げたって余裕で避けられる気がするのに、奥様の攻撃相手にウルウは必死でよけるし、たまに直撃を受ける。一方でウルウが攻勢に転じると、一発も当たらないし、かえって反撃を受けて転がされている。

 いつもふてぶてしいくらいしれっとしたウルウが、まるで子供のようにあしらわれてしまうのだ。

 

 あの調子じゃあ、晩ご飯が出来上がる前に、あたしの番が来てしまいそうだ。

 伝説の冒険屋ブランクハーラに修行をつけてもらえるのは、ありがたいことだと思うし、実際強くなりたいならこれ以上はない環境だと思うのだけれど、それでも、ちょっとげんなりする。

 

 手抜かりなく手を抜いてもらった上でまるで歯が立たないというのは、三等武装女中の自信もさすがにぐらつくというものだった。

 

 その後、結局あたしも呼び出され、最終的には三人がかりで相手をさせられて、へとへとになるまで振り回された頃に、ようやくおばあちゃんが晩ご飯に呼びに来てくれたのだった。

 

 床を四角に切って灰を敷き詰めた囲炉裏で、大きな土鍋で魚も野菜も一緒くたにコトコト炊いて、鍋を囲んで取り分けるのがブランクハーラ家の冬の食卓だった。

 もうすっかり寒くなってきたので、居間の開口部も戸板で塞いである。少し薄暗くはあるが、海風が入ってこないというだけで大分暖かい。

 

 床に茣蓙(ござ)一枚敷いただけのところに腰を下ろすというのは、最初はなんだか不思議な心地だったけれど、囲炉裏を囲む農村ではよくある形だし、慣れればこれはこれで趣がある。

 

 メルクーロおばあちゃんがこしらえてくれた鱈鍋は、魚と野菜、それから、多分海藻と貝類、それにキノコの出汁だろうか、素材から出るうま味とちょっとした塩だけで調えられた水煮だった。

 これだけでも淡白なうまみが楽しめるのだけれど、これを酸味の強い柑橘類の絞り汁に、酢や出汁を加えて塩と砂糖で調えたさっぱりとしたつけダレにつけていただくのが、たまらない。

 

 ここに各自好みで、刻んだ浅葱(シェノプラゾ)、摩り下ろした大根(ラファーノ)生姜(ジンギブル)、粉に挽いた唐辛子(カプシコ)なんかを加える。

 

 他にも庭で育てているという香草類は好みのわかれるところね。

 爽やかで甘やかな柔らかい香りの目箒(バジリオ)

 目が覚めるような清涼感で記憶力が良くなると言われる迷迭香(ロスマレーノ)

 爽やかなほろ苦さの鼠尾草(サルヴィオ)

 ほろ苦く爽やかな花薄荷(オリガノ)蒔蘿(アネート)

 すがすがしい香りとほろ苦さを持つ立麝香草(ティミアーノ)と、ほのかな甘みと爽やかな香りの小茴香(フェンコーロ)は魚臭さを消してくれる。

 

 あたしが気に入ったのは独特の香りがする香菜(コリアンドロ)だ。唐辛子(カプシコ)をたっぷり加えた辛いつけダレに、この香菜(コリアンドロ)を千切って入れて食べると、異国情緒あふれる味わいがして匙も進む。

 

 リリオはこの香りがちょっと慣れないようだったけれど、ちょっぴり入れてみる分には成程面白いものですと頷いていた。

 奥様は軽く千切って入れる。おじいちゃんはあんまり好きじゃなくて、おばあちゃんは細かくちぎって振りかける。

 あたしは大きめに千切って、たっぷり入れる。食いでがあっていい。

 

 一方でウルウは手も付けなかった。隣でもっしゃもっしゃ食べてたら、真顔でちょっと距離を置かれてしまったくらいだ。

 なんでも、カメムシの匂いがするから無理だという。

 カメムシとは何かと聞けば、香菜(コリアンドロ)と同じようなにおいがする虫だという。

 香菜(コリアンドロ)のにおいがする虫なんてさぞかし美味しいんでしょうねと言ったら、理解できないものを見るような目で見つめられてしまった。

 

 あたしはきっと美味しいと思うんだけど、そう言えばウルウは虫関係が苦手だった。

 見るのも嫌なら触るのもごめんで、食べるのはまず無理という具合だった。

 

 ヴォースト近くの森で羽化直後の川熊蝉(アルツェツィカード)を見つけてリリオと二人大喜びでからりと揚げた時とか、川で蟒蛇襀翅(ボアオ・プレコプテロ)の幼虫を捕まえて甘煮にした時とか、麦畑の害獣駆除のお礼にって跳蹴蝗(クルルンガクリド)の素揚げ貰った時とか、東部の養蜂園で蜂の子の炒め物頂いた時とか、全部姿をくらましているか、リリオに上げてたわ。

 

 南部じゃあ、ヤシの類を食い荒らす檳榔大長象虫(アレコ・クルクリオ)とかいう害虫の幼虫を蒸したり焼いたり、時には生で食べたりとかよくするらしいんだけど、というか実際露店で見かけたりしたんだけど、ウルウが立ち止まってくれないからゆっくり見れなかったのよね。

 

 冒険屋なんかやってたらそのうち嫌でも食べる機会は出てくると思うけど、嫌がる人に無理やり食べさせようって気はないし、食事中に無理に話して聞かせるなんて以ての外なので、そっとしておいてやる。

 それはそれとして香菜(コリアンドロ)味のカメムシとやらは食べてみたいけど。

 

 食事を終えて、おじいちゃんと奥様は火酒を、あたしたちは甘茶(ドルチャテオ)を頂きながら、囲炉裏の火に当たって一服した。

 疲れ切った体に、お腹いっぱいの美味しいごはん、そしてこの暖かさ。

 眠くなる。

 眠くなるけれど、寝る前に汗でべたべたの体をどうにかしたい。

 寒くなって乾燥してきたし、油も塗らないと。まだ若いけど、よく日にあたる生活だし、いまの内から気を付けないと。

 

 あたしがぼんやりとそんなことを考えていると、リリオがちょっと不満そうな声を上げた。

 

「お母様」

「あら、なあに?」

「毎日手合わせしてくれるのはありがたいのですけど」

「手合わせって呼べるくらいにはなってきたかしらねえ」

「うぐぐ……そうでなくてですね、まだ出発しないのかなーと」

 

 それは、あたしも思っていた。

 ブランクハーラ邸にやってきて、奥様との再会を果たして、もう半月ほどになる。

 ハヴェノは雪が降らないから感覚が狂いそうだけど、北部や辺境はもう雪が降っているはずだ。降るどころかすっかり積もっているはずだ。

 いくら飛竜で空を飛んでいくにしたって、雪深くなればそれだけ道行は大変になる。

 辺境との交流が盛んなヴォーストだって、冬には道が閉ざされてしまうのだ。

 

 奥様は火酒でほんのり火照った頬に手を当てて、困ったように笑った。そう言う仕草ばかりはおっとりとしている。

 

「私も早くしたいんだけどね。でも飛竜飛ばすのに、ちょっと手続きがいるのよ」

「手続き?」

「辺境から来るときは勝手に飛んできちゃったけど、南部の人からしたら飛竜が空を飛んでるなんて大騒ぎじゃない」

 

 辺境から飛竜が漏れ出すなんてのは十年二十年に一度あるかないかくらいだから、南部でなくても大騒ぎだけれど。

 でもまあ、そうか。

 いくら飼われているとはいっても、飛竜は飛竜だ。

 それが頭の上を飛んでいくなんて、ぞっとしない話でしょうね。

 というか空飛ぶ大災害が伝説と冠してはいても一冒険屋の手の内にあるって言うのは国家の一大事じゃなかろうか。

 

「ご領主様も勘弁してくれって言うのよね。でもまあ、大丈夫よ。ちゃんと説明して、お願いしてきたから」

「私の知る説明とは違うんじゃないの、それ」

 

 胡乱気に呟くウルウに、奥様は笑った。

 

「快く頷いてくれたわ。私がしばらくハヴェノから出かけるって言ったら、そりゃもう大喜びで」

 

 それはなんというか、納得の話だった。

 一同、何とも言えず、ハヴェノ伯爵の胃痛を思いやるのだった。




用語解説

懐炉(マノヴァルミギロ)(manovarmigilo)
 かいろ。
 金属または陶器製の容器の中に、豆炭や火精晶(ファヰロクリスタロ)を仕込んだもの。
 布などで巻いて温度を調整し、懐に携行して暖を取る。
 本体の値段はピンキリで、使用する豆炭や練炭、火精晶(ファヰロクリスタロ)もピンキリ。

・銀灰色の容器
 正式名称《ミスリル懐炉》。ゲームアイテム。
 装備すると、状態異常の一つである凍結を完全に防ぐことができる。
 ほぼ全ての敵Mobが凍結攻撃をしかけてくる雪山などのエリアでは必須のアイテム。
 燃料などの消費アイテムも必要なく、なぜこれで暖が取れるのかは謎である。
『地の底より掘り出され、ドワーフが鍛え上げたまことの銀。を、贅沢に使用した高級感あふれる仕様でお届けいたします』

戦争鱈(ミリタガード)(militagado)
 互いに相争う戦争狂の鱈、ではない。
 この鱈は主要な海産物であったのだが、南部のいくつかの漁港が、重なり合う海域で漁業権を主張し合って大揉めに揉めたために、この騒動を戦争に例えて、戦争鱈(ミリタガード)の名で呼ぶようになったとか。
 厳密には単一の種ではなく、成魚が全長数十センチ程度の鱈の類を南部ではこう呼んでいる。
 多く身は脂が薄く柔らかい白身で、やや崩れやすい。味わいは淡白。
 新鮮なものは鍋物や揚げ物、焼き物に使われる。
 足が早いため、塩漬けや油漬け、干物、すり身加工などにも多く用いられる。
 卵巣の塩漬けや、内臓の塩辛なども人気。

(パペロ)(トンディロ)(シュトノ)(Papero, tondilo, ŝtono)
 いわゆるじゃんけん。手の形もルールもじゃんけんに準じる。
 どこが発祥なのかは判然としないが、古い文献にも見られることから、神々のもたらしたものではないかとも言われる。
 掛け声は地方などによって異なり、ここをきちんと確認しておかないと揉めることもある。
 例「(ウヌ)(ドゥ)死ねェ(モールトゥ)!」

浅葱(シェノプラゾ)(ŝenoprazo)
 ヒガンバナ科ネギ属の球根性多年草。アサツキ。
 細い葉を持つネギ類の仲間。
 独特の苦み、辛みがあるほか、鮮やかな緑色が美しく料理に彩を与える。

大根(ラファーノ)(rafano)
 アブラナ科ダイコン属の越年草。外皮が白いもののほか、赤、黄、黒などもある。
 肥大した根や葉を食用とする。
 ダイコン。

目箒(バジリオ)(bazilio)
 シソ科メボウキ属の多年草。バジル。バジリコ。
 様々な品種がある。
 ここでは爽やかで甘やかな柔らかい香りの香草。生食できる。

迷迭香(ロスマレーノ)(rosmareno)
 シソ科に属する常緑性低木。ローズマリー。
 生葉、または乾燥葉を香辛料や薬として用いる。
 目が覚めるような清涼感があり、頭が良くなる、記憶力が良くなると言われる。
 甘い香りと爽やかなほろ苦さがあり、肉の臭み消しや、逆に白身魚など淡白な食材への香り付けなど様々な用途で用いられる。

鼠尾草(サルヴィオ)(salvio)
 シソ科アキギリ属の多年草または常緑低木。
 爽やかなほろ苦さがあり、肉の臭み消しや、乾燥葉をハーブティーに用いたりする。
 帝国には「庭に鼠尾草(サルヴィオ)を植える者は施療師に嫌われる」という言葉があり、薬効の高さがうかがえる。

花薄荷(オリガノ)(origano)
 シソ科の多年草。オレガノ。
 樟脳に似たほろ苦い清涼感があり、乾酪(フロマージョ)蕃茄(トマト)に合う。

蒔蘿(アネート)(aneto)
 セリ科の一年草。ディル。イノンド。
 葉は乾燥するとすぐに香りを失うため、新鮮なうちに使わなければならない。

立麝香草(ティミアーノ)(timiano)
 シソ科イブキジャコウソウ属 の多年生植物の総称。タイム。
 すがすがしい香りとほろ苦さを持ち、勇気を鼓舞し、悪夢を退ける効果があるとされる。

小茴香(フェンコーロ)(fenkolo)
 セリ科ウイキョウ属の多年草。フェンネル。オールレンジ攻撃用兵器ではない。
 ほのかな甘みと爽やかな香りがあり、魚料理の風味付けなどに用いる。
 また鱗茎は玉葱のように食用に使用される。
 整腸作用がある。

香菜(コリアンドロ)(koriandro)
 セリ科の一年草。コリアンダー。コエンドロ。パクチー。香菜(シャンツァイ)
 「カメムシのような風味」と言われる独特の香りがあり、好みが非常に分かれる。
 大抵の場合、薬味や添え物として使われる程度で、そのものをたっぷり食べることは少ないとか。
 逆に昆虫食を嗜む人間からすると、薫り高い昆虫は上等な昆虫であり、「コリアンダーのような風味」がするカメムシは高評価であったりするらしい。

蟒蛇襀翅(ボアオ・プレコプテロ)(boao plekoptero)
 ウワバミカワゲラ。
 川、および川辺の森林地帯などに生息する。
 いくつもの節を持つ蛇のように長い体の蟲獣。
 幼虫は十五センチから二十センチ、成虫は三十センチから大きくて五十センチ程度まで育つ。
 成虫は羽をもち、低空を飛行する。
 殻が硬く、身も少なく、食用に向かない。
 幼虫は羽を持たないがエラを持ち、水中で生活する。
 そのまま、またはぶつ切りにして蜜と香草で甘煮にするか、素揚げにして塩をふることが多い。
 川の清浄さ、餌などにより変化があるが、枯草のような香りがある。

跳蹴蝗(クルルンガクリド)(krurung-akrido)
 トビゲリイナゴ。
 草原や、林などに生息する。
 イナゴの中でも後肢がとくに発達し、鉤爪上の頑丈な造りになっており、近くから蹴りかかられると怪我をすることもある。
 ただし攻撃目的ではなく、逃走や驚きから跳ねているだけなので、むやみに近づかなければ問題はない。
 大きなもので七センチ程度。
 麦や稲を食い荒らす害虫。
 害虫駆除のついでに大量に捕獲できるので、村でまとめて調理して振る舞われることが多い。
 焼く、炒る、甘辛く煮付ける、揚げるなどの調理法がある。
 頭と鉤爪は硬く、事前に取り外すか、食べるときにこれを持ち手として食いちぎるなどする必要がある。

・蜂の子
 蜂の幼虫。蛹や成虫を含むこともある。
 ミツバチも複数種おり、養蜂家も必ずしも単種のミツバチだけを扱う訳ではないので、ここでは特定できない。
 また、養蜂家以外では、農民や冒険屋が野生のスズメバチの類の巣を暴くこともある。
 味は淡白で、炒ったものは鶏卵の玉子焼きに似るとされる。
 その他には甘煮、蒸し焼き、素揚げの他、麺麭(パーノ)生地に練りこんで焼き上げることもあるという。

檳榔大長象虫(アレコ・クルクリオ)(Areco kurkulio)
 ビンロウオオオサゾウムシ。
 ヤシの仲間である檳榔樹(アレコ)を食い荒らす害虫。
 成虫は最大で十五センチ程度になる。
 ずんぐりむっくりとした甲虫で、見た目通り頑丈で、力が強い。
 腕などにしがみつかれると痣ができるほどだという。
 直線的ではあるが飛行もし、ぶつかると相当痛い。
 幼虫は芋虫状で、滑らかな舌触りとねっとりと濃厚な味わいで、生食するほか、焼く、揚げる、蒸すなど加熱して食べられる。

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