【書籍化】異界転生譚 ゴースト・アンド・リリィ   作:長串望

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前回のあらすじ

異世界ファンタジー乗っ取り憑依百合グルメ温泉テロ紀行。
大怪獣カメ吉くんによる帝都襲撃を果たした二人。
帝都に大打撃を加えるも、手痛い反撃に撤退を余儀なくされる。
さあ、今度はどんな花火をあげようか。


2026エイプリルフールIFSS
亡霊と分厚いレシピ帳


「口に合わないかしら」

「……育ちがいいよねえ」

「どういう感想かしら!?」

 

 今朝の朝食は乾燥野菜のスープ。目玉焼き乗せたトースト。コーヒー的なやつ。以上。

 シンプルな内容だけど、焚火調理でこれを同時並行で仕上げるまでにはそれなりの苦労があったものだ。

 その苦労の結果の野菜スープはいましがたダメ出しを食らったが。

 最初はなんだこいつと思ってたけど、いまは慣れたもので、「なんだかんだ不味いとは言わないなあ」と育ちの良さを見出したりしている。

 

 そもそもユーピテルは食事なんか燃料補給としか思ってなかったところを、私が見かねて料理を始めた結果なので、ダメ出しには誠実に応えていきたい。私も自分の食事はいい加減になっていたけど、ひとがいい加減な食事してるのは気にするという面倒くさい人間なのだった。

 いやまあ、本心からどうでもいいと思ってるならともかく、修行僧みたいに無心になろうとしているというか、嫌なものを無理くり飲み込むようなら、なんかこう、してあげたいじゃん、

 

 結果として私たちの旅のエンゲル係数は跳ね上がり、食事のクオリティは爆増したわけだけど。

 

「いまは塩気強い方がよかったよね」

「塩気はいいかしら。でもなんか物足りないかしら」

「具材?」

「んー……なんかこれじゃない感かしら」

 

 なんとも頼りにならない。

 なにか気にくわないけど、それをうまく言語化できない。

 いい感じなんですけどもう何パターンかお願いします。

 あー、これなら最初のほうがよかったかも。

 会社でこれやられたらブチ切れ案件だけど、相手がまともな食事を二千年くらいうっちゃってたと思えばまあ、幼児相手の食育みたいなものだ。まだ言葉にしてくれるだけ助かる。

 

「そういう曖昧なときは……ハーブとかかな」

「あー……それかもかしら。味じゃなくて匂いかしら」

「その体拾ったのが前の前の村だから……ディルあたりかなあ」

「うーん……あ、だいぶそれっぽい感じかしら」

「乾燥だからちょっと感じ変わると思う」

「悪くないかしら。うん。ベストではないけどベターかしら」

「お褒めにあずかり、どうも」

 

 いまのユーピテルの身体は、農村で家畜の面倒を見ていた娘さん。

 肉体労働者は塩気を好み、あのあたりではディルとかがよく採れた。まあディルっぽいだけで、そのものかは知らないけど。

 

 転生系のお話だとあんまり見ないけど、肉体憑依系とかだと味覚の違いで困惑するっていうのはよくあるやつだ。あとTS系でもあるかな。甘いものすきになるとか。

 

 ユーピテルは肉体を乗り換え続ける情報生命体……というとやや語弊があるらしいけど、わかりやすいのはそのあたり。記憶や人格はユーピテルのものだけど、脳や肉体に残る記憶は参照できるし、家族相手にも平然と演技して潜り込める。

 その弊害というか、まあ今まで本人は気にしてなかったみたいだけど、感覚はその肉体に引きずられる。前の肉体とは味の好みが全然違ったり、痛みや苦しみに対する耐性もがらりと変わってしまう。

 

 激辛料理好きの南部人の肉体から北部人の肉体に移ったときは、うっかりスパイス山盛りの料理食って「ど、毒……!?」とか悶絶してたなあ。めっちゃ笑った。

 

 私はお手製のレシピ帳に、いまの肉体の好みを追記する。出身地や年齢、その土地の名産なんかも。暇のあるタイミングで今までの記録と合わせてリスト化し、早見表みたいなものを作るのだ。

 

「お前は忘れるってことがないのだから、記録をとる必要なんてないんじゃないのかしら?」

「脳内で見やすいリストに整えるスキルは無くてね」

「その点はワタクシのほうが上位互換かしら!」

「まあ君は読みやすい字を書けるようになってから言ってね」

「むっきーかしら!」

 

 ユーピテルは肉体の方が文字を書きなれていないからだって言い張ってるけど、明らかにこの子、筆記がクソなんだよね……。

 英文だから一応読めるは読めるんだけど、すっごい癖字っていうか、あからさまに手書きに慣れてないんだよね。綴りの間違いも多いし。たぶん古代聖王国時代には手書きで文字を書くっていうこと自体が稀だったんだろうなあ……遺跡とかにあるのだいたいハイテクな機械だし。タッチパネルもあるし。アバウトな口頭指示でもAIがうまいことやってくれるし。

 

「そもそも! 身体を変えるたびに好みも変わるのだから、いちいち記録するだけ無駄なのかしら!」

「統計出せば効率的になるからねえ」

 

 この土地のこの年代ならだいたいこんな好みが多い、みたいな統計は出せる。細かい好みは実際に食わせて調整する。面倒なようにも見えるけど、割とゲームみたいで楽しい。

 

「そして統計出せるくらい頻繁に死ぬ君が悪い」

「半分はお前のせいかしら!!」

 

 別に私のせいではないと思うんだけどなあ。

 まあ、私が運ぼうとした結果死んだことはあるのでまったくないとは言わない。抱き上げてちょっと本気で走っただけで死ぬと思わなかったんだよ。仕方ないじゃん。音速は出てなかったはず。

 

「お前は慣性の法則というものを学ぶべきかしら! 加速度で肋骨が折れてたまるかかしら!」

「ウケる」

「ウケてんじゃねーかしら!!」

 

 悪気はなかったんだよなあ。ただまあ、ほら。

 帝都襲撃してから追手が激しくなってねえ……まあ大規模破壊アンド虐殺かました全国指名手配のテロリストなんだからそりゃそうなんだけど……。

 ユーピテルも私も殺されても死なないんだけど、死なないだけでいろいろ減るからね……。

 私はなんかいろいろすり減ってる気がしないでもないし、ユーピテル的にもリスポーンにはデメリットがあるらしいんだよね。憑依する度に一から調整しないといけないとか、人格ダウンロードするのに時間くったりとか。

 

 それに、ユーピテルがうまく乗り移れる身体ってそんなに多くもないみたいなんだよね。

 

「最初から強い体に乗り移れたらよかったのにねえ」

「ほんとかしら。魔力とか言うクソシステムのせいかしら」

 

 ユーピテルは帝国の人族の脳を利用して生きる情報生命体だ。

 彼女がデクとかマンカインドとかシンスとか呼ぶこの種族は、ホモサピエンスにしか見えないんだけど、みんな電波送受信できるんだって。やばいメンタルってことじゃなくて、無線通信ってことだ。脳内に直接……! ができるんだってさ。

 ユーピテルはこの通信機能を勝手に使ってクラウド的に自分の人格を二千年間運用して、都度ダウンロードさせて肉体を得てるんだそうだ。

 

 でもそれには条件があって、まず第一に人族であること。

 当然っちゃ当然なんだけど、無線機能持ってるのは人族だけだから、蜘蛛みたいな種族とか鳥みたいな種族とか、ああいう亜人たちはそもそも対象外。

 

 そして女性であること。

 ユーピテルが女性だっていうのもあって、男性だとうまくいかないんだとか。

 

 次に無線機能がちゃんと活きてること。

 なにしろ二千年経ってる。何代も経てるから、その間に使われない機能は退化しつつあるみたいなんだよね。帝都の連中はユーピテルの存在に気づいて、意図的に退化した血筋を広めようとしてるみたい。

 無線がつながらないんなら、当然ユーピテルをダウンロードすることはできない。

 

「ちなみに有線じゃダメなの?」

「外科的、侵襲的施術をしてないとムリかしら」

「LAN直結ならずか……」

 

 そして一番厄介なのが、魔力だ。

 この世界には魔法があって、魔力があって、っていうファンタジーなんだけど、古代聖王国っていうのはもともと非魔法の文明だったみたいなんだよね。それがファンタジー世界に巻き込まれて、いろいろ研究して……っていう段階だったみたいだけど。

 

「厄介なことに、この魔力とかいうのはある種のバリアとしても機能するかしら」

「毒電波はシャットアウトされちゃうってわけだねえ」

「言い方ァかしら!」

 

 基本的に、この世界で強いひとっていうのは、必然的に魔力も強い。自然に纏ってる。

 この魔力が、ユーピテルの電波を無意識のうちに防いじゃうみたいなんだよね。ユーピテルの電波自体が魔力を持ってるから……というかユーピテルの存在自体が彼女の開発した《脳雲(ブレイン・クラウズ)》という魔法なんだ。

 すごい魔法ではあるけど、クラウド・コンピューティングと一緒でひとり当たりの魔力量はかなり少ない省エネ設計なんだね。だから強いひとの魔力は貫けないっていう……。

 

 種族、性別、無線機能の有無、魔力の強さ、この四つの条件をクリアするってなると……必然、ユーピテルが乗り移りやすいのは、昔ながらの暮らしをしてる田舎の人族小娘ってことになる。魔力は生まれついての強弱もあるけど、鍛えても強くなるから、年若い方が弱くて乗り移りやすい。

 

 だから一度死ぬと、ある程度範囲は選べるらしいけど、下手するとリスポーン先が山一つ越えた先の農村とかになる。

 逃げるっていう意味では遠くで復活できるのはいいことかもだけど、最弱状態からのリスタートでゼロから始めなきゃいけないし、農村の小娘の脳じゃあ大した知識もないから下手すると現在位置さえロストする。これは結構なロスだ。

 

 後、私が追い付く時間もロス。

 最初のうちは、私がパーティの位置をマップに表示する機能使ってなんとか探しに行ってたんだけど、ユーピテルのそばにリスポーンできることがわかってからは、適当に間をおいて自害してる。早すぎるとダウンロードが済んでなくて死に損だ。

 

「一時期、リスポーン先が近くて連続で殺されてた時は、お前も噂になってたかしら」

「なんかあったっけ?」

「のっぽの死神が村に訪れると若い娘が死ぬって噂かしら」

「だいたい合ってるなあ……」

 

 敵もさるものっていうか妙な勘の良さで見つけ出してくるのほんと勘弁してほしい。

 私が最初に出会ったときも殺されそうになってたけど、あの黒狼騎士団とかいうユーピテル絶対殺す騎士団、ほんと執拗なんだよなあ。

 どういう手段かわかんないけど、早めに対策見つけないとな……。

 

「っていうか君を殺しても復活するってわかってるんだから、自国民を無為に殺してるだけじゃないのかなあ」

「一回殺せば、リスポーンまでにはそれなりに時間がかかるかしら。その間ワタクシを行動できなくさせられるなら、まあギリ安いっていう計算かもしれないかしら」

「うーん。倫理観」

 

 一度乗り移られたら死んだものと考えれば、まあ……?

 捕獲する手段がないなら乗り移り先を片っ端から潰そうという焦土作戦みたいなのに出てもおかしくはない……?

 いやだいぶおかしいと思うけど。でもそのおかしい作戦を続行させるくらいにはユーピテルが過去二千年間でやらかしまくったんだろうなあ。

 

「ぐえ……にがぁ……」

「フムン……苦み耐性はいまのところ負け続きだねえ」

「ブラックをおいしく飲めるようになりたいかしら……」

「そこだけ聞くと普通の子どもみたいだ」

「うっさいかしら! はやく砂糖とミルクを寄越すかしら!」

「はいはい、おひいさま」

 

 私は分厚いレシピ帳にまた今日も追記する。

 いつか彼女を満足させるその一皿のために。




用語解説

・リスポーン
 リスポーン条件は本人にも明確ではなく、魔力が強くても相性次第では通ることもあるが、逆もしかり。条件はよくわかっていない。基本的には死亡時に近くの個体に検索をかけランダムでアクセスを試み、相性の良い個体に人格ダウンロードを行う。ダウンロードに必要な時間も不安定であり、これは対象の自我の強さなど様々なステータスによるものと推測される。
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