まやかしを見破り、
残る二人の安否は……。
眠い。
とても、眠い。
まるで深い泥の底にでも沈んでしまったかのように、体が重く、頭が重く、心が重い。
思えば私はいつもそうだった。
いつだって重たい体を引きずって、重たい頭を巡らせて、重たい心で生きてきた。
でも今日は、駄目だ。もう、駄目だ。
立ち上がるだけの気力がない。瞼を開く気力がない。指一本だって、動きはしない。
もういいじゃないかと、声が言う。
もういいじゃないか、こんなにも頑張ったんだから。
もう休もうよと、声が言う
もう休もうよ、こんなにも疲れたんだから。
そうかもしれない。
そうなのかもしれない。
私は頑張って、私は疲れて、もう立ち上がることもできない。瞼も開かない。指一本だって、動きはしない。
誰にも褒められず、誰にも認められず、何者にもなれないまま、流されるように生きてきた。
私はただ褒められたかった。認められたかった。
誠実さなんて要らなかった。嘘でもよかった。
私は生きていてもいいんだって、ただそう言ってほしかった。
そう言ってほしかっただけなんだ。
誰かに。誰でもいいから、誰かに。
だから、もう、いい。
もう、疲れた。
もう、後は沼に沈むように、ゆっくりと休みたい。
沈みたい。
死んでしまいたい。
「……ああ」
なのに。
なのにどうしてだろうか。
私は立ち上がらない体を引きずって、重たい瞼を持ち上げて、鉛のような手足を動かして、それでもこの沼から抜け出そうともがいている。
もういいじゃないかと、声が言う。
もういいじゃないか、こんなにも頑張ったんだから。
もう休もうよと、声が言う
もう休もうよ、こんなにも疲れたんだから。
そうかもしれない。
そうなのかもしれない。
そう思うのに、けれど、私はそれでも進むのを止められない。
体が重くて、頭が重くて、心が重くて、それでも、それでも、それでも。
どこに向かったって、どこに行ったって、きっと何にもありゃしないし、きっと何にも報われない。
そんなことわかってる。いままでだってそうだった。
何者にもなれなかった私が、いまさらどこへ行ったって、いったい何になるって言うんだ。
もういいじゃないかと、声が言う。
もういいじゃないか、こんなにも頑張ったんだから。
もう休もうよと、声が言う
もう休もうよ、こんなにも疲れたんだから。
そうかもしれない。
そうなのかもしれない。
だから、だけど、私は言ってやる。
「うるっさい!」
頭の中にこびりつくような声どもに、苛立ちとともに吐き捨てる。
うるさい、うるさい、うるさい。
わかっている。
何にもならない。何にもなれない。何も生み出せず、何も創れない。
私はきっとそういうやつだ。紛い物を積み上げてできた紛い物の人形だ。
でも、それでも、信じたいなと思うものができたんだ。
信じてもいいかなって、そう思えるものができたんだ。
私みたいな亡者には、眩しくって仕方がないけれど、それでも、その行く先を見てみたいなって、その目がどんな景色を見るのか、一緒に見てみたいなって、そう思える人ができたんだ。
それはきっと易しいことじゃあない。
私は何度も挫折して、何度も傷ついて、何度ももう嫌だってこぼすことだろう。
でもそれは、これからのことだ。
どっぷりと腰までつかった、タールみたいな過去の事じゃない。
前を見て、前に歩いて、自分の目で見てみなけりゃ始まらない、これからの事なんだ。
それに、そう。
私がどれだけくすぶってても、もう嫌だってうずくまっても、きっと許してくれはしないんだ。
真っ暗なタールのような世界に、ばりばりと鋭い刃が斬りこんでくる。
やかましくも騒々しく、雷を伴った剣が優しい闇を切り開いていく。
そうだ、君は、そういうやつだ。
私が放っておいてほしいって言っても、首根っこ掴んで齧り付きの最前席に座らせてくるんだ。
これから私は、今までにない程の痛みと苦しみにさいなまされることだろう。
もう嫌だ、勘弁してくれって、どれだけ叫んでも許してくれない、嵐のような現実に放り込まれることだろう。
でも。
でもいまは、不思議とその痛みが心地よい。
何故ならその嵐は、まず真っ先に私の名を呼ぶからだ。
「ウルウ!」
だから、そうだね、私もたまには応えよう。
「リリオ!」
それが私の痛みの名だ。
用語解説
・痛みの名
自分を変え得るものは、時に痛みを伴う。