【短編】父の名は。   作:ふくつのこころ

1 / 3
サブタイ共にそのまんま。
騎士は徒手にて死せずを宿しちゃった兄と可愛い妹の話


キリエライト兄妹

「321……、322……、333……」 

 

 バスケットを抱えた紫色の髪で目隠れ気味の眼鏡をかけた少女が訪れたとき、彼女が今現在労いたかった人物は素振りをしていた。

 今現在、木の棒で素振りをしている彼は青年であった。均整の取れた肉体についた筋肉はほどよくついており、痩せすぎずごつ過ぎることもなく、腰に剣を差している。

 その彼は白髪を持ち、彼女と同様に目隠れ気味ではあったものの、左側の目を隠している少女に対し、素振りに没頭している彼は右側の目を隠していた。

 これと言って中二病をこじらせているわけでもないのだが、少女、彼の妹になんとなく合わせていたらトレードマークになってしまったのも事実である。

 

「お疲れ様です、兄さん。今日も捗りますね?」

 

「やあ、マシュ。いつもご苦労。悪いな、わざわざ着替えまで届けさせて。友達と遊びたかったろうに」

 

「いいえ、兄さん。これはわたしが好きでしていることなのです、ですので兄さんは気にする必要はありません。これからも、しっかりと修行に励んでいただければと。このマシュ・キリエライト。兄さんの妹として、しっかりとサポートを行なわせていただきます」

 

 素振りをやめると、青年はマシュに当たらないよう、気をつけて木の棒を投擲武器のように辺りに投げつける。数百回にも渡って行われていたにもかかわらず、異常な耐久力を誇っていたように思われていた木の棒は近くの木に当たるや否や砕け散ってしまった。

 先ほどまでの異様な頑強さをただの木の棒が誇っていたのは何故か?それは、彼の持つ()()が起因する。

 その能力が先ほどまで普通の木の棒を数百回に及ぶ素振りに耐え切れるよう、頑強さを与えていたのだ。

 

 青年は妹から渡されたタオルで額に滲む汗を拭い、スポーツ飲料を口に運ぶ。ニコニコと自分を見つめている妹、マシュはすっかり後輩が板についている。

 彼等の親が見れば感涙するだろうが、運動部のマネージャーのように気が利くように成長させてしまったのは兄として喜ぶべきか否か。

 本当ならば、マシュにはもっと同い年の少女と触れ合ってほしかったというのが本音である。なのに、自分の勝手にしているトレーニングにつき合せるようなことをしてしまい、申し訳なく感じてもいる。

 得意気に笑う様子に小さく息を吐く、妹の思いは本物のようだ。ならば、その思いを踏みにじるのは兄としては野暮、というものだろう。

 

 青年は所謂、シスコンというやつであった。

 

「なら、これからも頼りにさせてもらおうかな」

 

「はい、デュラック兄さん。なんなりと頼ってください」

 

「マシュはいい嫁になれると保証しよう」

 

「もう、褒めすぎですよ」

 

 照れるマシュ、褒めるデュラック。

 なんて日常的な光景を続けながら、デュラックはスポーツドリンクを一口。

 

 

――――今日もマシュは可愛い。

 

 冷静な様子で一人、頷いているとマシュの方を見る。

 よく見ると、彼女の手に傷がついているのが見える。

 

「マシュ」

 

「はい、兄さん。えっと、これは……」

 

「誰にやられた傷だ?」

 

 デュラックの声色が変わる。

 マシュを大切に思っているデュラック、彼にとってはちょっとの傷でも一大事なので、少しのことも見逃さない。

 いま通っている、なんとかという学園でも同級生の友人が出来たというのは好ましいことだが、弁当を作るために台所に立つと言った時には一悶着があった。

 兄に美味しい料理を食べさせてあげたいマシュと妹が怪我でもしないかと心配な過保護なデュラックはしばらく争った後、「兄さんなんか知りません!」と言われたことが原因ですぐに喧嘩で音を上げてしまった。

 

 デュラックは、()同様に女性に弱かった。

 

 

====

 

 物心ついたとき、少年が目にしたのは白い壁だった。

 

 同年代の子供の多くが収容されており、名前は番号で呼ばれ、白衣を着た大人たちによって様々な実験が施されていて、毎日のように泣き叫ぶ声が聞こえた。

 特に少年が戦闘の訓練で一緒になった少年は快活で同室の部屋で過ごしたこともあり、色々な話をするようになった。

 いつか、必ず、此処を出て人間を守る立派な仕事に就くことが親友であった彼の夢であり、少年も名も知らぬ親友の夢をいつしか応援したいと思うようになった。

 

『いつか、おれと二人で一人のモンスターハンターなんてのもどうよ?闇を切り裂く狩人なんてな』

 

『もんすたーはんたー……?』

 

『おまえ、世界のしんじつってやつをしらねえの!?』

 

 この世界には、天使や悪魔が実在しており、更にモンスターや英雄の生まれ変わりやその子孫が実在するのだという。

 彼らが被検体として扱われている理由も、かつての英雄が持っていたとされていた聖剣に関わることが原因であるとされており、聖剣の話をするときの親友の表情は何処か暗かった。

 

『でも、きれいなけんなんだろう?なら、ぼくはみてみたい。うつくしいもの、というやつを』

 

 その言葉に親友の少年は目を丸くした。

 普段は物静かで、自分の話を静かに聞いている印象が強かったが、そう話す様子からは強い意思が見え、圧倒されるものがあったからだ。

 

『ならさ、きっと見れるぜ。そういうものが』

 

『そうだといいね』

 

 そんな話をした次の日、親友は実験による副作用で壊れてしまった。

 いや、正気を失ったというべきだろうか。どんなことを話しかけても答えてくれず、いつかの彼の夢であったという闇を切り裂く狩人の話をしたときも彼はゲラゲラ笑った。

 

『はっ、そんなもの、なんだっていうんだ?』

 

 その言葉を聞いたとき、心にヒビが入るのを感じた。

 

 それから部屋が別々になったのが原因か、そうでないのか。

 

 とにかく、毎日に『色彩』を感じることができなかった。

 

 機械的に実験の為に呼ばれれば答え、出向き、そして機械的に栄養を摂って眠る。

 

 いつしか、彼も心の支えを失ったことによって、他の子供と変わらないモノクロに変わってしまったのだ。

 

 

 そんな彼のモノクロの日々を、剣の一閃が切り裂いた。

 

『数値は安定、被検体のほうのメンタル値も異常なし。さあ、今日も神の贄となれ』

 

 彼は、ある日の戦闘訓練に発現させた能力をきっかけに別の実験に被検体として組み込まれていた。

 

 その能力こそ、かの円卓最強の騎士が木の棒を己の武器として使用した逸話から名前を取って「騎士(ナイト)()徒手(オブ)()()()()()」。

 その能力から円卓最強の騎士の息子にして円卓の災厄の席に座ったとされる聖杯に至った潔白の騎士をその身に降ろす為、彼の身体が使われた。

 

 なにもかもを諦め、ただ機械的に生きていくだけの日々。

 

 それが終わりを告げたのは、突然の出来事だった。

 

『やめろ!何をする!』

 

 次々と倒れていく大人たち、彼はその事実を信じられず、その身を自らの意思で起こした。

 

『よくも子供たちにこんな真似を!外道め!』

 

 その男は、紫髪を短く切り揃え、端正な顔立ちの剣士であった。

 その綺麗な顔を怒りで染め、刀身についた研究者の血を払い落とす。剣士は彼の存在に気づくと、すぐに近寄ってきた。

 

『大丈夫ですか!?』

 

『だれ?』

 

『申し遅れましたね。私はランスロット。ここでの所業を聞き、派遣されてきた者です。……しかし、酷いものだ。もう既に他の子供は……』

 

 剣士、ランスロットの言葉に彼は察する。

 

――――もう、あの子はいないんだな。

 

 少年の様子にハッと何かを思い出したのか、ランスロットは自らの剣を差し出す。それを少年が不思議そうに見つめていると、ランスロットは言葉を続けた。

 

『話が本当なら、貴方は私と同じ能力を持っているはず。もしも、それが本当なら』

 

 それは、運命なのかもしれない、と言うランスロットの顔は酷く苦々しげだった。

 少年にランスロットが渡した剣を握らせると、少年はその重量を確かに手を感じながらも、自らが使いやすいよう・持ちやすいよう身体に馴染ませていく。

 そうすることで、まるで幼子が木の棒を振り回すように振り回すことができた。

 

『驚きました。話は本当だったのですね』

 

『ぼくを、ころすのか?』

 

 ランスロットは首を横に振った。

 そして、少年と目が合うようにしゃがみこみ、その手を少年の頭に置いた。ガントレットに包まれている手だけれども、金属の冷たさより、心なしか彼の暖かさを感じることが出来た。

 

『――いえ。私がお前を生かす。これも、何かの縁かもしれない。私の異名、二つ名からとってデュラックというのはどうだろう。血の繋がりはないかもしれないが、親子の印として』

 

『いいなまえ』

 

『それは良かった。では、ここを出よう』

 

 ランスロットに抱えられ、少年、デュラックは外の世界へと出た。

 それから、各地を回るにあたり、自らの能力のことをランスロットから学び、似たような境遇のランスロットの娘であるというマシュと顔を合わせる。

 彼女やランスロット、そして他の人々との交流を通し、デュラックは人間の暖かさと言うものを学んでいく。いつしか、妹を守りたいという気持ちが芽生えはじめ、ランスロットへ憧憬と尊敬を抱くのだが――。

 

===

 

「教会から来たという、エクソシストさん、らしいんです。しかも、お父さんと同じような剣を持ってました」

 

「なんと言われた」

 

 マシュが教会、というとデュラックの表情が暗くなる。昔から、デュラックは教会だとか神と言った言葉を聞くと異常に反応する。

 ゆるくウェーブの掛かった長髪をまとめたデュラックの顔が近づくと、マシュが途端に顔を赤らめるのだが、普段以上に血が頭に上っているデュラックは彼女の変化に気づけなかった。

 

「出来損ない、だと」

 

「マシュが、僕の妹が出来損ないだと?それに、あの穀潰しと同じ剣と言うと……、ふざけるな。神がなんだ。それで、他に怪我はないのか?」

 

「はい、木場先輩が止めてくれたので。……その、エクスカリバーが、どうしたって」

 

 木場先輩、と言うと彼女の学校の生徒だろうか。

 胸に何か引っかかるが、それよりも、エクスカリバーというワードが耳に入った時、木に引っ掛けておいたジャケットを羽織る。 

 

「マシュ。その言葉が本当なら、僕は行かなくちゃならないかもしれない。だから、家から一歩も出るんじゃないぞ」

 

 あんなものが。

 あんなものがあるから、妹は怪我をする。

 妹が罵られる。

 誰よりも大切な、何よりも大切なマシュが怪我をすることだけは、許せない。

 全く帰ってこず、マシュを寂しい思いにさせている男のことは許せない、ならば代わりに、

 

 

 

 

 

「我らが父、円卓最強の男の息子としては聞き捨てならないことを聞いたからな」

 

「でも、兄さん一人じゃ……」

 

「僕は負けるつもりはないさ。だって、」

 

 父をああだこうだ言おうとも、彼のことは尊敬の気持ちは持っているから。

 

「僕らの父の名は、ランスロット。円卓最強の騎士ランスロットなんだ」

 

 

 妹を傷つける不届き者は、デュラック・キリエライトが容赦しない。

 

 




マシュは可愛い、だから、傷つけた奴は許さな……Arrrrrrrr!←
イメージはFate/Zeroのときのランスロットのメットオフの幼い感じ。
ギャラハッドにあらず
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。