短編だし、オリジナルで日常を挟んでいく
デュラックは今日も妹が学校に行っている間は家で家事を行っていた。
デュラックの仕事はデュラック個人に対し、舞い込んでくる依頼が多いため、それがないときは基本的にはオフであるので、キリエライト家の家事を行っている。
炊事以外の掃除や洗濯を行っているのは、マシュの料理の方が美味しいため、それとマシュの料理を食べたいためであり、デュラック本人は味覚に自信がなかったので料理をしたがらなかった。
『……それで、恋人はできたの?』
「急にどうしたんですか、マリィさん」
一段落した頃、時計は既に正午を回っていた。
そのときに携帯が着信したので誰かと思えば、父親の職場の同僚の女性であった。
全く帰ってこないキリエライト兄妹の親代わりであるランスロット以上にたまに家に訪れて料理を作ってくれたりしているので、彼ら二人にしてみれば母親も同然の存在である。
ただ、デュラックは彼女の年齢のことを思えば、姉として接する方がいいのではないかと気遣っているが、それすらも見透かされている気がした。
『マシュちゃんは聞いたけど、デューくんもよ。もうちょっと思春期らしい事したら?』
マリィとは、電話の相手の愛称であった。
彼女の通称とは別にある本名からの愛称であり、キリエライト兄妹ははじめて会った時からそのように呼ぶことを求められている。
なんでも、彼ら二人の父親と違い、あくまでも
デュ―くんとは、もちろん、デュラックの愛称である。
デュラックは彼女の言葉に眉を吊り上げた。はて、今、聞き捨てならないことを聞いたような気がするぞ?
「え、マリィさん。今なんと?」
『あら、お兄ちゃんは聞いてなかったのね。前からマシュちゃんに相談されてるのよ、どうすればいいのかって。もしかして、言ってはいけないものだったかしら?』
しまった、と電話の向こうで後悔する様子が感じられる。
仕事も完璧で性格もいいという完璧超人のマリィ、彼女は主に斥候や諜報を行なっているそうだが、キリエライト兄妹の前ではどうも甘くなってしまうところがあるらしい。
「僕は初耳だ。良ければ、詳しく教えてもらえませんか?これは、親父と会議物だ。本当のことを話してくださいよ?」
『そういうところはあの人にそっくりね、デューくん。マシュちゃんも年頃なんだから、あんまりベタベタしていると嫌われるわよ?』
嫌われる、と聞いてデュラックはためらった。
マシュに嫌われるとは、まさにこの世の終わりだからであるからだ。
しばらく、悩んだシスコン兄は覚悟を決めることとした。
「程よくしてますよ。マシュに嫌われるなんて嫌だ!」
『……誰に似たのかしらね、本当に。これは他言無用よ?特にあの人には』
あの人、とはもちろんランスロットのことだ。
「もちろん。デュラック・キリエライト、秘密は護る男です」
よしよし良い子ね、と幼い息子を褒める母親のような声が耳元で囁くように聞こえる。
そう言ったことに興味がないわけでもないのだが、父親の同僚とはいえ、親しい間柄にある女性にこのようなことをされると女性免疫の少ないデュラックはたじろいでしまう。
話の内容はこうだ。
最近、マシュには学校内で気になる男子がいるという。
しかし、どうやって話しかけたらいいのかわからず、友人にも言い出せなくて身近にいる恋愛経験が豊富そうなマリィに相談を持ち掛けたのだという。
マリィに相談したマシュは彼女のアドバイスに従い、出会ったときは必ず挨拶をすること、時折、偶然を装って一緒に食事をすることを徹底させているという。
過ごす時間が長くなれば、自然と異性というのは意識しやすくなるものというのがマリィの持論だそうで、マリィ流恋愛のイロハだそうだ。
『……ということなんだけど。過保護な騎士さんには余計なお世話だったかしら?怒らないで頂戴?これは、あの子がどうしても困っていたから……』
「それは分かっています。マリィさんは善意でやってくれたんだって」
それにデュラックの願いは、妹のマシュ・キリエライトが幸せに過ごせるように、ということただ一つだ。
あの真面目で可愛らしい妹が幸せに過ごしてくれるのであれば、それだけで家事も仕事も頑張れるというもの。自分の身を犠牲にしてでも守りたいと思わせる、そんな可愛い妹なのだ。
鍛錬終わりにお疲れさまと言ってくれたり、料理中につまみ食いをして叱る様子も何もかもが可愛らしい。
ああ、ついに妹にも春が来たかという喜びたい気持ちが沸き上がってくるが、それ以上に兄としてマシュが悪い男に騙されてやしないかと気になるところだ。
「相手の男の名前はなんていうんですか?」
『さあ。でも、先輩って言っていたから、マシュより年上ね』
マシュより年上、となるとおそらく10代半ばほどの年齢であろう。
「そうか、マシュにも恋人が……」
『ショックだった?また好物を作りに行ってあげるから、それで機嫌なおしてくれない?』
マリィに慰められるが、デュラックはそうじゃない、と制した。
「いえ、逆にうれしくて。また家で食事会するので、そのときはあの人も呼ぶようにするのでマリィさんも是非」
『まあ、素敵。いい子ね、デューくん。けど、来るかしら?あの人』
あの人、とはランスロットのことである。
どうやら、職場でもランスロットは非常に過密なスケジュールを送っているらしく、ほとんど会うことがないそうだ。
どういうわけか、マリィはランスロットに好意を示しているようで、デュラックはあの人にマリィさんはもったいない気がする、と思って仕方がなかったが、マリィはいつもランスロットのことを話すときが楽しそうだったし、幸せそうだった。
マシュもデュラックも、母親というものには縁がなかったが、もし母親になってもらえるのならば、マリィがいいとまで思うようになっていた。
もちろん、ランスロットの女癖の悪さを除けば、だが。
「来るようにさせます。マリィさんの頼みですから!もちろん!」
『そう、楽しみにしているわ。またね、デュラック』
そして、電話が切れた後、玄関でどさりと音がする。
誰かが帰ってきたようだ、マシュが帰ってきたならば、労ってやろうと思い、ソファから立ち上がってデュラックが顔を出す。
「おかえり、マシュ。洗濯も掃除もしておいたよ。今日のおやつはーーーー」
「やあ、デュラック。ただいま。今日は仕事がなかったのか?」
ランスロットであった。
げっそりとした顔でダークスーツにその髪と同じ濃い紫色のネクタイをしており、切った張ったをしていると聞いていなかったら、職業はバーテンダーと名乗っても違和感はないだろう。
「珍しい。いつも帰ってこないくせに。マシュが寂しがっていると分かっていながら」
マシュが寂しがっている、と聞くと父の胸に何か矢が刺さったのが見えた気がした。
「そのマシュのことなんだが、好きな人ができたのは本当なのか?息子よ」
「娘のことは名前で、息子のことは名前で呼ばないのか」
「本当なのか、デュラックよ」
訂正。
父は息子にもそれなりに甘かった。
「そうだよ。マリィさんから聞いたの?あ、今度、また家にマリィさん呼んで食事会するから予定を開けといてもらえない?お礼がしたいんだ」
「お前は本当に私に似てきたな……。気をつけろよ?ところで、なぜ、彼奴の名前が?私が聞いたのは彼女ではないぞ」
となると、とデュラックの頭の中で一人浮かんでくる。
こういった話が大好きで、頭どころか身体ごとずぶずぶ入り込んでくる人物と言えば、ランスロットの同僚の中では一人しかいない。
「ポロロンさんか」
デュラックは眠っているのか起きているのかわからない、父の同僚のことを未だ名前を覚えられなかった。
「そろそろ名前を憶えてやってくれ、彼奴も悲しがっていたぞ。……本当か?」
「僕はマシュに嫌われたくない」
「それは私も一緒だ。だがな、息子よ。その言い方だと知っていることを教えているようなものだ」
ばちばち、と父と息子の視線の間にほとばしる視線が交差し、互いを突き刺すものとなる。
ランスロットが立ち上がると、高身長のデュラック以上に背が高いので必然的にデュラックが見上げることになるのだが、本人は気にしない。
そのとき、扉が開いた。
「ただいま帰りました、兄さん。今日のおやつはケーキにしましょう。兄さんが好きな————」
マシュが笑顔を浮かべながら、ケーキの入った箱を手に玄関に入ってくるが、兄と父を見比べる。
「おかえり、マシュ。僕の好きなケーキだって?楽しみだなあ、紅茶淹れるよ」
デュラックはマシュの鞄をさっと預かりに行き、リビングへと連れて行こうとする。
その間、余計なことを言ってくれるなよ、と父の方を見ていたが、嫌な予感ほどよく当たるものだ。
「マシュ、好きな人がいるというのは本当なのか?」
予感、的中。
マシュの視線がデュラックの方を向いているのを肌で感じる、キッと睨まれているのだろうと思うと、そちらのほうを怖くて見ることができない。
キリエライト家の今日の天気は、晴れのち嵐の模様。
ランスロットパパを好きになってしまった、マリィさんとは、FGOプレイヤーならだれもが分かる、あの人