不知火です。
先日までの大侵攻と言う名のイベントも終わり、他鎮守府の海外艦、特にネルソン達の鉄火場の咆哮も静かになって少しずつ島周辺も静かになってきました。
今は秋。秋刀魚や鰯、鰊の時期で、この前まで血と硝煙にまみれていた海域も、今ではすっかり漁一色。秋刀魚の塩焼きは私達も静かになった記念にパーっと宴を催しましたが、やはり蒲焼きが恋しいもの。でもこの島ではあいにく蒲焼きは作れないので、鰯や
さて、本日はこの前までのイベントの残香か、イ級達にいじめられる美少女ヲ級を助けるという珍事がありました。
島の辺りは見通しの悪い場所が増え、用心深い深海棲艦ほど索敵を頑張って動けなくなるということがまれによくあります。その間にいじめられる訳ですね。
今日もそんな場面に遭遇し、私が主砲でどのイ級を吹き飛ばすか迷っている間に不知火が魚雷でイ級を殲滅しそうだったので、適当なイ級に主砲を叩き込みました。あわれイ級は全て海の藻屑と果てた訳ですが、あのビクッとしていたヲっちゃんは無事おうちまで帰れたのでしょうか。
何はともあれ、本日は満月。まさに望月の、欠けたることもなし。島には
島の一番高いところ、岩肌の上に腰かけて満月の空を見上げます。月と言えばそう、夏目漱石。
「月がきれいですね…」
ほう、と吐息とともに溢れた言葉は、しかし夜露に消えることはなく。
背後から聞こえる落ち着いた声が返答しました。
「
いつも通りの若葉の落ち着いた声。その声に、どこか柔らかな響きを感じて。その返しは、たしかそう。あなたと共に居たい、でしたか。
なら。共に居てくれると言うのなら。
「…死が二人を別つまで」
お互いに共に居たいと思う間は。異性の愛ではないけれど。
不知火として、共にある。
だから。
隣に来ていた若葉と共に振り返り、気配の主に声を掛ける。
「出てきたらどうです」
沈黙。
そしてしばらくして、茂みからガサガサと出て来たのは、うちの天龍ちゃんと、よその鎮守府の龍田でした。
「あー、なんつうか…。わりい」
頭に手を当てながら、開口一番謝罪する天龍とは裏腹に、龍田はややぼろぼろになった姿でありながらこちらを敵意と警戒と共に見つめる姿勢。
こちらと分かり合うつもりなどなく、無理やりにでも天龍ちゃんを連れて帰る、そのためには交戦も厭わない。そんな雰囲気の龍田さんですが、まあ別に気にするほどのことはありません。
「…して」
ポソリ、と。
夜の帷に吸い込まれるようにした龍田の呟きは、しかしはっきりとした意思が籠められていた。
「天龍ちゃんを、返して」
そう言ってこちらをじっと見つめてきますが、別に私は天龍をどうこうするつもりはありません。
今でこそ私が何故かリーダーみたいなポジションにいますが、そもそもここは、逃げ場を無くした艦娘たちの吹き溜まり。いつでもどこかへ行っても良いし、帰って来ても良い、そんなところ。
ですから。
「天龍」
私はそれに取り合うつもりはありません。
「あー、龍田。なんつうかな…。
ほら、今、俺ここで結構大事な役割しててな。
俺が抜けるのはちょっと難しいっつーか…」
天龍は困ったように龍田に説明というか説得してますが、正直なことを言えば、天龍が抜けた分くらいなら、私が働いて第二の遠征番長になる予定でなんとかなります。
この島は余裕のある生活とまでは言えませんが、外に出たいと言う子を押し留めてまで確保しなければいけないほど逼迫はしていません。また、そうさせるつもりもありません。
「でも!天龍ちゃん!こんなところに居なくたって!」
当然、ここまで天龍を迎えに来た龍田が聞く耳を持ちません。一体どんな事情があったのかは知りませんが、天龍が抵抗のないところを見るに、この龍田は天龍の知っている龍田なのでしょう。もしかすると、元居た鎮守府の龍田かもしれません。
ただ一つだけ言えることがあります。それは。
「天龍」
呼び掛けると、二人ともこちらを向きます。…それにしても、若葉が空気ですね。珍しく。
「貴方が伝えるべきは『理由』ではありません。『気持ち』を伝えてあげなさい」
苦い表情をする天龍。そして私は隣の龍田にも一言だけ。
「龍田、貴女には明日一杯までの滞在を認めます。
…若葉、行きますよ」
「わかった」
そう言って、二人に背を向けて若葉と二人、岩肌を降ります。
…今のはバッチリ決まりました。ドヤぬいです。