ポプテピピック、星色ガールドロップ!   作:しむらむ

11 / 11
衝撃の予告に聖書(アンソロジー)の設定を色々と引っ張ったようだが大丈夫か?

(不意を食らったが)大丈夫だ、問題ない(伏線を一気に回収して軌道修正をするだけだ)


第11星「突然の別れ」

 そして、星降さんに振り向いて最後の言葉を伝える。

 

「本当の自分を見つけるために留学することにしたわ。じゃあな」

 

 少ない荷物を持って、俺は星降さんと別れた。

 

 

 

* * *

 

 

 

 差出人:bbnmmtmhkmanm@anbnkay.xx.xx

 件名:(件名なし)

 本文:

 

 息子の大地へ

 

 本当は電話でお話をしたかったのですが、やむを得ない事情によりメールでお伝えします

 

 また、いつものように今使っているメールアドレスは、送信後に破棄します

 

 郵便物に関してはお母さんの不手際でした。混乱させてごめんなさい

 

 転送の手続きをしたので、重要な書類は届かないはずです

 

 さて、お父さんの仕事は日々忙しくなり、年内の帰国は難しくなりました

 

 お父さんとお母さんが国に帰るまで、家で待ち続けるのも辛くなってきた頃でしょう

 

 もしも大地が望むのなら、おじいちゃんの家で生活することをお母さんは認めます

 

 大地が通っている学校からは遠くなりますが、生活の質は格段によくなるはずです

 

 おじいちゃんと相談して、今の生活を続けるか、新しい生活をするか、大地が選びなさい

 

 おじいちゃんの家を選んで、通学に苦痛を感じなるなら、転校の手続きを許可します

 

 お母さんは大地の意思を尊重したいと思います。繰り返しますが、必ず相談してください

 

 お父さんは大地のために、そして、世界の平和のために今日も頑張っています

 

 次回の連絡は、一か月以内に送ります

 

 あれだけ注意したのに風邪を引いた大地の母より

 

 追伸

 

 そろそろ夏休みですね。学校が休みだとしても、最低限の勉強は続けなさい

 

 

 

* * *

 

 

 

 いきなりだが、今の俺のできる限り、過去のことを思い出してみようかと思う。

 星降さんが行方不明になって、その手掛かりを知るであろう俺に、親友から根掘り葉掘りに問い詰められたことがあった。

 俺に聞いても困る、と言いたいところだが、先日星降さんに一緒に出掛けないかと誘われて、その時に行き先を告げられていたのが全ての始まりだった。

 

 幸運だったことは、星降さんとの会話をしっかりと覚えていたこと。

 不幸だったことは、思い出の場所に行きたい、と不明瞭なことしか言っていないこと。

 

 当然、詳細な場所は聞いていないし、家庭の事情で誘いを断っていたし、実際に星降さんがそこへ行ったのかどうかもわからない。

 いくら考えてもわからない以上、問い詰めて来る親友を跳ね飛ばしても良かったかもしれないが、しかし世間を賑わすアイドルが行方不明になっている話は俺も心配するところで、仕方なく話に付き合うことにした。

 では、星降さんの言う思い出の場所とは何か? という話から始まるが、それこそ行方不明の本人に聞かなければわからない話だろう。

 とはいえ、本人のみが知るであろう思い出の場所とやらに勧誘されたことは事実であり、

 

『……星降さんが言う思い出の場所は、大地も関係しているんだろうな』

 

 親友に指摘されるのも無理はない。俺も当事者じゃなければ、関係性を疑うところだ。

 しかし、わからないものはわからないし、冷静になった今でも思い出せないし、俺に聞いたところで答えを出せるはずがない。

 そもそも俺と星降さんは、出会ってからまだ数か月しか経っていない。思い出に至るような、大きな出来事はなかったはずだ。

 強いて言うなら、二人で特訓した海か、修学旅行で同室になった温泉旅館ぐらいだろうか。

 とりあえずの意見を親友に告げると、首を振って否定された。

 現代社会において、行方不明になる原因は大きく分けて三つ。

 

 一つ、明確な意思をもって自主的に失踪したこと。

 一つ、第三者の人物に連れられて、世間から隔離されたこと。

 一つ、何らかの理由で、身動きが取れない状態であること。

 

 星降さんが海に行こうにも、旅館に行こうにも、一日以上連絡が取れないのはおかしいことであり、仮に身動きが取れない状態であっても誰かしらに通報される可能性が高く、これから二つの現地に行ったとしても、星降さんの姿はないだろうとのことだった。実際にその通りだろう。

 そうなると、次に誘拐された可能性が浮上してくるのだが、それは警察の力を頼るしかなく、その決断を下すのは事務所の人間になるので、俺達のできることは皆無に近い。

 もはや、白旗を掲げるには十分な材料が揃っていると思うが、それでも思い出の場所を特定するべく、親友の猛攻が始まった。

 

『星降さんと知り合ったのは何時だ?』

 

 俺から言わせて貰えば、星降さんが転校したその日に知り合ったのだが、実際には違うらしい。

 星降さんの話によると、五年ぶりに再会したとのこと。

 五年前と言えば、俺が小学生六年生の時だろうか。

 あらゆる記憶を忘れられない超記憶症候群は例外として、人が生き続けている限り、誰だって幼い頃の記憶は薄れてくるものだ。

 だからといって、ここまですっぽりと記憶が抜け落ちることはあり得るのだろうか?

 何度も脳内に検索を掛けても、星降さんらしき人物は見当たらない。

 やはり、最初から何も知らなかったとしか思えないのだ。

 

『ふーむ、五年前かー。ん? ――――そういえば、大地のおばさんは星降さんのことを知っていたようだが、それは間違いないか?』

 

 記念すべき第一回目の母からのメールを親友に見せたことがあるが、追伸にそそぐちゃんのことは本人に聞けと書かれたことを覚えていたらしい。

 そして、星降さんの口からも、俺の面倒を任されたと言っていた。

 親友の言う通り、事情を知っているのは間違いないだろう。

 残念ながら、詳しいことは何も聞けていないが。

 

『大地は星降さんのことを覚えていないが、おばさんは星降さんのことを覚えている、と。それどころか、おばさんは海外出張することを星降さんに話をしていて、その時に合鍵を手渡している、と。――――ふーむ、五年ぶりという話は事実なんだろうけど、どうも違和感があるな。いや、明らかにおかしいな』

 

 親友の言う違和感とは、たった五年程度で星降さんのことを覚えていないのはどういうことだ!

 ……ということではなく、星降さんと俺の母との関係が俺の知らないところで五年間も続いていたのか? という点だった。

 確かに言われてみればその通りである。

 それなりに顔を合わせていなければ、海外出張の話や、俺が一人暮らしをする話など、星降さんに伝わるはずがない。

 ましてや、いくら母が相手とはいえ、合鍵を預けるほどの信頼関係を結びつけるなら、長年の付き合いが必要になるだろう。

 

『これは俺の勘だけど、大地の両親と星降さんの両親は、それなりの付き合いがあったんだろうな。そういえば、おばさんの話の中に――――んん? ……ああ、そうか。そういうことか……』

 

 星降さんが転校した当日の朝に俺の家に来ていたこと。

 星降さんとは五年前から知り合っていたこと。

 親友に話したことは少ないが、この辺りから親友一人で考えていることが多くなっていたような記憶がある。

 

『俺もうかつだったなー。たった今になって気づいたことがあった。――――大地のおばさんは俺の家だけじゃなくて、星降さんの家でも家政婦の仕事をしていたんだ。だから、おばさんと星降さんはお互いを知っていたんだな。家政婦は守秘義務があるから、大地が知らなかったのも納得できる。おばさんはそういうところをきっちり守る人だからな』

 

 俺の両親は共働きだ。

 父は自衛隊を辞めてサラリーマンになって、母は訪問介護のパートをしている。

 親友と知り合ったのは中学生の時からだが、母の仕事の関係で特に仲が良くなった相手だ。

 母の仕事先を知っているのは親友の家だけで、他の家については一切教えられていない。

 なるほど、可能性はあるかもしれない。

 

『ということは、大地はおばさん絡みで幼い星降さんと会ったことがあるはずだ。それに加えて、外出先で遭難するような場所――――山の中、もしくはその近辺か?』

 

 女の子の記憶はないが、母と一緒に山に行った記憶はある。

 流星群を見れるかもしれないという話を聞いて、わざわざ山に登ったのだ。

 期待していた流星群を見ることはできなかったが、それでも大量の綺麗な星が並んでいて、母に呼ばれるまでずっと眺めていたような気がする。

 

『ほーう? おばさんと山に行ったことがあるんだな? よしよし、近づいてきたぞ。――――その日その時に同年代の子供が周囲にいなかったか? この際、性別は問わないぞ』

 

 星を見ていたのは俺と母だけではなく、数組の子供連れの家族もいた。

 俺の記憶が正しければ周囲は賑やかだったと思う。

 カメラを構えていた人もいたし、子供たちが集まって遊んでいた人もいたし、親同士で談笑していた人もいた。

 俺は星を眺めることに退屈していなかったので、周囲のことはそれほど覚えていないが。

 

『この辺で流星群を見れる山といえば、あそこか。――――ふむ、話が変わるけど、アイドルの収入はどれぐらいなのか気になって、しずくちゃんに質問したことがあるんだが、月収だけで数か月は暮らせるような額になってたんだよな。それで、星降さんと二人で勉強会をしている時に、お金を使い過ぎたという話があったんだ。星降さんの収入もしずくちゃんと同額に近い稼ぎがあるはずなのにな? その時は、かなり大きいものを買ったんだろうと思っていたんだけど』

 

 アイドルの稼ぎがどれぐらいなのか、俺も星降さんに聞いたことがある。

 朝に料理を作ってもらったりしているが、それで金欠になるような甘い稼ぎではなかったはずだ。

 金額を知った時は、進学も就職活動もする必要がないと思ってしまうほどにな。

 ……ああ、零がいっぱい並んだ数字を思い出してしまう。羨ましい限りだ。

 

『星降さんの手料理かー! 俺も一度ぐらい食べてみたいなー! いいなー! ……まあ、その話は置いといて、星降さんと海で猛特訓したことを覚えているな? 場所を提案したのは俺だけど、実は海以外の候補で山も考えていたんだ。ただ最近、誰かに山の権利を買われてしまってな。現在は立ち入り禁止になっているんだ』

 

 海の特訓も、今となれば懐かしい話だ。

 あれから色々とあって、俺の望んでいた羽を伸ばす生活から程遠くなってしまったが、それでも悪くない毎日だと思っている自分がいる。

 星降さんと出会わなかったら、今の俺は誰かを心配することなく、変わらない日常を――――退屈な日常を過ごしていたのだろう。

 それにしても山か。

 山で特訓していたらどうなっていたんだろうな。

 その時はまた、何かが変わっていたのだろうか。

 

『大地が見に行った山と、俺が考えていた山は多分同じだな。坂は緩やかだし、道は分かりやすいし、星空を見るには丁度いい場所だし、地元の人しか知らない絶好のポイントだ。俺も半年前に一人で行ったことがある。今までは土地の所有者が善意で開放されていたところだったんだけど、俺が行った時は、山道はゴミだらけだったし、廃屋は荒らされていたし、酷い場所になっていたな。所有者が変わって立ち入り禁止になったのも頷けるよ。元から私有地だしな』

 

 親友の話は、いくつか同意できる点があった。

 ゴミがあったかどうかは覚えていないが、廃屋があったのは間違いない。

 星を見飽きた子供たちが、廃屋に集まって、そこで騒がしく遊んでいたことは今も覚えている。

 それに、子供の足でも通える山道だったし、母も秘密の場所と言ってたし、確かに同一の場所なのだろう。

 そう思うと、立ち入り禁止になったのは残念な気がする。

 あの時の星空はまさに絶景だったから。

 

『ここからは、もしもの話だ。もしも、五年前の山で大地と星降さんが会っていたら? もしも、山の権利を星降さんが購入していたら? ――――星降さんなら大金を使って、山を綺麗にしようとするだろうな。頂上にあった廃屋もリフォームするかもしれない。規模が膨らめば、トップアイドルといえど懐が厳しくなるだろう。そして何よりも、昨日は天候が安定していて、星がよく見える日だったんだよ。山を登れば携帯が届かないのも納得できるし、遭難する可能性もなくはないかもしれないな』

 

 あの時の俺は、親友の言葉に息を飲んでいたと思う。

 本当に星降さんとはそこで出会っていたかもしれないと、どこかそう思っている自分がいる。

 そして、星降さんが行方不明になっているという緊急事態を目の前にして、俺は最初に星降さんと出会ったあの日――――泣いている彼女の姿を思い浮かんでしまったのだ。

 

『今から行ってみるか……? 思い出の場所と思われるところに。行かないなら俺一人で行くけど』

 

 だからこそ、俺は迷わず親友の提案に乗った。

 

『ほーう、即決か! なら、俺も気合を入れないとな。ちょいっと待ってくれ、足を用意するために交渉してくるよ』

 

 それから、どこから仕入れてきたのか分からないバイクに乗って、山に向かった。

 結果はどうなったかというと、星降さんはそこにいたのだ。

 

 そして俺は、満天の星の下で――――。

 

 

 

* * *

 

 

 

 人形のような少女が、事務所にある、とある一室に入った。

 

「おや、オニキスさんじゃないですか。デビルボルケーノの待機部屋は一つの下の階になります」

「…………」

「ああ、自己紹介が遅れました。俺は月野さんと夕陽さんの臨時マネージャーをしています。今はやることがないのでこの部屋で待機しているところです」

「…………」

「このまま居続けると、月野さんか夕陽さんと鉢合わせする可能性がありますが大丈夫ですか?」

「…………」

「よろしければ、エレベーター前までご案内いたしますが」

「……居ては駄目?」

「いいえ、そんなことはありません。待機部屋は俺みたいな外部の人間でも利用することができますので。しかし、この部屋にいると伝達が遅れてしまうと思うのですが」

「……終わった」

「本日の仕事が終わったということでしょうか? すみません、仕事の進行状況を察することができませんでした」

「…………」

「この部屋を利用されるのなら、俺は別室に移動しますね。月野さんと夕陽さんにも移動したことを伝えておきます。では――――」

「…………」

「えっと、服を掴まれると俺としても困ってしまうのですが」

「…………」

「わざわざ上の階に来たということは、俺に用事があったということでしょうか? わかりました。要件を伺います」

「…………」

「部屋から逃げないので椅子に座らせてください。オニキスさんもよろしければ席へどうぞ」

「…………」

「さて、一息ついたところで、話を聞きましょうか。何なりと聞いてください」

「…………」

「えーと、参ったなぁ」

「…………」

「ところで、オニキスさんのお手元にあるものは、手作りのぬいぐるみですか? ワイルドで可愛いぬいぐるみですね。多くの視聴者から注目されているらしいですよ」

「…………」

「全身の黄色と、首元の赤のリボンの色合わせもいいですよね。もしも市販されていれば、大反響間違いなしです!」

「……これでコンプリート?」

「はて、俺が気づかない内に何か揃えてしまいましたか?」

「……全員と話した?」

「ああ、そういうことですか。――――そうですね。常闇さんも、黒瀧さんも対面でお話しさせて頂きました。またいつか話をする機会があると嬉しいですね。もちろん、オニキスさんとお話しできることは光栄の至りに存じます」

「……そっちのグループも?」

「そっち、と言うと、ドロップスターズのことですか? 俺は彼女達と同じ学校なので、お話する機会はいくらでもありました。オニキスさんとお話しするより、ずっと楽な条件ですね」

「……二人で話した?」

「はい、星降さんも、月野さんも、夕陽さんも、二人きりでお話したことがあります。まあ、世間話の延長線みたいなものでしたが」

「……プロデューサーも?」

「釈迦さんも二人でお話ししたことがありますよ。プロデューサーを担当しているのに、作曲もしているなんてすごい人ですよね。デビルボルケーノの曲も釈迦さんが作曲をしているという話を聞きました。曲の方向性が両極端なのに、あれだけ多彩な曲を作れるのは尊敬してしまいます」

「……麻薬組織の少年兵」

「あー、その話はあまり触れない方がよろしいかと。まあ、そのことを知っている人は極少数だと思いますが、俺みたいにちょっとした疑問から調べ上げれば、判明しちゃうものもありますから」

「……あの男は?」

「あの男と申されますと?」

「……ダイチタイラ」

「彼こそは年中に話をしていますよ。話さない方が珍しいんじゃないでしょうか」

「……話したい」

「彼と面会希望ですか? お望みならオニキスさんの都合を合わせてセッティングしますが」

「……ソソグホシフリは?」

「本日、事務所にいらっしゃるのは月野さんと夕陽さんだけです。星降さんは別の仕事をされていると聞いています」

「……ストーカー女」

「あー、その話はどこから聞いたんですかね? ――――ああ、そうか。星降さんの自宅に行ったのは夕陽先輩だけじゃなくて、事務所の人間も立ち合っていましたか。プロ意識が足りないなー。――――うーん、俺のできることなら協力しますので、他言無用でお願いできませんか?」

「……全員と話をして何かが変わった?」

「えーと、すみません、俺の理解力が乏しいようで、言っていることがよくわかりませんが」

「……ここは何度も繰り返している歪な世界」

「独特な価値観だと思いますが、歪な世界というのは俺も同意できます。なんというか、世界全体が生き急いでいる感じがしますよね」

「……どうにもならなかった。だから日本に来た」

「どうにもならないというのはどういうことでしょうか? 日本に何かあるんですか?」

「……もう夢から覚めないと」

「とても刹那的な物言いだとは思いますが――――」

「Please remember」

「何をですか?」

「……ダイチタイラに」

「ふむ? 伝えろというのなら伝えますが、もしかして、オニキスさんは大地と星降さんのことを何かご存知なのですか?」

「…………」

 

 学生服を着た男を部屋に残して、少女は静かに立ち去った。

 

 

 

* * *

 

 

 

 俺の名前は――――と、それはどうでもいいか。高校二年生の男子生徒だ。

 

 この世界は、何かがおかしい。この違和感を胸に抱いて、自分自身の日常を謳歌しながら、世界の情勢を見守り続けた。

 

 世界大戦が終結してから数十年。平和を得た人類は研究を勤しみ、ここ数年で世界各国の技術が急速に発達した。

 

 新たな発見、新たな実現化、新たな快適さ。便利な道具が人類に行き渡り、生活水準の基点が底上げされた。

 

 Any sufficiently advanced technology is indistinguishable from magic.

 

 行き過ぎた科学は魔法である、と言い残した偉人がいる。まさにその通りになった、と言ってもいいだろう。

 

 例えば、現代社会の技術の集大成である携帯電話。その機能の一部である音声でのやり取り。

 

 遠く離れた人物とリアルタイムで会話することができる道具だ。しかし、その仕組みを一から十まで細かく説明できる人は、少数になるだろう。

 

 理解が追い付かない便利な道具が、今は世界中に溢れている。人類の発展が滞ることなく、新たな技術が次々と開発されている。

 

 最近のことを言えば、巨大異常種の技術が正式に発表された。

 

 要約すると、従来の物の大きさから、人工的により大きくする技術だ。技術が確立されれば、資源の節約に繋がるとされる。

 

 ただし、巨大化の対象は植物などではなく、動物なのだ。

 

 ポメラニアンという小型の犬種がいる。配合を繰り返して、人間のために作られた愛玩動物の一種だ。

 

 これが科学者の手によって、人間を遥かに超える巨大な犬を作った。ポメラニアン特有の可愛らしさをそのままに、体だけを大きくすることに成功した。

 

 犬の大きさを表す時は体長、もしくは体高を使われるが、今回は体高――――つまりは、四足で立っている状態で、地面から背中の高さを数字で表すと約二百になる。

 

 成人男性の平均身長は百七十前後なので、遥かに超えると言っても数字上は少し上ぐらいの大きさだが、これでも大型の熊よりもずっと大きいし、頭部を含めれば三百超える。更に立ち上がれば五百は余裕だろう。巨大ポメラニアンの口の中に、人間の上半身が軽く納まる大きさと言えば、よりわかりやすいだろうか。

 

 実際に、映像や動画で見た時は、強い衝撃を受けた。巨大異常種の名に相応しい研究成果を見せつけられた。人類は遺伝操作の技術にまた一歩先を進んだ。

 

 この世界は、何かがおかしい。他にも、短期間で開発された技術が数多く存在している。これらと比べれば、巨大異常種の技術など可愛いものだ。

 

 用途はいまいち不明だが、未来からのメッセージを受信できる装置が開発された。完全に一方通行のシステムのため、現在は未来に送信できる装置の研究、及びタイムマシンの理論構築が進められている。既に過去との送受信が可能になっているのでは、という噂もあったが、公式では否定されている。

 

 精度が微妙な嘘発見器から別方向に発展して、記憶の除去を可能とした装置が開発された。ただしこれは、部分記憶の除去は不可能であり、ありとあらゆる記憶――――今まで使っていた言語や、肉体の基本動作なども全て含めて抹消されるため、欠陥品扱いにされている。改良を重ねて、犯罪者に使用できるように、現在も研究が進んでいるらしい。

 

 汚染された廃棄物や、再利用不可能なゴミなどを、物理的に完全消滅させるための装置が開発された。超圧縮の技術の到達地点と言われており、少ないエネルギーで装置を作動することが可能なため、新エネルギーの生産と用途の研究、及び汚染物質を撒き散らさない次世代の核兵器として軍事開発が進められている。

 

 脳の研究が進み、動物の知能を大幅に向上する技術が開発された。人間の言語をより理解するようになり、移動や動作の指示はもちろんのこと、道具の操作や荷物の運搬なども可能であり、やり方を選べば円滑なコミュニケーションを取ることもできる。ただし、施術による影響なのか、一か月も経たない内に重篤な病気になってしまい、そのまま命を落してしまう。現在は、施術の改良と治療法の発見を求められている。一部では、人間を施術したという噂もある。

 

 ……といった感じで、画期的な技術が生み出されて、本来科学に約束された理論や理屈、道理や原理から外れて、もはや魔法や超能力といった超常的な力のようなものが、少しずつ現代社会に進出するようになってきたのだ。

 

 今はギリギリのバランスの上で平和を保たれているが、いつ崩れてもおかしくない状況だ。そのために大地の両親は奔走しているが、それでも十年以内に技術争奪の戦争が始まると俺は予想している。

 

 この世界は、何かがおかしい。俺に纏わりつくような違和感を拭うことができない。

 

 多くの生徒が待ち望んでいるであろう夏休みに近づけば近づくほど、酷いデジャブに襲われる頻度が跳ね上がってくる。

 

 全身の血液を止められたような感覚は、慣れる気がしないし、慣れたくもない。

 

 今もそうだ。将来を案じて思考を巡らせていたが、どこか別の場所で全く同じようなことを考えていたような気がする。

 

 そういう意味では、星降さんと関わっている時は何もかもが新鮮で、だからこそ一目で惚れてしまったのだが、ここまでデジャブの有無に明確な差が出て来るとは思わなかった。

 

 一部を除いた学校にいる全ての連中――――しずくちゃんも、夕陽先輩も、話しているとデジャブに襲われることがある。不快感が顔に現れそうで、アイドルでもないのに、表情を隠すのに精一杯になる。その度に俺の神経がゴリゴリと削られて、時々無性に暴れたくなってしまうのだ。

 

 俺にとって、星降さんは精神安定剤のようなものだ。話す機会が多くなっても、一度もデジャブに襲われたことがない。気軽に話せる存在というのは、ありがたいものである。

 

 でも、俺は恐ろしいのだ。もしも、星降さんと話をしてデジャブに襲われたら、俺は彼女のことを嫌ってしまうのではないかと。彼女がそれに気づいて、俺のことを嫌ってしまうのではないかと。

 

 そして、何よりも星降さんは大地のことを深く愛している。多少の優劣はあれど、大地以外の人間は有象無象の存在にしかならないのだろう。

 

 俺の知恵と知識を総動員すれば、星降さんの心を奪うこともできたかもしれないが、それだけは断じて、やってはいけないことだ。

 

 大地の両親は、俺の命の恩人であり、生きる意味を与えてくれた人達だ。恩人の息子である大地を支えて、少しでも恩を返さなければならない。これは星降さんのことよりも優先しなければならないことだ。

 

 この世界は、何かがおかしい。世界を巻き込んだ何かが起きているとしか思えない。

 

 もしも、神様が存在するのなら、俺の願いを聞き届けて欲しい。

 

 少しでも長く、平和が維持されますように。

 

 そして、二人に幸があらんことを。

 

 

 

* * *

 

 

 

 俺の名前は平大地。いたって普通の高校生だ。

 

「あんな分かりやすい嘘、一日でバレるぞ? 俺がしずくちゃんと夕陽先輩にフォローしていなかったら、その場で捕まっていたな」

 

 そして、こいつは俺の同級生で、親友だ。

 事前に星降さんに話を――――いや、これからはそそぐと呼ぶことにしよう。

 それで、そそぐに話を伝えて行動制限するつもりだったが、余計な人間が何人か増えてしまった。

 そそぐに別れの挨拶をした時、そそぐの奥には、ちっこいのと、ころな先輩の姿が見えていた。

 時刻は夜だと言うのに、慌てて現地に来てくれたのか、そそぐを含む全員が制服姿から変わっていなかった。

 計算外のこともあったが、計画に支障はない。俺は俺の目的を果たすために、彼女達を置いていく。

 

「そそぐが付いてこなければそれでいい。残りの登校日は少ないし、今月は全部休む。夏休みが終わるまでに終わらせるつもりだ」

「これからどうするんだ?」

 

 親友に今後の予定を話す必要はないが、これまで色々と協力をしてくれたお礼に話してやるとしよう。

 

「まずは爺さんの家に行く。おふくろの連絡手段か居場所を絶対に教えて貰う。できれば連絡じゃなくて、会って話をしたい。そのためなら、海外にだって行ってやるさ」

「大地のお爺様は現役の将官だもんなー。何かしらの事情は知っているだろうなー」

 

 母から、困った時があれば爺さんを頼りにしろ、と言われるだけあって、爺さんの家はかなり大きい。

 高価なものや、珍しいものが家中にゴロゴロと転がっている。

 爺さんの家に行くと、毎回新しい何かが家に置かれているので、物の入れ替わりが激しい印象がある。

 爺さんの家に住んでみるか? と母のメールで聞かれた時は、正直に言って心が揺れた。

 まあ、これも母のメールに書いてあったことだが、とにかく爺さんの家は遠い。

 距離の問題が解決していれば、爺さんの家を選んでいたのだろう。

 これから俺は爺さんの家に向かうのだが、まずは爺さんに話をして、母のことを聞き出す。

 そして、

 

「おふくろに問い詰めて洗いざらい話してもらう」

 

 俺の第一の目的はこれだ。

 母に聞けば全てが解決するとは思っていないので、またここから手探りになるだろう。

 そのために、長期の休みを取った。夏休みが近くに控えていて運がよかった。

 

「やっぱり、記憶が抜け落ちていたか?」

 

 断言はできない。でも、実際にそうだろうと俺は思っている。

 五年前に山で星を見ていたあの日、俺の隣に誰かがいたような気がするのだ。

 多分、その人物が、そそぐ本人なのだろう。

 

「それを調べるために、これから聞きに行くんだよ」

「星降さんに話は聞いたのか? 大地の記憶が埋まるかもしれないぞ?」

「知りたいのはそそぐの過去じゃなくて俺の過去だ。まずは産みの親に聞くのが筋というものだろう?」

「うーん、ちょっと遠回りかもしれないけど、一理あるな」

 

 ついでに、海外で何をしていたのか。

 どうして、連絡手段を寄こしてくれないのか。

 色々と聞き出してやるつもりだ。

 

「じゃあ、行こうか。近くの駐車場にバイク置いてあるから、一緒に行こうぜぃ」

 

 は? 親友も見送りに来ただけじゃないのか?

 

「俺も久々に大地のお爺様に会いたいし、何時でも遊びに来てもいいという約束をここで使わせて貰うとするよ。俺も興味がある話だしな」

「あのなー」

 

 これは俺の問題だから、親友が介入する余地なんて、どこにもないんだけどな。

 

「安心しろ。大地のやりたいことは邪魔をしないから。自分で言うのもあれだけど、俺は何かと便利だぞー?」

「まさか、お前も海外に行くとか言わないだろうな?」

「パスポートを持っていないから無理だな。いや、お爺様なら外務省に問い合わせて即日発行もできるか……?」

 

 おーい。

 

「何はともあれ、お爺様の話を聞いてからだな」

 

 まあ、確かに親友の言う通りだ。

 まずは爺さんと話をする。最初の一歩はそこからだ。

 俺は、失った自分を探す。

 見つけるまで探し続ける。

 そそぐとの約束を守るために。

 

 …………。

 

 …………。

 

 ……約束?




しむらむが小説を書くRTA、
はーじまーるよー

それじゃあさっそく、イクゾー(デッデッデデデデ!(カーン)デデデデ!)

タイマーはアニメ放送後と
同時にスタートします。

終わりました。
タイムは3秒190111です。

さて、完走した感想ですが、

こ ん な し ょ う せ つ に
ま じ に な っ ち ゃ っ て ど う す る の

以上です。
ご愛読ありがとうございました。

 ▲ページの一番上に飛ぶ
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(必須:5文字~500文字)
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。