にわかに店の外が騒がしくなった
その音にハルの耳は過敏に反応する
レオはここに来て時間が立っていないから気づいていないがこの町に長くいるハルには分かる。
いつもと違う
なんというか…市場の賑やかさではない
悲鳴と怒声だ
ハルはレオからもらったダガーのうち1つを静かに持ちあげ、扉の方を見た
「どうした…」とネージュが言いかけて口をつぐみ、険しい顔で槍を軽く扉の方にむけた
どうやら用心棒をしているのはあながち嘘でもなさそうだ
「どうしたの?」と何も気づいていないレオをここにいろと手振りで示し、ハルはネージュと目で合図し合い扉の両側に素早く移動する
一時の静寂
バン!と扉が開いて「手を上げろ!」と鎧を着た男が入ってきた。手に持った大剣をレオに向ける
普通ならここで大人しく手をあげて従うだろう。現にレオはすぐ手を上げた
だがハルはそんなつもりはない
――――運が悪かったな、おっさん
「ハッ!」掛け声と共にハルは横から躍り出て男の手首をダガーで狙った
まさか横から不意打ちがとんでくると思っていなかった男は慌ててハルが持つダガーを弾くように大剣を振るった
ハルは大剣が当たる直前にダガーを引っ込め後ろに飛んだ
虚しく空を裂く大剣
「当たってないぜ、おっさん。せっかくの剣も当たらなきゃ意味ないぜ?」
ニヤリと笑ってハルは挑発する
「このガキっ…」
ガンッ、、、ドサッ
最後まで言い終わる前にネージュの槍の柄で殴られてあっけなく沈黙した
「こいつ、ただのアホだな」ネージュ後ろから槍を逆さに持ちながら飽きれたように続けた
「後ろに誰もいないと思ってる。こいつたぶん集団戦闘練習しかしたことない奴だ。でなきゃ背後から殴られて気絶するとかあり得ない」
そしてどこからか縄を取り出してあっという間に男を縛り上げてしまった
「この人、隣の国の軍隊の人だ」と恐る恐る近づいてきたレオが眼鏡をずり上げながら言った「この方の部分、オオワシの文様がある」
言われてみれば鎧の肩の部分に赤いオオワシの紋様が彫られていた
「ということは、ついにここも攻められてきたんだね」とネージュが言った
「と、とりあえず安全な所へ逃げよう!」とレオが慌ててハルの肩をゆする
「外に出れば見つかるだろ!どうやって逃げんだよ」とハルも焦る
とにかくこの町が襲われたということは村の方も危ない、すぐに戻らないと
でもどうやって?
ハルとレオのの話を黙って聞いていたネージュがおもむろに口を開いた
「この建物、屋上か屋根にあがれる?」
「は?」「へ?」
* * * * * *
「…で、どうやって逃げんだ?」とハルは再びネージュにたずねた
ハル、レオ、ネージュがいるのはさっきまでいた酒場の2階、いうなれば酒場の主人の寝起きする場所だ
もちろん家主の許可なく入っている
開け放してある窓のすぐ下には隣の家の屋根が見えた
「もちろん屋根をつたって逃げるのさ」とさも当然のようにネージュは言った
いやそうだとは思ったけどさ…
「下から矢の格好の的になるだけじゃねえか。そんなの俺はゴメンだぜ」とハルは言う
流石に屋根をつたって逃げるのに気づかないバカはいないだろう
「それに僕、屋根をつたって走るとか…そんな芸当できないよ」とレオが申し訳なさそうに言った
「あんた…ハルだっけ?この眼鏡君背中におぶえる?」とネージュがたずねた
「それは余裕。風魔法使えばどうとでもなる」
「じゃあ大丈夫さ。こうすればいいんだよ」そういうとネージュは槍を自分の頭上でくるりとまわした
その瞬間ネージュの姿がかき消えた
「?!」
「ほらさっさと眼鏡君おぶって!」
見えないネージュの声に急かされて慌ててレオを背中におぶった
その動きに合わすように周りを水のカーテンが覆いかぶさった
「なるほど、屈折の魔法でこの水の外側からは見えないんだ〜」レオの納得した声が背中から聞こえた
「水のカーテンの中だったらお互いに見えるようにしておいたよ。その方が便利だろう?」とさっきと同じ位置にいるネージュが言った
「その代わり、あんまり離れすぎるとこの魔法は効かなくなるから注意しな。じゃあハルさんよ、道案内頼むよ」
「…道案内じゃなくて屋根案内だろ」
ボソッと聞こえないように呟くと「遅れるなよ!」と言いながら窓から飛び降りた
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