チョロい彼とオトす彼女   作:杜甫kuresu

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もう片方とは世界観が違うので注意。
取り敢えず本文どうぞ。


何処吹く風

 私は物事に執着できない性格として『設計』されていた。何故かは分からないが、気づけばそういう風になっていた。

 勝利に酔わないし、喪失に悲しまないし、手にしたものに頓着できない。

 

 与えることも奪うことも得意なことでは有ったが、何せそうした後の『処理』に困る奇妙な性分だった。

 言われるままに敵を倒し、願われるままに理想として完成して。気づけば私には、ある意味『自我』が存在しなかった。

 

 具体的に何という願いは持ち合わせなかった。敢えて言うなら「平和」を望んでいると答えてはいたが、それは半分消去法だったと思う。

 平和であるならば私のような「唯の道具」は生まれなくなる。意味に飽和してしまうことは悪いことはない、唯使用されるだけである方がよっぽど無意味なものだと、当事者だからこそ断言してもいい。

 

――――――そうだな、この発想そのものもやはり、消去法に近い。「無くなるから」では、消去法と大差ない。増やしたいものを見つけるのが正しい願いだろう。

 だから願いらしき願いはなくて、きっと私は意味もなく「あの人」の下で力を振るい続けていたのだと結論づけて問題無さそうだ。

 

『お前は恋でもすりゃ何か、こう――――――――もっと良い女になるんだがなあ』

 

 いつも彼はそう言っていた。決まって無愛想というか、どうにも親しみ深さに欠けるその喋り方は変わらない。出会った頃からこんな感じの人だった。

 ぶっきらぼうな喋り方なのに、何処か私には親愛のこもったように思えたのは――――――錯覚、だろうか。

 

――――しかし恋。恋と言われても、突然頭に新しい単語として枠を取られたそれの詳細は、私にはイマイチ分からなかった。

 

『何? 何って言っても――――――まあ、自分らしさを見失って、我儘になって、独占欲に塗れるような、そんな感じのもんだ』

 

 彼の説明だけを聞くとまるで良いところなど無いものだから、当時の私も眉をひそめた。

 

『恋だの愛だのってのは簡単に物事をくるくる変えちまう、お前のその伽藍堂もコイツで何とかなるやもしれん』

 

 伽藍堂であることを見抜かれていることに僅かに表情を強張らせてしまったが、着任()()()()ずっと面倒を見てもらってきたのだから見抜かれて当然である部分も多かった。

 

 だが納得は行かなかった。そんな不便の塊のような、ただの面倒事のようなものが果たして私を良い方向に変えてくれるのか、甚だ疑問だった。

 

『也人ならグッと来る飾り気のない言葉を出すんだろうが――――――俺は肝心な所で言葉を選んじまう、無理そうだなあ』

 

 彼は小さく乾いた笑いをこぼしながら、続けてこうぼやいた。

 

『俺がお前に向ける愛ってのは、また恋だ何だとはちょっと違うしなあ…………』

 

 聞こえないように言ったつもりなのだろうが、全然聞こえていた。

 

――――――こんな会話を交わしたのは、彼が突然銃殺される三日前のことだ。

 今でも手続き上はあれは【不審死】なのだそうだ。誰が手を引いていたのか、自ら公表しているようなものだが、しかしどうしようもないものはどうしようもない。

 

 

 

 誇らしげに言う話ではないが、彼の葬式で穏やかなその表情を見た時、初めて泣き崩れる感覚というのを経験した。

 戻ってこないものに縋り付くような感覚を理解して、それも彼が教えたかったものの一つなのであろうこともすぐに理解した。

 

 仲間が居なくなったことも在るには在ったが、その時の私はこれほど泣いた覚えがない。

 

『…………エンタープライズ、だな?』

 

 そして、或る男が私に声を掛けた。

 親族でもないのに何故か泣き崩れる奇妙な女に声をかけるだけあって、やはりその男も奇妙なのである。

 

『お前のこと、親父から任されてるからさ』

 

『あのクソッタレみたいに上手くは立ち回れないんだけども――――――良ければうちの鎮守府に来ないか?』

 

 そう言って頬を掻くばかりの男の顔は何処か赤いものだから、遠慮するわけでもなく

 

「何故頬を染める」

 

 と彼に似たぶっきらぼうな調子で尋ねてしまうのだが

 

『………………母親にお前が似てるから』

 

 と答えたのに、涙はあっと言う間に笑い涙へと変わってしまった。

 

――――――私と彼の出会いというのは、そんな愛、恋というよく分からないものについての探求の旅路、その途中でのことだった。

 

 

 

 

◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆

 

 

 

 

「お前は兵器じゃねえ」

 

「兵器だ、本質は変わらない」

 

 隙間風の吹く度に、己の杜撰さを大声で公表されているよう。

 そんな恥ずかしい思いをしながら、エアコンの利いた部屋で俺は彼女と問答を続けていた。透き通る彼女の声が部屋に染み込んで、俺は何だか劣勢のような錯覚をする。

 

――――――ずばり問答のテーマは『艦と人』が近い。開発費ばかり嵩んでいることをご同輩に揶揄されたという話に始まり、知らぬ間にこんな話になっていた。

 話し手が言うと胡散臭いのだが、彼女は聞き上手なものだから、実際はべらべらと俺から喋っていったというのが近い。

 

 コーヒーはとっくに飲み干されていて、そろそろ水で中を流さなければ跡が残りそうだ。

 

「指揮官、心を持った所でその本質――――――芯は変わらない、いや正確には『変わってしまったりはしない』」

 

 彼女がコーヒーを意味もなく手に取ると、携えられた豊かな銀髪がさらりさらりと押し寄せる。

 

 もう何度も、しつこくその言葉を重ねてきた。ほぼ同義の言葉を聞くこと三回目、堂々巡りをしているのがよく分かるだろう。

 

 俺の主張は「心があるならばそれは人と大差ない」、一方彼女は

 

「元が物質であり、兵器である私達が心を持つ。其処まではともかく――――――――それだけで人と大差ないものとは成りえない」

 

 こう主張しては、紫青の瞳を静かに揺らすのである。

 

――――――否定はできない。出自が違う時点でそれは人とは別物であるというのは、それはそれで真実だと俺自身が思ってしまうからだ。

 やはり人が人たる所以というのは出自含めて、『自らの出自への理解含めて』という所はあるに違いないので否定しにくい――――というと、ちょっとまどろっこしく言い過ぎか。

 

 まあ生まれが根本的に違うなら人と艦は同一にはなれない。その主張に関して、俺は真っ向から否定する手段はない。

 

 だが、反論はある。

 

「――――――――でもよ、()()()()()()?」

 

「何って、だから私達は――――――」

 

 彼女の少し動揺気味の言葉を押さえ込む。

 

「大差ない、な訳だからそりゃあ「ちょっと」は違うだろうさ」

 

 ()()()()()()()()()()()

 

――――――だって、幾ら言っても彼女達が兵器でしか無いなんて、俺には信じられない。

 笑うし、泣くし、呆れるし、怒るし。

 

 目の前のやつが兵器? 何だ、世間の兵器の採用基準には『芸術的価値』とかそんな感じのノルマでも存在するのかって話だ。

 それに感情豊かな兵器なんて必要ないだろう。必要ないものは作らないのだから、つまり兵器ではない。

 

「お前はすっごい正しいし、俺に正しい道を多く教えてくれたが――――――ちょっと諦観に過ぎるよ」

 

 俺の言葉に灰色は黙り込んだ。

 威圧感や軽蔑なんて、そんな強い感情はまるで無いのだけれど、急に色落ちでもしたように表情が無いように見えてしまう。

 きっといつも通りの顔をしているはずなのに、それが何か機械のように錯覚される。

 

「…………子はやはり父に似ていくのだな」

 

 意識せずに零れてしまった、というようにその音の羅列は奏でられた。

 壊れたオルゴールのように目線も動かさずに続ける。

 

「艦は所詮モノの延長線でしか無い。あなた達がそれに何か必死になって、それで私達のせいで命を落として良いことは少なくとも無い」

 

 端的に言って、()()()()()()()()()

 俺が普段聞いている言動からもそうだが、本当に肝心な嘘真(うそまこと)というのは、残念ながらその瞳から大体察せてしまうものだと俺は断言していいと思う。

 

――――――それは嘘だ。近い考えが有ったりするかもしれないが、少なくとも彼女は自分の考えについて正確に言葉には出来ていなかった。

 

「…………あなたの父親はそう言って死んだ」

 

 私を諭す所もよく似ている、と無機質な瞳に少しだけ、懐かしさのようなものを含ませて呟く。

 

――――――結局それに「嘘をつくな」、そう言ってやれなかった。多分そう言ってやれば、俺の目の前に存在する彼女の何か、問題について触れることが出来るのは分かっていた。

 でも、それが出来ない。多分怖いのだろう。

 

 漸く喧しくなってきたらしい油蝉の声が、窓越しにわんわんと響き始める。

 

「今はそれでいい」

 

 命短し蝉共の合唱を押し退けて、彼女の声は凛と俺の元にまで届く。冷たすぎた筈のエアコンの風は、ただ当たるだけの感触のないものに変わっていく。

 

 あまりに無機質。どうしてかが分からないが、彼女の言葉の一つ一つが冷え切っている。

 

――――――時々こういうことが有る。決まって、親父の話が出たときだろう。

 彼女は立ち上がって、俺から背を向ける。無機質で何も読み取らせない紫水晶の瞳が、こちらを静かに見つめる。

 

「…………兵器は手入れするだけのもの。それ以上にも、それ以下にも扱う必要はない」

 

「――――――――」

 

 喉が無くなったように言葉が出なかった。理由は多く思いついたが、それ以上に不甲斐なさで原因追求に入る暇もなく

 

「話は終わりだ。食堂のデザートでも食べに行こう」

 

 と言っていつも通りに歩き出した彼女に、俺は喉を干からびさせた状態で付いていく。

 

 

◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆

 

 

「うん。やっぱスーパー○ップだな時代は!」

 

 バニラ味。コイツはもう何というか、コメント無しで王道。アンタもそう思ってくれるんだと思う。

 さっきは色々問題点が浮上した感じがするが、だが今解決できないなら仕方がない。目の前に在る幸福にがっついて、取り組むための姿勢を整えよう――――――というのが、現在こんな空元気を見せている理由だった。

 

――――――あんまり前世で見たようなメジャーな食品(というか商品)は置いていないのだが、偶に俺の世界と同様に残った物も在るには在るらしかった。

 

 食堂のデザートは、基本的に艦のリザーブ制なのでなんでも取り寄せてくれる。

 何でお前(指揮官)まで食ってるんだという苦情は無しだ。何でこんなおかしなことをしているのか、ヒントは「この仕事、給料少なすぎる」である。

 

 早くも食べ終えたらしい彼女は、スプーンを置いて肘をつきながら俺の顔をじっと見ている。

 

「いつも其れを食べるな。好きなのか?」

 

「いっぱいちゅき」

 

 口に含む度に語彙力を破壊してくるのだ。

 彼女の何処か楽しそうな口調に、とんでもない言葉遣いで返答してしまう。

 

――――――彼女はいつも、小さなショートケーキを食べている。いつも苺を最初に食べてしまうのは謎な行為では有ったが、案外食嗜好は普通の女子なのだな、と変な感動を覚えることが有った。

 

「なあ、何でイチゴ先に食っちまうんだ?」

 

 口の中の幸福が溶け終えた後に、彼女の顔を見ながら尋ねる。

 

――――――気づいていたのか、と照れくさそうに笑う。

 いつもの其れより柔らかい笑い方に、思わずどきりとさせられる。相変わらず心臓に悪いというか、油断も隙もありゃしない。

 

「実はあまり好きではなくてな」

 

 爆弾発言。

 

「イチゴを楽しめないショートケーキってのは、言っちまうとカイ○ーガ派のオメ○ルビーと変わらんのではないだろうかねえ」

 

 もう、何というか余韻とか無いよな。せっかくケーキ美味くてもアクセントになるものがないわけだし。生クリーム食ってるようなもんだ。

 

 よく分からない例えだと思ったのだろう、彼女はきょとんとして首を傾げる。

 

「それは分からないが――――――誰かが美味しそうに食べているのを見る方が、好きだな」

 

 にっこりとしたまま、こちらを指差す。俺ってか。

 

「…………やだ、イケメン」

 

 誤魔化すように顔を逸らして呟く。こういうの平気で言えるようになったら多分俺もイケメンなんだろうな。

 

 普通は本気でそう思ってても人に言えないものだと思う。恥じていないのか、もしくは言っても許される顔面偏差値と思っているかの二択だろう。

 コチラの場合は、恥じていない――――――か。ハイパーナチュラルイケメン、こりゃ俺には真似出来ない芸当だ。

 

「そ、そうかい」

 

 彼女の後ろの、変な張り紙に焦点をずらしながら言葉を続ける。

 

「でもよ、美味いかどうかは食ってみねえと分かんねえだろ?」

 

 スプーンを刺しっぱなしのスーパーカッ○をあちらに見せながら言うだけ言ってみる。

 

――――――筈だったのに。彼女の手がコチラに伸びる。

 

「それはそうだな」

 

「それでは一口」

 

 俺のスプーンで掬って、彼女は其れを口に入れた。

 

――――――――待て待て待て待て。この人あたまがおかしいんじゃないのか? 嘘だろ?

 何普通に俺のスプーンで食ってんの?

 

 沸き起こる疑問のハリケーンが終わる間もなく、スプーンをまたスー○ーカップに刺し込んで一言

 

「美味しいな」

 

 とだけ答えた。何なのこの人、いっそ男に生まれてきてくれればいいのにさあ!

 何で女なんだ?(それは俺に限らず尋ねたい奴が居る問題では有るが)

 

――――――ああもう辞めろ。穏やかそうに笑うな、ギャップ殺しを積極的に狙ってくるな!

 

「指揮官が美味しいと言ったものは、美味しい気がするよ」

 

 食の好みがよく合いますね――――――って言えば良いのかこれ?

 いや違うよな、これなんか間違ってるよな?

 

「お前なあ、俺みたいな輩に勘違いされないようにしろよ?」

 

 出来るだけ分かりやすく、「説教を始めます」というような不機嫌な顔を作る。

 

 もうな、すぐ墜ちる男の多いこと多いこと。

――――やれ誘いに乗ってくれただ、目を合わせてくれただのと、しょうもない事で恋愛に結びつける奴が多すぎる。

 

 相手も人間なんだからそりゃ目も合うし、気が向きゃ飯も一緒に食ってくれるだろうさ。そんなもんだけで好感度測れてるなら、今頃俺はギャルゲー感覚で女落としてんだよ馬鹿野郎。

 

「勘違い、とは?」

 

 至極不思議そうに尋ねてくる。まあ此処の鎮守府は男が割と温厚で所帯持ちが多いから、気にならないのも無理はないか。

 

「男ってやつは女の何気ない仕草ですぐ勘違いする。もう馬鹿馬鹿しくて同性の俺が呆れるんだがな?」

 

「…………はあ」

 

 何か呆れたようにじとりと俺に視線を集める。いや俺は違うから、そういうの無いから。

 

「だから、そういうのは「まあコイツなら問題在るまい」っていう相手だけにしろ」

 

「俺は、含めたら、駄目なタイプだ」

 

「オーケー?」

 

 こういう教育を親父はちゃんとしてやるべきだったのではないだろうか。

 

 同性が殆どの世界で育てば、そりゃ男女の関係にも疎くなる。面倒事であれ、ピンク色の話であれ分からなくて当然だ。経験、環境は重要なものだからな。

 戦争が何時終わるかとかはさっぱり分からないにせよ、何時かは普通に人間社会に溶け込まなくてはならない日が来るんだから、そこんところも一応は理解してもらっておかないと後が大変だと思う。

 

 別に退役した奴の相談窓口やってもいいけども、此処まで重症患者だらけだと俺の携帯の着信音が鳴り止まない可能性が出てくる。

 

「………………そんな事は分かっている」

 

「分かってるなら辞めような!?」

 

 俺はチョロいっていうのお前にも何度も話したはずなんですがねえ!?

 

――――一斉に周りの艦が此方を向いて

 

【またアイツ何か言ってる】

 

 みたいな眼でこちらを見てくる。辞めろ、死ぬ。




ヴァイオレット・エヴァーガーデン、メインヒロインが石川由依ですよ皆さん、エンタープライズ以外の彼女のキャラが見れますよ!(謎の番宣)
小説すぐ買いましたけど短編ごとに号泣してるので、アニメでもどっちでもいいからみんな見よう。
正直これ言うためにちょっと急ぎ足で書きました。

という訳で多大に影響されて続編。インスパイアが無いと全然書けないのでこういう「影響されて」シリーズは多いですがお許し下さい。



あ、「LuckyEは落とされない」とこの世界は別物です。似ていますが、也人は善人を拗らせてませんし、エンタープライズは着任直後から主人公です。
ただシリアスは抜けなかった。性分です、何とか畳めるように尽力シマスネ。

偶に「でもアッチに何か似てるような…………」というのは意識してそう書いたか、気づけばそうなっているだけなので細かいことは気にしないで行きましょう。

短編なのであんまり長く続けすぎないつもりです。後5,6話で畳めるとベストだけど多分話がうまくまとまらないぞコンボイ…………(突然のコンボイ)。


そして感想をくれ!(正直過ぎる)
有ったら元気百倍アンパン○ンですよ! 評価は文字数制限有るけど、何か「生まれてきてくれて有難う」とか打って入れてくれていいですから!
僕を! 甘やかして下さい! お願いします!
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