リスタート   作:ヤニー

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第12話『俗にいう原作開始、意味は知らん』

 

 森の中で少年が戦っている。身体には傷が付き無残な姿となりつつある。

 相手は何とも形容しがたい姿、俗にいう魔物というものだろうか。

 少年は不思議な方法で攻撃を放つ、まるで魔法……フィクションの世界だ。

 しかし相手をする魔物の力は強大、力及ばず少年は倒れ敗北した。

 少年は願う、誰か……力ある者へ、己に力を貸して欲しいと……。

 

 

 

 

 

 時は巡り季節は4月。

 春の麗かな陽気に包まれたこの頃、俺こと八神慎一はひとつ、またひとつと年を積み重ねていき、気付けば高校1年生になっていた。

 年齢は6月で16歳を迎える。徐々にだが前世の年齢へと近付いていってる。

 進学した高校は中学と同様近くの公立高校、公立の方が試験も簡単だし私立に進学するお金はもったいないからな、はやての為にこのお金はとっておきたい。

 ちなみに友人三人はいつも通りというか同じ高校だ。ツヨシは引き籠りだがちゃんと進学はする。義務教育とは違う高校ではどうやって出席日数をクリアするのかは知らない、ツヨシの七不思議の一つだ。早々に欠席が続くツヨシを担任が心配していたが時期に慣れるだろう、そういうものなのだと。

 

 そしてつい先日、入学式を済ませ通常授業がはじまったばかりだが、さっそく授業をサボりたくなった俺は部屋の布団から出ずにいた。

 目覚ましはさっき、スイッチを切った。これで俺の睡眠を遮るものはない、いざ行かん、パラダイス(夢の中)へ――。

 

「おはよう兄ちゃん、朝ごはん出来とるよ」

 

 ダメでした。

 

「んにゃ……、あと5時間……」

「はよ起きぃ」

「はい、すみません」

 

 ボケに突っ込むことなく言い放たれたため素直にベッドから出る。部屋の中には車椅子に座り可愛らしいエプロンを下げた我が妹のはやてがそこに居た。

 

「着替えて顔洗ったらご飯食べよう? 今日は和食やからな」

「あいよ、すぐ準備する」

 

『リビングで待っとるでー』そう言い残してはやては部屋から出て行った。

 さぁて、着替えるとするかねー。

 

 ……そういや、何か頭に引っかかる。何か夢でも見たか? でも既にどんな夢を見たのか全く覚えていないし……、気のせいだったかな。

 

 

 身支度を済ませリビングへと出ると、テーブルにはご飯と味噌汁、焼き魚に和え物、冷ややっことバランスの良い朝食が俺を出迎えた。

 

「「いただきます」」

 

 食事前の挨拶を済ませ、箸へと手を伸ばす。今日のご飯も美味そうだ。

 そのままはやてと共に朝食に舌鼓を打つことしばらく、ふとはやてが口を開いた。

 

「なんか今日変な夢を見たんよ」

「夢?」

「うん……、なんやろなぁ」

 

 曰く、傷だらけの少年が暗い森の中魔物と戦い敗れて倒れる夢。

 

 ……夢ってのはその日あったことを記憶として保存し、脳の作業中に起きる現象らしい、中には願望も混じるらしい……と、こないだテレビで聞いた記憶がある。

 まさかはやてさん……っ、貴方には男を甚振る願望が――『あらへん』――ですよねー。

 

「昨日見た映画の影響じゃないのか、そんな感じのシーンあったろ」

「うーん……、そのせいなんかなぁ。でもやけに現実味ある夢やったんよ。兄ちゃんは同じような夢見てへん?」

「俺は夢の内容とか覚えてないからなぁ」

 

 少し頭に引っかかったけど、今日見た夢も結局忘れたし。はやては『うーん……』と唸っていたがそんなに気に留める事でもないと思うけどねぇ。

 結局はやてはご飯を食べ終えるまで、納得することがなかった。

 

 

 

「んじゃ行ってくるわ」

 

 洗い物をはやてと共に片付け、カバンを持って玄関で靴を履く。時間はいつも通りで余裕が少しある。

 

「洗い物くらい私がやるのに、いつもありがとうな兄ちゃん」

「何言ってんだ、もう家事はほとんどはやてに任せてるんだしこれくらいは手伝わないとだろ」

 

 料理、掃除、洗濯など家のことは今でははやてが担っている。数年前までは調味料や火加減を間違えるほどだった料理の腕前は今じゃ見違えるほど上達した。レパートリーもかなり増えたし正直いうと俺より料理の腕前はもう上だと思う。

 

「ふふっ、私兄ちゃんの役に立っとるかな?」

「ばーか、はやての居ない生活なんか考えらんねぇよ」

「えへへ……嬉しいなぁ」

 

 頬を赤く染めてにっこりとはやては笑った。何年経とうとはやての笑顔は天使級の破壊力がある。恒例の『ぐはぁっ!』は本日も発動した。

 

「はやてに任せっきりだし、たまには俺も料理した方がいいかなぁ」

「じゃあ今日は兄ちゃんが作ってほしいなぁ、そんでなハンバーグ食べたいねん!」

「はやては相変わらずハンバーグ好きなんだな。うし、じゃあ俺が作るとするかな。材料も帰りに買って帰るよ」

「わーい」

 

 はやてが嬉しそうに万歳をする。そうと決まれば帰りはスーパーに寄らないとだな、改めてはやてに挨拶をして俺は家を出た。

 

 

 

 

 

 高校へは通学は自転車で行っている。雨の日が中々辛いが今日は見事な快晴。高校は海鳴市にあるので通学途中には風景を楽しむことが出来るのがうちの学校の良い所だ。

 学校へ自転車を漕いでいると、道中のバス停に見知った顔を見つけた。

 

「おはよ、なのはちゃん」

「あ、お兄さんおはよう!」

 

 バス停に居たのはなのはちゃんだった。なのはちゃんは私立聖祥大学付属小学校に通っており、ここの小学生はなんとバスで通学する、ブルジョワだねぇ。その為なのはちゃんはいつもここで待っていて、度々見かけるので声を掛けている。今日もまだ時間に余裕がある為、一旦自転車から降りて待つ間お話しすることになった。

 

「なのはちゃんは今何年生だったっけ」

「今年から3年生ですよ~。お兄さんは高校に通ってるんでしたっけ?」

「そうそう、ここからもうちょっと先のところなんだけどね」

「お兄さんの制服の学生さん、たまにお店で見かけますよ」

「あー、そういえばクラスの女子が噂してたな、翠屋大人気だね」

「えへへ、お兄さんも来てくださいね!」

 

 笑顔で歓迎をするなのはちゃん。参ったな……こんな可愛らしい笑顔で言われたら行きたくなるじゃないか……。

 よし、今日は翠屋に寄っていこう、そうしよう。

 

「そういえば今日変な夢を見たんですよ……」

「夢?」

 

 曰く、傷だらけの少年が暗い森の中魔物と戦い敗れて倒れる夢。

 ……あれ、これはやても言ってたな。なのはちゃんも昨日の映画見たのかな?

 まさか! なのはちゃんも男を甚振る願望が――『ありません』――何故キミらは人の思考がわかる!?

 

「失礼なこと考えてそうだったもん」

 

 ぷくーと膨れながら言われた。ほっぺに空気が溜まっていてなのはちゃんは如何にも『わたし怒ってます!』といった雰囲気が出ている。だが何故だろう、なのはちゃんが怒っていると怖いというか微笑ましい。

 ひとまず溜まっている空気を抜こうと思い、ほっぺをつんつんする。

『にゃあぁっ!?』とジタバタし始めたが気にせず続行、あとなんか可愛いし。

 

「お兄さんひどいですっ」

「あはは、ごめんごめん」

 

 可愛かったからついね、と付け足して言うが許してくれそうな顔はしてない。

 

「今の全部はやてちゃんに言っておきますからね」

「申し訳ございません許してください」

 

 深々と頭を下げる。はやてに報告はね……だめだよ、後で滅茶苦茶怒られる。

 なのはちゃんは一瞬で態度が変わった俺を笑い『じゃあ仕返しにつんつんします!』と言って俺のほっぺたを突き続けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 その後、バスが到着し乗り込んだなのはちゃんを見送って俺は高校へと向かった。

 学校ではいつもの友人が出迎え、いつも通り授業を受け過ごす。授業内容は覚えてないが、まぁ何とかなるだろう。

 そして時はあっという間に過ぎ放課後。龍也はいつの間にか始めていたバイトに行くらしく早々に鞄を持って出て行った。

 

「んー、どうすっか」

「ツヨシのとこでもいいけど、なんかそんな気分じゃないね」

 

 やることがなくなってしまった。ツヨシ家行く以外だとあんまり選択肢がないんだよな……。

 

「龍也に習って僕らもバイトする?」

「んー……バイトねぇ」

 

 バイトかぁ……興味はあるけどあんまり遅くなるとはやてが可哀想だしなぁ。時間の都合がついてうちの家の事情に理解があるバイト……ないか。

 

「とりあえずゲーセンでも行く?」

「そうだな、たまにはいいか」

 

 いつまでも教室に居て時間を潰すのもあれだったので、ひとまずゲーセンという事で結論がついた。

 

 

 

 

 

 

 結局久々に行ったゲーセンは案外面白く気付けば時間が結構経っていた。

 

「んじゃ僕こっちだからまたねー」

「おーう、また明日」

 

 リンは今日は本屋に寄るとのことなので途中で別れる。そういえば俺も帰りに夕飯の食材買うんだったな。

 自転車へまたがり近くのスーパーへ向かう。ここからだと……あそこの道を曲がれば行けっかな。獣道みたいなとこだが方角的にはあってるし、まぁなんとかなるだろう。

 

 自転車をスイスイと進めていると前方に見知った三人組を見つける。

 

「あれ? お兄さんだ」

 

 向こうも俺に気づいたみたいで声を掛けられる。そこに居たのは朝一緒だったなのはちゃん、そしてアリサちゃんとすずかちゃんだった。俺は自転車から降りて二人に声を掛ける。

 

「おー、こんなとこでなにしてるんだい?」

「ここ、塾への近道なんですよ」

「はー、なるほどなぁ」

 

 そういえば三人は塾に通っているんだっけ、ご苦労様だなぁ。聖祥って私立だし塾通うくらいしないと厳しかったりするのかねぇ。

 

「お兄さんはこんなところでどうしたんですか?」

「あー、俺ね、友達とゲーセン行ってきてその帰りなんだよ」

「ゲーセン……?」

 

 すずかちゃんは可愛らしく首を傾げる。ああ、あんまり聞き覚えがなかったかな。軽くゲームセンターについて説明するとすずかちゃんは『なるほど……』と納得してくれた。

 

 そういえばさっきからなのはちゃんが会話に入ってこない、どこか少し元気ないというか上の空というか……。

 

「なのは……、なのは!!」

「うにゃっ!? どうかしたのアリサちゃん!?」

「どうかしたのはこっちのセリフよ、さっきからどうしちゃったのよ」

「なのはちゃん……、やっぱり具合でも悪いの? さっきから変だよ?」

 

 アリサちゃんに声を掛けられ驚いた反応をする。さっきまでの会話は耳に入ってないようだ。すずかちゃんの発言からするとさっきからこんな感じらしい。

 

「にゃはは……大丈夫だよ二人と……も?」

 

 心配を掛けまいと大丈夫と二人に伝えようとし、俺と目が合った。

 

「やぁ、なのはちゃん。朝以来だな」

「ふえぇーっ!? なんでお兄さんがぁっ!?」

「いや、さっきから居たんだけど……」

 

『知らないよぉ~っ!!』とあたふたするなのはちゃん、なんというか見てて癒される。アリサちゃんは『何やってんのこの子は』と呆れた顔をしてるし、すずかちゃんも『あはは……』と困った顔をしてなのはちゃんを見ていた。

 

「はぁ~……。……っ!?」

 

 すると突然なのはちゃんは何かに気付いたように周囲をキョロキョロと見回した。

 

「なのは……?」

「今……何か聞こえなかった?」

「……何か?」

「何か……声みたいな」

「うーん? 聞こえなかったけどなぁ」

 

 なのはちゃんは一体どうしたのだろうか、俺たちには何も聞こえなかったがなのはちゃんには聞こえたみたいで気になっている様子。

 

「……っ!」

「なのは!?」

「なのはちゃん!?」

 

 突如駆けた、驚きの声を上げた二人を振り返ることなくグングンと前へ進んでいく。このままだと見失うな……、俺は二人に声を掛け共に後を追った。

 

「どうしたのよなのは……っ」

「きっと何か走りたくなるような葛藤でもあったんじゃねぇのかっ」

「そ、そんなぁ……っ」

 

 無駄口叩かないで早く走れってな、というかすずかちゃん足早いな……っ。

 やがて走っているとしゃがんでいるなのはちゃんを発見した。足元にあるのは……動物?

 

「なのはちゃん、その子は一体……?」

「その子、怪我してるじゃない……っ」

「うん、どうしよう……?」

「ど、どうしようって……」

「まぁまぁ落ち着けって、ひとまず病院に連れていこう。近くに動物病院あったはずだし」

 

 ここから近いのは……槙原動物病院だったか。ってなのはちゃんその子を俺に向けないで……っ、俺は動物が苦手なんだぁーーっ!!

 だがそんな俺の想いは知らずなのはちゃんは動物を抱えたまま俺を見上げていた。

 仕方ないか……、動物は苦手だがひとまず我慢し、俺はスマホで病院の場所を探すのだった。

 

 

 

 

 

 その後病院で動物を診てもらいひとまず今夜は預かってくれることとなった。ちなみに動物はフェレットというのでありイタチの仲間みたいなものらしい。結構衰弱していたようでなのはちゃんが見つけなければ大変なことになっていたかもしれない。

 

 ただ……問題はだ。

 

「ふーん……、飼い主の問題なんやなぁ」

「そうそう、誰が預かるのかって話」

 

 夕食をはやてと食べながら今日起きた出来事を話す。今夜中は病院で預かってくれるから良いとして今後あのフェレットをどうするかが問題になっている。

 なのはちゃんのとこは喫茶店だし、他二人も別の動物をたくさん飼っているためフェレットを住ませるのは危険だそうだ。

 だから一番預かりやすいのははやてと二人で暮らしているうちなんだが……。

 

「私はええよ? フェレットって可愛いし」

 

 この通りはやても賛成をしてくれている……。だが!!

 

「俺が困る」

「兄ちゃん、フェレットってこんなに小さいんやし大丈夫やろ……?」

「ば、バカ言うな、怖いものは怖いし!!」

「兄ちゃん恰好悪いで……」

 

 格好良かろうが悪かろうが動物は怖くてだめなのだ、しょうがないじゃん。だが俺の反応にはやては呆れた様子で溜息を吐いた、ひどい。

 

「なのはちゃんごめんなぁ……兄ちゃんが情けなくて」

「おいおい、大好きな兄ちゃんに対してそれは無いだろう」

「だったらフェレットくらい触れるようになりぃ」

「ごめんなさい無理です」

 

 またもはやてはため息を吐いた。しかも凄くわざとらしいように大きく。

 余談だがフェレットは病院で少し目が覚めた時、拾った恩によるものか、なのはちゃんの指を舐めて次に何故か俺の方に向いたのだが、俺はサッと半歩後ろに下がったのだ。この行動をアリサちゃんは以前俺が犬にビビっていたことで動物嫌いなのを知っていたためか苦笑をしていた。

 

「と、とりあえずなのはちゃんが家で預かっていいか聞いてくれるらしいから」

「なのはちゃんが駄目だったらどうすんのや?」

「……」

「はぁ~……」

「溜息ばっか吐くと幸せ逃げちゃうよ!?」

 

 最悪、だ。最悪なのはちゃんがダメだったら……龍也とリンに聞いて……それでもダメならツヨシに投げようそうしよう。俺は決して自分で預かることは認めようとしないのだった。

 

 


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