勘違いで生き残れ!   作:朝が嫌い

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暴動と鎮圧

 

 宮殿内に集められた参加者達。ノーネームの姿もあった。

 

「十六夜さん、大丈夫でしたか!?」

 

「ああ。他の連中は?」

 

「・・・あまり良い状況ではないです。耀さんは意識を失い、飛鳥さんは行方不明・・・」

 

「私も周囲一帯を探してみたんだけど、やっぱり飛鳥の姿は確認できかったよ・・・」

 

「そうか。お姫様でも見つからないか」

 

 考えられるのは捕まったか、殺されたか。前者はまだ助ければ良いのだが、後者の場合は最悪だ。一同は可能性に賭ける期待も込めて思考を切り替えた。

 ちょうどその時大広間の扉が開いた。入ってきたのはサンドラとマンドラ、それと白とアナ。

 サンドラは緊張した面持ちで参加者に告げる。

 

「今から魔王との審議決議に向かいます。同行者は4名。"箱庭の貴族"黒ウサギと、"サラマンドラ"からはマンドラ。この二人以外に"ハーメルンの笛吹き"に詳しい者がいるなら参加してほしい。誰か立候補する者はいませんか?」

 

 参加者の中でどよめきが広がる。

 名乗り出るものがいない中、十六夜はジンの首根っこを捕まえ高らかに名乗りを上げた。

同じく、アナも名乗りを上げる。

 周りの者からまたどよめきが起こるも、そのまま会話は進む。

 結果、ジンと十六夜が二人と一緒に出ることになった。

 

 五人が出ていった後の大広間。

 

「おいおい……ノーネームが行ってホントに大丈夫かよ……」

「そもそも、何で白帝が参加しないんだ」

「くそっ。こんなところで死にたくねーぞっ」

 

 周りがサンドラを遠巻きに見ていると、レティシアはの前に出てきた。

 

「やあサンドラ。さっきも見たが、昔に比べて成長したな」

 

「レティシア様!お久し振りです。今回、魔王討伐に参加していただきありがとうございます」

 

「そんな畏まらないでくれ。君は今、フロアマスターなんだ。そんな態度では下の者に示しがつかないだろう?」

 

「・・・分かりました」

 

★★★★

 

貴賓室の扉が開き、中から黒ウサギとサンドラが姿を現す。視線が一斉に二人に集まる。

 

「“グリムグリモワール・ハーメルン”との交渉の結果をお伝えします」

 

 黒ウサギの宣言に、ゴクリと誰かが唾を呑み込む音が大きく聞こえた。

 

「ゲームの再開は一週間後。それまでの間、相互不可侵となります」

 

 ゲームの再開。それはつまり、相手側に不正は無く、ゲームの中止は出来なかったという事。その事実に大広間はざわめきに満ちる。

 

「先のルールに加え、いくつかの禁止事項が追加されました」

 

 自決及び同士討ちによる討死にの禁止。

 休止期間中でのゲームテリトリー(舞台区画)からの脱出。

 

 黒ウサギが手元の“契約書類(ギアススクロール)”を読み上げるごとにざわめきは大きくなる。これでは逃げる事も、最後の手段として自決する事も出来ないではないか。そんな不安が群衆の広がっていくのを肌で感じた。

 

「最後に………ゲーム再開から二十四時間後、ホストマスター側の無条件勝利となります」

「ふざけるなっ!!」

 

 突然、大広間の一角から大声が上がった。そこには蜥蜴の顔をした亜人が、肩を怒らせながら黒ウサギへと進み出ていた。

 

「先程から聞いていれば、魔王達に有利な条件ばかりではないか! 貴様、まさか魔王達と手を組んだのではあるまいな!?」

 

「い、いえ! そんなことはありません!」

 

「ほう! その割には随分と譲歩させたのだな!」

 

 蜥蜴の亜人は侮蔑を顔に浮かべた。

 

「“箱庭の貴族”が聞いて呆れるな! さすが、“名無し”のコミュニティに所属して―――」

 

 ドゴォッ!! ズン!!

 

 突如、大広間に激震が奔った。建物全体が揺れる様な振動と圧力に、その場にいた人間達はたたらを踏んだ。

 

「「ずいぶんと好き勝手に吠えてるみたい(よう)だが………」」

 

 振り向くと、そこに十六夜と白が立っていた。足元の大理石はハンマーを思い切り振り下ろした様に蜘蛛の巣状にひび割れている。

 

「ヒッッッ白帝・・・」

 

あちらこちらで、悲鳴が上がる。

 

「それならさっき、何で名乗り出なかったんだ?」

 

「な、何の話………」

 

「魔王との審議決議。“サラマンドラ”が交渉の協力を求めた時に、貴様らは何故立候補しなかった、と聞いてるんだ。」

 

 痛い所を突かれた、と言わんばかりに蜥蜴の亜人は黙り込む。誰も立候補しなかったからこそ、“ノーネーム”が交渉のテーブルについたのだ。

 

「し、しかしそれをどうにかするのが“箱庭の貴族”の役目で、」

 

「で、交渉がこじれたら安全圏から非難する、と。フン、“名有り”のコミュニティが聞いて呆れるな」

 

 酷薄な笑みを浮かべた十六夜と侮蔑の視線を向ける白に、蜥蜴の亜人はモゴモゴと弁明していたが誰から見ても明白だった。

 交渉の場に行かなかったのは彼の選択であり、その結果が不利益な物になったのは彼自身の責任。その事で黒ウサギ達を責めるのは、御門違いでしかない。

 

「しかし、そんなことを言うのなら今回参加の意思を見せない白帝はどうなんだ」

 

「戯け、この程度のギフトゲームこの俺が出る必要などない。俺は、今回はいい経験を積ませる意味でも俺の部下を参加させる。」

 

「待ってください。今は仲間割れをする時ではありません」

 

 サンドラが凛、とした声で二人を制した。

 

「誰が悪いと責任を問うならば、栄えある大祭に魔王の侵入を許した“サラマンドラ”の落ち度。必ず釈明と補償はしましょう。ですから、この場は怒りを収めていただけませんか?」

 

 まっすぐと眼を見つめるサンドラに気圧されたのか白の威圧が怖かったのか、蜥蜴の亜人はしぶしぶと十六夜達から離れていった。

 

「この度は皆様に魔王襲撃という危険な目に遭わせてしまった事を深くお詫びします。ですが、この場は魔王を撃退する為に皆様の力を貸して下さい」

 

 丁寧ながらも有無を言わせぬ口調でサンドラは話し始める。十歳の女の子が発するとは思えない威厳に、あれだけ騒がしかった大広間がしん、と静まり返る。

 

「まず、新たなルールを追加した事に説明します。最初、魔王達は一ヶ月の休止期間を要求してきました」

 

 一ヶ月? 休止期間にしては長過ぎる。敵に時間を与えれば、迎撃の準備を整えさせるだけではないのか?

 そんな疑問が頭に浮かんだが、その答えはサンドラが明かしてくれた。

 

「魔王の正体はペストです」

 

 ざわ、と大広間に動揺が走る。誰かが声を上げる前に、サンドラは畳み掛ける。

 

「既に我々、参加者の中にペストに感染した者がいます。ですから―――」

 

「ペストだと!」「もう魔王に先手を打たれているのか!」「だ、誰が感染している!?」「畜生、誰も俺に近寄るんじゃねえぞ!」

 

 途端、大広間は蜂の巣を突いた様な騒ぎになった。大声を上げる者、無駄を承知で大広間から走り去ろうとする者、血走った目で周囲を見渡す者。全員が一様に冷静さを失った。

 

「落ち着いて! 皆さん、落ち着いて下さい!」

 

「くそ、だから“ノーネーム”に任せたくなかったんだ!」「いや、そもそも侵入を許した“サラマンドラ”のせいだ!」「こんな事なら北側に来るんじゃなかった!!」「殺される………みんな魔王に殺されるんだ!」

 

 サンドラが大声を張り上げるが、もう誰も聞いていなかった。恐怖が混乱を呼び、混乱は群衆に伝染して暴動が起きる・・・

 その直前だった。

 

「いい加減、そのうるさい口を閉じよ・・・戯け」

 

白から放たれた警告用の殺気で騒いでいた群衆を何人か押し潰し、ようやく大広間は静かになった。

 

「このまま無駄に騒いで死ぬつもりか。なるほど、バカにふさわしいな」

 

「だ、だって、」

 

「だってではない! このまま混乱すれば敵の思うつぼだと分からぬほど愚かか?」

 

 尚も言い募ろうとする者を、ピシャリと一刀両断する白。そこにはサンドラの威厳とは比べ物にならないほどの、人の上に立つ者の覇気があった。

 

「まだ状況は最悪ではない。黒死病の発症には二日以上はかかる! それに七日後であれば免疫力の強い者ならば発症しない。 つまり、ゲーム再開時点での参加者全滅は免れるのだ。」

 

 それに、と白はサンドラ達に目を向ける。

 

「|階級支配者≪フロアマスター≫殿は条件を五分まで持ってこれたのだ。ならばゲームの攻略法を調べ上げるのも時間の問題であろう」

 

「―――ええ白帝様の言う通りです」

 

 サンドラは一度、深呼吸をすると再び大広間の群衆を見回す。

 

「私達は魔王に先手を取られましたが、同時に"The PIED PIPER of HAMELIN"の攻略方法に心当たりはあります」

 

 すっと、サンドラは後ろに目を向ける。

 

「ここにいる“ノーネーム”の協力により、魔王一味の正体に迫る事が出来ました。魔王一味はラッテン、ヴェーザー、シュトロム。そして黒死病の四人。この中からハーメルンの事件の真相を解明すればクリアできます」

 

 ハーメルンの伝承には数多の考察がある。人攫い、自然災害、疫病の蔓延などなど。今回のゲームは先ほどの四つのの内、130人の子供が失踪した原因を当てて見せろ、という事なのだろう。

 

「詳しい攻略法はこれから必ず調べ上げます。それまではどうか我々に協力して下さい」

 

 サンドラは一端、言葉を切ると群衆に向かって深々と頭を下げた。

 

「お願いします」

 

 シーン、と大広間が静まり返る。ここで戦わなければ魔王に隷属するしかない。そう分かっていても、魔王と戦う事に全員が尻込みしていた。その時だ。

 

「“ノーネーム”は協力するぞ!!」

 

 突然の大声と共にジンくんの手が上がった。いや、上げさせられた。そんな事をやる人間は一人しかいない。

 

「めっちゃ協力するぞ! とにかく協力するぞ! ここにいるジン=ラッセルは対魔王専門のエキスパートだ! 魔王? 俺の隣で寝てると言うくらい楽勝だぞ!!」

 

「ちょ、十六夜さん!」

 

 うろたえるジンくんを余所に、十六夜は意味ありげにウィンクする。

 

すると、群衆からどよどよとざわめきが起きた。

 

「なるほど、これだけ度胸のある、ノーネームさえいれば、名有りのコミュニティなど要らぬな!」

 

 あからさまな挑発。しかし、それはこの状況では十分過ぎる燃料となった。

 

「この、言わせておけば!」「ノーネーム風情に舐められてたまるか!」「貴様等が鎧袖一触なら我等は爪先で十分だ!」「魔王に怖気づく軟弱者は我がコミュニティにはいない!」

 

 喧々囂々、注がれた燃料は闘志となって燃え上がる。先程までこの世の終わりみたいに静まり返っていたのが、嘘の様だ。

 

「我が“コスキュート”は“サラマンドラ”に協力するぞ!」「我等のコミュニティもだ!」」

 

 次々と手を上げ、協力を表明するコミュニティ達。サンドラは一瞬、あっけに取られた様に見つめていたが、慌てて表情を引き締めた。

 

「では皆様の協力も得られた所で、今後の方針について話し合いたいと思います。コミュニティのリーダーは別室に集まって下さい。それと、少しでも体調を崩した者は医療スタッフにすぐに申し出て下さい。ペストに感染していると判断したら、すぐに隔離させて貰います」

 

 全員から同意を得た声が上がると同時に、大広間の人間達は動き出す。恐怖からの逃走でなく、生き残る為に各々が動き出していた。

 

 

 

★★★★

 

今回は、ギフトゲームに参戦できないからな。どうやって、白帝の力を知らしめるか考えていたが、無理だな。今回は暴動を抑えて白帝は逃げたわけではないことが印象付けられただけ良しとしよう。後は、アナに任せるか。

 

 

 

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