彼女の白笛が帰還したことにより、オースの街では復活祭が行われていた。
街中が騒がしい中、ある一人の探窟家はあることに向けて、準備をしていた。
彼と彼女が出会ったのはかなり昔だ。
当時、彼女は月笛の探窟家で、彼もとい少年は見習いの赤笛だった。
「なんだ、少年?私の顔をじろじろ見て」
彼女は自分を見上げ、ヘルメットの下の顔を覗き込んでくる少年に声を掛けた。
「あんた、いずれ凄い探窟家になると思うぜ」
「は?」
「俺の勘は当たるんだよ。よし、決めた!」
少年は笑顔で彼女に指を突きつける。
「俺をアンタの弟子にしてくれ!」
その言葉に彼女は驚いた。
黒笛や白笛の探窟家に弟子入りを申し込むなら、まだ分かる。
だが、月笛である自分に弟子入りを申し込むのは理解できなかった。
さらに言えば、彼女は月笛になりたてだった。
「なんで私なんだい?探窟家として、成長を望むなら黒笛や白笛に頼む方がいいだろ?」
「決まってるじゃん!」
少年は先ほどと変わらない笑顔で言う。
「あんたはいずれ白笛になる!俺は、その瞬間を見たいんだ!だから、あんたの弟子になりたいんだ!」
まっすぐな瞳でそう言う少年に、彼女は思わず吹いてしまった。
「ははははははは!私が白笛にね!嬉しいこと言ってくれるじゃないか!よし、良いだろ!君を、私の弟子にしてやる」
これが、後に"殲滅卿"と呼ばれるライザと少年の出会いだった。
「黒笛、おめでとう!」
少年が青年になりかかる頃、少年は黒笛になった。
黒笛になった時、ライザはまるで我が事の様に喜んでくれた。
ライザにとって、少年は自分の一番弟子と言うこともあり、とても可愛がっていた。
もはや家族同然の存在だった。
「俺もやっと黒笛!すぐにでも白笛になってやりますよ!」
「おう、その意気だ!」
背中をバシバシと叩かれ、少年は「痛いですよ!」っと涙目になりながら笑っていた。
「おい、!その怪我どうした!?」
青年が一人で四層に行き、帰ってきた時、ライザはボロボロの青年を見て驚愕した。
「いや~、他国の探窟家の団体に襲われまして。でも、やられた分は三倍で返してやりましたよ。連中の集めた遺物全部奪って、部隊の半数を行動不能にして、リーダーの奴は右腕砕いてやりましたよ」
へらへら笑うが、ライザの顔は怒りの表情になっていた。
「だとしても!私の気が治まらん!私の可愛い弟子をこんな目に合わせたんだ!五倍返しにしてやる!」
そう言ってライザは
その後、とある他国の探窟隊が鬼の形相を浮かべた女探窟家に襲われ、部隊全員が死にかけたと噂が流れた。
「こいつはトーカ。こいつと結婚した」
ライザからのいきなりの報告に、青年は飲み物を吹き出しそうになった。
「マジですか?師匠と結婚する変わり者が居たなんて………」
「ほお……!そりゃ、どういう意味だ?」
青年の胸ぐらを掴み、ライザが問い詰める。
「いや、師匠って探窟家じゃなけりゃ、ただの変人だから………そんな相手がいるとは思ってなくて………あの、手、放してください。意識がちょっと…………」
そんな二人のやり取りを、トーカは微笑ましく見ていた。
「師匠、いくらなんでもやめた方が……」
「目の前に、でっかい獲物があるんだぞ?それを前に、私に引けっていうのか?」
「そう言うわけじゃ………でも、師匠は今は………」
国からの特命で、ライザは調査隊を編成し、アビスの深界四層にある特級遺物"
その調査隊には青年も居た。
普段のライザなら、彼も止めようとはしなかっただろう。
だが、この時のライザのお腹の中には子供がいた。
トーカとの子だ。
青年はそのことが心配で、ライザに回収を辞めてもらおうと思っていた。
「お前が気にすることじゃない。それにさ、思われたくないんだ」
ライザはお腹を優しくなでながら、彼の方を振り向く。
「自分のせいで、私が諦めたなんて、この子にはさ」
「…………はぁ、仕方ないですね。ま、師匠の師匠であるオーゼンさんもいるし、大丈夫でしょう。でも、無理はだめですよ」
「ああ、わかってるさ」
「………ちょっとは悲しむ余裕ぐらいくれよな」
青年は目の前にいる他国の探窟隊にそう愚痴る。
他国の探窟隊が、
その為、闘いは苛烈し、多くの死者を出した。
その死者の中には、トーカもいた。
さらに、ライザが産気付き、オーゼンが子供を取り出さなくてはならなかった。
オーゼンから子供を取り上げるまで辛抱しろと言われたが、度重なる戦闘と疲労により、難産となっており、青年はずっと一人で戦っていた。
他国の探窟隊はライザとオーゼンの二人が今は、動けないことを知っており、にやにやと笑っていた。
「………最悪だ。本当に最悪だよ…………お前らは、ここから先にはいかせない」
ライザの
「まだ生きてるようだね」
他国の探窟家たちを返り討ちにし、追い払った後、オーゼンが現れた。
二メートル以上はあるその背中を曲げ、青年の顔を覗き込む。
「ええ……なんとか………」
座り込んで荒い息をする青年は、オーゼンにそう返す。
体中傷だらけの血まみれで、右手は折れ、額から流れる血が闘いの激しさを語っていた。
「………オーゼンさん、その……子供は………」
「………死産だよ」
その言葉に、唇を噛み締めた。
理解していた。
身重なのに、アビスに潜り、疲労もあった。
加えて、難産だったのだ。
戦ってる最中、脳裏に赤ん坊の死産が過ったのは言うまでもない。
「ライザには赤ん坊の死は伝えてある。ま、流石に死んだ赤ん坊を見せるわけにはいかないからね。持ってきてた"呪い除けの籠"に入れておいたよ」
そう言ってオーゼンは傍らの白い箱に腕を載せる。
「忌々しいよ。
「……遺体を連れて帰るのは……無理ですよね……」
「ああ。ライザの体力も少ないし、アンタもその怪我だしね。こいつはココに置いて、三人で鐘を抱えて登るか………」
オーゼンが言ったその時、籠の中っから泣き声がした。
二人は己の耳を疑った。
だが、泣き声は籠の中から聞こえた。
あの後、籠を開けて確認すると、赤ん坊は息を吹き返していた。
その事から、オーゼンは"呪い除けの籠"は、アビスの呪いを防ぐのではなく、中に入れた生命を生き返らせる力があるのではと言った。
それ以外に、考えられる理由もなく、青年もオーゼンの意見に同意した。
そして、そのことをライザに伝えると、ライザは涙を流して、良かったと呟いた。
「……二人とも。すまないが……」
赤ん坊、リコが息を吹き返した後、ライザはあることを決めた。
それは、特級遺物の
特級遺物は国のバランスを変えかねない代物。
一つ持ち帰れば、街は潤い、隊の将来も約束される。
そして、死んでいった仲間たちも報われる。
それでも、ライザはリコを連れて帰ることに決めた。
青年は反対しなかった。
そして、意外にもオーゼンも反対しなかった。
四人は地上を目指すことにした。
地上につくなり、青年は盛大に血を吐き、血涙を流して倒れた。
三日三晩不眠不休の飲まず食わずでの連戦に寄る疲労に加え、アビスの上昇付加。
途中で死ななかったことが不思議なぐらいだった。
意識のないまま、診療所へと運ばれた。
そして、目が覚めた時。
ライザは
ライザの
街は、ライザの白笛が戻って来た事による復活祭を行っていた。
お祭り騒ぎの中、ある男は黙々と買い物をしていた。
男は探窟家だ。
消耗品を補充し、使い慣れた道具を整備し、保存食などをリュックに詰める。
「いよいよ、俺も
自身の物である、不如帰と言う鳥の形をした白笛を握りしめる。
その男の名は、シオン。
"殲滅卿"殲滅のライザの一番弟子で、"不死卿"死なずのシオンと恐れられる白笛の探窟家だった。