手元に鈍く光る手斧、それにはポタポタと滴る赤い液体が不気味な模様をこしらえていた・・・・
今日も今日とて働かされている。
休暇届を出せば必ず何処かで握りつぶされ、ゴールにはたどり着かない。
『暗い顔・・・と言うよりは憤怒の表情ね?』
本社の方に手を回してもなぜか何処かで紛失する休暇届の話をしても意味がないと分かっているのではぐらかしつつ、自分の任務を聞く。
『いや、ちょっと英気を養うための時間がほしいなーってな?』
一度か二度しか行ったことのない自分の別荘から海を眺めてブランデーをあおる夢を考えながらそう言うと、氏康は無理な夢ねと一刀両断してきた。
『まぁ、そんなことは置いといて、今回の任務は単純なものよ。 ズバリ暗殺ってモノよ』
「お前の単純とかそこら辺のじいさん婆さんにインターネットの概念理解させるのと同じくらい難しくないか?」
『ターゲットはハルビン・ラーシヴァという革命家兼武術家よ?貴女格闘技好きだったでしょ?名前くらい知ってるわよね』
そう言われ昔の記憶の引き出しを開けまくった結果一人のインド帝国の格闘家を思い出した。
「あぁ、当時から極左翼の発言しまくってたインディア出身の化け物か・・・」
ポンと手を打ちながら氏康の写る画面に向き直る。
『貴女と同じ天の授かり物をしたような天才よ』
「それでなんでまたうちにアイツの暗殺依頼が入るわけ?流石に政府的に回さないほどのしたたかさはあったろう?」
『・・・そのしたたかさが寿命を縮めた理由かもね?』
「どうした?まさかクーデターでも起こしたってのか?」
『いえ、それよりまず貴女は麻原彰○って知ってるかしら?』
少し口許がにやけた感じになりながらも話を進めようとしている辺りになにか察するものを感じながら会話のキャッチボールを続ける。
「まさか、政治に介入してしまった的なヤツカ?」
『そのまさかよ・・・それも勝ってしまうだなんてね』
氏康の一言でもうおおよその状態を理解した。
「んじゃまぁ殺るしかねえわけだな」
一応納得やらなんやらは全部できたので、立ち上がる。
「それじゃあノースボックスとして出撃する」
画面は暗くなり、私は乗ってきた車の助手席から飛び降りた。
ハルビン・ラーシヴァの道場は山の中にある。
これは襲撃もしやすいが逃げやすいことでも有るため、注意が必要だろう。
色々なプランを頭のなかでこしらえつつも、いつおそわれてもいいように警戒は怠らず後ろ腰にかかっている小刀型の高周波ブレードを引き抜けるような体勢をしていた。
「来たか・・・?」
山の中に少し開けただけの天然のバトルリングのような場所があり、そこを拠点として活動していたが夜になって早速刺客が来たみたいだな・・・
木々の間の月明かりでてらされる円の外側に囲むように総勢五人もの奴が銃を構えた。
「ほーう、レンチェスタの銃か良い銃だな・・・だが人を殺すにはたらんな」
一人一人をいすくめる形で睨み付けていきながら煽る。
もう刺客のたっている場所は把握していてわざわざ手を下す必要もないと分かっているのでさっさと銃を撃たせる。
ダァンッ!と乾いた音とそれぞれが絶命し、膝を折って地面に倒れてしまうまでに私は生き残らせた刺客を捕まえる。
「さて質問が二つある。 ちゃんと二問が正解できればお前は回収してやる」
目を下ろせばよくわかるペッターンな壁にかかるナイフを抜いて、目だし帽からして全身真っ黒くろすけな生き残りを尋問する。
ただし、生かして回収するとは言っていないが?
「まず君の理解力の問題だ今どうして君の仲間は死んだ?」
お使い頼んで失敗されたらたまったもんじゃないからね仕方ないね・・・
しかし、目だし帽を被るソイツは唸るだけで一向に答えを出さない。
「ヒントは立ち位置と撃った方向だ」
眉間から鼻にかけてのラインをナイフでつつーとしながら、クイズの答えを待つ。
「・・・分かりました」
怯えで震えきったその声が聞こえたのは、それから三分後の殺そうか迷ったときだった。
「いいよ言ってごらん」
そう言ってやればつらつらと話始めた。
「まず俺たちは五人で襲撃して立ち位置はターゲットを四人で囲んで、最後の一人が質問をする役目として一歩下がるこれで四角形と三角形が出来ます。 後は対角線上に銃口が向くようにすればいい・・・そうですよね?」
とすがるような目でこちらを覗くそいつの目はまさに尻尾を振る犬だった。
「正解だ・・・じゃあつぎの質問だ」
ごくりと生唾を飲み込む声がここまで聞こえてきそうな目線を感じる。
目は口ほどにも物を語るのは本当だなと思いながら次の質問を繰り出す。
「ハルビン・ラーシヴァはいつ寝る?」
裏切り者は直ぐに吐いた。
ハルビン・ラーシヴァの夜は遅い。
日々の鍛練を怠ることなくこなし、最近では政治活動についても日夜頭を悩ませている。がしかし、今日だけはそれ以外の悩みを抱えていた。
その手には所謂果たし状が握られていた。
何でも暗殺依頼が入ったが貴方のファンだった時代があるのでぜひ手合わせして貴方を越えたと言うことを感じたいという文面だったがハルビンはこれを受け入れ、こうして武器を持ち道場に控えていた。
道場におかれた時計が約束の22:00になったとき、相手は音もなく現れた。
体をウェットスーツのようなよくわからないものにつつみ、後ろ腰には二つの小刀がぶら下がっている。
顔を隠すこともなく、短く切られた透き通る銀の髪と緋色の瞳が妖しく思えた。
「夜分遅くに失礼Mr.ハルビン そのご活躍は遠くの日本でも拝見してましたよ」
「まったく、訪問時刻のマナーは守れておらぬな・・・まぁよいいきるか死ぬかの真剣勝負じゃ文句は言うなよ?」
軽口を言い合い、一定の距離をとり相手を測り合う。
風魔は小刀を引き抜き、ハルビンは長年連れ添った二本の手斧をしっかりと握りこむ。
接近は一瞬の出来事だった。
金属同士がぶつかり、火花を上げる。
時に受け止め、時に受け流す。
それを繰り返し、引き際をわきまえ、深追いはしない。
千日手のように繰り返されるが何時かは変化も現れる。
「ッチ!」
風魔の小刀型の高周波ブレードの一本が折れたのだ。
しかし、ハルビンの手斧はさらに勢いを強める。
「ホレホレっ!最後の足掻きを魅せろぉ!」
小刀一本で二本の手斧は倒せない、それを悟り風魔は次に体術を交えた戦闘スタイルに切り替える。
拳と共に切りつけや、切りかかりにカモフラージュして蹴り飛ばすなど善戦を重ねるが、やはり、後手に回るのが多くなる。
「殺るしかないよな!」
ケリをつけるために全力のひとつ向こうの扉を蹴破って本気の次を出す。
そしてそれに答えるようにハルビンも全力で手斧を降り下ろした。
二人の決着の姿は、まさに二匹の龍が相手の尾を食いつくすかのように終わる。
風魔は肩に食い込んだ手斧を苦々しげに見つめ、ハルビンは自分の腹部に刺さった小刀と自分の手斧を見るかのように項垂れていた。
風魔は防御を捨て、一方の手斧を肩に食い込ませ、もう一方の手斧は力の向きを変えてそれと同時に小刀をハルビンに差し込んだ。
修羅となれた人間と踏みとどまった人間との最後をあらわすかのようなその光景は風魔の感情を刺激した。
「勝ったは良いけどこれで当分左肩は動かないな・・・・」
自由に動くきき手の右手で折れていないほうの小刀型の高周波ブレードをハルビンからぬきとり、鞘にしまいこむ。
血が溢れることを気にして手斧は抜かずに、迎えの車に衛生兵がいることを願って道場を出た。