『現在大英連邦首都ロンドンの上空一万メートル、降下準備は完了しています』
無線でその報告を聞き、私はハッチを開けろと返す。
了解と返ってきてハッチが開く。
『コード風魔、出撃する!』
『ご武運を!』
タッタッタッと助走をつけて、開いているハッチからダイブした。
~数時間前某国上空~
『さて風魔、今日は何の日かしら?』
通話がつながりどんな任務かと思えば開口一番そう問いかけてくる氏康に呆れながらも答える。
『ハロウィンだな』
普通だったら本社ビルで飾り付け手伝ってるはずだったんだが・・・・
そう思いながらも仕事と割り切って取り組むことにする。
『それで何処いきゃいいんだよ』
『あら珍しいじゃないそんなに意欲的に取り組むなんて』
『いやまぁな・・・』
前回のハルビンとの一戦で受けた傷を治すのに数ヶ月近く療養によって任務を離れていた試さすがん申し訳なく思っての行動である。
しかしまぁ、それは氏康にいえることではないが・・・
『まぁ、いいわ。 本作戦は大英帝国のとあるVipから情報を聞き出して欲しいの』
『へいへいりょーかいっと』
その後いくつかの命令を聞いて作戦準備にかかった。
装備はいつもの高周波ブレードの小刀バージョンとN&BMk5二丁とMk5の換えのマガジンのセットだった。
野戦服は勿論スニーキングスーツ・・・と今回はメイド服がと仮装用のコスプレセットが用意されていた。
「・・・これを着るのか」
仮装用衣装と言われた物の中には包帯が入っているだけだった。
これは応急処置様のアイテムかと聞くためにもう一度通信をかける。
『えっ?回復アイテム?何言ってんの?』
『じゃあこの包帯は?』
『裸の上から巻いていくのよ。 裸包帯ミイラとか絶対はやる』
『そんなもの絶対に流行らないし、流行らせない』
そういって通信を切る。
あの趣味が悪いむっつり助平が・・・
~現在ロンドン郊外~
『予定地点に降下成功』
『了解。 救援の場合は呼ばれたし』
『了解』
事務上の手続きのような会話をして通信を切る。
「さてあの豪邸か・・・」
遠くに見える大きめの邸宅に目を向ける。
ハロウィーンの夜、お化けの格好をした子供たちがお菓子をねだりに来るそんな夜だと思っていた。
「Trick or Treat!」
主人の家の門を守る門番である自分はその門に訪れる者の相手も自分の仕事だった。
そして今晩の主な相手はお菓子をねだる少年少女だった。
目の前にいる少女が何の仮装かはわからなかったがその少女はとても愛らしかった。
「お嬢ちゃんみたいなお化けは怖いな~」
そしてお菓子のかごを後ろから出そうととしたとき、あごに黒い塊が突きつけられる。
「ごめんねおじさん、欲しいのはお菓子じゃなくて情報やカードキーなんだー。ということで持ってるかな?」
「・・・殺せ、門を守る番兵はその程度で屈することはない」
内心は恐怖で満たされ、今すぐにでも逃げ出したい・・・しかし、門番である以上職務を全うしたい・・・
「・・・そっか、ならバイバイ」
そう言ってあごの方から激痛が来るかと思えば、側頭部に鈍い痛みが走り目の前は真っ暗になった。
「お前みたいな忠犬は好きだよ」
そう言い残す声が聞こえた。
「ふん、カードキーは十分なクリアランスありか・・・」
忠義心を見せる門番を門のそばに合った木に縛り付け、自分は門を開け敷地の中に入っていく。
「さてさてさーて、貴族様は何処にいる?」
邸宅の中に入る前にぐるりと歩き回りながら、警備員を次々気絶させていく。
「・・・大体あのあたりか」
その間にターゲットのいる場所にいくつか目をつけ、館の中に侵入していく。
「一階の警備は三人か・・・」
音もなく室内に入り込む。
そして壁に耳を当て足音で何人がいるかを検討づける。
そしてちょうど入りこんだ部屋の前を通った敵兵君を捕まえ尋問をする。
「こんにちはTrick or Treatということで、情報ちょうだい?」
高周波ブレードの小刀を首に突きつけ、尋問をする。
首に突きつけられたブレードに恐怖感を覚えたのか、見回りの敵兵は目に涙を浮かべて嫌々というように首を振っている。
「ちゃんと話せば、気絶で済まして上げるから吐いてよ」
その言葉を聞いて見回りくんはコクコクと頷き、私の聞いた話をすべて答えてくれた。
「ハイもういいよありがと」
聞きたいことを聞き出したあとに気道を締めて気絶させる。
~【貴族サマ】の屋敷二階~
情報の聞き出しのあと残っている何人かの警備員を締めて落としたあと、二階に上がる。
そして聞き出した情報の一つであるターゲットの居場所を元にターゲットの元へたどり着く。
「・・・ようこそ貴族の邸宅へ」
そこにいると言われた扉を開け中に入った時声をかけられる。
「Mr.スミス・・・貴方に伺いたいことがあるのですが」
私は構えていたブレードをしまう。
「この老人に何か用か?」
しゃがれた声がこちらに背を向けたイスの向こう側から聞こえる。
「・・・日本の地位を復活させる方法はありませんか?」
「ふむ・・・それは遠回しに協力をしろと?」
長く生きてきた人物特有の先読みや勘の良さがこの場では少し手厳しい。
「・・・そうですね」
「金なら無いぞ・・・30年前の頃ならわからんでもないが・・・」
「Mr.スミス、今日はハロウィーンですよね?」
「? あぁ、そうだな」
「ならば、Trick or Treatと行きましょう」
少しだけ雰囲気が変わっていく。
「ほう、君はコンビニに行ってTrick or Treatといってお菓子をくれなければレジとATMのお金を盗んで帰るのかい?」
クックックッと含み笑いをしながら彼は続ける。
「にしてもこんな田舎に住む貴族に何を求めるのだ?」
「・・・そうですね。 では祖国をめちゃくちゃにした代償の金額でお願いします」
「・・・払わなければ?」
「貴方の【資産】が我々の【遺産】となるだけです」
駆け引きともいえないただの恐喝・・・それだけで十分といえた。
「ふん・・・αの4980のパターンBそれで十分だろう?」
「えぇ、情報部門に回させて頂きます」
「それでは」
そう言って私は部屋から出る。
そのまま屋敷から出て、通信機のスイッチを入れる。
『氏康、お目当ての情報はαの4980のパターンBだとさ』
『上出来ね・・・これで復興資金がねじり出せるわね』
氏康の喜ぶ声を聞きながら水を差すように告げる。
『だけど、もう半分は自力だろうぜ』
『どうして?』
『・・・』
少し離れた邸宅からバァンッ!という乾いた音がかすかに聞こえた。
『ということだな』
『・・・わかってたならなぜ止めなかったのよっ!』
喜びから一転怒気を含む声が耳に届くが、興味なさそうに答える。
『Mr.ジョン・スミス・ゼロ・・・日本を汚染させた事件の裏側、その資金の流通を司るまたはそれに準じる場所にいた貴族』
『それが?』
『そして最後に、彼は死ぬ気はないはずだ。 おそらくどこかの奴らが消したんだろ』
イギリスかそれとも世界か・・・犯人を知るのはまた今度でいい・・・