辺り一面オレンジの砂の土地、エジプト。
そのオレンジの砂の土地にポツンとたたずむ古代遺跡のような要塞。
そこへ向かってとてつもない速度で落ちていく風魔。狙いはただ一つ、囚われの姫を救う事だった。
『あ~氏康?もうすぐ着地するわ』
その一言を告げ通信を切る。
あともう少しで地上に激突する辺りでクルリと一回転し勢いを殺す。
下が砂なのもこうしてできる理由のひとつだ。
『こちら風魔、敵要塞にこれから侵入する オーバー』
『こちら氏康、了解したわ オーバー』
さて今回はちゃんとした出撃のため装備は揃っている。
そして、つい先日導入された新兵装のデバイスが腰に引っ提げられ鈍く輝いている。
このデバイスは通信だけでなく、地図や時計等のかさばる荷物をデータとして収納できたり、敵の文書を読み込み解析をし、それを作戦情報として反映することができる。
なんでも情報技術班が数々の犠牲を越えてたどり着いた境地らしい。
腰紐に下げている左右のホルダーにはオートマティックの拳銃が各二丁づつ納められ、後ろ腰とポーチの間には何時もの高周波ブレードの小刀バージョンが二本刺さっている。
服は勿論潜入用のスニーキングスーツである。
「参ったな・・・入り口には必ず三人は守ってるし、城壁は越せない、どうするかな」
デバイスの機能の一つ、Mapを使い、敵を探る。
上で私を投下したヘリが写真を定期的に写し動きを予測させ防御の配置を知る。
正面突破は出来ればしたくない。しかし、上に登るのもまた難しい。
案外攻めにくい要塞を憎々しげに見つめる。
「・・・ん?」
その時、道もないような砂漠には不似合いな車の、それも大型車のエンジン音が聞こえた。
目線の先に写る物は幾つか並んで走るトラック。
「あぁ、なんだ簡単じゃないか」
私は、私に気づかぬまま目の前を走り抜けようとするトラックの荷台に異常な身体能力を全力行使して乗り込んだ。
トラックの荷台内部は薄暗く、辺り一面にある段ボールでとても狭く感じられた。
「さてと、ここからは運だな・・・」
そう呟き、近くにあった段ボールを被り丸くなる。
あれから暫く揺られていたが、やがて、トラックが止まり荷台に兵士が入ってくる。
「厨房行きなら食材か・・・」
私の入った段ボールに書かれたことを読んで、中身までは見ようとせずトラックを通す。
普通中身を確認すべきなんだが、装備や考え方が古いとやることなすこと古くなるんかね?
そうして、多くの段ボールと一人の忍を乗せたトラックは要塞の内側へ入っていった。
辺りに人がいない事を確認し、荷台から飛び降りる。
地面はコンクリートで固められていたが、くるくると回り、勢いを受け流す。
完全に勢いが止まったところで辺りを見渡し、物陰に入る。
『こちら風魔、敵要塞に潜入完了、尋問及び殺害の許可を オーバー』
『こちら氏康、要望を許可する。だけど目的は忘れないでね? オーバー』
心配するように注意してくる氏康。
そんなに簡単に任務を忘れるはずはないのに・・・
通信を終え、デバイスの機能を切り替えてMapにする。
相変わらず定期的に写真を写しているようで巡回は決まったルートで歩いていることがわかる。
普通は適当な時間にメチャクチャな順路を歩くのが侵入者対策に良いのだけれども教える必要は無い。
暫くMapを見ているとこちらに向かってくる人影を写真に見つけ、少しして足音も聞こえてきた。
「運がいいなこりゃ・・・」
私の潜む物陰のちょうど真横を通った時、見回りをしていた兵は突然スッ転ぶ。
何かに引っかけられたと思われる感触に兵士が振り返ったその先には兵士の足をつかみ物陰へと引っ張りこむ獰猛な笑みをした少女がいた。
「さて、質問だお姫様は何処にいる?」
喉元にナイフを突きつけながらも笑顔を崩さず、天真爛漫なあどけない少女の顔で目の前の悪魔としか言い様のないものが尋ねる。
「黙りかい?それとも知らないの?」
人を殺すのをなんとも思っていないような冷たさがその声には含まれている。
「しっ知っている!」
あどけない童女に気圧される大の大人、はたから見ればそのような光景も本人から見れば、幼い少女の皮を被った悪魔とそれを怖がる羊としか形容のしようが無いものだった。
「何処だ?」
「中央宮殿の地下牢にいたはずだ」
「・・・聞きたいのはそれだけか?」
自分は侵入者の顔を見た。
ならば相手は自分を殺すだろう、よしんば生きたとしてもどうせ責任を押し付けられ贄とされるだけに違いない。
だったらもう死ぬ気で相手と語り合うしかないだろう。
「・・・聞きたいのは姫の居場所だけだ。だがお前のその姿勢気に入った!今日からうちへ来い!」
はい・いいえと返答する時間もなく、気づけば自分はヘリの中にいた。
先ほどスカウトした奴の情報をもとに作戦を練る。
中央宮殿までは巡回時間が終わるまで安全にたどり着くことができる。
しかし、上から撮る写真では宮殿内部までは分からない。
「虎穴には入らずんば虎児を得ず・・・か」
そう呟いて、中央宮殿へと走り出す。
中央宮殿の入り口は兵がいるのは当たり前のことだ。
だが、それ以外の一見分からない入り口となるような場所は警備されていなかった。
一階の鍵の空いた窓から侵入する。
不用心にも程があるとため息をつきながら歩き回り、地下牢への入り口を発見し、中へ入り込む。
地下牢は人が全くといっていいほど人が居らず奥の方から音がする程度だった。
「好都合だな・・・奥いるのがお姫様ならだが」
足音をたてることなく奥へと進む。
幾つか曲がり角を曲がった時、とある牢獄の前にたどり着いた。
木で作られた格子の向こうに、目をつむり神様に祈りを捧げる女性がいた。
宗教間のことで揉め事は嫌なので暫く放っておき祈りが終わった辺りで声をかける。
「助けに来たぞ」
その一言でお姫様はこちらへ振り返った、
「さっさと逃げなきゃ怖いからな・・・ほれいくぞ!」
カチャカチャと知恵の輪を解くのより簡単な鍵開けをして格子の外へお姫様を連れ出す。
「貴女は誰ですか?」
曲がりくねった地下牢を抜けながら彼女は話しかけてくる。
「・・・風魔だ。他に名乗るものはない」
彼女は不思議そうに私を見る。
「フウマ・・・」
そのあとは終始無言であった。
入ってきた場所と同じ場所を通り、敵の目を掻い潜り、お姫様に回収用気球を取り付け打ち上げる。
後は、私も脱出するだけだった。
しかし、運命は苦労してこいとでも言うように、敵がぞろぞろと集まって来た。
「・・・ついてないなー」
私のつく悪態に反応してデバイスから氏康の声が聞こえる。
『うーんある意味憑いてるんじゃない?』
「誰が上手いこと言えっていった?」
向かってくる相手は十数人、使う武器はリボルバーか近接のみ、これなら勝機はあった。
「さぁ、Show Timeだ!」
後ろ腰から小刀を抜き、己の身体能力を万全に発揮し向かう相手を迎撃する。
あとに残るのは血溜まりだった。
「全く無茶をするんだから・・・」
腕に包帯を巻き付けながら氏康は小言を言い続ける。
「無茶じゃないし・・・」
消毒の臭いに顔をしかめながら言い訳をする風魔。
「で、次の仕事ですがー「休ませろやぁ!」
風魔の悲痛な叫びは届くことはなかった