ONE PIECE ~家族とともに王道を進む~   作:DOS

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#0 喪う者

『愛』というものに飢えていた。

理由は幼少期の家庭環境にあると推測していた。

 お袋は事故で他界。以来、親父は酒浸りとなってことあるごとに暴力を振るった。

飯が不味いだの、ギャンブルに負けただの。理不尽な暴力を振るわれ俺の体には痣が絶えなかった。

 唐突に親父が再婚相手を連れてきた。けばけばしいメイクとどぎつい香水を纏った彼女は家事の一切を放棄し、十四やそこらの俺に全てを任せ、親父となんやかんやしていた。

 だから必死で努力した。勉強は学校でもトップで生徒会長までやり遂げた。運動でも部活のエースを勝ち取った。

今思えば家庭から逃げたかったのだろう。家庭以外の居場所を造りたかったのだと思う。

 親父は端から見れば優秀な俺の要求するものは全て与えてくれた。

やらされていた家事も家政婦を雇い、時間を作らせて塾にも通わせた。

 やっと分かる事だが、成長した俺から金を搾取するつもりだったのだろう。

それでも俺は早々に家庭から逃げ去ったのだから関係無いけれど。

 高校、大学と苦しみの日々をひたすら耐え続けてそこそこの大きな会社に就職し、独り立ち出来るくらいに生活は安定した。

 転勤の兼ね合いもあって、家庭から距離を置くことに成功した俺は産まれて始めて彼女を作れた。

彼女は少し天然でありながらも健気で清楚で。俺の事を気遣ってくれる。

そんな彼女が俺は大好きだった。そうして遂に結婚を考える時期に突入した。

 平均より高めの給料を頂いていたから、俺は結構良さげな指輪と一戸建てを購入。そしてプロポーズした。

そんな矢先プロジェクトのリーダーに就任。仕事も家庭も順風満帆。プロジェクトも順調に進み、上からの評価も良好。

社長直々に昇格の約束を貰った。ほとんど同じタイミングで彼女――妻の妊娠が判明。

出産を妻と共にし、時を同じくして昇格。更に仕事は大変になったものの仕事時間を延ばさないように努めた。 

 仕事の疲れを見せぬよう振る舞い、妻からの頼みにも応じた。休日には家族サービスだってした。

 なのに。離婚届を叩き付けて妻は子供を連れて出ていった。彼女の置き手紙曰く「本当に愛されている感じがしない」だという。

しかも浮気されていて、俺の子供だと思っていた子供は実は浮気相手の子供。托卵されていたわけだ。

 探偵を使って場所と連絡先を突き止め、財産分与の話をしたいと騙して誘いだし、弁護士を入れての最終会談。いつからかと問い質すと婚約前からとの返事。それまで気付かなかった俺が間抜けだ。俺のどこが好きだ、と訊ねたら、金を持っている所、と即答された。

 すっかり意気消沈してしまった俺は適当に財産分与を流して彼女に金を五割。半分をふんだくられた。

稼げば金は増える。だけど失った愛は取り戻しようがない。心にぽっかりと大きな穴が空いた。この穴を埋めるにはどうしたらいいのか。

 この穴を埋め立てるように、涙を流す。最初は沢から湧く水のように。そこから大河の如く。

とめどなく溢れて、抑えようがない。心を押し流す感情の激流が荒れ狂って。

 一生分の涙を使い果たしただろうか。とてつもないくらい悲しいのに涙が出ない。涙が枯れて少しだけ落ち着いて、まともな思考を取り戻す。

玄関からフラフラと出て、車に乗った。向かう先はコンビニ。おにぎりでも買って、食べようという魂胆だ。

車を起動させ、アクセルを踏み込む。荒っぽい運転のせいで急加速した車は住宅街の細い道を抜けて大通りに出た。

 交通量の多いその通りにコンビニはあった。左右を確認して合流すると、看板が見える。

それを目印に車を走らせて左折。駐車場に車を収めると店内に入った。飲み物とツナマヨネーズ味のおにぎりを三つ買って車内で貪り食う。

悲しい気分は晴れる事を知らなかったが、食べる事でそれを紛らわせる。全てを食べ終わり、飲み物で流した後、家路に付く。

 家族があった家に帰るのは相当に辛かった。嫌でも記憶が蘇るから。その内売りに掛けるつもりだ。

 今後の生活を考えつつ、車を飛ばしていると、衝撃が襲う。エアバッグが作動するのが見えた。曲がったミラーを確認すると、ハイエースが追突していた。頭をしたたかにぶつけ、流血しているのがわかった。どうやら人間というのは閾値を越えると、感覚を失うらしい。

 徐々に、意識が遠退いていく。やがて視界が黒一色に塗り潰された時、ソプラノの喉を持つ少年のような声が不意に届く。

 

「――したいか? 転生したいか?」

 

よく訳のわからない転生という言葉。転生とは仏教に於ける輪廻転生の転生だろうか。

 走馬灯にしてはとても変な走馬灯を見ているみたいだ。

 

「答えなよ転生したいの? したくないの?」

 

ちんちくりんでやけにフレンドリー。自分の走馬灯でありながらがら苛立ちを隠せない。

 

「早く決めなよ。じゃないと死ぬよ?」

 

発破掛けてるつもりかよ。これでも人生なんて悲観してるんだ。生死なんてどうでもいい。

 

「読心するしかないのか。ふむふむ、なるほど。君はどちらかというと転生したい。けど、怖い。向こうの世界で失うのが怖いんだろ」

 

ぴたりと現在の心情を言い当てられて、身の毛がよだつ。

 

「言っちゃいなよ本当の気持ちってやつをさ」

「したい、な」

 

絞り出すように、本当の気持ちを告げる。

 

「安心しなよ。ちゃんと向こうで愛はあげるからさ」

「向こうってどこだよ」

「いわゆる創作、二次元の世界。その中でもONE PIECEと呼ばれる世界線だね」

 

ONE PIECEなら知っているゴム人間のルフィが海賊王を目指す海洋ロマン。そこまで熟読していて詳しい、という訳ではないが、就職したての頃ドハマリして単行本を全巻大人買いをし、そこから新刊が出る度に買っていた。

 

「どうしてONE PIECEなんだ?」

「君に向こうの世界で役立つ才能があったからさ」

「は?」

「君には人を惹き付ける才がある。『カリスマ性』ってやつだね。これは向こうの世界で大きな武器になる」

「そうなのか……」

「そうお。それでも向こうにいくのは怖いよね? 化け物達がドンパチやってる世界だから」

「特典ってやつか?」

「知ってるなら話が早い。五個まで。原作崩壊しない範囲で自由にあげる」

 

悪魔の実は必須。あとは頑強な肉体と強運。武術の才能と覇気だな。

思った特典を告げると意外な返答が返ってきた。

 

「覇気なら要らないよ。才能は君のなかに宿ってる」

「そうなの?」

 

思わずすっとんきょうな声をあげ、五個目の特典を考え直す。

 家族。良い家族が欲しい。俺に愛情をくれる家族が。

どうやら心の中を見透かされていたようで、思い浮かべるなり即座に「君らしいよ」との返答を受けた。

 

「そういえばさ、悪魔の実の要望とかないの?」

「それなりに強ければ大丈夫なんだけど」

「こっちで適当に決めちゃって良い?」

「でも相手の攻撃を無効に出来て攻撃力も高い方がいいかな」

「わかった。向こうで楽しんできなよ。それと僕は君の幸運を祈ってる」

「ありがとう」

「元気でね」

 

俺は謎の声に心から感謝した。苦しみの連鎖から解放してくれたその声に。

 これが走馬灯でないという確証がある。

証拠にまぶたの裏側に光がやって来る。背中の方は水、寄せては返す波が優しく撫でている。

俺の自我が意識の表層へ物凄い勢いで駆け昇っている。覚醒はもうすぐだ。




ちなみにタイトルにある『王道』これは『定番』という意味ではなく『徳を持って治める』という意味の王道です
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