「ん、んぅぅぅぅぅぅ……っと」
スーナは事務室で椅子に座りながら体を伸ばす。やっていた事務仕事が一段落したので体をほぐしていた。
スーナの事務仕事は一年前とは比べ物に成らない程に増えていた。というのも、フリーザ軍内部でスーナ程の情報処理を出来る者が数少ないからである。
頭の良いものは基本的に開発部へ。戦闘力の高い者は兵士へと配属が決まるのだが、兵士側に行くものはお世辞にも頭が良いとは言えない者が多く、碌に報告書も書けない者も居たりする。そこでスーナが間に入り、報告書をチェックした後に手直ししてフリーザに提出するのが当たり前となっていた。
しかし、これは一時的な処理であり今現在は兵士達にも最低限の事務仕事はさせているのだが長期に戦闘に出る者はそうはいかない。
主だった例で言えばギニュー特戦隊やベジータの一派だろう。彼等は戦闘力の高さから星の制圧に向かう事が多く、事務仕事をしている暇などない。ギニュー特戦隊は兎も角、ベジータ一派は書類仕事など、やる気がないと言わんばかりに口頭での報告ばかりだった。
しかし、フリーザ軍も『組織』である以上、報告書も必要であり、ある種の義務でもある。組織の運営はどんぶり勘定では成り立たないのは宇宙でも同様なのである。
「はぁ……肩凝るなぁ……」
トントンと自身の肩を叩くスーナ。事務仕事は嫌いではないどころかむしろ好きな部類だが、流石にこの状況も続けば体が鈍る。
「ご苦労だなスーナ」
「あ、ザーボンさん。お疲れ様です」
ふと、気が付けば上司に当たるザーボンが事務室に来ていた。手にはドリンクが入ったグラスが二つあり、片方はスーナに手渡された。
「あ、ありがとうございます」
「礼には及ばん。寧ろ礼を言うなら私の方だろう。スーナが事務に入ってくれて随分と助かっている」
スーナの礼に対して、ドリンクを飲むザーボンは薄く笑みを浮かべながら答えた。と言うのもスーナが事務仕事を始めてからザーボンの負担が減ったからである。ザーボンはフリーザの側近であるが、事務仕事を一手に任されていた。これは同じく側近のドドリアには任せられない仕事としてフリーザから一任されていたのだが、側近の仕事と事務仕事を両立させるのは並大抵の事ではなくザーボンの負担は増える一方だった。スーナが事務に就任してからザーボンは側近の仕事に専念できる様になったのだ。
「そんな私なんてまだまだですよ」
「謙遜するな。そうだな……礼も兼ねて食事でもどうだ?」
パタパタと両手を振って否定するスーナにザーボンは笑みを浮かべながら食事に誘う。その時だった。
「おおぅいスーナ。飯に行くぞ!」
「あ、ドドリアさん」
「………ドドリア。事務室には静かに入ってこい」
見計らったタイミングの様にドドリアもスーナを食事を誘いに来たのだ。ドカドカと事務室に入ってくるドドリアにザーボンは溜め息混じりの注意をする。
「あんだよ、これくらいで。細かいんだよザーボン」
「お前が乱暴なのだドドリア」
バチバチと火花を散らすドドリアとザーボン。実はこの二人、普段はそうでもないのだが互いの主張を通すときは非常に仲が悪い。それは戦い方から食事まで極端なほどに正反対なのだ。
ドドリアは力で押すパワータイプなのに対して、ザーボンは技を駆使するテクニックタイプ。
食事は大勢で騒ぐのが好きなドドリアだが、ザーボンは静かにテーブルマナーも守る食べ方。
言わば猪突猛進と冷静沈着。対極に位置する二人が側近として上手くやれているのはフリーザに対する忠誠があるからであり、逆にそれが無ければ二人は反目する。
「あ、あの……喧嘩しないでください。今日はお父さんがいないので食事も一人で済ませるつもりでしたけど、お二人が良ければご一緒させてください」
ここで慌てたのはスーナだ。自分が切っ掛けでフリーザ側近の二人が喧嘩など洒落にもならない。スーナは頭を下げて仲裁に入った。
「ちっ……スーナに感謝しろよザーボン」
「今回はスーナの顔を立ててやるが、お前ももう少し気を使うんだなドドリア」
スーナが頭を下げた事で争う事を止めたドドリアとザーボンだが、直後に互いを罵る台詞を同時に吐いた。
「あん?」
「なんだ?」
「で、ですからぁ…….」
この後、スーナは幾度となく仲裁に入りながら食事をする事となる。
因に、ドドリアとザーボンにはそれぞれフリーザの側近としての派閥があり、やはり互いに仲が悪いのだがスーナが間に入る事で多少の関係改善になっていたりする。
しかし、それが切っ掛けでスーナがドドリア派閥かザーボン派閥かで大騒動が起きるのだがそれはまだ先のお話。