クウラの少数精鋭を基準としているクウラ軍はサウザー、ネイズ、ドーレの三人のみである。
徹底した少数精鋭システムはフリーザ軍と違い、星の殲滅等では多大な功績を残していた。その戦闘力はクウラを含めた四人で星を七つ一日で制圧してしまう程だ。
ギニュー特戦隊が、独立して行動し特別任務に当てられているのに対し、こちらは常にクウラに付き従う親衛隊のような存在であり、フリーザ軍で言えば特戦隊よりもザーボンやドドリアのポジションに近い。
だが、その強さ故にクウラ機甲戦隊は増長していた。クウラ軍とフリーザ軍で違う軍とは言っても同格のギニュー特戦隊と常に対立し、邪魔をしていた。
この事がフリーザ軍とクウラ軍の対立を更に深めていた。
そして今回、クウラの関心を引いたスーナを苛めてやろうと、クウラ機甲戦隊の一人ネイズは深夜になってからフリーザの宇宙船を彷徨いていた。
「ケッケッケッ……あの猿に何してやろうかねぇ……」
ネイズは廊下を歩きながら悪戯な笑みを浮かべていた。因みにフリーザ軍の宇宙船にクウラ軍のネイズが歩いているのはあまり良い顔をされなかったが、ネイズに口出しできる兵士はいないし、ギニュー特戦隊はダンスレッスンで宇宙船から離れている為に不在だった為に、尚更誰も何も言えなくなってしまっていた。
「お、居た居……」
宇宙船を歩き回ったネイズは目当てのスーナを見付けて声を失った。スーナは眼鏡型のデバイスにデータを映しながらカタカタと仕事をして居た。
現在の時刻を考えればとっくにスーナは寝ていると思っていたのだ。しかし、スーナは事務室で未だに仕事をしているではないか。その事に驚いているとスーナがネイズに気付いた。
「クウラ機甲戦隊のネイズさんでしたよね?どうかなさいましたか?」
「ん、ああ……ちょっと寝れなくてな」
まさか悪戯しようと思っていた本人が起きているとは思わず、ネイズは咄嗟に嘘をついた。
「クスッ……クウラ機甲戦隊の方でも寝れない事ってあるんですね」
「ちっ……からかうな」
サイヤ人みたいな猿に笑われたとネイズは舌打ちした。その間にスーナは席を立つと事務室に備え付けのポットから紙コップに何かを注ぐ。
「どうぞ」
「ん、なんだこりゃ?」
スーナから差し出された紙コップを反射的に受け取ってしまうネイズ。その液体がなんなのか問うネイズ。
「ホットミルクですよ、眠れない時には最適です」
「そ、そうかい……」
スーナの笑みにネイズは毒気を抜かれた気分になった。ネイズの嘘をアッサリと信じ、気を使ってホットミルクを差し出すスーナはネイズの知るサイヤ人とはかけ離れていた。
「あ、そうだ。ネイズさん、クウラ様の好きなお酒って分かりますか?」
「あ、なんだよ急に?」
ネイズがサイヤ人の事を考えていると、スーナからの質問にネイズの思考は引き戻される。
「明日のお花見にクウラ様にお飲み物をお出ししたいのですが、クウラ様の好きなお酒が分からないものでしたから……」
「………クウラ様の好きな酒はブランデーみたいな酒だ。クウラ様のお飲み物は俺達が準備するから問題はねーよ」
アハハと自分の失敗を苦笑いで告げるスーナ。その笑みは年相応の子供だった。
「ありがとうございます、ネイズさん。えーっと後は……朝にフリーザ様とクウラ様のお席を用意して……」
「お前……一人で仕事をしてるのか?」
再び、パソコンと向かい合うスーナにネイズは呆れた様に話しかけた。
「兵士の皆さんに指示を残しておく為の作業です。フリーザ様に人事を任された以上、責任をもってやらなければなりません」
「そうかい。ま、精々、頑張るんだな」
そう言ったスーナの顔つきは、先程までの年相応の顔つきから仕事中毒のOLみたいな表情になっていた。
その顔を見てネイズは思うところがあったのか、ホットミルクを飲み干して紙コップをスーナのデスクに置いて事務室から出ていった。
「ちっ……くそ……」
真面目に仕事をし、更に自分達が本来気を回さねばならない部分をフォローしていたスーナ。それに対して、自分は何をしていた? ギニュー特戦隊の対抗心から自分は何をしようとしていた?
その事を考えていたらネイズは先程までの自分がえらく小さく感じて、スーナの事が大きく見えて、その事がネイズを苛立たせていた。