スーナが倒れた次の日。花見は順調に行われていた。スーナは現場の仕切りよりもフリーザやクウラの近くで酌をする役目を拝命し、本来スーナがやる筈だった仕切りはスーナを慕う部下達の尽力により滞りなく進められた。
そして花見も終盤に差し掛かり、クウラが一足先に帰ると言い始め、宇宙船に戻ろうとする際に騒動が起きた。
クウラを見送ろうとフリーザ、スーナ、ギニュー特戦隊が揃った所で、クウラはスーナに歩み寄り目の前に立つと口を開いた。
「スーナ、俺に仕える気はないか?」
クウラの発言に、その場の全員が息を飲んだ。
「ク、クウラ様……何をおっしゃられて……」
「貴様は黙っていろサウザー。答えを聞かせろスーナ」
クウラの発言にいち早く回復したのはサウザーだった。サウザーはクウラが冗談を言っているのかと思ったがクウラはサウザーを威圧して黙らせ、スーナに返答を急かした。
「クウラ様、私などをお誘い頂き身に余る光栄です。ですが私はフリーザ様にお仕えしている身。そして私は父と離れる気もありません」
「ほぅ……俺に逆らうか?」
スーナが頭を下げ、クウラの誘いを断るとクウラは指先をスーナに差し向けエネルギーをチャージしていた。
「クウラ様は仕える主をすぐに鞍替えする部下をお望みですか?」
「クックックッ……ハーハッハッハッ!」
スーナが頭を上げ、クウラから視線を反らさずに真っ直ぐに見据えた。その仕草にクウラは堪えきれなくなったのか大笑いを始めた。
「本当にフリーザに仕えさせるのが惜しいな。フリーザに仕える気がなくなったら俺の所に来い」
クウラはスーナの頭にポンと手を乗せた後にその場を離れて自身の宇宙船へと入っていった。
「ク、クウラ様お待ち下さい!」
「ちっ……なんであんな猿ガキなんかをクウラ様は……」
「じゃーな、スーナ。また今度な」
「はい、皆様もお元気で」
サウザー、ドーレ、ネイズは慌ててクウラの後を追って宇宙船に飛んでいった。スーナは三人を頭を下げて見送った。
「よくやりましたよスーナ。兄さんからのスカウトをよくぞ断ってくれました。これで兄さんの面目は丸潰れですね」
「よかったぞスーナ!お前がクウラ様の所に行くんじゃないかと俺は……俺は……」
クウラ達が居なくなった後にフリーザとギニューがスーナに歩み寄る。フリーザはスーナの行動がクウラの面目を潰した事と自身を裏切らなかった事を誉め、ギニューはスーナがクウラ軍に行かなかった事を喜んだ。尤もギニューは花嫁を送り出す父親みたいな雰囲気ではあったが。
「おや、スーナさん?」
「スーナ、どうした?」
しかし、フリーザとギニューが話し掛けてもスーナはピクリとも動かなかった。それを怪訝に思ったギニューがスーナに手を伸ばそうとすると、スーナは膝から崩れ落ちた。
「ス、スーナ!?」
「ビ……ビックリしました……まさかクウラ様が私をスカウトするなんて……」
ギニューは座り込んでしまったスーナの肩を支える。その体はカタカタと震えていた。
「ア、ハハ……腰が抜けちゃいました……」
「怖かったのか無理もない」
眼鏡がズレたまま力なく笑うスーナにギニューは仕方ないと呟いた。宇宙の最強兄弟に挟まれ、しかも片方から殺される一歩手前まで行ったにも関わらず、スーナは気丈に振る舞った上にクウラの誘いを断ったのだ。それで平静でいられる方がどうにかしている。
「ホッホッホッ……ですが貴女の私に対する忠誠心は改めて拝見させて貰いましたよ。今後は仕事のしすぎで倒れないようにしなさいスーナ。貴女の命は……私の為にあるのですから」
「はい……申し訳ありませんでしたフリーザ様」
クウラの面目を潰した上に自身に対する忠誠心を見せたスーナにフリーザの評価はうなぎ登りの様だった。然り気無く体調管理を言い渡す辺り、フリーザは本当にスーナを重宝しているのだろう。
「うむ、やはりスーナは体力がないのが問題……よし、今日からダンスの特訓だ!」
「それは別の機会にしなさい」
スーナに体力をつけさせる為に何故かダンスの特訓を考え付いたギニューだが、フリーザに即座に止められていた。
「それよりも、このブロッサムは過ごしやすい惑星ですね。もう一日此処で骨休めをする事にしましょう。スーナ、貴女もしっかり休むのですよ」
「はい、畏まりましたフリーザ様」
フリーザは惑星ブロッサムが骨休めに丁度いいと発言し、滞在日時を一日増やす事にした。スーナにもしっかりと休むように伝えたフリーザ。彼女には今後もまだまだ働いてもらうというメッセージなのだろう。その言葉にギニューや他の部下も感涙し、フリーザに対する忠誠心を更に高める結果となった。
しかし、これより一年半後にフリーザ軍を大きく変動させる事件が起こる事を、この時はまだ誰も知らなかった。