フリーザが一度、惑星フリーザに戻り準備を整えた後にナメック星へと出発した。フリーザの指示で惑星フリーザに残ったスーナは、何時も通り事務仕事をこなしつつ今後のプランを立てていた。
「ナッパさんとラディッツさんが殉職となると上級兵に空きが出ますね……穴埋めは下級兵士の皆さんの増員で賄って……」
不評は買っていたもののナッパやラディッツのサイヤ人の働きぶりは素晴らしく、同じ地位にいる宇宙人の中では働き率はトップクラス。そのサイヤ人が二人もいなくなったとなれば業務にも支障が出る。そういった調整もスーナの仕事の一つだった。
「おい、スーナ。聞いたぜ、ラディッツが死んだんだってな。噂じゃナッパも殺られたらしいじゃねーか」
「……キュイさん」
ニヤニヤと笑みを浮かべながらスーナに話し掛けてきたのは、エリート兵士の一人のキュイだった。キュイはベジータをライバル視しており、同族のスーナやナッパにもちょっかいを掛けに来るスーナには苦手な相手だった。
「サイヤ人を倒すほどの戦闘力を持った者が居たようです……失礼します」
「おっと、待てよ」
キュイの脇を素早く通ろうとしたスーナだが、キュイによって壁ドン体勢に追いやられる。
「ベジータは命令違反をしたんだろ?処刑するべきだな。トドメは俺にやらせてくれよ」
「確かに私はフリーザ様から兵士の皆さんの裁量を任されてはいますが、処罰する気はありません。フリーザ様もベジータ王子を許すと仰いました」
ニヤニヤと笑いながらベジータの今後を話すキュイだが、フリーザも言っていた通り、ベジータの件は不問にすると言っていたのだ。それをスーナが覆すなど無理な話なのだ。
「ちっ……つまらねぇな。だったらスーナが俺を楽しませてくれるか?」
「お断りします。それとそろそろベジータ王子がこの惑星フリーザに戻られる頃です。今後の予定を考えなければならないので失礼します」
スーナはキュイの手をパシッと払うと、その場を後にする。
「へっ、いつまでその虚勢が持つか見ものだぜ」
スーナに拒絶されたキュイの苦し紛れの一言を背に受けながら、スーナは人事部へと足を運ぶのだった。
◇◆◇◆
ベジータが地球を離れてから18日が程が経過した頃。
人事部でスーナは様々な事に頭を悩ませていた。
「…………ふぅ」
「スーナ様、溜め息の数が増えてますね」
人事部で普段からスーナの手伝いをしていたアプールは、今回フリーザのドラゴンボール探しに同伴しているので不在だった。現在は代理で他の下級兵士が手伝いをしていたが、スーナの溜め息の数に少々へこんでいた。
「アプールさんの事ではなくて……フリーザ様の事です。普段でしたら私が現地住民の方と交渉するんですが……」
スーナの心配はフリーザの行動にあった。普段、重要な事柄だった場合、スーナが現地住民との交渉で事を穏便に運ぼうとするのだが、今回スーナは留守番を言い渡された為にナメック星での行動はフリーザの気分次第となる。最近の話だがドドリアが「最近、暴れてねぇな」とぼやいていたし、ザーボンは「部下に実戦を学ばせねばな」と言っていた。極め付きはフリーザの「そろそろ……花火が見たいですね」の一言である。フリーザの言う『花火』とは星の爆発を示す。つまり下手をすればドラゴンボールを得た後にフリーザはナメック星を花火にしてしまう可能性が高い。
「スーナ様はナメック星の破壊は反対ですか?」
「出来ることなら穏便に済ませたかったんですが……フリーザ様の決定には逆らえませんから」
下級兵士の疑問にスーナは悲しそうな笑みを浮かべて答えた。その時だった。
『緊急報告!当惑星に近付く宇宙ポッドが接近中!』
「ベジータ王子かもしれません。出迎えに行ってきますから、この書類をお願いします」
「かしこまりました」
緊急報告が鳴り響く中、スーナは時期的にベジータが帰ってくる頃合いだと思い、ポッドの着陸場へと向かった。
「スーナ様、やはりポッドは一つだけの様ですが……」
「恐らく、ベジータ王子の物でしょう」
歩きながら部下と合流したスーナは、本来なら二つ飛んで来る筈のポッドが一つだった事にやはりナッパは地球で返り討ちにあったのだろうと判断していた。そしてポッドの着陸場へと到着すると部下数名を引き連れ、出迎えに並んでいた。
ポッドが着陸場へと着地したが、ベジータはポッドから出てこなかった。
「ベジータ王子……?」
「何か……あったのでしょうか?」
スーナが首を傾げ、部下の一人もベジータがポッドから自ら出てこない事に疑問を感じていた。
「お、おい!生命反応がやけに小さいぞ!?」
「いかん、生命維持装置を使っておられる!」
ポッドに近付いた部下達が慌て始める。スーナもポッドの窓を覗く。中ではベジータが意識不明のまま生命維持装置を使用していた。
「皆さんはベジータ王子をポッドから救出!私はメディカルルームに連絡を入れます!」
「了解しました!」
事態を重く見たスーナは部下に指示を出し、自身はメディカルルームに連絡を取った。
◆◇◆◇
ベジータをメディカルルームに運び、治療を開始した頃、スーナはフリーザに連絡を取っていた。フリーザはスカウターを所持していないので側近のザーボンに通信を繋いでいた。
「ベジータ王子が帰還されました。現在はメディカルルームで治療中です」
『そうかフリーザ様はベジータを許すと仰ったのだ。命令違反を咎める事はしなくても良い』
スーナはベジータの治療中の報告を済ませ、今後の話もしていたのだが、ザーボンからベジータの処遇を聞いていた。その内容にスーナは内心、ホッとしていた。
『フッ……安心している様だな。フリーザ様のお心にベジータも……』
「スーナ様!ベジータ様が治療を終えた後に宇宙ポッドで飛んでいってしまいました!キュイ様も後を追って行ってしまわれました!行き先はナメック星かと思われます!」
ザーボンの言葉を遮る様に部下が通信室に駆け込んでくる。
「あ、あの……ザーボンさん……今のは……」
『残念だがバッチリ聞こえていたからな?一度はフリーザ様のお心で命令違反を許してもらえただろうが今度は私が許さん。ベジータの後を追ったキュイに追撃を命じさせろ』
ベジータの救いのない行動に焦ったスーナにザーボンは無慈悲な命令を下した。
「はい……キュイさんのポッドに通信を入れます」
『それと……お前もナメック星に来い。どうも不測の事態が起きそうなのでな。スーナの知識が必要になるかも知れん』
こればかりは仕方無いと命令を受けたスーナにザーボンは更なる指示を出す。なんとスーナもナメック星に来いと言うのだ。
「畏まりましたが……何かあったのですか?」
『フリーザ様が不老不死を得る際にフリーザ様の片腕の貴様が居ないのではな。それにナメック星にナメック星人以外の異星人が居るようなのだ。上級兵を数名連れて来い』
ザーボンの発言にスーナは普通に驚いていた。今回、フリーザがナメック星遠征に連れていった兵は側近二人と戦闘力が平均1500の兵士を大量に連れていった。にも関わらず手が足りないとの発言があったのだ。
『詳細は分からんが……クラッシャー軍団とかいう連中がナメック星に攻め込んできてな。我々が所持している以外のドラゴンボールを奪いに来ている様なのだ』
「他の異星人の皆さんもナメック星に居らっしゃるんですね。了解しました、メンバーをリストアップしてから私もナメック星に向かいます」
ザーボンから詳細を聞いたスーナは、少々の頭痛がしながらもナメック星へと向かう事にした。