翌日、ブルマから連絡を貰ったチチが父親である牛魔王と共にカプセルコーポレーションを訪ねてきていた。
「悟飯ちゃん、良かっただ!無事だっただな!」
「お、お母さん……」
チチは悟飯を見るなり、駆け寄り強く抱き締めた。その姿に悟飯の事をどれだけ心配していたか、分かるものだろう。
「あの方が悟飯君のお母様なんですね」
「ええ、ちょっと……ううん、凄い過保護なんだけどね」
その光景を見ていたスーナは隣に立つブルマに問いかけ、ブルマは苦笑いをしながら、それに答える。
「ブルマさん、悟飯ちゃんを預かってくれて本当に助かっただ」
「良いのよ、一晩くらい……それよりも孫君だけど……」
チチはブルマに悟飯を無事にナメック星から帰らせた事に礼を言っていたが、ブルマは言い辛そうに悟空の話を切り出す。
悟空はクリリンの敵としてナメック星に残り、フリーザとの激闘を繰り広げ、最終的にはフリーザを倒したもののナメック星の崩壊に巻き込まれ、死亡してしまった。その事は昨晩の段階で話をしていた。その際、電話口から崩れ落ちる様な音が聞こえたから流石のチチも堪えたのだろうとブルマは考えていた。
「ええんだ……そのナメック星のドラゴンボールで悟空さが生き返られるって分かってるなら、それで……」
「チチさん……」
気丈に振る舞っているがチチは再び、悟空が死んだ事にショックを受けているとブルマは感じていた。その上で更にスーナの事を頼むのは少々心苦しかった。
「それでブルマさん、その娘が……」
「ええ、ほら挨拶して」
「初めまして……」
ブルマに促され、自己紹介をするスーナ。もっともスーナは記憶が戻った訳ではなく、スーナ本人にも名前を隠したままなので何処の誰でも無い状態ではあるのだが。
因みに名を隠せと言ったのはベジータであり、名を告げればスーナの記憶が戻る可能性がある事を考慮しての判断だが。更にを言うならスーナの名前入りの下着は処分され、新しい下着はブルマが用意した。
「ブルマさんから話は聞いてるだ。記憶喪失なんて可哀想になぁ」
「………今の私には何を失ったかも覚えていません」
チチはスーナを優しく抱き締めた。スーナ自身には記憶が無い……だからこそ悲しむ気持ちも薄れているのだが。
「だったら、ゆっくりと思い出せば良いだ。きっと記憶を失ったのも辛い事があったからだ。心も体も癒す時間が必要だ」
「そうですよ、スー……えっと……まずは体を治しましょうよ!」
優しくスーナの髪を撫でるチチ。実際にスーナは父と上司と部下を失い、自身も殺されかけたのでチチの言った事はほぼ間違っていない。悟飯は思わずスーナの名を言い掛けたがベジータの言い付けを思い出して口を閉ざし、名前を言わないように気を付けながら会話に参加する。
「そうだな。ブルマさん、この娘を引き取る話は受けさせてもらうだ……」
「そうして貰えると私としても助かるけど……良いの?」
チチがスーナを引き取る事を快く了承した事にブルマは疑問を口にする。以前ならまだしも教育ママと化しているチチがそれを受け入れた事に驚いていた。
「それなんだがな、チチはおっ母……母親を幼い頃に失っている。昨夜の電話であの娘が天涯孤独ってのを聞いて情が移ったみてーでな。ほんで悪い娘だったら断るつもりだったが礼儀正しい娘みたいでチチも気に入ったみてーだ」
チチの心情を同伴して来ていた牛魔王がコソッとブルマに説明する。スーナは悪い娘どころか悪の帝王の腹心であり、その配下の娘だから悪い娘と言われればある意味では正解なのだが、ベジータからスーナの事を聞いていたブルマは苦笑いである。
「んだども、記憶喪失じゃ名前がねーんだべ?」
「はい……私も思い出せないままなので……」
チチと話をしていたスーナは自身の名前すら思い出せない事をチチに話していた。そしてその事を聞いたチチは、ある事を思い出しスーナの両肩に手を添えた。
「だったら……今は仮にでも名前を付けねばならねぇだな。おめさの名前は桃香……孫桃香だべ」
「孫……桃香……」
チチから告げられた名を反復するスーナ改め桃香。地球でのスーナの仮の名は桃香と名付けられ、桃香は孫家に引き取られる事が決定された。
話の繋ぎ回でした。次回からスーナ(桃香)の本領発揮。