スーナ改め、桃香が孫家に引き取られて既に一ヶ月。桃香は記憶は無いものの以前の生活とは、かけ離れた生活に四苦八苦していた。
今までクリーニングしていた服等は手洗いとなり、食事も自ら作らなければならない。
桃香はチチから家事の基本から学ぶこととなる。そして、もう一つは文字である。今までは宇宙の公用語を用いていたが、当然の事ながら地球は宇宙の公用語は使われていない。桃香は一から文字を覚えなければならなかった。幸いにも悟飯が使用していた参考書があったので、桃香はそれを参考にチチや悟飯から地球の文字を学ぶ日々を過ごしていた。
チチは娘が出来たみたいと、悟飯は姉が出来たみたいと桃香の存在を受け入れていた。
しかし、二ヶ月が経過した頃に、その生活に変化が訪れる。なんと桃香は地球の言語と常識を二月程で完璧に修得してしまったのだ。現在では悟飯から勉強を教わるのではなく、教える側になっていた。
そして事態はそれだけに収まらなかった。家事もテキパキとこなすようになって時間が余るようになった桃香は、ブルマに頼んで孫家にパソコンを導入し、更に家の増築までしてしまったのだ。その資金はどこから出たのかと言えば、桃香はパソコンを導入後に株を始めて元手の資金を数日で家を一軒は建てられるであろう金額まで稼いでいた。
この話をブルマ経由で聞いたベジータは「記憶は失っても、やはりスーナだな……」と呟いたという。
三ヶ月が過ぎた頃、桃香はチチを「お母さん」悟飯を「悟飯」と呼ぶようになり、チチは「桃香ちゃん」悟飯は「姉さん」と呼ぶようになっていた。
当初は互いに遠慮がちな関係だったが三ヶ月という期間、共に生活して本当の家族のようになっていた。
記憶がない桃香には当然の事だが、フリーザ軍に居た頃もスーナの面倒はザーボンやドドリア、女性兵士が見ていたし、ギニューはスーナを可愛がっていて親子としても良好だったが、一般の親子としては成立していなかっただろう。
更に言うなら、どちらかと言えばスーナがギニューの面倒(特戦隊含む)を見ていたので立場は逆だった。
現在は悟空が居ないが、桃香(スーナ)にとっては普通の家族として過ごしたのは初めてと言えよう。
「桃香ちゃんは悟飯ちゃんを鍛えるのに賛成だべか?鍛えてばっかりいると悟空さみたいに働きもしねぇで戦ってばかりになりそうだべ」
「勉強ばかりでも駄目だと思います。地球には文武両道という言葉がある様ですが……」
リビングでお茶をして居た桃香とチチは悟飯の此れからについて話をしていた。チチはもう地球の脅威も去ったし、悟空も生き返ると言うなら悟飯の勉強を最優先に考えていたが、桃香はそれを否定した。
「文武両道……片寄りが無いようにするって事だか?」
「本来の意味は違うようですけどね。『武』を極めるには『文』で培った知識を。『文』を極めるには『武』で培った肉体を……これが文武両道の元となった話らしいです。それを考えるなら亀仙流は理想的な流派となりますね」
チチの疑問に桃香は調べていた事を教えた。亀仙流は「よく動き よく学び よく遊び よく食べて よく休む 人生を面白おかしく張り切って過ごせ」と言う教えであり、それは先程、桃香が話した『文武両道』に通ずる話である。
「それに……お話を聞く限り悟空さんは『武』を追求しすぎて『文』が足りないと思われます」
「んだなぁ……悟空さ、武天老師様に武術を学んだのにおっ父やクリリンさんみたいに文学は身に付かなかったみてぇでな」
桃香はクリリンやブルマから悟空の人柄を聞いていた。その上で悟空は『武』に特化しており、『文』はサッパリとだという印象だった。
そして4ヶ月が過ぎる頃……ナメック星のドラゴンボールで悟空やクリリンを生き返らせる日がやって来た。