尻尾を千切られたスーナを連れて悟空達は家へと戻った。
「うぅ……痛いです」
「昔の悟空さも悟飯ちゃんも尻尾が千切れた時は痛かったそうだべ」
悟空達はリビングで待機し、チチは子供部屋でスーナの様子を見ていた。スーナはベッドでうつ伏せの状態でズボンを下ろし、チチは尻尾の千切れた付け根の部分の傷に薬を付けていた。
因みにチチがクウラの攻撃を受けて無事なのは悟空が攻撃を受け止めたからである。クウラは攻撃を仕掛ける前に悟空にテレパシーを送り、スーナを怒らせる為に攻撃をするとだけ伝えた。その後、スーナはクウラの予想通り、キレて自身が抱えていた心情を全て口にしたのだ。突然の事態に驚いていた悟空だが、スーナの事を思い、クウラの考えに乗ったのだ。
「痛いし……恥ずかしいです」
「桃香ちゃんがズッと言えなかった事を言えたんだべ。恥ずかしがる事ねぇだよ」
スーナが枕に顔を埋めて恥ずかしがっているとチチは嬉しそうにしていた。スーナが長年話さなかった心情を話してくれたのだから。
「はい、もう大丈夫だ」
「ありがとうございます……っと」
チチからの治療を受け負えたスーナが立ち上がろうとすると、上手く立ち上がれずフラついた。
「ううぅぅぅぅぅ……落ち着きません」
「ほら、支えるから」
スーナはチチに支えられながら悟空達が待つリビングへと歩く。
リビングに行くと「そんなに重傷なのか!?」と全員から心配されたが、上手く歩けないだけだと説明したスーナ。
「兎に角、バランスが悪い感じです……体の一部を失くしたからですかね?」
「俺に尻尾を千切られた事をしっかりと恨んでいるな、スーナ」
クウラから視線を逸らした上でスーナが呟く。そんなスーナを見ながらクウラがツッコミを入れた。
「そういや、オラも子供ん時に尻尾が切れた時は上手く歩けなかったぞ」
「僕は……割りと平気でした」
「悟飯の場合は幼い頃だったからだろう。悟空や桃香の様にある程度成長した体だとバランスが崩れてしまうのだろうな」
尻尾の有無は幼い頃から有るのか、幼い頃に失うのかでは意味合いも変わってくる。
悟飯は本当に幼い頃に尻尾を切られたから、それが当たり前になっていたが、悟空や桃香の様にある程度、成長してからだと体幹が崩れるらしい。
「サイヤ人の尾はいずれ再生する。その内、また生えてくるだろう」
「クウラ様……私が長年溜め込んでいた物を受け止めてくださって、ありがとうございました。尻尾の事は恨みますが」
ボソッと呟いたクウラにスーナは感謝するべき事は伝えて、恨む部分はしっかり恨んでいた。
「いーじゃねーか、尻尾はまた生えてくるんだからよ」
「悟空さんも知っての通り、サイヤ人にとって尻尾はデリケートな部分なんです!女の子なら尚更ですよ!」
「悟飯ちゃん、女の子のデリケートな部分を指摘する時は気を付けるだぞ。じゃねえと悟空さみたいになるべ」
「……気を付けます」
悟空がデリカシーの無い発言をするとスーナに叱られていた。
チチは悟空を反面教師にすべしと悟飯に教育し、悟飯は姉に叱られる父を見て、気を付けようと胸に誓っていた。
「もう、心配は無用な様だな。俺は行く」
「クウラ様……行ってしまうのですか?」
先程のやり取りを見ていたクウラは立ち上がり、孫家を後にしようとする。そんなクウラをスーナが呼び止めた。
「俺は元々、貴様の様子を見に来ただけだ。これ以上は馴れ合うつもりはない」
「行っちまうんか?オラ、もっと戦いたかったぞ」
スーナの様子を見に地球に立ち寄っただけだと告げるクウラに悟空が残念そうに口を開く。
「その件に関しては同意見だな。負けたまま終わらせる気はないぜ」
「貴様等はもっと腕を上げておけ。今の貴様達では俺に勝てないのは理解しているだろう?」
先程の手合わせでクウラに敗北したピッコロも悟空に同意していた。クウラはそんなピッコロや悟空を一瞥すると事実を告げる。
「俺は暫く他の惑星を巡るつもりだ。調べたい事もあるしな。それが済んだら地球に戻るつもりだ。それまでに強くなっておけ。それとスーナ」
「はい」
旅立ちはするが再び地球に戻るつもりであると告げたクウラはスーナに話し掛け、スーナは背筋を伸ばした。
「先程、貴様が見せた変化だが……あれがスーパーサイヤ人なのだろう。だが、貴様はまだコントロールが出来ていない。あの状態を自身の力で引き出せる様になっておけ。闘志は必要だが表に出さず、内に秘めそれを常にキープ出来るようになっておくんだな」
「はい、ご指導ありがとうございます」
クウラにトンと額を指で突かれるスーナ。これはクウラなりにスーナに対して優しい指導だった。本人も気づいているかは微妙な所ではあるが。
「クウラさん、地球に来た時は家に寄ってくんれ。クウラさんは桃香ちゃんにとって身内みたいなもんなんだべ」
「………覚えておこう。さらばだ」
そして孫家から出た際にチチがクウラに話し掛ける。見た目や風貌からクウラに良い印象を持っていなかったチチだが、クウラと会ってからのスーナが心が和らいでいる事やスーナの心情を話す切っ掛けを作ってくれたクウラをチチは好意的に受け止めていた。
チチの見送りを受けたクウラは一言だけ残すと、そのまま空へと飛んでいってしまった。
「行ってしまいましたね……それよりも悟飯、何を膨れているんですか?」
「わかりません……でも、少し胸がモヤモヤします」
クウラの事を名残惜しそうに見送ったスーナだが、少し前から悟飯が膨れっ面をしている事が気になっていた。悟飯自身、その事にモヤモヤしていたのだが、その感情が何なのかまだ理解していなかった。