精神と時の部屋で一年と言う時間を過ごしたスーナは久しぶりに外へと出た。
「皆さん、お待たせしました」
「あ……お帰りなさい、桃香さっ!?」
「やっと出て来……おい」
「年頃の娘が肌を晒すな、隠せ!」
「これで隠すと良い」
精神と時の部屋から出て来たスーナを出迎えたのはトランクス、ベジータ、ピッコロだったのだが、三人はスーナの姿を見て唖然とした。
スーナの戦闘服は所々が破れ、インナーが少し緩くなっていた。しかもスーナはそれを気にした様子もなく出て来た為に却ってトランクス達の方が慌てた位である。ピッコロが指摘し、ミスターポポがバスタオルを手渡すとスーナは漸く気付いてその身を隠した。
「失礼しました。一人でいる時間が長かった為に少々無頓着になっていた様です。着替えてきますね」
「お前の服、神殿の中にある。入ってすぐ右の部屋だ」
スーナはバスタオルで自身の体を隠しながら神殿の中へと入っていく。ミスターポポはスーナに服の場所を教えた。
「どう思いますか?桃香さんは強くなったんでしょうか?」
「悟飯と同様で桃香は成長期だ。身長は伸びたように見えたが……」
トランクスがピッコロとベジータにスーナの事を問いかけるが返答をしたのはピッコロだけだった。ベジータはスーナが神殿に入ったのをジッと見詰めているだけだった。
「お待たせしました」
「やはり、見間違いではなかったな。スーナ、尻尾の再生が済んだな?」
数分後、着替えを終えたスーナはいつものスーツスタイルになって出て来た。それを見たベジータは『やはりか』という態度を取る。ベジータの指摘通り、スーナの着ているスーツの後ろの部分からサイヤ人特有の尻尾が生えていたのだ。
「精神と時の部屋で私は戦闘力のコントロールをしている内に尻尾が再生しました。それを機に私は大猿化を学びました。パワーボールの作り方は以前聞いていましたから」
「そうか……貴様の基礎戦闘力の向上がパワーボールを作れるレベルにまで達していたか……大猿化したから戦闘服のジャケットも伸びていたのか。謎が解けたぜ」
スーナの説明にベジータは納得する。パワーボールの事はフリーザ軍時代にベジータがスーナに話していたし、先程スーナの戦闘服が伸びていたのも大猿化の影響なら納得できる。戦闘服の基本素材はゴムの様な伸縮素材で一度や二度の大猿化なら戦闘服も伸縮し、破れる事も伸びる事もない。だが、一年と言う期間伸縮を繰り返せば流石の戦闘服も伸びてしまったのだろう。更にスーナ自身の身長や体型に変化が起きたのも大きな理由の一つとなっている。スーナの背は入る前よりも僅かに伸びているし、体つきも更に女性らしい物となっている。その証拠にスーツに着替えたスーナの体にスーツが微妙にサイズが合っていない様にも見えた。
「私は大猿化しても理性を失わない様になった事と戦闘力のコントロールを身に付けました。後はスーパーサイヤ人の時でも気が高ぶらない様にもなりましたし」
「なる程、悟空と悟飯と同じ修行をした訳か」
スーナが精神と時の部屋でしていた修行の全容を話すとピッコロは納得した表情になり、トランクスは「流石、桃香さんです」と称賛していた。因みにスーナは悟空と悟飯とは違い、スーパーサイヤ人の状態ではなく通常状態で精神と時の部屋から出て来た為に同じ修行をしたとは思われていなかったが、事情説明をして始めて理解された。
「悟空さんと悟飯みたいにスーパーサイヤ人のまま出なかったのは他にやる事があったから変身を解いていたんですよ……少し苦しいですね。んしょ……私が一年入っていた、いえ一日の間に何か変化はありましたか?」
「地球人は軍隊を出し、セルを倒そうとしたが壊滅させられた。それを見て悟空がドラゴンボールの復活を考えてな。新ナメック星から一人のナメック星人を連れて新たな地球の神になって貰うそうだ」
やはりサイズが合わないのかスーナはジャケットを脱ぎ、ワイシャツのボタンを外し、胸元を少し楽にした。ピッコロから語られる内容にスーナは時おり、首を縦に降り「なるほど」と呟く。因みにトランクスは自分の知る『孫桃香』に大部近づいた成長を遂げたスーナに少し、ドキッとしていた。ベジータはスーナがしていた修行を聞いた後にサッサッと精神と時の部屋に入ってしまった。
「ベジータは先に精神と時の部屋に入ったが、その次は俺、トランクスと続く。桃香、お前はどうする?また入るか?」
「私もまた修行不足が目立ちますから入ります。ピッコロさんとトランクスが入った後に私も再び、入るとします」
ピッコロから後々の精神と時の部屋に入る順番を聞き、自分も再び入ると決めたスーナはジャケットを脇に抱えたままフワリと浮く。
「私は一先ずカプセルコーポレーションへと行きます。人造人間16号の事も気になりますし、私の服の調整もしたいので」
「そうか……後で悟空も新たな神を迎えに行ってから神殿に戻る筈だ。家に戻ってからで構わんから、また神殿に戻ってこい」
スーナがカプセルコーポレーションに行くと話すとピッコロは後の事も話したいから神殿に再び戻れと告げる。一度家に帰ってからと言う辺り、大魔王と呼ばれた頃とは違い人格者になったのだと当時のピッコロを知る者からすれば驚きの事態である。
「分かりました。では、また」
そう言ってスーナは神殿の端から下界へと降りていく。瞬間移動で一瞬で行っても良いのだろうが修行後の疲れた状態でやるよりも、久しぶりの空を味わいたかったのも大きい理由だろう。
それはフリーザ軍時代には味わえなかった高揚感でもあった。
「久し振りの空は明るいし……体も軽いですね」
スーナは精神と時の部屋から解放され、久し振りに軽くなった体でカプセルコーポレーションへと飛んで行った。
西の都に到着したスーナが目にしたのは街角のスクリーンに映し出される一人の人物だった。
「あんなクレイジーな化物はこの格闘技の世界チャンピオンMr.サタンが倒してやる!」
「「「サーターン!サーターン!!」」」
街角のスクリーンには格闘技の世界チャンピオンを名乗るMr.サタンと呼ばれる人物が映し出されていた。彼は悟空やクリリンが出なくなってレベルが大幅に下がった天下一武道会で優勝した人物だとスーナは記憶していた。