セルゲーム当日。スーナは早朝に孫家を出て、カプセルコーポレーションへ向かおうとしていた。
「桃香ちゃんや悟飯ちゃんも戦うだか?」
「主に悟空さんやベジータ王子が戦うと思いますが……最悪の事態を想定するなら私も悟飯も戦うでしょう。セルを倒さねば未来はありません」
道着の帯を絞めたスーナにチチは不安そうに問う。スーナはチチに振り返らずに答えて、リストバンドに手を通す。
「お母さんが望む悟飯の学者としての未来も……守る為には戦わなければなりません。地球が滅ぼされたら悟飯の学者になる夢も絶えてしまいます」
「それは……そうかもしれねえかもだが……オラは桃香ちゃんや悟飯ちゃんが傷付くのは心配になるだ。悟空さだって、いつも傷付いてばかりだべ」
チチに説明を続けるスーナは「実際に未来では悟飯は学者の夢を諦めて戦っていた様ですし」とトランクスから聞いた未来の話を思い出しながら決意を新たにしていた。対してチチは誰にも言った事がないであろう心情を吐露する。恐らくだが、チチは悟空の戦いの歴史を知る中でボロボロになってでも戦う姿勢を嫌がっていたのだろう。だからこそチチは悟飯に対して過保護になって、戦う道ではなく学者としての道を示唆していたのだろう。
「大丈夫ですよ、お母さん。セルを倒したら悟空さんも働くと約束してくれましたし、平和になれば悟飯も落ち着いて勉強できるでしょう。では、行ってきます。カプセルコーポレーションに行ってからセルゲーム会場へ行かねばならないので」
「あ、桃香ちゃん!?」
着替えを終えて外へ出たスーナはカプセルコーポレーションへと行く為に宙を舞い、猛スピードで飛んで行く。スーナは「大丈夫」とチチに告げたがチチには嫌な予感がしていた。この妙な胸騒ぎもスーナと話せば解消されるかも、と思っていたチチだが胸騒ぎは収まるどころか増していた。
◆◇◆◇
「あら、来たのね桃香」
「孫桃香か」
「こんにちは、ブルマさん。16号」
カプセルコーポレーションに到着したスーナはブルマと修理が終わった16号に挨拶をする。16号のアーマーのレッドリボン軍のマークはカプセルコーポレーションのマークに上書きされていた。
「修理は完全に済んだ様ですね。セルゲームに間に合ったなら何よりです。でも、悟空さんは殺させませんよ?」
「………」
身長差から16号を見上げるスーナに16号は無言を貫いた。
「俺は孫悟空を殺す為に造られた。それ以上の理由は無い」
「何故、悟空さんを殺す事に造られたから……ですか。では、使命を果たした後はどうしますか?ドクターゲロの望んだ世界征服を果たしますか?」
淡々と答えた16号にスーナは質問を重ねた。
「それは……」
「悟空さんに恨みがあるのはドクターゲロで貴方自身では無いでしょう。貴方はどうなんですか?」
睨む様に見上げるスーナに16号は答えに詰まり、更にスーナは質問をしていく。
「貴方の使命はドクターゲロにインプットされた事でしょう。私も曾て軍の命令に従う立場でしたが従いたく無い命令には背きましたよ。特に父の特戦隊絡みの命令はねじ伏せましたし」
「それは、お前の父親が特殊なだけだ」
スーナの発言に16号は真顔で答えた。
「それに悟空さんが殺されたとなれば、私達家族や貴方を助けたクリリンさんは貴方を恨むでしょう。争いの火種を生み出しますか?」
「む……それは……」
スーナの発言に争い事が嫌いで自然や動物達が好きな16号はたじろいでしまう。『孫悟空を殺す』その事だけを考えていた16号は、その先の事までは考えていなかった様だ。ドクターゲロの命令だから、造られた理由だから、と自分の主観を持たない16号は自分で考えた結論では無い事にスーナはため息を溢す。これは説得に苦労しそうだと感じたからだ。
「取り敢えずセルゲーム開催期間は悟空さんと争う事は禁じます。仲良くしなさい……とまでは言いませんが争う事は許しませんよ。貴方が一番優先しなければならないのはセルを倒して17号と18号の仇を取る事でしょう」
「了解した……厳しいんだな、お前は」
「相変わらずよね、桃香は。私はこれから武天老師様の所に行ってくるわ」
スーナの有無を言わさぬ物言いに16号は多少引きながら頷いた。ブルマはカプセルコーポレーションでセルゲームを観戦するのではなく亀ハウスで観戦するつもりらしい。
「私じゃ格闘の事は分からないし、直接見に行く訳にはいかないもの。武天老師様なら解説してくれそうだし」
「そうですか……お母さんも家ではなく亀ハウスで一緒に居てくれた方が良かったかも知れませんね」
ブルマは戦いを中継で見るつもりだったらしいが解説として亀仙人を頼るつもりだった様だ。スーナは一人で家で待っているチチは不安だろうから一緒に亀ハウスに行ってくれた方が精神的にも安心出来たかも知れないと考えていた。
「兎に角……頑張りなさいよ」
「はい……ブルマさんには以前お願いしていた事……よろしくお願いします」
スーナと16号はセルゲーム会場に向かおうとする直前にブルマがスーナに声を掛ける。不安そうな表情だが、スーナはニコリと笑みを残し飛び去った。
セルゲーム会場に向かって並んで飛んでいくスーナと16号。遂にセルゲームが始まる。