ブラック家の御曹司   作:修造

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こんにちは。

今回は夏季休暇中の小話的なものですが、実はこの後の展開上重要になってきます。
まあ日本は直接的には関係ありませんが。

※本作に登場する独自設定は、全てフィクションです。
実在する人物、団体、宗教等全てに関係ありません。ご了承ください。


第10話~JAPAN~

 日本にいるという伝説の箒職人を求めて、手紙でコンタクトを取ってから一週間。

 

 

 ようやく返事が返ってきた。

 

 どうやら、相手も生産中止になってからしばらく経つこの名箒が残っているとは夢にも思っていなかったらしい。

 

"是非ともメンテナンスさせてください"との旨が書いてあった。アプローチは成功のようだ。

 

 そして夏季休暇が始まって数日、クリーチャーに頼んで日本まで飛んで(・・・)もらった。流石にここまでの長距離の付き添い姿くらましは初めてだったらしく、到着後は息切れでとても苦しそうだった。

 

 ご老体なのに酷なことをして申し訳なく思う。次は途中のテヘランだとかイスタンブールとかを中継しようね。

 

 そして現在、シグナスは、日本を代表するクィディッチナショナルチーム、"トヨハシテング"の面々を前にしていた。

 

 

 

 どうしてこうなった。

 

 

 

―――

 

 当初、シグナスは職人が住んでいるという山奥の仕事場にてメンテナンスをしてもらうつもりだった。しかし、

 

 "そういえば君はホグワーツのクィディッチ選手だったね。ああ懐かしい。そうだ、せっかくだから今私がお世話になっている皆さんに会わせてあげよう。"

 

 と、伝説の箒職人からの申し出を受け、あれよあれよと拠点のトヨハシまで引っ張られてしまった。

 

こちらも随分とご老体のハズだが腰はシャキンとまっすぐ伸びており、強い力で引きずられた。

 

ちなみに、屋敷しもべ妖精は日本には存在しない。そこでクリーチャーには、箒職人に接触する前から姿を消してそばに控えてもらっている。

 

「あれ、アレンさん、そちらの方は?」

 

「コンニチハ。イギリス、カラヤッテキマシタ。シグナス・ブラックデス。ドウゾ、ヨロシクオネガイシマス。」

 

「というわけだ。というか君は日本語が話せたのかね?結構結構。こちらは私の母校、イギリスのホグワーツ魔術学校からやってきてくれた。彼は海の向こうで本場のクィディッチ選手をされている。」

 

 おおっ!とチームがざわめく。そして次々に握手を求めてくる

 

 あれ?日本人ってシャイじゃなかったっけ?

 

 

 ―――

 

 

 

 箒職人のアレンさんは、"自分がメンテナンスしている間は暇だろう。"ということでこの場を用意してくださったようだ。

 

 なんとも粋な計らいによって、その日はアレンさんが作ったという手作りの箒(言わずもがな、ナショナルチームが使うほどの一級品である)を借りて、トヨハシテングの皆さんとの交流を楽しんだ。

 

 シグナスは、今回の日本行きのために必死に日本語を勉強していた。しかしやはり他言語を習得するのは難しかった。

 

口を開けば未だにカタコトで、言葉を書くのは難しい。そして漢字もあまり読めない。

 

 トヨハシテングの皆さんは優しくてお人好しが多いといわれる日本人らしく、"そんな年で喋れるだけすごい"と受け入れてくれた。

 

 わかりやすいようにジェスチャーを交えて、クィディッチのスキルアップのコツや練習法など色々と教えて頂いた。世話好きな人が多く、常に話し掛けてくれた。

 

 この日の最後に、シグナスを含めて紅白戦をすることになった。

 

 シグナスは、シーカーをやった。

 

  学生のシグナスを、"今日の主役だから"とポジションのシーカーに置いてくださったのだ。学生とプロとの技量の差は、当然ながら火を見るよりも明らかだった。従ってシグナスは最初から全力でスニッチを探した。

 

 しかしながら、やはり子ども扱いをされていたようだった。相手のビーターの皆さんは、こちらを本気で狙っていると見せかけて、実は他の選手を狙う時よりも打ち出すブラッジャーは遅めだった。それでシグナスが避けるのがギリギリだったのだから、学校のビーターズよりも差は歴然だ。底が見えない。

 

 そして何よりもすごいのは、トヨハシテングが誇るエースシーカー、ユウタロー・ツチハシだった。

 

 やっとの思いでスニッチを見つけて真っ先に飛び出すシグナスを遊ばせて、数秒のタイムラグを感じさせない圧倒的な速さでスニッチを手に入れてしまった。

 

 もはや圧倒的すぎて落ち込むシグナスに、くしゃりと頭をなで、"俺にもそんな時代があった"と言葉少なに話してくれた。

 

 負けてしまったので、借りた箒を燃やそうと杖を握ると、鬼気迫る表情で止められた。

 

"何するんだ!?"とばかりの勢いに怯み、

 

「だって日本のナショナルチームって負けたら箒燃やすじゃないですか」

 

と震え声で呟いた。

 

 

 

途端に辺りで湧き出す笑い声。"いやいや、それはないよ。アハハ。"

 

 どうやら、日本チームが箒を燃やすのは公式戦だけらしい。

 

「それは偏見というものさ。俺たちだって燃やしたくて燃やしているんじゃない。」

 

 ―――

 

 楽しい時は、すぐに過ぎ去ってしまった。

 

 

「今日はありがとうございました。」

 

「何言ってるんだ?明日もくるだろ?」

 

「──すまん、シグナス。メンテナンスには一週間くらい時間が必要だ。言ってなくてすまなかったな。」

 

 ニヤリと告げる名職人に、シグナスは心から感謝した。

 

「はい!よろしくお願いします!!」

 

 恐らく、今までで一番の笑顔の一つだっただろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 日本での滞在中は、ツチハシ家にお世話になることになった。家は日本の伝統的な木造建築であり、広大な日本庭園が美しい。

 

 家に入ると、中の男の人にいきなりお祓いをされた。何でも、邪気が憑いていたとか。ついでにずっと傍に控えていたクリーチャーも見破られたところで、自分たちは陰陽師の家系なのだと明かされた。

 

 ──陰陽師。

 

 古来の中国から伝来し、以後日本の政にずっと関わってきた。時が流れ、鎖国してきた日本が開国した時。

 

時の政府によって公にはその権限を全て奪われてしまったが、日本の魔法界においては未だその威光は大きい。

 

 そして、このツチハシ家は、陰陽師の名門、土御門家の傍流だそうだ。

 

土御門家というのは、陰陽師の始祖の流れを汲むらしい。

 

しかし傍流といってもその歴史は古く、今度ユウタローが継ぐことで10代目になるそうだ。

 

 

 

「ユウタロー。日本にはマホウトコロという学校があると聞いたけど、そこでは陰陽道をやっているのかい?」

 

「いや、西洋の魔術も教えている。といっても今の日本の魔法界はまだ陰陽道が中心だ。杖を使うなんてのはまだ邪道なのさ。」

 

「そうなんだ。もしよければ、軽く陰陽道の手ほどきをしてくれないか?向こうにいるときから気になってたんだ。」

 

「大丈夫なのか?チームのみんなは気づいてなかったけど、ブラック家は向こうじゃ有名なんだろ?あー、伝統を大事にしろとか、そういうしがらみはないのか?」

 

「あるだろうとも。でも今のブラック家はほとんどの名家とある程度距離を置いているから、干渉されることはほとんどない。

 

それに少なくとも現在の英魔法界のトップでもない。しがらみもなにも、ブラックは俺しかいないんだ。」

 

「!?……そういうことか。すまなかったな。嫌なこと聞いてしまって。」

 

 ユウタローは、今のブラック家の状況を察してくれたようだ。

 

クリーチャーは何か言いたそうにしているけど、黙ってくれている。主の気持ちを慮ってくれてありがたいことだ。

 

「ならば伝授することは吝かではない。しかし、西洋の魔術という武器を持っているのに、なぜ我らの陰陽道を学ぼうとする?」

 

「話には聞いていると思うが、ほんの10年前までは英国魔法界は暗黒の時代だった。現在こそ平穏な暮らしをしていられるが、時代を作り出したその親玉はどうやら死を超越したようでな。」

 

「なに!?どういうことだ?」

 

「おそらく英国魔法界でも最も忌避されてる闇の魔術さ。それも思いっきり真髄にまで浸かっているやつだな。

 

 根拠に、俺の家には父が命懸けで奪取した奴の秘密がある。おそらく、これが死を超越する原因なんだろうが、闇が深すぎてよく分からないんだ。」

 

「それはうちの陰陽道のお祓いでなんとかなるのか?」

 

「闇を以て闇を制す。これを実践しないと破れそうもない。そしてそこまで至るには俺はまだ弱すぎる。俺の目的は邪気を祓うことじゃない。」

 

「じゃあ何を望む。」

 

「自分の愛する者たちを護る術。日本の伝統的な魔術には、人形を身代わりにして危険から身を守るものがあると聞いた。

 

いずれ、『例のあの人』と呼ばれている親玉が復活して再び暗黒の時代になるだろう。いや、必ずなる。そうなった時に、自分の身を守り、相手を救う方法を知りたい。」

 

 しばらく目を見つめあった。おそらく、シグナスの意志を読み取ろうとしているんだろう。

 

「俺は厳しいぞ。」

 

「承知の上だ。」

 

 

 

 

 

 

 その後、ツチハシ家のみなさんと挨拶をしたあと、日本伝統の家族の団欒なるものを通して、イギリスにいるときとはまた違った温かみを感じた。

 

 ユウタローのご両親も優しく、現在のご当主であるユウタローの父も、快く陰陽道を授ける許可をくださった。ちなみに先ほどお祓いをしてくれた人だ。

 

 ユウタローの年の離れた妹のハルカとは、シグナスと年齢が同じこともあって話しが合い、互いの文化の壁を越えてすぐ親しくなった。夕食を楽しんだあと、ハルカも交えてレクチャーしてもらうことになった。

 

「まず、我らの陰陽道は、行使するには霊力を感じなければならない。」

 

「れいりょく?」

 

「シグナスも感じない?自分の中に流れている感覚を。ほら!」

 

 ハルカはそう言って、手の上に霊力を具現化させた。ひとことで言ってしまえば、霊力なるものがそのまま蠢く青い球ができている。

 

「イギリスの魔法使いには、魔力という概念がある。魔力を行使して呪文を唱えるんだ。でも本来、それを具現化させるなんて聞いたこともない。魔力と霊力って違うものなのか?」

 

「我々の見解としては同じだ。証拠に、俺は西洋の魔術が使える。ただ我らは、幼い頃から自分に流れる霊力を具現化させる訓練をしてきた。おそらくこの違いだ。」

 

「なるほど。では霊力を具現化させるにはどうすればいい?」

 

「集中して、"気"を感じるのだ。あとは個人の感覚によって表現は異なってしまう。だが、イメージすることが大事だ。そう、手のひらに霊力を込めるイメージだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この日は結局具現化させることは出来なかった。

 

 

 翌日──。

 

 再びトヨハシテングの皆さんと練習…というか一方的に教授させてもらったあと、ツチハシ家で陰陽道の訓練が始まった。

 

 多くを語らず、その姿勢で道を示すユウタローと、シグナスを応援しているハルカ。取っている行動は違っても、シグナスにはそれだけで力になった。

 

 結局モノには出来ずにこのまま3日が経った。

 

 

 

 

 

 

「おおシグナス。今日中に……とはいかんが、もうすぐできるぞ。俺の最高傑作が!」

 

「ありがとうございます、アレンさん。」

 

 

 

 

 そして迎えた夜──

 

「シグナス。焦ることはない。これは本来幼少の頃から積み重ねてからやっとできるようになるものだ。ちょっとやそっとのことでできるようなものじゃない。」

 

「え?そうなのお兄ちゃん!」

 

「ああ、そうだ。父上が許可なさったのも、そういう背景があるからだ。万が一にも、1週間以内に修められるモノではないのだ。」

 

「そう、なのか。」

 

「すまないなシグナス。だがしかし、最初から教える気が無かった訳じゃない。もしシグナスが具現化できたのなら、父上は反対するだろうが俺は本気で教えるつもりだった。」

 

「いや、そちらの気持ちも分かる。何代も積み重ねてきた伝統を、そう容易く他に漏らすなんてことはしないって分かってた。俺が皆さんに甘えてただけなんだ。」

 

「シグナス…」「…」

 

「ハルカもごめんな。無理って分かってたのにわざわざ応援までしてくれて。」

 

「そんなこと言わないで!だってあと1日あるんでしょ?諦めちゃそこで試合終了よ。最後の最後までやり抜くべきだわ。ネバーギブアップよ。」

 

 そんなハルカの後押しを受け、シグナスは集中して"気"を作り出そうと禅を組む。そしてその傍ら、シグナスはある1つの可能性に思い当たった。

 

 それは、杖なし呪文の行使である。

 現在のイギリスでは、杖を以て魔法を行使することが主流だが、かつての偉大な魔法使いは、杖なしで強力な魔法を自由自在に扱ったという。

 

 しかし、杖なしで呪文を行使するには、それ相応の膨大な魔力と、緻密で繊細な感覚を必要とする。それは人それぞれの個人差、強いていえばセンスに偏ってくるので伝承は上手くいかず、やがて廃れてしまった。

 

 杖は、そんな者たちへの救済措置のようなものだった。杖が持ち主の魔力を格段に操作しやすくなり、やがて杖なし魔法の概念は、時代と共に忘れ去られてしまった。

 

 たまに突出した魔法使いがその境地にたどり着くが、やはり伝承は上手くいかず、その魔法使いの伝説として語り継がれていた。

 

 ダンブルドアあたりならある程度は使いこなした上で一定の戦闘は行えそうな気がするが、こういった経緯があって、そんな存在は非常に稀有だ。

 

 そしてシグナスは、そんな稀有な存在の1人だ。直近の襲撃では杖なしで形勢逆転し、相手を返り討ちにしてしまった。

 

 相手が軒並み襲撃した時の記憶が途中から無い(・・・・・・・・・・・・・)ことで今は誰も察知していないだろうが、これはこれからのシグナスにとって貴重な財産となるだろうと思っていた。

 

 そして、霊力、もとい魔力を具現化させるには、杖なし呪文を用いるときの感覚に似ているのではないだろうか。

 

 今まで、"新しい感覚を身につける"という先入観で全く別のことをしようとしていたが、結局のところ変わらないのではないだろうか。

 

 よくよく考えれば、自分の指の動きで召喚した水を操作して、相手にぶつけたではないか。

 

 そう思い至った瞬間、シグナスの疑問は確信に変わる。

 

 手をギュッと握って魔力を集中させ、手を薄く伸ばして膜を張り、安定して供給されるようになったらゆっくり形づくりに入る。

 

 2人は雰囲気が変わったシグナスに注目していたが、やがて目に見える変化を認めて目を見張った。

 

 シグナスの手のひらには、ハルカがやってみせたときよりも膨大な魔力の球が出現していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やったわ!やったわシグナス!!」

 

 その後、自分のことのように喜ぶハルカと、まるで信じられないことが起こったかのように目を丸くするユウタローに祝福され、次のステップに進んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 当初、シグナスが"霊力"を具現化させたと聞いて呆然としていたご当主だったが、"こんなにセンスを持った人間に会うのは初めてだ!そうか、初見でそこまで至ることができたのならこの際良い。"とお墨付きをもらったので、見事陰陽道を伝授されることになったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「身代わりになって持ち主を守ってくれる術を学びたいということだったが、それには少々語弊というか必要な条件がある。」

 

「?」

 

「それは、何かを媒体にして自分の霊力を注ぎ込むのだ。ほら、こうやって──」

 

 ユウタローは懐から色紙を取り出すと、それを手で包み込んで"フーッ"と息を吹きかけた。

 

 すると、吹きかけた息によって地面へとヒラヒラ一直線だった紙が人の形を型どった。

 

「ハハハ、驚いたようだな。初めて見るやつは大体そんな反応をする。ハルカなんか目をまん丸にして口をあんぐり開けてなぁ〜。」

 

「もうお兄ちゃん!今はそんなことどうでもいいでしょ!?」

 

 

「……ごほん。というわけで、この人形は俺の思いのままに動かすことができる。敵の偵察に赴かせたり、自分に給仕させたっていい。まあこいつは紙だからあんまり重いものは持たせられないけどな。」

 

「なるほど、媒体にした物質の特徴を受け継いでいるのか。」

 

「そうだ。だからこの場合、水には弱いし風には飛ばされてしまう。でも慣れてくれば、この"擬人式神"は霊力操作によって飛ばすこともできるし、視覚や聴覚も繋げることができる。他人を守るだけでなく、呪い返しをやってくれたりとまぁ用途はたくさんだ。

 

 術者の念を送り込めば自立して稼働してくれるし、もっと霊力を注いで作り出す式神は"思業式神"といって、こちらは相手には通常(・・)肉眼では見えないようになってる。術者の思念が何よりも重要視されている。

 

 まあこちらはもともと人型が多い日本人形を使うことが多いんだが、そうすると自分で喋り出したときに自然に見えるんだなぁ。──このように。」

 

「主様?この白人の方はどちらからいらしたのです?まさかハルカ様のお見合い相手なのですか?」

 

「キェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ」

 

「シグナス、落ち着いて!」

 

「ハルカぁ顔真っ赤だぞぉ?」

 

「お兄ちゃんもからかわないで!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁすまない、悪ふざけが過ぎたようだ。」

 

 ユウタローは照れたように頭を下げてくる。

 

「いや、過剰な反応をしたこっちも悪かった。まさか今まで使っていた部屋の、何の変哲もないと思っていた人形が喋り出すものだから驚いてしまったよ。」

 

「主様!この人カッコイイよ!!」

 

「……すまん、こいつはマイペースなんだ。」

 

 

 ❁❀✿✾❁❀✿✾❁❀✿✾❁❀✿✾

 

 気を取り直して、まずはただの紙から式神になるように訓練を始めた。当然ながら、これは霊力を具現化させるよりも難しい。

 

 そもそも霊力を具現化させることを前提としているから、安定して運用できるようにならないと式神は作れない。

 

 また、その完成度によって半永久的に動かすこともできれば、1日で効力を失うこともある。シグナスがもともと望んでいた呪文避けとしては、呪いが当たると起動するタイプがいたり、自ら呪文を放つことができるすごい存在もいる。

 

 ツチハシ家では、主に給仕として運用(クリーチャーみたいな存在だ)しているが、半永久的に持続させるために、主の霊力を溜めて式神に供給できる道具を開発したそうだ。もちろん企業秘密である。

 

 果たして、シグナスが使えるようになるまでどれくらいかかるだろうか。半永久的に使えるようにどう手を加えようか。尤も、未だ達成していない現状で言えることは少ないが。

 

「当然、人には個性がある。俺の場合は紙の方が式神を作りやすいし、人形を使役させる場合も術者と異性の人形の方が安定しやすい。

 

 メカニズムなどは分かっていないが、草だとか藁とかから始めてみるのもいい。もしかしたら、自分の縁がある土地のものである方がやりやすいのかもしれないがな。」

 

 

 この日本滞在中に式神を完成させることは出来なかったが、その真髄は学んだ。あとは実践あるのみだ。

 

 そして翌日、別れの時────

 

「ほれ、シグナス。最高の一品に会わせてくれてありがとう。本来のシルバーアローに加えて、現在までに培ってきたワシのノウハウが全て備わっておる。」

 

「え!?すごいです!ここまでしていただいてありがとうございます!!」

 

「なぁに、四半世紀も前に生産中止になった自分の作品に会わせてくれたんだ。これはほんのお礼さ。またメンテナンスしたくなったらいつでも来い。こいつの良さを引き出せるのは俺しかいねぇ。」

 

「はい。分かりました!」

 

 そう言って全力でお辞儀をした。これも日本滞在で身についたものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 箒の受け取りが済むと、次はお世話になったトヨハシテングの皆さんと涙混じりの挨拶を交わした。

 

 目の前で繰り広げられているのは、ツチハシ家に置かれていた"テレビ"なるもので見た青春ドラマのような展開そのもの。日本人って、クールなのか熱血なのか分かんない。

 

 そして公私を共にしたツチハシ家の皆さんと顔を合わせる。

 

「シグナス、君は箒の才能がある。幸いにも、君には家柄に縛られる心配もない。君が望めば、いずれナショナルチームで顔を合わせることになるだろう。そして俺はそれを望んでいる。向こうに行ってからも頑張ってくれ。」

 

「ああ。ありがとうユウタロー。」

 

「うっ、うっ、本当に戻っちゃうの?もっとここに居ればいいのに。」

 

 ハルカは同い年のはずだが涙脆いようだ。童顔なのでダフネよりも下に見える。

 

「ごめんね、ハルカ。泣かないで。最後くらいは君の笑顔が見たい。」

 

「シグナス…///──ハッ毎日手紙書くから、必ずちょうだいね。絶対よ!」

 

「あー、毎日は難しいかもしれないけど……週2で送るよ。」

 

 途端に潤んだ目を向けられたので、正直に答えてしまった。どうしよう。俺まだ日本語書けないんだけど。ローマ字でいいかな?

 

周りのツチハシ家のみなさんはこぞってニヤニヤしている。気恥ずかしい。

 

「ミスターシグナスくん。君はこの滞在中、私が今まで見たことがないほどの素晴らしい才能を見せてくれた。向こうでも健闘を祈っているよ。」

 

「シグナスくん、本場の日本食が気に入ってもらって良かったわ。ハルカには花嫁修行させとくから来年またいらっしゃいね。」

 

「おかあさん!?///」

 

 非常にユニークな家族でした。そして本気で"また来年も来い"と約束を取り付けられてしまったので、シルバーアローのメンテナンスがてら来ることにした。

 

 

 初めは存在が珍しがられたクリーチャーも、日本のみなさんの広い懐に溶け込んですっかり馴染んでいた。新しく日本食や日本式の家事魔法などを学んだらしい。

 

 懸念していた差別発言などもしなかったので、従来のブラック家の屋敷しもべ妖精としての性格もすっかり矯正されつつある様子だ。やはり仕える主の影響を強く受けるようだ。

 

「それではまた来年。」

 

 関わった皆さんに手を振って見送られながら、クリーチャーの付き添い姿くらましを用いてブラック邸にたどりついた。

 

 今回はちゃんと経由地を中継したので、クリーチャーの息も安定している。

 

 

 

温かみのあった木造の家とは違い、普段シグナスがいないと住人がいなくなってしまうこの邸宅は、やたら大きく冷たい。雰囲気も暗いからこじんまりとしている。

 

クリーチャーがご飯を作っている間は1人だ。

 

1人になることっていつ以来だろうか。日本では全くなかったことだ。ちゃぶ台を囲んだ家族の団欒、眩しい笑顔。厳格な雰囲気はあったものの、とにかく騒がしかった。

 

暖炉の火の、"バチバチ"と燃える音が大きく聞こえる。こんなに大きかったっけ?周りの気配を探っても、クリーチャー以外この邸宅には誰もいない。

 

 

──あ、コレやばい。

 

こんな時って何をすればいいんだ!?そうだ!とにかく霊力を安定して運用できるようにしよう。何も考えるな。感じろ。

 

 

 

 

シグナスは、必死になって式神を作り出す訓練を始めた。

 

 

 

 

 ────この日本での経験は、何者にも得がたい経験になった。箒が生まれ変わり、クィディッチをプロから直接学び、陰陽道という全く新しい境地を拓いた。

 

 日本の皆さんの温かみに触れ、人間的にひと回りもふた回りも大きくなった気さえする。

 

 これが吉と出るか凶と出るかは分からない。でも出来ることなら、この力を使ってみんなを守れるようになりたい。誰の力も頼らず、自分の力で。

 

 

 ──日本に行って本当に良かった。




いかがでしたか?

物語の展開上重要になってくるのは箒なのか式神なのか。シグナスくんは陰陽道に手を出しました。

シグナスくんは、日本に滞在していたのでそれなりに日本語上達しましたが、未だ流暢に。とまではいってません。会話を最初以外カタカナにしなかったのは、単に読みづらいのと、作者が字変換めんどくさかったからです。

分かっている方も多いと思いますが、陰陽道の話はほとんどフィクションです。

名称こそその通りですが、作者はにわかなので、非常にざっくりした表現になっています。霊力云々とか。半永久的云々とか。それに陰陽道は式神だけじゃありせん。専門の分野にいくつも分かれています。本作ではその一端として式神のみをアンロックしました。ご了承ください。

ご意見、感想心待ちにしております。

――――――――――――

・伝説の箒職人

イギリス出身で、闇の帝王の暗躍により身の危険を感じ日本へ避難。本名アレン・ウィンブルドン。アレンさんと呼ばれている。オリキャラ。おそらく今回のみの出演です。

・手のひらに浮かぶ青い球

これって螺〇丸?
青にしたのは気分です。はい。アレのままを想像してみてください。

・諦めちゃ(ry

これって本家そのままじゃないから怒られないよね?ヤバい誰か何とか言ってほしい。

・シグナス、陰陽道の一端に触れる。

夏休み中に完成させようと籠りっきりになるでしょう。

・クィディッチナショナルチーム

トヨハシテングは公式設定ですが、公式戦じゃないと箒を燃やさないだとか、専属の箒職人がいるとかは捏造です。

・ツチハシ家の皆さま

本作オリジナルです。
ハルカちゃんはシグナスくんに完全に惚れております。ありがとうございました。書いていて楽しかったので、作者の気分によっては今後も出したいキャラです。(いつ出すんだこれ)

裏設定として、黒髪黒目の童顔。キレイというよりかわいい系ロリ。150cmくらいで年相応の身長に発達"中途"の胸、引き締まったウエストをしている。

いやー将来が楽しみ(親心)

ツチハシ家は傍流といえどもそれなりの歴史ある名家なので、日常は和服を着て生活しています。

……マホウトコロの制服を着るとき以外はそうなっています。

ユウタローは妹のハルカとは8歳差の兄(21)という設定。寡黙、クール、イケメン。背中で語るタイプ。気分が高ぶると饒舌になる。身長180cmほどでスラッとした細マッチョ体格。日本の若きエース(シーカー)です。

あ、シグナスってまだ3年生だったから13歳だったんですね。作者も今気づいた(嘘)

しかし生まれが生まれなので大人びています。

現在のシグナス
身長170cmほどの設定

・式神

今となっては伝承されているかは分かりませんが、その在り方には諸説あります。作者は全てを読み切る気力は無かったので、気になったら自己責任で調べてみてください。

・差別発言をしなかったクリーチャー

ほら、黄色い(ryとか、映画版のクリーチャーなら普通に言いそうですよね。でもシグナスを主にして長年連れ添っているので、少なくとも今回出会った日本人が純血だろうと関係なく発言しませんでした。

というか日本の魔法界に純血思想とかあるんでしょうかね?陰陽道は大体家系で継いできたそうですが。

まあクリーチャーは、自分の主をもてなしてくれた敬意と感謝もあるでしょうね。しかし、まだイギリスのマグル生まれなどには露骨に顔を顰めます。腹立たせれば容赦ない毒舌が襲います。みなさんご注意ください。

・守りたい人たち

今のところダフネにドラコ、双子にセドリック、ジャックやマルフォイ家にグリーングラス家のみなさんです。今回、日本で交流した皆さんも追加されました。今後も追加されていくのでしょうか。
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