ブラック家の御曹司 作:修造
ようやくホグワーツでのお話に入ります。
スリザリンの新シーカーにドラコが就任する前後から、情勢はシグナスに不利になっていた。
別にドラコと揉めたわけではない。争っているつもりもない。しかし、ホグワーツの理事として絶対的な権力を持つルシウスの毒牙が、確実に影響を及ぼし始めていた。
シーカーの座の剥奪、取り巻きの吸収。これくらいならまだ良い。否、前者だけでも大変血の気が茹だつほどの受け入れ難い出来事だったのだが、さらに追い打ちをかけるように、予定されていた時間割が変更になった。
変更前は今まで通り、たくさんの授業を受けるだけでよかった。クィディッチとの兼ね合いも含め、特別措置となる"逆転時計"を使わずに済むように組まれていたのだ。
しかし変更後からは、歴代の全教科取得者のように"逆転時計"のお世話になることになったのである。
逆転時計──通称タイムターナーは、ネックレスに砂時計がついた形のシャレオツなデザインをしている。しかし、本体には時間逆転呪文が施されている。
つまり、"被っている科目は時間を遡って受けろ"ということである。
そして時間割変更の裏には、確実にルシウスが裏で手を引いている。
表向きの理由はこうだ。
"逆転時計"を使わざるを得ない状況になったので、クィディッチと両立させるのは大変危険である──。
という理由から、チームに入りたがっていたドラコをゴリ押しして入れさせたのである。
確かに、"逆転時計"を使えば人よりも1日を過ごすことになる。つまり、1日の活動限界を越えた状態で過ごさなければいけないのである。
そんな状態でクィディッチの練習をするのは自殺行為とも言えるだろう。
──この仕打ちはかなり辛い。
理由はいくつかあるが、最も辛いのは、"逆転時計"の存在を明かしてはいけないことなのだ。
どういうことか。
ルシウスの策略によって、寮での風当たりも日に日に厳しくなっており、今やシグナスが落ち着けるのはダフネとの朝食の時間、ジャックにセドリックや双子たちとの移動教室の時間、双子たちとのイタズラの時間などに限られている。
そして"逆転時計"は、前述の通り、その存在を明かすことを禁じられている。つまり、移動教室は1人で行わなければならない。シグナスは落ち着ける時間を1つ失ってしまったのだ。
それがどんなに辛いことか。ただでさえシグナスは、この夏休みで人との接触を望むようになった。
そんな彼が強制的に"孤独"にならざるを得ないのだ。コミュニケーション不足で人肌恋しいシグナスは当然彼らへの依存を高めるわけで──
"シグ、最近どうしたの?べったりくっついてくれるなんて///"
"シグナス、最近大丈夫かい?……いや、シグナスの話は大変参考になってるよ。今年は僕らハッフルパフが対抗戦を制してみせるよ。"
""シグナスー最近ノリいいな!""
あれ?満更でもなさそうだ。
そして始まった新しい生活。今日は、新任のロックハートによる闇の魔術に対する防衛術の授業が入っていた。
既に授業を受けているダフネによると、とにかく酷いらしい。
吸血鬼や狼男すら倒してきたという偉大な経歴を持つ彼が、ピクシー妖精すら抑えられずに授業を混乱に陥れたそうだ。
馬鹿な、いくら何でも冗談だろう?
しかし、ダフネの瞳は真剣だった。
ダフネの話に衝撃を受けたシグナスは、とりあえずファンクラブの会員に確認を取ったりしてみたがいずれも肯定の返事がきて、今年もハズレかーとため息をつくのだった。
むしろ、最近のシグナスの噂でいいことを聞かないからと心配されてしまった。
──そして迎えた初授業。
教室に着いて全員が椅子に座って待っていると、やがて授業のチャイムが鳴った。鳴り終わるのと同時にカッコつけて登場したロックハートに黄色い声援が飛ぶ。
これはどこか冷めた印象のあるレイブンクローやスリザリンでも関係ない。
やがて、教壇の前に立ったロックハートが大きな咳払いをして一冊の本を取り出した。
その本──教科書の表紙にはロックハートが映っている。目の前の本人と同じタイミングでウインクを飛ばした。
写真に映った自分を差し示しながら、彼は言葉を発する。
「私だ。ギルデロイ・ロックハート、勲三等マーリン勲章、闇の力に対する防衛術連盟名誉会員、そして『週刊魔女』5回連続『チャーミング・スマイル賞』受賞。
もっとも、私はそんな事を自慢するわけではありませんよ。私は──」
最後に意味の分からないことを言ったが、その言葉に反応したのは彼にお熱な生徒だけで、大半は失笑を零し、白けた目を壇上の教師に向けていた。
うーん、これがロックハートクオリティ。気の利いたジョークの1つも言えないとは。
悲しいことに、ロックハートは温度差のある反応に気付いていないようで、黄色い声援に酔っている。そして偉そうな口調で話し始めた。
「全員、勿論私の本を揃えているね?結構。そしてもっちろん全て読み終えていることと思います。そこでまず、簡単なミニテストを実施しましょう。
ハハッ、心配はご無用、君達がどのくらい私の本を読んでいるかをチェックするだけのテストですからね。」
華麗に言葉を締めくくったロックハートは、早速テストペーパーを配りながら、さらに補足していく。
「たいへん嘆かわしいことに、先ほどまで全く同じテストを実施しましたが、どの学年もどのクラスでも、誰も満点を取ってはくれませんでした。」
それはそうだろう。と4年生スリザリン一同が思った。なぜなら、その内容が──
──ギルデロイ・ロックハートの好きな色は何か?
──ギルデロイ・ロックハートのひそかな大望は何?
といった内容で、紙の表裏びっしり詰まっている。まあ、確かに読み込めば答えられる問題ではあった。
「……現在2年生のグリフィンドールのお嬢さん以外はね。このスリザリンは勿論、上級生の部類に入るわけですし、そんな事はないと信じていますよ。」
マジか──と一同は思った。誰だ?その満点を取ったやつは!?というか学校共通テストなのかこれは。ちゃんとした授業できるのか?
一同が顔を見合わせるなか、シグナスだけは違うことを思っていた。2年生のグリフィンドールの女子……その中で満点を取りそうな人物で思い当たるのは1人しかいない。
今のところフクロウ便は届いてはいないが、困っていたら力になってやろうと思う。彼女の才能は、腐らせるには惜しい。
また、シグナスは、ロンドンの図書館まで出向いてバッテリーのことを調べ尽くしていた。日本のツチハシ家当主の言葉を引きずっていたが、調べて損はなかった。要は、電気を貯めるところを改造すればいいのだ。
そして逆転時計を得た今、時間はいくらでもあると言える。"学業以外には使用出来ないことになっている。上手く使うのだ"とスネイプ教授から言いつけられているが、バレなければ問題ない。"上手く使え"というのは、スネイプからのそういうメッセージだったと思える。
結局夏休み中に式神を使役することはできなかったが、ここには必要の部屋という最高の環境がある。あとは時間軸を越えた自分に会わなければ済むだけの話だ。
そんなことを思っていると、いつの間にかミニテストは終わっていた。"ノンフィクション"だというその小説は意外と面白かったので、シグナスは1人のときに夢中になって見ていた。物語に引き込まれ、寂しさを紛らわせるのには1番だったからだ。つまり---
「おやおや、私の好きな色がライラック色だということを殆ど誰も覚えていないようですね。それと、私の誕生日の理想的なプレゼントは、魔法界と非魔法界のハーモニーです。
ミスターハワード。私のひそかな大望は世界一の目立ちたがりになることではありません。私のどこが目立ちたがりだと言うのですか!?」
──すべてだよ……
一同の心の声が一致した。
「しかし、このクラスではミスターブラックが満点を取ってくれました。スリザリンに10点差し上げましょう。ミスター、どこにいますか?」
----シグナスが満点を取るのは必然だと言える。
その後一通りシグナスを褒めちぎったあと、授業を行うことになったが、実技演習は"準備ができてない"ということで中止になった。
──ダフネの言ってたことは本当だったんだな。
そんなことを心の中でボヤいていると、早速通常授業に入るとのことで、模範演技をするらしい。え?模範演技?授業じゃないの?
「まずは私の最新作、『雪男とゆっくり一年』を演って頂きましょう。私はこれが一番のお気に入りでね。誰か雪男役をやってくれないか?私が"物語通りに"倒す実践をしよう。さあ、どうしました?バンバン手を挙げちゃってください!」
──誰が挙げるもんか。
再び一同の心の声が一致した。
もはや手が挙がる気配すらない。
そこでシグナスは考えた。今年のパーティーでは、自分の演技力の無さを散々自覚したではないか──と。
まさかマグルを利用しようとしただけでルシウスにここまでされるとは思っていなかったのだが、こうなった以上はこれまで以上に上手く立ち回らねばならない。
つまりこれは演技力を磨く絶好の機会ではないか──と。
「さて、仕方ないですね。みんな照れてしまっているので、ここは満点を取ってくれたミスターブラックに演ってもらいましょう。」
…途端に拍手が教室を包んだ。そんなにやりたくないのか?
ロックハートは芝居が好きらしく、雪男と対峙するシーンばかりを行った。一々"はい!ここで倒れて!"とか言われるのも癪だし、第一物語の進行は全て覚えてしまっている。
あんなに面白い物語なのだ。いちいち止めるのもつまらない。ということで、"戦闘シーンは流しで演ってしまいましょう。"と申し出、それに嬉しそうな顔をするロックハートと一切カットなしで演技しまくり、だんだんシグナスも楽しくなってきて、魔力を出して雪男の冷気を再現するなどして無駄に完成度の高い茶番劇が繰り広げられた。
そして授業の終わり──。
「はい、ミスターブラック、ありがとうございました。大変素晴らしい演技でしたね。これからもよろしくお願いしますよ!」
どうやら専属に認定されたようだ。茶番劇に興奮しきっていた教室も盛大な拍手に包まれ、この日の授業は終わった。
「シグナス、あんなに演技上手かったなんてな。」
「いや、あれは半分素なんだ。途中から楽しくなってしまってな。」
「ノリノリだったもんな。あの授業は役に立たなそうだが、新しい娯楽ができたな。にしてもどうしてまともに取り合ったんだ?」
「ん?まあね。」
意味深な笑みを浮かべ、シグナスは歩くペースを早めた。
新学期も始まってしばらく、シグナスとロックハートの茶番劇が校内で話題になっていた。どうやらスリザリンの4年生が騒いでいただけでなく、ロックハートも各授業で言いまくっていたらしいのだ。
一部のグリフィンドール生を除いて好意的に見られたシグナスのもとには、再び人が集まるようになった。ただ前回と違うのは、家柄など関係なく、対等な関係友人が多数集まったということである。
素で話し合えるようになってますます毎日が色付くシグナスを、ドラコが悔しそうに見ていたのは誰も気づかなかった。
そして、ルシウスによる集中攻撃は陰湿なものへと変わっていくが、シグナスの周りは一切気づかなかった。
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ある日、シグナスがダフネと2人で湖のほとりで休んでいると、誰かから声を掛けられた。ダフネは寝ている。
「……ダンブルドア先生。」
「こんにちは。シグナスや、最近はどうも楽しくやっておるようじゃな。」
「ええ、そうでもしないとやってられなくて。最近理事会からの干渉が止まらないので、どうも不安なんです。」
暗に"お前仕事しろよ"と言ったのだが、ダンブルドアは気づかないフリをした。
「さて、その理事会なんじゃがのぉ。最近の彼らを動かしているのは誰か知っているかね?」
「もちろん。」
「去年まではシグナス、お主の強力な味方だったはずじゃ。一体何があったのじゃ?よろしければこの老いぼれに教えてくれんかの?」
「別に教えるのは構いません。ほんの些細なことなのです。しかし、あなたが知って何になるんです?理事会の干渉を許し、1人の生徒が貶められるのを黙認していたあなたが。
まさか私を助けてくれるとでもいうのですか?ああ、なんて慈悲深いんだろう。」
校長の申し出に対し、どこか挑戦的に、しかしどこか投げやりな様子で皮肉を言うシグナスに、だいぶ精神的に来ているようじゃな。とダンブルドアは推察をする。
無理もない。本当なら、今はクィディッチの練習をしている時間なのだから。たとえ自分の力で友人を作ったとしても、その穴はなかなか埋まらないのだ。
「シグナスや。今日はの。お主に伝えなければいけないことがあるんじゃ。」
「それと理由を交換しろと?」
ダンブルドアは反応しなかったが、肯定の証左だろう。
「実は、ミスグレンジャーと接触したんです。」
「なんと!?」
予想の斜め上の解答に、驚きを隠せないダンブルドア。この賢者がここまで驚くのも珍しい。
「昨年の学年末テストの成績が出てから、彼女のことを気になっていたんです。」
「それは……彼女がマグル生まれだからかね?」
「その通りです。先生は見たことがありますか?たった1年であそこまで魔法に順応しているのを。同学年の誰よりも先をいくその才能を。
私は、彼女がなにをしてそこまで伸びたのかが気になった。しかし、話し掛けられた場面をドラコに見られてしまったらしくてですね。」
自嘲的に呟く。
「ルシウスには、マグルと関わっても利益はないと言われましたが、それは認められなかった。だって、彼女はきっと、この閉鎖的な魔法界に新しい風をもたらすでしょう。私は別に、必要以上に接触するつもりはなかった。ただ、興味本位の段階だったんです。」
「じゃがルシウスは……」
「ええ、きっと私のことを"血の裏切り者"だと思っています。まさかあんなひょんとしたことで関係が捩れるとは思っていなかった…。
──まだルシウスは本気ではないのが救いです。多分、ブラック家を潰す気はないんだと思います。」
「そうじゃな。ブラック家を潰してしもうたら、魔法界が大変なことになるわい。そこでじゃがなシグナス。最近の魔法省の動きを察知しておるかね?」
「いえ、パイプは全てルシウスに吸収されてしまいました。」
「そうかの。今ならまだ間に合うんじゃが、今度のクリスマス休暇中、ブラック家に魔法省の抜き打ち監査が行われそうになっておる。」
「え!?冗談でしょう?」
「否、冗談ではない。おそらくルシウスの引き金じゃ。向こうもそろそろ監査が入らないとマズい情勢じゃからのう。じゃが、今はまだ入れられない理由でもきっとあるのじゃ。だから、ブラック家にお鉢を回した。」
「しかし、我が家には人は入れません。詳しくはお話ししかねますが、守りは完璧です。」
「ほう、それは頼もしいのぉ。しかし、それでは議会に上げられてしまう。ルシウスは目的のためなら犠牲を厭わない。
反対に身内には甘い。身内が守れるのなら、たとえ当初の目的通りにコトが運ばなくても"まあそれでいいか"と思う程度の男なのだ。」
「なら、私の逃げ道を塞ごうとしているあなたに、私はなにをすればいいんですか?」
「ルシウスの影響力を弱める。それを手伝って欲しい。」
「──ん?ちょっとすみません、私、ストレスで耳がおかしくなったみたいです。もう1度よろしいですか?」
「間違っておらんぞシグナス。あやつは力を持ちすぎた。かつては、お主の後見人の夫という立場を使い、ブラック家の名を使ってなりふり構わず勢力を拡大したのじゃ。
おそらく闇の帝王時代のときよりも力を付けておるじゃろう。そしてこれ以上は見過ごしてはおけん。既に魔法省は、あやつの賄賂で溢れている頃じゃろう。」
「──それで私を助けてくれるんですか?」
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10月31日、ハロウィーンを迎えた。去年はトロール事件で一時中断されてしまったハロウィーンパーティーだが、去年の分まで楽しめということなのか、今年は一層派手だ。ただでさえ豪華なスリザリンテーブルには、もはや高級料亭と遜色ない品揃えになっている。
余談だが、あまりにもドラコが反応してくれないので、ドラコとその周りだけは通常のグレードに下げられている。ほんのささやかな嫌がらせである。
ホグワーツに来てから豪華な料理しか食べていないドラコの舌に、どう響いてくるのだろうか。楽しみだ。
いつものように話を楽しんでいるシグナスとダフネの周りには、たくさんの人が囲み、2人を交えて話していた。ここだけは寮の垣根は関係ない。
最初は抵抗感があったダフネも、今では他寮の友人まで作っている。入学前から付き合いのあるパーキンソンとブルストロードはドラコの方へ行ってしまったことや、彼女たちでさえも腹の探り合いで気が抜けなかったということもあって、現在の友人は素で話し合える貴重な存在となっている。
パーティーも佳境に入るなか、本日の余興として"骸骨舞踏団"が入場し、歓声が上がる。老若男女、魔法界で根強い人気を誇っている楽団だ。
「シグ、骸骨舞踏団の演奏が始まるわよ。」
「見るのは初めてだ。楽しみだね。」
楽しい時間というものはあっという間過ぎ去っていくもので、やがてパーティーもお開きとなって、生徒たちは各寮へ戻っていく。いつまでも明るい雰囲気だったシグナスたちの集団も、解散して寮の方へ戻っていこうとしていた。
しかし、進行上で騒ぎが起こっているので、みんなで向かった。
「どうしたんだ?」
「何があった?」
「ここからでは見えないわ。」
生徒たちの歩みが止まり、ざわっ……としている。どうやら、事が起きているのは突き当たりの壁付近らしく、そこにはポッターたち一味がいるらしい。──またか。
興味は無いが、進路が塞がっているので動けない。そして──
「継承者の敵よ、気を付けよ! 次はお前たちの番だぞ、"穢れた血"め!」
興奮した様子のドラコの声が、廊下に響き渡る。ドラコ、その言葉は絶対に使ってはいけないと何度も言ってきたのに……。
そんなドラコの声に気づいて呼び寄せられたのか、教師たちが人混みを掻き分けて前へと進む。
ミセス・ノリスの飼い主、管理人のフィルチの声が響いてきた。
「私の……私の猫だ!ミセス・ノリスに何が起こったというんだ!?」
フィルチはすぐ側にいるポッターたちを責めているようだ。
「お前か……お前だな! よくもこの子を! 殺してやる! 殺して……」
「アーガス!」
ダンブルドアの声が聞こえると、やがて解散の指示がなされ、ようやく寮へ向かっていく。
そしてようやく見えた壁には、血文字で
“秘密の部屋は開かれた。継承者の敵よ、気を付けろ。”と書かれていた。そして下の床には水溜まりが広がっていた──。
寮に戻ったシグナスは、自分の周りでこの騒ぎについて話し合っている友人たちをよそに、考え込んでいた。
この友人たちは、ロックハートとの茶番のおかげでシグナスの元に戻ってきた"正真正銘"の友人であった。
どこかシグナスをリーダーとする節はあるものの、マルフォイ家のご機嫌を伺わなければならない取り巻きたちではない。思えば、自分の行動が家柄によって制限されるのだから、彼らも可哀想だ。
「("秘密の部屋"……か。確か家の書庫にそんな伝説を載せている本があった気がするが──忘れてしまった。」
「シグナス、何か知らないか?」
友人の1人が尋ねる。
「いや、サラザール・スリザリンが作ったと言われている、伝説上に存在するものだとしか分からない。」
「え?そんなに昔のものなの?」
「ああ、実在するかどうかは知らないが、確かにそんな伝説は存在する。」
ダフネの疑問に答えていると、談話室の違うところを占拠していたドラコが、未だ興奮から冷めない様子で大声で演説を始めた。
「父上によると、"秘密の部屋"とは、この学校で教えを受けるに相応しからざる者、つまり"穢れた血"を追放するために、我らが偉大なる創設者、サラザール・スリザリンが設けた部屋だ。
その中には、スリザリンが遺した凶悪な怪物が残されているらしい。だから、狙われるのは"穢れた血"の連中さ!」
答えを得たことで興奮するスリザリン談話室のなかで、シグナスの眉間にはシワができていた。
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今日は、今学期のクィディッチの開幕戦である。カードはスリザリンVSグリフィンドール。
今年から選手ではないシグナスは観客席いるのかと思えば、彼は現在、"必要の部屋"にいた。
言わずもがな、式神の特訓である。"擬人式神"には上位式神と下位式神があって、前者は自立型で、後者は命令系統のみだ。
もちろん前者の方が難易度は高く、この頃になってようやく下位式神を完成させた。これでも"逆転時計"を何度も使用した末の結果である。
嬉しさにふにゃりと崩れる笑みを浮かべつつ、"ブラック邸の庭にある草"を使役させたシグナスは、さっそく試してみるべく偵察に送り出すのだった。
シグナスが試合の応援に行かなかったのには、理由が2つある。
1つめは、もちろん式神の練習。
このままだといつ運用できるようになるか分からなかったので、とりあえずこの試合が終わるまでひと通りやってから、1度"逆転時計"を使ってもう1週しようとしていた。
2つめは、素直に応援できる気がしなかったから。
これは経緯が経緯なので、一緒に行きたがっていたダフネたちも納得してくれた。唯一ジャックは"見てくれねぇのかよー"と不満顔であったが、"また落ち着いたら見に来てくれよ。"と笑顔で言ってくれた。
そんな眩しい笑顔で言ってくれたジャックに罪悪感を覚えつつ、式神第1号に試合を観戦しろと命令する。魔力操作によって、8階から風に乗って一気に観戦席までついた式神と、視覚と聴覚をつなげる。
2年ぶりとなる、観戦席からの視線。まるでそこにいる熱気すらも感じそうだ。"実験成功だな"と結論を出そうとしたシグナスは、次に見えてきた光景に言葉を失った。
──ポッターが、ブラッジャーに追いかけられている。
どうして!?と思ったシグナスだったが、生憎ここにはその疑問に答えてくれるものはいない。仕方なく観戦を続けていたシグナスだったが、必死に逃げるポッターをよそに、シーカーのドラコは爆笑している。いや、スニッチ探せよ。
どうやら試合はスリザリンがリードしているようだが、確実に練習量が減っているだろうビーターズは誰も撃ち落としていないようだ。
必死に逃げているポッターに、必死に煽っている様子のドラコ。何を思ったか、ポッターが真下のドラコに向かって急降下した。
"フォイ?"と聞こえた気がしたが、ドラコは辛くもそれを躱した。そしてブラッジャーに迫られながらも素通りしたポッターは、その先のスニッチに向かって突っ込む。
結果的に、ポッターは手首にブラッジャーを喰らったが、スニッチをキャッチした。そのまま地面に墜落したが、大事ないようだ。爆発が起こったかのようにに喜ぶグリフィンドールと他2寮の応援席からの声に余韻に浸っているようだったが、そうもいかなかった。
試合が終わったのに、ブラッジャーが突っ込んできたからである。
グレンジャーの機転によって事なきを得たポッターだったが、更に追い打ちをかけるかのように現れたロックハートが何やら怪しい呪文を唱えると、ポッターの折れた腕の原型が無くなりふにゃりと曲がった。
骨を消失させたらしい。治療には遠回りだ。骨を生やす『骨生え薬』は辛いが、まあ頑張って欲しい。
そこまで見届けたシグナスは、再び式神を操ってその手に持った。
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談話室まで戻ると、かつてないほど悲壮感が漂っていた。それはそうだ。少なくともここ3年間は無敗だったのだから。そして敗因はドラコの油断。これに尽きる。
ドラコは談話室の奥で落ち込んでおり、取り巻きたちがご機嫌をとっている。シグナスは試合を見ていない設定なので、あえて"ジャック"に尋ねる。
「ジャック、結果はどうだった?」
その瞬間に突き刺さる視線。ダフネはおらず、寮内のドラコの取り巻き以外は"空気読めよ"と頭を抱えているが問題ない。シグナスの目的は、ただ結果を聞くことではないのだから。
「いや、負けちまった。すまなかったな、シグナス。」
マルフォイ家に媚を売らなくていいジャックは、淡々と結果を伝える。
「あっれー?おかしいな。風の噂で、ポッターが危なかったって聞いたんだけど。それこそビーターが付きっきりで逃げ回らなきゃいけないくらいに。相手がマトモに試合できなかったのに、どうして負けないといけなかったんだい?」
風の噂なんて嘘だ。それこそ式神を通して試合を見ていたのだから。白々しくとぼけたシグナスの口撃が、談話室の奥で慰められていたドラコの心を抉る。
ついさっきまで、"どうしてすぐ近くにあるスニッチに気づかなかった!?お前の父親に猛プッシュされたから入れてやったがお前には失望した。"とキャプテンのフリントに怒られていたばかりのこともあって、もはや泣き出す寸前だ。
「ちょっ、シグナス。いいすg「ねぇ、どうしてだい?」(ry」
シグナスの発言に流石に焦ったジャックだったが、シグナスは言葉を被せて逃げる口実を与えない。さらに合図をするようにウインクをする。
ジャックは悟った。あ、これ後でどうしよう──と。
シグナスは心の中で謝罪する。ごめんジャック、後でなんか奢ったげる──と。
「ドラコがスニッチを取れなかった。それだけだ」
なんとか巻き込まれずに済む血路を見出そうとしているジャックだったが、シグナスに逃す気はない。いっそう大きな声で詰めていく。
「へー。試合を終わらせたのってポッターだったんだ。試合中散々逃げ回らなくてはいけなかったポッターが?ブハッ冗談だろ?いったいその間なにをやってたんだい?うちのシーカーは?」
シグナスはついに勝負に出た。シグナスは、どうしてもここでドラコを追い込まねばならなかった。
──理由は3つ。
1つめは、ドラコの本音が聞きたかったからだ。
ドラコは新学期からおかしかった。きっと目の前の状況を逃避したくてとった行動ではないのか?
2つめは、ドラコの行動が段々と暴君のそれになってきているからだ。
ルシウスのおかげでわがままが通るようになり、彼は今なりふり構わず行動している。それを戒めさせねばならなかった。
3つめは、ダンブルドアに頼まれたから……というのもあるが、ただ単純にドラコの態度が反抗期みたいで寂しくなったから。以上。
関係を戻したいのか木っ端微塵にしたいのかよく分からないシグナスの賭けだったが、談話室を氷点下に凍りつかせるには十分だった。
ここまで啖呵を切ったのなら、次に注目されるのはドラコの行動だ。皆の視線がドラコに注目する。
シグナスによって土俵まで引きずり出されたドラコは、恥と情けなさで顔を真っ赤にしていた。
「僕は──────
いかがでしたか?
波乱の12話終了でございます。
マルフォイ家から離れてダンブルドアに接近。そしてドラコの答えは────
次回もお楽しみに
補足
シグナスはダンブルドアが大嫌いです。顔にはだしてませんが。今回は事情が事情なので、利害の一致で共闘しただけです。本文には映ってませんが、シグナスはダンブルドアに協力しています。
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・ルシウスによる勢力拡大
皮肉にも、シグナスのために散々ホグワーツに干渉していたので、コトを起こすのは楽でした。息子のためにシーカーから引きずり下ろしたのは完全に流れです。シグナスと対立しなければ、きっとドラコは他のポジションについていたでしょう。
・時間割変更
ここで逆転時計をアンロック。
表向きはシーカーを辞めさせるための口実。裏はチームから追い出して、人脈を失くすため。
・抜き打ち検査
後に引けなくなったルシウスの苦肉の策。ルシウスもシグナスとそこまで対立する気はありませんでしたが、流れが流れなのでさっさと捨て石扱いしました。きっとブラック家は闇の代物が転がる温床でしょうから、もし本当に検査が行われたら騒ぎになるのは必至。
・マルフォイ家の影響力
さらっとダンブルドアから明かされた情報によると、ブラック家の名を借りて勢力を拡大していたようです。原作と違って表のブラック家の人間はいるので、(シリウス除く)原作以上にチカラが強いです。
また、かつてシグナスを助けるために何度もホグワーツに干渉してきたこともあって、下地は完璧でした。思わぬ落とし穴に、シグナスもびっくりです。
・開かれた部屋
原作通りです。
・式神
調べた本には上位と下位に分かれると書いてありました。諸説あるのでお忘れなきを。
・クィディッチ観戦
最初は行く気などありませんでしたが、既に式神を図書館に回したあとでした。他に偵察に送り出す場所もないので、試合でも見るか程度の軽い気持ちでした。
・追い詰められるドラコ&ジャック
ジャックは後でシグナスから十分な補償(課金飯)をされるでしょう。
ドラコは槍玉に上げられて可哀想ですが、あまりにも戦いぶりが不甲斐なかったので自業自得です。おそらく談話室のなかに、心から彼に同情するひとはいないんじゃないでしょうか?
もしシグナスなら、ブラッジャーに追いかけ回されるポッターを無視して高みの見物を決め込むでしょう。
彼の真意とは────